侈のいろは ハブ » SCP-3270-JP
アイテム番号: SCP-3270-JP
オブジェクトクラス: Ticonderoga1
特別収容プロトコル: 現実世界において、SCP-3270-JPの発生条件を満たすことはごく稀であり、封じ込めの必要はありません。SCP-3270-JPに類する言説は、カバーストーリー「都市伝説」が適用され、SCP-3270-JP経験者と思しき人物にはインタビューによる情報把握ののち記憶処理・カバーストーリー適用が行われます。
説明: SCP-3270-JPは、人間が80℃以上の液体の油に浸かった際に発生しうる転移現象です。実例の少なさと再現実験の非倫理性から正確なファクターは特定できていませんが、転移対象が全裸であること、対象の油に触れる表面積が大きいことなど、いくつかの要因によってSCP-3270-JPの発生確率は有意に上昇します。
SCP-3270-JP-Aは、SCP-3270-JPの対象となった人間が転移する、要注意領域「湯元街 2」内の地下浴場の1つとみられる空間です。浴場内の外見は洞窟に類似し、光源としての焚き火や、油が金属製の釜で熱されているいわゆる「五右衛門風呂」が複数並んでいます。SCP-3270-JP内部で確認される実体のうち、特に利用客とみられるもののほとんどは、身長が2m以上の、多色の肌を持つ有角人型実体です。これらは一般的に「鬼」と称される外見と類似したものです。
転移した対象人物は、SCP-3270-JP-A内の「五右衛門風呂」内に浸かった状態で転移します。この時対象は高温の油に耐える程度の熱耐性を有し、また転移前に熱傷等の外傷を追っていた場合高速で治癒します。結果として、対象は自身の浸かっている油に対し「気持ちが良い」「癒される」等の感想を抱く傾向にあります。
目撃者の伝聞含め、財団の確認しているすべてのSCP-3270-JP発生事案において、転移対象は前述の「鬼」やその他の実体に促される形でSCP-3270-JP-Aから退出しています。退出した対象は、自宅のバスルーム等、自身が頻繁に使用する浴場に再出現します。
実験記録3270-JP.1
実験内容: Dクラス職員(D-3270)を80℃に熱した油の中に投入する。D-3270は全裸であり、実験に際し録音・録画が可能な耐熱性通信記録装置を携帯している。浴場内での不要な軋轢を防ぐため、録画機能の起動は周辺の実体の許可なしには行わない。
以下はSCP-3270-JP-Aに転移したのちの記録である。
«記録開始»
[大きな水音、油の沸騰する音とともにD-3270の叫び声]
D-3270: あっつ! おい! 話聞けよ! ふざけんじゃねえって! あっつ──あれ、熱くない。
[5秒間の沈黙]
D-3270: 熱くないはちょっと違うな、なんかちょうどいい熱さだ。めちゃくちゃ沸騰してるし全然油だけど、それでもなんか落ち着く風呂って感じ。五右衛門風呂っていうやつか。
[焚き火がぱちぱちと燃え盛る音。浅いため息の後、D-3270は鼻歌を歌い始める。やや重量感のある足音が記録場所に近づく]
不明な男声: ん? おい、人間! こんな所で何やってんだ!
D-3270: ん⋯⋯[叫び声]鬼! 鬼が[大きな水音]
男声: そうだ俺は鬼だ、わかったから落ち着けって人間。取って食ったりしねえって。
D-3270: ほ、本当か? 俺は今人間不信になってるんだぞ。
男声: ああ本当だとも。温泉で人殺すバカがどこにいる。それに、そんなに元気に暴れられちゃ踊り食いもできねえよ。んで、人間、お前どこからこんな所に来たんだ?
D-3270: そうか⋯⋯んまあ、簡潔に話すと、俺の上司みたいな奴に、実験があるとか言って沸騰した油の中に突き落とされて⋯⋯
男声: 成程、だからさっき人間不信だなんだ言ってたのか。そいつは災難だったな。
D-3270: んで、気がついたらここの五右衛門風呂だらけの風呂場に至るということで。
男声: こんな所人間が来る場所じゃねえぞ? 俺が言うのもなんだが、その上司とやらは鬼だな。[高笑い]
D-3270: [沈黙]ありがとうな。なんか救われたわ。⋯⋯そうだ。そのオニ上司からここの風呂場撮影してこいって、カメラ渡されたんだ。ここ撮っていいと思うか?
男声: 俺は知らん[考え込む]が、まあ、文句言われたらその時だ。撮っちまえ撮っちまえ!
[録画開始。洞窟のような空間の中、沸騰した油をたたえた五右衛門風呂が並んでいる。カメラの正面には篝火と、赤肌で、こめかみから牛に似た角を生やした身長2mの人型実体(実体1と表記)が映る]
実体1: これ俺映っちゃダメなやつか。そっち行くぜ。
SCP-3270-JP-A内部の壁画。
[実体が去ると、突き当たりに大きな壁画が映る。通常の銭湯のように山を描いた風景画だが、描かれた山は大きく噴火している。しばらく録画を続けていると、実体1とは異なる複数の男声が近づく]
男声: お? こんなとこに人間とは珍しいな。お前が連れ込んだのか?
実体1: いや、たまたま風呂に浸かってたとこに声かけただけだ。
D-3270: あ、もしかしてあんたの知り合いか?
実体1: ああそうだ。と言っても、ここ以外で顔は見ないけどな⋯⋯
男声: 何だ? 何かの撮影か?ちょっと俺らにも映らせてくれって!
[カメラに2体の人型実体が映り込む。外見は実体1と類似するが、肌が青く、羊のような角を持つ(実体2)・肌が緑色で、額に追加で1本角を持つ(実体3)等、細部に個体差が存在する。実体2・3はカメラに向かって笑顔を浮かべたり、ピースサインを示したりするが、実体1によって制止され、カメラから外れる]
実体1: おいおい、邪魔すんなって──
実体3: わかったわかった! そういや、あんた風呂入ってたって聞いたが、あれァ人間の入る代物じゃねえぞ。大丈夫だったか?
D-3270: え? むしろ気持ちいいぐらいだったが──
実体1: ああ、そうだな、言い忘れてたけど、実はここ、あんまり人間が来ていい場所じゃねえんだ。だから、さっさと撮るもの撮って帰った方がいい。つっ返すようですまねえが、お前のためを思ってな。
実体2: 今のとこピンピンしてるみたいだが、ここにいるといつ火傷するかもわからねえぞ?
D-3270: う、そうか⋯⋯[沈黙] いや、悪気があって言ってるわけじゃないってのは信じてるよ。寂しいけど、早目に撮り終わることにするわ。
[しばらく浴場内を写したのち、録画終了。以降は音声のみの記録]
D-3270: よし、多分これで十分なはずだ。ここでお別れってことか。
実体1: ああ、あそこの角を曲がれば出入り口がある。人間はそこから元の世界に戻れるからな。もし心配なら、俺たちもついていくがどうする?
D-3270: いや、流石にあそこまでは1人で行けるわ。色々ありがとうな!
実体2: 体もちゃんとふけよ!
実体3: 忘れ物するなよ!
D-3270: わかった、わかったって!
«記録終了»
終了報告書: D-3270は記録の終了後、サイト-81██のDクラス職員寮公衆浴場へと転移した。
なお、今回の実験においてSCP-3270-JPの再現には成功したが、以降の実験ではDクラス職員を油に投入しても転移が発生せず、結果として職員の焼死に至る事例が2件発生した。このため、確実なファクターが解明されるまで、再現実験は倫理委員会によって差し止められている。
補遺: 2015/09/09、財団は石榴倶楽部の「椎名」と名乗る人物から、「ザクロ3を揚げたら消えた」という旨の通報を受けました。
人体を油に投入したことによる消失、という共通項から、財団はこれをSCP-3270-JP派生現象だと予測しましたが、当時はSCP-3270-JPに関する情報が不足していたため、財団は調査時に倶楽部構成員の身元を特定しないこと、SCP-3270-JPに関係しない異常物品について確保を行わないことを交換条件として通報場所での調査を行いました(実験記録3270-JP.5)。これ以降の更なる調査の結果、SCP-3270-JPは対象となる人間が死亡している場合にも問題なく発生することが判明しています。
実験記録3270-JP.5
実験内容: 石榴倶楽部によって用意された人間の腕肉を油に投入する。人肉には小型の耐熱性通信記録装置が埋め込まれており、撮影許可を取ることが不可能であるため、今回は音声のみの記録に限定する。
以下はSCP-3270-JP-Aに転移したのちの音声記録である。
«記録開始»
[油の弾ける音、焚き火の音。SCP-3270-JP-Aの状況と一致]
[大きな足音が近づく。男声の呟く声が挿入されるが、これは実験記録3270-JP.1で記録された実体1と声紋が一致する(便宜上、ここでも実体1と表記)]
実体1: ん? なんだこれ⋯⋯素揚げか? [声を張り上げて]おーい! 誰か湯船にツマミ落としたやついねえかー!
[実体1の声がSCP-3270-JP-A内に反響する。呼び声への応答はない]
実体1: へへっ、誰もいねえや。
[肉が油から上げられる音、次いで実体1が鼻を鳴らす音]
実体1: この匂い⋯⋯もしかして人間の素揚げか?
[約10秒の沈黙]
実体1: 本当に誰もいないよな⋯⋯
[炎の音。肉表面の油が弾ける音。約20秒の沈黙]
[肉と骨の噛み砕かれる音、機械の破砕音]
«記録途絶»
終了報告書: 音声から推測するに、対象が死亡している場合転移後の治癒効果は発生しない。この要因として、転移先の油の異常性はあくまで対象の自然治癒力の強化であるという説が有力視されている。
今回の事案において、人肉が細かく切り取られていた(体積に対する、対象が油に接する表面積の上昇)こと、提供される料理は素揚げであり、肉に衣がついていなかった(対象が全裸である)ことなど、上記ファクターのうち複数に合致したため、SCP-3270-JPが通常より高頻度で発生したと思われる。









