SCP-3275-JP
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アイテム番号: SCP-3275-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-3275-JPは、生活艦LL-8101を拠点として活動します。SCP-3275-JPの活動は完全な自由が保障され、任務遂行にあたって生活艦LL-8101所属職員による支援を受けなければなりません。生活艦LL-8101所属職員による支援として、超常技術ガジェットが収容されているサイトの情報提供および、当該サイトへの誘導が行われます。

説明: SCP-3275-JPは青を基調とした装甲服及び各種装備を有した人型実体であり、"潜水救命士バチスカーフ・ウルトラマリン"を自称しています。SCP-3275-JPの有する装備は、下表のようになっています。

装備 説明
推進装置 SCP-3275-JPは"アクアソニック"と呼称している。複数箇所からのジェット水流放出によって高速かつ高自由度の推進および制動を可能とする。
装甲服 SCP-3275-JPは"デュアラブルアーマー"と呼称している。特筆すべき点として、水深8000 mを超える日本海溝においても問題なく活動している。顔面部も装甲に覆われておりカメラも確認されておらず、視覚による認知を行っていないと推定されている。
荷重装置 SCP-3275-JPは"ハイパートラクター"と呼称している。不明な動力により1000 t程度の荷重を持ち上げることが可能。防御機能を作動させた収容房を破壊できないため、問題なく収容維持が可能。
探査装置 SCP-3275-JPは"ディスペアサーチャー"と呼称している。溺水を示す発声や泳音に対して、極めて高い感度を持つ。
通信機 SCP-3275-JPは"ホープセンダー"と呼称している。不明な方法で、指定した対象との思念通話が可能である。
非異常潜水器材 アクティブソナー、水深計、コンパスなど。SCP-3275-JPは、これらの情報は常時視界内に表示されていると申告している

収容経緯: 財団は多数の海底サイト建造を行なっており、SCP-3275-JPは、日本国近海における海底サイト建造の際に初めて存在が確認されました。以下は、発見時の事案における音声記録です。

音声記録SCP-3275-JP - 1 - 日付2017/01/03

対象: SCP-3275-JP

被害者: エージェント・西東 直弥

付記: エージェント・西東は海底サイト-81HTの建造を指揮しており、事案当時は、危険性が高いクレーン作業を指揮する必要から潜水艦ではなく大気圧潜水服1を着用して作業指揮を行っていました。

<録音開始>

被害者: 10 mスラー2。樹脂コンクリートポンプ、問題なく着床しました。ポンプ艦、指示あるまで待機してください。作業艇、ポンプを把持してください。OK。

被害者: ポンプ艦、樹脂コンクリートを注入してください。注入確認。特に異常は認められません、そのまま続けてください。

作業艇: こちら作業艇、了解。お疲れ様です。あとはこっちでやっておきますから、さっさと浮上してください。

被害者: 了解しました。後はよろしくお願いします。[安堵の溜め息]。カメラ式の作業艇だと視界不良がありますからね。肉眼が必要とはいえ、ほぼ生身での潜水は勘弁したいものです。

作業艇: アクリルドーム窓の潜水艇が実用化できてればよかったんですけどね。

被害者: 致し方ないでしょう。海底サイトの建造は急務ですから。おっと。

作業艇: どうかしましたか?

被害者: 作業に時間をかけすぎました。酸素濃度が低いようで、息苦しい。緊急浮上します。

[ジェット水流の音。]

[破砕音。被害者の大気圧潜水服が、SCP-3275-JPがブレーキのために放出したジェット水流で破壊される。]

SCP-3275-JP: 僕の名はウルトラマリン! 潜水救命士、バチスカーフ・ウルトラマリン! 溺れる者の絶望を感じた! さあ、助けるぞ!

[ジェット水流の衝撃により発生した亀裂から流入した高圧水流で、被害者は頸部を切断されて死亡している。]

SCP-3275-JP: 絶望を振り払って! 共に光の元へ帰るんだ!

[SCP-3275-JPが大気圧潜水服を把持し、急速浮上を行う。]

SCP-3275-JP: さあ、希望を持って! 君は助かるんだから!

<録音終了>

一部始終を目撃していた作業艇により、被害者が封入された大気圧潜水服を把持したSCP-3275-JPの情報が樹脂ポンプの巻き下げ作業に当たっていたポンプ艦へ共有されました。護衛のために同行していた汎用確保艦SSG-8101"おなはま"にも即座に情報が共有され、作業艇の目撃情報とパッシブ・ソナーの情報を突合して特定したランデヴー・ポイントにおいてSCP-3275-JPが確認されました。この際、抵抗するSCP-3275-JPとの交戦が行われましたが、問題なく収容に成功しました。

補遺: 本事案は当初、超電救助隊による財団への攻撃であると推定されていました。以下は、敵意の有無を確認するために行われたインタビューの書き起こしです。

音声記録SCP-3275-JP - 2 - 日付2017/01/03

対象: SCP-3275-JP

インタビュアー: 西東 真澄 研究員

付記: 本インタビューは、SCP-3275-JPの装備に関する聴取の後に行われました。

<記録開始>

インタビュアー: SCP-3275-JP、今回の行動が何を意図していたのかをお聞かせ願います。

SCP-3275-JP: 僕の名前はウルトラマリン。バチスカーフ・ウルトラマリン! 絶望を晴らす救命士! だから僕は彼を助けに行ったんだ! だけど救助が間に合わなかった!

インタビュアー: 間に合わなかったのではなく、あなたが殺したのです。検死結果をご覧になりますか? あなたの制動に伴う高圧水流で大気圧潜水服が破壊され、破壊部から侵入した水が頸部を切断しています。現場には他のアノマリーや高圧水流を発射できる物体の存在は確認されていません。現状、あなた以外にこれが可能な人物はいないと判断せざるをえません。

SCP-3275-JP: なんの話だ! 僕は確かに救助した! 言いがかりはやめてもらおう! 確かに外は見えないけれど、エコーロケーションを使っているんだから彼の首が切れていないことくらい分かるぞ!

インタビュアー: [数秒間の沈黙。] 敵意がないことは分かりました。では、質問を変更いたします。ご協力願えますか。インタビューが終わるまでは解放できません。

SCP-3275-JP: これ以上話すことなどあるものか! 装備のことはさっき伝えただろう! 僕は溺れている人の場所が分かるんだ。今だって何人も溺れている! 助けに行かなきゃいけないんだ!

インタビュアー: 私が気になっていたのはそれです。溺れている人の居場所が分かるという現象は、どのような仕組みで実現されているのですか?

SCP-3275-JP: 溺れている人の感覚が伝わるんだ! 息苦しさ、暗さ、心細さ! 近ければ近いほど共感が強まる! 彼らの絶望が、助けてくれという叫びが僕を突き動かす! 彼らを見つけて救うんだ! これは僕にしかできない!

インタビュアー: 自分の仕事に誇りを持っているのですね。

SCP-3275-JP: 人を救うのが超電救助隊の役目だ! 当たり前だろう!

インタビュアー: では、なぜ要救助者の状態を最後まで確認しなかったのかお教えください。

SCP-3275-JP: うん? どういうことだ!

インタビュアー: 先程の話によると、あなたは溺水者に共感できるのですよね。溺水者が苦しんでいる間は常に共感するものと思いますが、それで合っていますか?

SCP-3275-JP: そうだ。だから、救助が間に合わずに溺れ死んだ人の苦しみも分かってしまう! それが分かる僕だからこそ、彼らを的確に助けることができるんだ!

インタビュアー: 要救助者は、状態が変化すれば苦痛が増減します。あなたの溺水感知機構はリアルタイムで苦痛を知覚できるわけですから、要救助者の感じる苦痛から状態を推し量ることができるはず。なぜ、そうしなかったのでしょう。

SCP-3275-JP: なに? 状態? 苦痛が増減?

インタビュアー: [数秒間の沈黙。] 減圧症という言葉に聞き覚えはありますか?

SCP-3275-JP: 減圧症? なんだそれは! 人は長く水にいると死ぬ! だからすぐに助けなければならない! それだけの話だろう!

インタビュアー: 了解いたしました。それだけの話ではないことを説明します。減圧症とは、高圧環境下から急速に低圧環境に移動した際に発生する諸症状を指します。こうなると、血中に飽和している気体分子がガス化し、その先へ血液が行き届かなくなる。こうなって発生した様々な健康被害を総称して減圧症と呼びます。

SCP-3275-JP: 高圧環境?

インタビュアー: 深い水の中を指します。確か、水深8 m以下で減圧症の発生リスクが高まったはずです。

SCP-3275-JP: 要するに、どういうことだ!

インタビュアー: 生身で水深8 m以下に潜航した場合、ゆっくりと浮上しなければ死の危険があるということです。

SCP-3275-JP: [数秒間の沈黙。] 8 m。その水深なら、4か月前くらいにその深さへ沈んでいく子供を助けたことがある。

インタビュアー: その子供の苦痛はどのように変化しましたか?

SCP-3275-JP: 分からない。意識していなかったから、他の苦しみに紛れてしまった。

インタビュアー: 減圧症は、血中の気体分子が気泡となって血管を閉塞させる病気です。血が行き届かない箇所には血栓などが生じて痛みを引き起こしますし、関節や筋肉の中に気泡ができた場合の痛みは想像を絶します。肺の細胞が破裂してしまうこともあるとか。そこまで行けば、呼吸困難の中で死ぬほかありません。

SCP-3275-JP: 僕はなんてことを。となると、さっき言っていた、僕のせいで鎧の人が死んだというのは本当なのか。僕を動揺させるための嘘なんかじゃなく。

インタビュアー: はい。エージェント・西東 直弥。建造部門所属エージェントであり、様々な技術開発を成功させたアイディアマン。そして、私の夫でした。

SCP-3275-JP: 君の旦那さん。

インタビュアー: あなたが結果的に殺した人々は、誰もが誰かの子供で夫だったはずです。あなたは人ひとりを殺しただけではない。その周りにいる何人もの人々を私と同じ立場にした。どんな高圧環境にも耐えられるその装甲が、あなたを救命士として最悪の人物に育て上げたのです。

[SCP-3275-JPが手を組み、額に当てて項垂れる。]

SCP-3275-JP: 僕のせいです。ごめんなさい。許してください。

インタビュアー: 私は、あなたに謝られたら許さなければならないのですか? あなたが軽率に振るった力で人が死んでいるんですよ。あなたは取り返しのつかないことをしたんです。それで、謝るだけで許してもらおうなんて言うのは虫が良すぎるとは思いませんか?

SCP-3275-JP: なら、僕はどうすればいいんだ?

インタビュアー: ここで収容されていてください。二度と人死にを起こさないで。それだけが私の望みです。

SCP-3275-JP: でも、今でも溺れている人がいる。彼らが死ぬに任せていいのか?

インタビュアー: それは仕方のないことです。あなたが救命活動をすることで人が死ぬかもしれないなら、あなたは動くべきではない。

SCP-3275-JP: 悔しいけど、そうだ。僕は動くべきじゃない。

インタビュアー: 分かっていただけて何よりです。それでは、インタビューを終了します。

SCP-3275-JP: 待ってくれ。君たちが動くならどうだ?

SCP-3275-JP: ほら、僕はディスペアサーチャーを持っているだろう。これは溺れている人の状態がよく分かるんだ。感度は凄いぞ、何せ地球が球体だと実感できるくらいだ。しかもリアルタイムに感知できる。ええと、口じゃ分からないか。

[SCP-3275-JPが、思念共有により西東研究員へ感知情報を共有する。]

インタビュアー: 把握しました。地殻の上にしか存在しない溺水者だけを感知しているために、センサー上では巨大な球状の空白として認識されるのですね。GPSよりも遥かに有用です。

SCP-3275-JP: やっぱり君たちでも欲しがる技術なんだな。欲しいならディスペアサーチャーはあげるよ。だけど、僕にはこの装甲の脱ぎ方も、ディスペアサーチャーの仕組みもが分からない。だから、取引だ。僕は、ディスペアサーチャーが溺れている人を見つけるたびにホープセンダーで君の脳に僕の感覚を送る。その情報を使って、溺れている人を助けて欲しい。

インタビュアー: 先の情報はマクロ的で、要救助者の詳細は分かりませんでした。より詳細に感覚を送ってください。

[インタビュアーへと溺水通知情報の共有が行われる。]

SCP-3275-JP: 大丈夫か? 顔色が良くない。

インタビュアー: 呼吸できるのに溺れる感覚を味わうのは違和感がありますが、この情報を得られるのは悪くない取引です。あなたの通信装置も溺水感知装置も、我々の技術が届かないその装甲の中に仕舞われている。ですが、この情報を貰えるならリバースエンジニアリングも容易い。

SCP-3275-JP: 君たちが協力してくれるなら、その情報は好きにすればいい。だけど、協力しないなら僕も情報提供しない。どうする?

インタビュアー: 検討しますので、一旦インタビューを終了します。

<記録終了>

その後に実施された試験により、SCP-3275-JPの溺水者感知能力が地球全体に及ぶことが確認されました。また、性能試験において外界から完全に隔絶されたサイトにおける溺水者の位置を正確に特定しました。この事実は、SCP-3275-JPの溺水感知能力が財団の把握できていない技術による機能であることを示します。

当該機能のリバースエンジニアリングが成功した場合、収容作戦や収容違反鎮圧の成功率が向上すること想定されます。当該機能を利用する際に考えられるミーム感染や認識災害による通信の汚染の除去方法の検討も目的として、財団は当該機能の再現を目標に定めました。

本目標が定まった直後、財団は記憶処理やミームエージェントによるSCP-3275-JPの洗脳支配を検討しましたが、以下の理由で断念されました。

  1. SCP-3275-JPが外部からの物理的干渉を遮断しているため、記憶処理剤など向精神薬による精神誘導が困難。
  2. SCP-3275-JPが視覚によらない外界認知を行っているため、音と光で複合的に認知を誘導するミームエージェントの効果が弱い。

以上の理由から、当該機能再現のためにSCP-3275-JPからの情報は必要不可欠であると判断されました。SCP-3275-JPによる情報を入手し続けるため、人命救助およびSCP-3275-JPのメンタルケアを目的としたプロトコル"エルピス・スカーフ"が策定されました。

プロトコル"エルピス・スカーフ"担当職員として、情報提供される当事者であることから西東 真澄 研究員が割り当てられました。初回インタビューにおいて感情的な反応を示した点、およびSCP-3275-JPの被害者であるエージェント・西東 直弥の配偶者である事実から西東研究員の起用について議論が行われましたが、既にSCP-3275-JPとの関係が進展していることから別人員のアサインによりSCP-3275-JPが非協力的態度を取る可能性を鑑み、西東研究員の起用が決定されました。

また、西東 真澄 研究員が汎用収容艦SSG-8101"おなはま"の職員であること、SCP-3275-JPの能力が場所を問わず発揮されることから、SCP-3275-JPの収容はSSG-8101"おなはま"において行われることが決定されました。

以下に、各年ごとのSCP-3275-JPによる情報提供回数を付記します。

件数
2017年 234,621
2018年 236,945
2019年 231,786
2020年 78,471,165

補遺2: 2020/05/19、SCP-3275-JPを構成する技術のリバースエンジニアリングが完了し、再現可能な技術となりました。このため、SCP-3275-JPを収容から解放する告知が行われました。

音声記録SCP-3275-JP - 177 - 日付2020/05/19

対象: SCP-3275-JP

インタビュアー: 西東 真澄 研究員

<記録開始>

インタビュアー: 報告があります。あなたの溺水感知機能が再現できました。その他、通信機能や推進装置なども再現できておりますので、あなたの身柄は解放されることになります。

SCP-3275-JP: そうか。ありがとう、君たちが協力してくれたおかげで沢山の人を助けることができた。あとは、救助方法に関して授業してくれたことにも礼を言いたい。おかげで、今後は間違って人を殺してしまうこともないと思う。

インタビュアー: はい。あなたの装甲を脱がす方法も判明しましたので、あなたが今後誰かを救助することはなくなります。救助に際する過誤は決して発生しないでしょう。

SCP-3275-JP: 聞き間違いか? 僕の装甲を脱がす? 何故?

インタビュアー: あなたはもはや、全てが解明されたオブジェクトです。収容を維持する必要がないために解放される。一般社会へ解放するにあたっては、余計な装甲や記憶を全て消去する必要があるのです。

SCP-3275-JP: そういうことはもっと前に言ってくれ。協力の見返りが記憶消去ってのは酷いじゃないか。

インタビュアー: 見返りはあったでしょう。我々は人命救助に協力し続けました。あなたの目的は問題なく達成されており、正常性というヴェールの中に戻ることができる。

SCP-3275-JP: だけど、水難事故は起こり続けるものだ。僕の目的が完遂される日は来ない。自分の手で助けられないのは不安だ。

インタビュアー: 不安。それは何故ですか?

SCP-3275-JP: ディスペアサーチャーが無くなれば、溺れている人が助かったかどうかさえ分からないからだ。それに。

インタビュアー: それに?

SCP-3275-JP: 君たちが人命救助を続けるという確信が持てない。溺れ死ぬ人が出ると言ったとき、僕を諫める文脈とはいえ君は仕方ないと言ったんだ。任せろ、じゃなくて、仕方ないと。それが正義の味方が発する言葉とは、僕にはどうしても思えない。

インタビュアー: 我々が信用できないから、その装甲を脱ぎたくない。なるほど。ヒーローたらんとする心構えは立派ですが、そもそもあなた自身がヒーローに相応しくないことは理解していらっしゃいますか?

SCP-3275-JP: [数秒間の沈黙。] 分かっている。僕は人殺しだからな。だけど、人を助けたい気持ちに嘘はない。

インタビュアー: 本当に? メサイアコンプレックスを埋めるための自己有用感が欲しいだけなのでは?

SCP-3275-JP: 何が言いたい。

インタビュアー: 誰かを助けられれば、自分がそれに値する者であるかのような良い気分になりますよね。間接的に救助に携わっている私でも自己有用感を感じるほどです。直接助けているあなたがそれを感じていないはずがない。

SCP-3275-JP: やめろ。

インタビュアー: あなたがディスペアサーチャーを要救助者の状態を知るために使わなかったことには、ずっと違和感がありました。水圧による症状を知らなかったのはいいでしょう。装甲を着たままでは勉強などしようもない。ですが、現場で作業をしていてなお、ディスペアサーチャーが苦痛の感知に使える事実に気付かなかったのは異常です。その異常には簡単に説明が付いてしまう。

SCP-3275-JP: やめてくれ。

インタビュアー: あなたは、自己有用感が欲しいから要救助者を助けた。そして、自己有用感が原動力だから次の要救助者に目移りした。目の前の要救助者など、既に助けた相手だからどうでもいい。そういうことなのではありませんか?

SCP-3275-JP: いや、そんなことは。

[録音上の沈黙。]

インタビュアー: 心当たりがありますか。そうでしょうね。あなたは、助けたはずの子供のことを忘れていました。我々で確認しましたよ。あなたから出た情報を突合して、あなたが助けたと思しき子供を見つけました。検死記録によると、減圧症で亡くなったようです。

SCP-3275-JP: もうやめてくれ。なんで今になって僕を追い詰めるんだ。何の恨みがある?

インタビュアー: 夫を殺された恨みが、とでも言えばいいですか。

SCP-3275-JP: [嘆息。] そうか。君は、そうか、ずっと僕を恨んでいたのか。

インタビュアー: 彼は、設備のモジュール化を推進していました。収容設備の可搬性を向上させることで、壊滅したサイトから有用なガジェットを救出しやすくなりますからね。その有用なガジェットが一つあるかどうかで世界の命運が左右されるような仕事をしているんです、我々は。彼が生きていれば、今よりずっと世界を守りやすくしてくれていたでしょう。

SCP-3275-JP: 我々? 世界を守りやすく?

インタビュアー: はい。今では、日本支部において収容室の全てがモジュール化されています。その状態でも気密と水密は維持され、収容室単体でも耐久性が保証されている。分かりますか。あなたがしたことの意味が。その取り返しのつかなさが理解できますか? これから記憶を失うとしても、彼を殺したあなたがそれを理解していないことだけは我慢できない。

SCP-3275-JP: なんで、出てくる言葉がそれなんだ。能力? 成果? なんでそれなんだよ。君は彼への愛だけで僕を糾弾するべきだろ。まさか、君は彼を愛していないのか?

インタビュアー: そんなわけがない。私は直弥くんを愛している。彼がここまでの成果を生み出せたのは何故だと思いますか。

SCP-3275-JP: 能力があるからじゃないのか。

インタビュアー: それだけではありません。彼は私を愛していた。財団職員の全てが、世界という大きな枠組みを実感できているわけではない。その内側にいる誰かを守るために世界を守っているのです。彼にとって、守るべき対象は私でした。私は、その愛に応えるためにこの船に乗ったのです。

SCP-3275-JP: だから、君は僕を許せないんだな。許せないのに、僕の頼みを受け入れた。

インタビュアー: そうすれば、あなたの望みを絶つ瞬間に立ち会えますからね。間接的に人を救ったその手は、あなたの首を絞めていたというわけです。

SCP-3275-JP: この会話は記録されているんだろう。そんなことを言って良いのか?

インタビュアー: 何も問題はありません。あなたが終わるのを見届けられれば私はそれでいい。直弥くんが居なくなったこの世界に、生きる価値はありません。ですが、あなただけは道連れにします。

SCP-3275-JP: そんな訳にはいかなくなった。君の絶望だけは払わなきゃいけない。なあ、西東さん。君の旦那さんは。

[SCP-3275-JPが痙攣し、頭部装甲を壁に叩き付ける。]

インタビュアー: SCP-3275-JP?

SCP-3275-JP: [呻き声] 悲鳴だ。溺れて、助けを求めて。[嘔吐]

[SCP-3275-JPが痙攣し、気絶と覚醒を繰り返す。]

[宇宙ステーションからの通信により、大規模な海面上昇が進行中であるとの情報が入る。]

インタビュアー: まさか、そんな。

<記録終了>

2020/05/19、世界的に発生した異常な海面上昇により世界全人口の約98%が失われました。残存した陸地面積は元々の海抜が3000 m以上の土地のみであり、全陸地の94.6 %程度が水没しています。

最も深刻な影響は、世界各地の原子力発電所が水没したことによる放射性物質の海洋汚染です。世界各地の原子力発電所から流出した放射性核種の総量は約100万ペタベクレル3であると推定されています。放射性核種であるセシウム137やストロンチウム90は生物濃縮されやすく、影響期間が数百年単位であることから人類は水産資源を失ったと評価されています。

海面上昇の後、汎用収容艦SSG-8101"おなはま"は、危険性の高いアノマリーを収容していなかったことから収容室の防護機能を解除するなどしてエネルギーを節約していました。そのため、気絶状態から復帰したSCP-3275-JPによる突発的な収容違反は防げず、SCP-3275-JPは潜航を開始しました。以下のインタビューログは、SCP-3275-JPから西東研究員に対して行われた連絡の記録です。

音声記録SCP-3275-JP - 178 - 日付2020/05/26

対象: SCP-3275-JP

インタビュアー: 西東 真澄 研究員

<記録開始>

SCP-3275-JP: 西東さん、話を続けよう。前回は気絶で中断したけど、まだまだ話したいことがある。

インタビュアー: 通話を切ってください。私はもう生きていたくない。夫をあなたに殺されて、世界を守るために用意した全ても失われた。私の、私たちのやったことは全て無駄になってしまいました。ここまで来たら何をしたって悪足搔きです。それなら、静かに死なせてください。

SCP-3275-JP: 駄目だ。君は立たなきゃいけない。

インタビュアー: 何故ですか。

SCP-3275-JP: 君は、旦那さんに愛されていたんだろ。だったら、君が生きることこそが彼の望みだ。彼を愛しているなら、その想いに応えろ。

インタビュアー: それは。ですが、結局のところ生き残る方法がありません。財団は様々なアノマリーを収容し、その原理を解明することで有用なガジェットを作ってきました。その中には現状をなんとかできるものもあります。ですが、それらは全て海の底に沈んでしまいました。

SCP-3275-JP: 何が必要なんだ? 取り急ぎ欲しいものを教えてくれ。

インタビュアー: 欲しいものはいくつもあります。エントロピー操作によって生体内の放射性物質を除去する機器、海洋除染に必要な吸着剤。鉄資源なども逼迫が予想されますから、SCP-131-JP4をリバースエンジニアリングして組み込んだ生体ユニット。あとは、SSG-8101の燃料が尽きた場合に備えて核融合炉も。

SCP-3275-JP: 落ち着いてくれ。一番欲しいのはなんだ?

インタビュアー: 生体除染機です。要は混和したものを分離する装置ですから、魚類の除染だけではなく真水や食塩の生成にも使えます。我々が生き残るためには、これが一番欲しい。ですが。

SCP-3275-JP: 何か問題があるのか?

インタビュアー: 3000 mもの海面上昇が一日で終わったという点です。地上だった部分は巨大な津波で流されたはず。財団サイトが無事であるとは思えません。勿論、その中にあるものも。

SCP-3275-JP: 君の旦那さんを信じろ。彼が、君を守るために生み出した技術を信じろ。絶対に無事だ。だから、生体除染機がある場所を教えてくれ。

インタビュアー: [数秒間の沈黙。] 分かりました。直近の生体除染機は、静岡県御前崎市にあったはずです。誘導しますので、従ってください。

[西東研究員の誘導により、SCP-3275-JPが目的地へ移動を開始する。]

[2時間で目的地へ到達。セキュリティが働いておらず、問題なく侵入可能な状態である。]

SCP-3275-JP: 周りは瓦礫も残っていない。一つだけ建物があるから、これが目的の場所だと思う。入り口は水没してて水も入っているけど。

インタビュアー: サイトが残っている。それなら。誘導します。

SCP-3275-JP: よろしく頼む。

[SCP-3275-JPの歩行音。]

インタビュアー: そこが収容棟です。あの。どうですか?

SCP-3275-JP: 西東さん。

インタビュアー: 駄目でしたか。いえ、分かっていました。いくら直弥くんが頑張っていても、この状況ではどうしようもない。この世界に希望がないことが分かって、安心して死んで行けます。

SCP-3275-JP: いいや、違うよ。そうじゃない。僕は感動しているんだ。君の旦那さんと、一回ちゃんと話してみたかった。彼はこの状況を想定していたのか? いや、違うんだろうな。色んな状況を想定していて、今回は想定の範囲内だったんだ。分かるか、西東さん。君を守るために、彼がどれだけ知識を絞ったのか。

インタビュアー: まさか。

SCP-3275-JP: 彼こそがヒーローだった。君を守ることで、ついでに世界を救っている。ああそうだ。収容モジュールは生きてる。ガイドに従って、モジュールを取り外したところだ。僕たちは、直弥さんに世界を託された。悪足搔きに終わるとしても、世界を救うために立たなきゃいけない。

インタビュアー: [嗚咽。] バチスカーフ・ウルトラマリン。

SCP-3275-JP: 君がその名前で呼ぶのは、初めてだったな。

インタビュアー: お願いします。我々に、いえ、私に世界を救わせてください。それが直弥くんの願いなら、私はそれに応えなければ。[数秒間の沈黙。] 直弥くんを信じさせてくれて、ありがとうございます。

SCP-3275-JP: 絶望を晴らすのはこれからだ。だって僕はウルトラマリン。潜水救命士、バチスカーフ・ウルトラマリンだ! この名の通りに海を越え、君たちに希望を持ち帰る! 帰るんだ! 光の中へ!

<記録終了>

当該通話の後、SCP-3275-JPは問題なく生体除染機を伴って帰投しました。生体除染機が保管された収容モジュールは船舶内に収蔵され、動作に問題ない事が確認されました。

これ以降、生活艦LL-8101として改修された元SSG-8101を拠点として、SCP-3275-JPは各地に残存する超常技術の回収および海洋の放射能除染を行っています。

報告書執筆現在もSCP-3275-JPによる超常技術の回収は順調に進んでおり、今後一年間で超常技術の回収および海洋の浄化が完了するとみられています。

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