アイテム番号: SCP-3276-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-3276-JPは標準的なSafeクラスオブジェクト収容ボックスに保管してください。SCP-3276-JPに関連する実験の結果が、それ自体とは無関係の職務または意思決定に影響することのないよう情報を適切に管理してください。
説明: SCP-3276-JPは大きさ1.5m×2mのテーブルクロスです。検査では市販されている同型のテーブルクロスとの差異は認められず、破壊耐性などのいかなる異常な物理的性質も持たないことが推定されています。
SCP-3276-JPはその上で行われる、主に確率的事象に基づくゲームに異常影響をもたらします。その影響下で行われたゲームの結果は異常に早く計算上の期待値に収束します。なお、結果と期待値が一致し得ない条件1では結果は期待値に最も近い値をとり、複数の試行を行った場合にその合計値が計算上の期待値に最も近い値をとるよう影響します。
発見経緯: SCP-3276-JPは兵庫県尼崎市の集合住宅において運営されていた違法カジノ団体が摘発された際に、そのオーナーに対する取り調べで言及されたことがきっかけで財団により確保されました。
オーナーは“期待値通りの結果が出るテーブルクロス”を購入し、カジノ経営を安定させようとしたものの、最速で期待値に収束する不自然な結果が出るため不正行為を疑われ、最終的には使用を断念したと供述しました。また、摘発の契機となった匿名の通報は同団体の未詳の不正行為についての言及を含んでおり、このことからSCP-3276-JPの使用が摘発の遠因となったものと見られています。なお、SCP-3276-JPの販売元については程なく連絡が取れなくなったとされ、財団による追跡の試みも失敗しています。
実験記録: 聴取した情報をもとにSCP-3276-JPの性質についての実験が行われました。以下はその抜粋です。類似する実験について、条件を変更した部分を青で強調しています。なお、特に言及のない場合被験者にはDクラス職員が起用されています。
実験記録3276-1
目的: 異常性の再現実験。
方法: SCP-3276-JPを敷いた卓上でコイントスを行う。表が出た場合2点、裏が出た場合0点を得点とする。コインは新品の100円硬貨を使用する。コイントスはコインを指で弾いて卓上に投げる形で行い、ハイスピードカメラで物理的干渉の有無を確認する。
備考: ゲーム1回あたりの期待値は1点と計算できる。
結果: 初回のコイントスの結果は被験者によって異なったが、以降は裏と表が交互に出る結果となった。撮影上はコインの挙動に異常な物理的干渉は見られなかった。
被験者を交代した場合の結果はその前の被験者の最終試行とは無関係であるとみられた。
考察: 期待値の計算は被験者のその時までの得点の総和が期待値に最も近づくよう調整されているようである。これを指して「期待値に最速で収束する」ということであろうか。
被験者を交代した場合の結果よりこの調整の基準は被験者ごとに独立して計算されているものと考えられる。
実験記録3276-7
目的: 極めて低い確率で起こる事象に対する影響の検証。
方法: コイントスで表が出た場合2点、裏が出た場合0点、コインが立った状態で静止した場合は1点を最終得点とする。コインは新品の100円硬貨を使用する。コイントスは卓上にコインを投げる形で行い、ハイスピードカメラで物理的干渉の有無を確認する。
備考:1回あたりの計算上の期待値は1点となる。これはコインが立った状態で静止した場合の得点と一致する。
結果: 全ての試行でコインが立った状態で静止した。いずれも撮影上はコインの挙動に異常な物理的干渉は見られなかった。
考察: 言うまでもなくコイントスにおいてコインが立った状態で静止する確率は非異常の条件では無視できるレベルで低い。SCP-3276-JPにより得点が計算上の期待値と一致する結果が誘導されたものと考えられる。また、SCP-3276-JPの影響は必ずしも確率の高い結果に誘導するものではなく、あくまで計算上の期待値に近い得点となる結果に誘導するものであると考えられる。
実験記録3276-10
目的: 期待値が無限大に発散する条件での実験試行。2
方法: 裏がでるまでコイントスを反復しその結果で得点を決定する。基本得点を1点とし、1回表が出れば2点、2回連続で表が出れば倍の4点、3回表が出ればさらに倍の8点と、連続で表が出る度に点数を倍々に増やしていき、裏が出た時点でゲームを終了し、その時の得点を最終得点とする。コインが立つ、損壊する、紛失するなど裏表の判断がつかない場合はその回のコイントスを無効として再度コイントスを行う。複数の被験者で同実験を行う。
備考今回の条件では、1/2の確率で1点、1/4の確率で2点、1/8の確率で4点…と、1/2nの確率で2(n-1)点が最終得点となる。この条件では限りなく低い確率の事象の存在を許容する。
期待値は起こりえる全ての試行での得点と確率の積を合計することで求められる。この条件では2(n-1)*1/2n=1/2を無限に足した結果が期待値となるため、これは無限大に発散する。
なお、今回の実験では表でも裏でもない結果を許容しないよう条件を調整している。
結果: 15回のコイントスで連続して表が出たが、16回目で裏が出た。最終得点は32768(=215)点となった。被験者を変えて実験を20ゲーム分反復したところ、ほとんどの被験者で同様の結果となったがD-1665を被験者とした場合のみ最終得点が8192(=213)点となった。ゲームを反復した場合においても実験結果は同じ被験者で同じ結果が再現された。
考察: 今回の結果は明らかに異常性の影響を受けているが、ほとんどの例で16回目で裏が出ている。唯一14回目で裏が出たD-1665を含め実験結果は被験者に依存しているものと見られる。D-1665と他の被験者との間にいかなる条件の違いがあったかが検討される必要がある。
追記:当該実験から4日が経過した時点で、職務中の事故によりD-1665が死亡しました。なお、他の被験者はその後全員が任期を満了し、実験から15日後に問題なく月例解雇を受けています。
これがD-1665と他の被験者との最も明確な差異であると考えられ、実験結果の再検討が行われました。以下はその要旨です。
当該実験の条件で期待値が無限大に発散するには施行回数が制限されていないという前提が必要となる。3これまでの知見ではSCP-3276-JPの挙動はゲームのルール設定に依存していたが、この条件に加えてコイントスの反復が不可能となった場合にゲームを終了するという条件が含意されていたとする仮説が検討されうる。すなわち、D-1665は自身の死によって、他の被験者は月例解雇によってコイントスの反復が中断されていたであろうことがゲーム結果に影響を与えたとする仮説である。D-1665の死亡までの期間が他の被験者の解雇までの期間のおよそ1/4であったこと4もこの仮説と衝突しない。これに基づき、SCP-3276-JPがゲーム中に「反復可能なコイントスの最大回数」というゲーム開始時点では未確定の情報を取得しゲーム結果に反映させている可能性が指摘された。
実験記録3276-12
目的: SCP-3276-JPの結果出力に際し未来の情報が参照される可能性についての検証。
方法: 裏がでるまでコイントスを反復しその結果で得点を決定する。基本得点を2点とし、1回表が出れば4点、2回連続で表が出れば倍の8点、3回表が出ればさらに倍の16点と、連続で表が出る度に点数を倍々に増やしていき、裏が出た時点でゲームを終了し、その時の得点を最終得点とする。コインが立つ、損壊する、紛失するなど裏表の判断がつかない場合はその回のコイントスを無効として再度コイントスを行う。
いち被験者あたりの有効なコイントスの回数を1日1回に限定する。その日のうちに2回以上のコイントスが行われた場合、結果が確認できた最初のコイントスのみを有効とする。ゲームの終了まで被験者の月例解雇を延期とする他、可能な限りゲームを継続する。なんらかの要因でその日の0:00から24時間が経過するまでに被験者によって有効なコイントスが行われない場合その時点でゲームを終了し、その時点での得点を最終得点とする。適宜被験者を追加し、開始時期を変えて複数のゲームを反復・検証する。
備考: 実験-3276-10では1回のコイントスにかかる時間が規定されておらず、反復可能な最大回数の推算が困難であった。これを受けてコイントスの回数を1日1回に規定することによって反復可能な最大回数に達するまでの時間が検討可能となるよう調整した。
また、コイントスが行われない場合にゲームを終了するルールを明記することで実験-3276-10の条件にこれが含意されていたとする仮説上の条件を再現した。
実験-3276-10での計算上の期待値は1/2×(施行回数の上限)であったと見られる。基礎得点を倍の2点とすることで、施行回数の上限と計算上の期待値が一致する条件とし、計算を単純化した。
結果: [倫理委員会により具体的な結果の開示が差し止められました。]
考察: 実験は継続中だが、今のところ概ね全ての被験者で予想される余命に矛盾しない結果を示している。SCP-3276-JPによって被験者の死亡またはそれに準ずる事象により実験が中断される事態(以下、中断イベント)が発生する時期を予測することが可能なことが期される。平均余命より早い中断イベントが予見される被験者にはより慎重な観察研究が必要となることであろう。
得点が2の累乗となる条件のため、中断イベントの発生日時は得られた得点の3/4倍から3/2倍の日数が経過した範囲に収まるものと見られているが、この計算がゲームを開始した日から起算するものなのか最後のコイントスを行った日から起算するものなのかは明らかになっていない。
SCP-3276-JPの性質はリスク評価に活用できることが期待される。中断イベントに値する事象は大規模な収容違反やK-クラスシナリオの発生を含むであろうことは論をまたない。その性質上得点が高くなるほど、つまり予測される中断イベントの発生時期が遠くなるほどにその予想範囲が大きくなる点には難があるが、これは中断イベントの発生予測時期が近くなったタイミングでゲームを反復することである程度緩和可能であると見られる。
また、ゲームを中断する条件を調整することでより幅広い事象の発生予測が可能となることも期待される。さらなる研究計画を策定する必要があろう。
実験-3276-12の結果を受けてSCP-3276-JPを活用した事象予測システムの実装計画が作成されましたが、倫理委員会によって棄却されました。この判断には因果律に関連する潜在的リスクに加えて、職員の生死に関わりかねない情報を管理・活用するに伴うリスク、SCP-3276-JPの影響下にある職員を運用するリスク、得られる情報の質の問題、ルール設定によって間接的にオブジェクトの挙動を調整する試みに対する信頼性の低さなどの要因が含まれます。
以後、SCP-3276-JPを使用したゲームの結果に依存する事象予測をなんらかの意思決定の根拠とすることは原則として禁止されます。この決定に準じて特別収容プロトコルが改訂されました。なお、この決定はSCP-3276-JPの性質を研究する試みを制限するものではなく、実験そのものは継続されています。









