
出現時のSCP-3290-JP(赤枠内)
アイテム番号: SCP-3290-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3290-JPの収容はその性質上困難であるとされています。SCP-3290-JPの発生が確認された場合、関係者に対する記憶処理とカバーストーリー「失踪」の流布を行います。またSCP-3290-JPの発生を早期に特定するため、財団ウェブクローラを用いたインターネット上の監査を行います。この際、SCP-3290-JPとの関連性が指摘された情報は記録および削除され、そのうえで情報投稿者の特定が行われます。
LoI-3290-JPは周囲を取り囲むように鉄柵が設置され、封鎖されます。また、LoI-3290-JPの付近には研究サイト-81-117が建造されます。LoI-3290-JP内部は常に監視カメラによって監視され、異変が確認された場合には対応チームによって即座に対処されます。また、LoI-3290-JP内に出現した物品は回収され、調査の後に標準処理プロトコルに基づいて処理されます。
説明: SCP-3290-JPは██県内でのみ観測可能なアーチ状のオブジェクトであり、その外見は一般に「虹」と呼称されるものに類似しています。観測記録より、SCP-3290-JPの長さは███m以上、幅は1.5mほどであると推測されています。また、SCP-3290-JPは非実体的に振る舞うため、SCP-3290-JPを構成する素材などを特定する試みは全て失敗に終っています。本報告書執筆時点までに███件のSCP-3290-JPの目撃例が報告されています。現在までに出現地点以外の「オブジェクトの麓」に相当する地点は発見されていません。
SCP-3290-JPは衰弱状態にある飼育下の哺乳動物(対象動物と表記)の近傍に発生します。発生確率は極めて低いため、事前にSCP-3290-JPの発生を予測することは困難であるとされています。また、発生の瞬間を捉える試みは機材の不調によって全て失敗に終わっています。しかしながら、発生現場にて空間歪曲の痕跡が複数確認されており、SCP-3290-JPが空間転移に類する何らかの異常性質によって発生している可能性が示唆されています。
SCP-3290-JPの出現後、対象動物はSCP-3290-JPの上を歩行します。SCP-3290-JPが非実体的に振る舞うオブジェクトであるにも拘わらず、対象動物がSCP-3290-JPの上を歩行できる理由は明らかになっていません。また、対象動物がSCP-3290-JPの上を一定距離以上歩行すると同時に、対象動物とSCP-3290-JPは消失します。消失後の対象動物およびSCP-3290-JPの行方は不明です。なお、対象動物がSCP-3290-JPの上を歩行することを妨害・阻止する試みは全て失敗に終わっています。
補遺3290-JP.1: 発見経緯
SCP-3290-JPはSNS"Twitter" (現X) に投稿された内容を契機として財団に発見されました。投稿内容は「虹の橋が出現して、ペットがその上を渡っていった」という旨のものでした。また、投稿には当時の状況を撮影したと思しき画像が添付されていたことが明らかになっています。これらの情報を補足した財団による調査の結果、SCP-3290-JPの存在と各種性質が判明しました。
補遺3290-JP.2: インタビュー記録
財団はSCP-3290-JPに関する調査の一環として、対象動物の飼育者に対するインタビューを実施しました。以下はインタビュー記録の一部抜粋です。記録の全容については別途資料(資料コード3290-JP.α)を参照してください。
インタビュー記録3290-JP.3
Record 20██/██/██
対象: 椎野咲良氏(椎野氏と表記)
インタビュアー: 八幡博士
注記: 円滑にインタビューを進めるため、八幡博士は「愛玩動物に関する専門知識を持った動物行動学者」と身分を偽って対応しています。
<記録開始>
[重要度の低い会話なので省略]
八幡博士: ……なるほど。つまり、家からおいも1ちゃんが居なくなったので、外まで探しに出たところ、おいもちゃんが虹を渡っていた、と……
椎野氏: 本当に、確かにこの目で見たんです。おいもがフラフラしながら、ゆっくり虹を歩いていました。必死に呼びかけたんですけど、ちょっとこっちを振り向いたくらいで。
八幡博士: 衰弱したペットが、飼い主を心配させまいと自ら飼い主の元を離れる……という事案が、ごく少数ですが存在します。おいもちゃんも、そのように今も家の周囲にいるのではないでしょうか?
椎野氏: 違います! やっと見つけたって思って、写真も撮ったんです!
[椎野氏が所持品のスマートフォンから写真を見せる。写真はぼやけているため詳しく判別できないが、対象動物がSCP-3290-JPと思しき構造物の上を歩いているように見える]
椎野氏: この後……何歩だったかな、数十歩くらい進んだところで、おいもの姿が消えちゃって。
八幡博士: 消えた? 見失ったのですか?
椎野氏: いや、ずっと見てた……というか……
[椎野氏が泣き出す]
八幡博士: 答えにくいことであればゆっくりで構いません。
椎野氏: ……いえ、すみません。見つけた時は、やっと見つけた! って気持ちだったんですけど、虹を歩くおいもを見てると……あぁ、これでもう苦しむことはないんだ、と思って。
八幡博士: 苦しむことなない、というと?
椎野氏: 苦しむ姿をずっと家で見てて、心苦しかったんです。でも、虹を歩いてるおいもはどこか軽い足取りというか、ちょっと苦しみから解放された感じがあって。
八幡博士: そんな状態のおいもちゃんを呼び止めることはできなかった、ということですか。
椎野氏: [涙ぐみながら] ……はい。おいもと離れるのはとても寂しいし、考えられないことだったんですけど、ずっと苦しい思いをさせちゃったおいもが楽になれると考えたら、おいもの幸せを優先してあげたいな、と思って。
八幡博士: 不躾な質問になってしまいますが、おいもちゃんはもう……
椎野氏: ……はい、もう天国に旅立ってると思います。でも、今はそこで幸せに暮らしてると思うし、元気に走り回りながら、たまに私のことも空から見てくれてる、そんな気がするんです。……すみません、研究されてるって聞いたのに、こんな話ばかりになっちゃって……
八幡博士: いえ、構いません。飼い主の気持ちも、動物行動学では大事な要素ですので。……おいもちゃんも、元気にされてると思いますよ。
椎野氏: そうですよね、ありがとうございます。
[椎野氏が天井を見上げ、ほほ笑む]
椎野氏: おいも、虹の向こうで、たくさん遊んでね。
[以下、重要度の低い会話なので省略]
<記録終了>
終了報告: 椎野氏は記憶処理と所持物品のSCP-3290-JPに関するデータを消去した後に解放されました。
上記記録を含む複数のインタビューにおいて、対象動物の飼育者は「ずっと前から苦しんでいたペットが虹の橋を渡って天国に行き、元気に過ごしている。そして、今も自分のことを見守ってくれているだろう。」という旨の回答を行っていることが確認されています。なお、先述の発言に異常な点は存在しておらず、これらの回答は非異常性の思考に基づいたものであると推測されています。
また、飼育者がSCP-3290-JPの上を移動する対象動物の姿を見ても違和感を抱かない点は特筆すべきです。
補遺3290-JP.3: 調査結果
財団による徹底した調査の結果、SCP-3290-JPとの関連性が示唆されている地点が明らかになりました。該当地点は██県██市にある森林であり、全てのSCP-3290-JPがこの地点の上空を通るようにして発生しています。しかしながら、該当地点はSCP-3290-JPの「麓」ではなく、発生原理などは明らかになっていません。
財団による現地調査の結果、該当地点(LoI-3290-JPに指定)にはイヌ、ネコをはじめとした多数の哺乳動物の死骸が存在していることが確認されています。これらの死骸には高所から地面に強く叩きつけられた痕跡が残っていました2。しかしながら、LoI-3290-JPに到達した哺乳動物は落下の衝撃により死亡したのではなく、その多くが餓死によって死亡していることが発覚しています。これらの動物は落下後に骨折やその他の要因によって身動きが取れなくなり、結果として食事や水分補給などの行動を起こせず死亡したと推測されています。
また、該当の死骸は著しく劣化および腐敗しており、身元を特定することが不可能な状況でした。死骸の中には、首輪やペットタグが取り付けられた個体も存在しており、該当する死骸群は飼育動物であったことが示唆されています。対応として財団は該当地点を封鎖し、死骸群の回収と標準処理プロトコルに則った埋葬処理を行いました。