SCP-3293-JP
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異常性発現時のSCP-3293-JP

アイテム番号: SCP-3293-JP

オブジェクトクラス: Euclid Safe Thaumiel

特別収容プロトコル: SCP-3293-JPはサイト-8181の低脅威度物品収容ロッカーに保管されています。

SCP-3293-JPの対象に対してはSCP-3293-JPの異常性の発現を防ぐため、場面に応じてミームエージェントの使用が認められています。SCP-3293-JPが活性化した場合、対象と定められている人物は対応マニュアルに従い即座にSCP-3293-JPと合流して下さい。

現在、プロトコル・ヴィステージ以外での対象の解雇は認められていません。

プロトコル・ヴィステージ: プロトコル・ヴィステージはSCP-3293-JPを用いた対象の帰還手順及び物品の回収手順です。プロトコル・ヴィステージ担当職員には財団の忠誠度テストで一定スコア以上を獲得した財団職員1人が選ばれ、SCP-3293-JPの所有権が譲渡されます1。SCP-3293-JPの対象の不在に備えるため、担当職員には不慮の事故の際に他の財団職員に対してSCP-3293-JPの所有権を譲渡する旨を記した文書を記述させています。なお、この時選ばれる財団職員も同様に忠誠度テストで一定スコア以上を獲得した人物である必要があります。

回収作戦に高いリスクが伴うと推定された場合、クリアランスレベル4の職員3人以上の承認を得た後プロトコル・ヴィステージは実行されます。プロトコル・ヴィステージを実行する場合、担当職員はSCP-3293-JPを保持した状態で回収作戦を行います。この際、回収部隊から帰還が困難であると連絡された場合、もしくは回収部隊が明言した帰還の時刻を超過してなお回収部隊の帰還・連絡が確認されなかった場合最低5名の上級職員の承認の下、担当職員に対し財団職員としての資格の剝奪及び解雇が行われます。これらの行動はSCP-3293-JPの対象の属する組織からの対象の所有権の放棄に当たるとみなされ、結果としてSCP-3293-JPが活性化します。

回収部隊がSCP-3293-JPの活性化を確認した場合、回収部隊員は回収した物品を保持した状態で即座にSCP-3293-JPの周囲に集まる事が義務付けられています。SCP-3293-JPによる回収部隊員及び回収した物品の帰還が確認された後、回収部隊は職員に回収した物品を譲渡します。プロトコル・ヴィステージ終了後、担当職員は再雇用されます。

説明: SCP-3293-JPは高さ30cmのレッサーパンダ(Ailurus fulgens)のぬいぐるみです。SCP-3293-JPは不明な柔らかい材質で構成されており、非異常性のぬいぐるみとの外見上の差異は確認されていません。SCP-3293-JPは外力による破壊に対する耐性を有しておらず、通常の手段で破損させる事が理論上は可能です。しかしながらSCP-3293-JPが何らかの要因で危害を受ける状況に陥った際、SCP-3293-JPは後述するSCP-3293-JP-Aを用いて抵抗するため結果的にSCP-3293-JPの破壊は非常に困難なものになっています。

SCP-3293-JPの異常性発生の条件は、SCP-3293-JPの所有者と定められた人物(以下、対象と表記)によってSCP-3293-JPの所有権が放棄される事であると考えられています。SCP-3293-JPが定める「所有権の放棄」の基準は現在まで判明していませんが「対象の同意なくSCP-3293-JPを対象から十分に離れた場所に放置する」「対象による回収が不可能な場所に放置する」「対象の同意なくSCP-3293-JPを持ち去る」などが異常性を発現させる要因であり、またそれらの要因には対象の意識が深く関わっている事が判明しています。このため、対象の同意無しに異常性を発現させずSCP-3293-JPを運搬する事は不可能であると考えられています。なお、一度に複数の人物が対象となる事はありません。

SCP-3293-JPの異常性が発現した際、SCP-3293-JPは自律して活動を始めます。活動開始から不定の間隔を空けた後2、SCP-3293-JPは平均時速10kmの速度で対象の存在する方向に移動します。この時、SCP-3293-JPは非異常性のレッサーパンダの生態から大きく逸脱しない形で活動します。SCP-3293-JPは基本的に障害物を避けるようにして移動し、障害物に包囲されるなどして移動が困難或いは不可能になった場合SCP-3293-JPは歩行が可能な比較的近辺の場所まで転移する事が確認されています。特筆すべき点としてSCP-3293-JPは自立して活動をしますが、現在までに生命活動の徴候は確認されていません。

異常性が発現した際、SCP-3293-JPの周囲には特殊な領域(以下、SCP-3293-JP-Aと表記)が形成されます。SCP-3293-JP-AはSCP-3293-JPを中心とした最大半径1.23 1.54 1.8m5の球状の範囲に形成される特殊な不可視の領域です。SCP-3293-JP-Aには以下に示すような特性を有しています。

異常性の概要 説明
高度な破壊耐性及び腐食抵抗性。 耐久性試験を行った結果、SCP-3293-JP-Aは領域内外からの圧力に対して高い破壊耐性を有している事が確認された。
内部ヒューム値の固定。 SCP-3293-JP-Aの内部は平均1.1Hmのやや高い現実性を保っており、現実性の流出は確認されていない。また、SCP-3293-JP-Aに対して現実改変を行う実験が現実改変部門監視の下で行われたがSCP-3293-JP-Aの境界付近でヒューム値の変動が確認されなくなり、現実改変の試みは失敗に終わった。
内部の温度、圧力の固定。 SCP-3293-JP-Aの外部の条件に関わらず、SCP-3293-JP-Aの内部は20~25℃で1気圧に保たれている。
内部の酸素濃度の固定。 2012/██/██に行われた調査により、SCP-3293-JP-A内部の空気中の酸素濃度は常に20〜23%を保っている事が判明した。

直接的な攻撃を伴うSCP-3293-JPの移動の妨害、及び帰還イベントの阻止はSCP-3293-JP-A及びSCP-3293-JPの転移能力が原因で現在まで成功していません。SCP-3293-JPは対象の近辺に到達した後、活動を停止します。また、活動の停止と同時にSCP-3293-JP-Aは消失する事が確認されています。

また、SCP-3293-JPには何らかの奇跡論的儀式の影響を受けた痕跡が確認されています。現在、SCP-3293-JPに対する調査が進行中です。 SCP-3293-JPに対する調査は完了しました。詳細は補遺7を参照して下さい。

 

追記: 2007/██/██、新たな異常性発現の条件及びそれに伴った新たな活動が確認されました。

2つ目の異常性発現の条件は、対象が属する何らかの集団6から対象の所有権が放棄される事であると考えられています。この条件は2007/██/██の事案3293-JPにて偶然確認されました。事案3293-JPについての詳細は補遺4を参照して下さい。

この時、SCP-3293-JPは活性化しSCP-3293-JP-Aを形成した後、対象への移動を開始します。SCP-3293-JPは対象に到達した後、SCP-3293-JP-Aを再形成します。この時、SCP-3293-JP-Aは対象を包み込むように形成されます。SCP-3293-JP-Aが対象を包み込んだ後、SCP-3293-JPは対象が属する集団に向かって移動を開始します。この時、前述したような状況でSCP-3293-JPの移動が非常に困難になった場合SCP-3293-JPはSCP-3293-JP-A及びその内部に存在する対象と同時に移動が可能な比較的近辺の場所へと転移します。

SCP-3293-JP及び対象が集団にたどり着いた後、SCP-3293-JPは活動を停止します。この時、対象が意識を失っている間は常にSCP-3293-JP-Aは消失せず維持し続けられることが確認されています。

 

補遺1: 発見経緯

SCP-3293-JPは2004/██/██、███県██市にて███氏による「戸締りしていたはずの家にアライグマによく似た動物が入ってきた」という旨の通報を受けた地元の警察を通じて発見されました。当時その通報は単なる動物の侵入として扱われていましたが、監視カメラの映像の解析により異常性が確認されました。地域に潜入していたエージェントにより財団に通報が入った結果、SCP-3293-JPの存在及び大まかな異常性が発覚しました。また、同時にエージェントにより回収が試みられましたがその試みは失敗に終わりました。詳細はこちらを参照してください。

なお、SCP-3293-JPが███氏の自宅に入った原因は対象への最短距離となる道筋を通る途中で周辺の物品を利用して塀を飛び越えた結果偶然SCP-3293-JP自身が家と塀に囲まれてしまい前述したような移動が困難な状況に陥ったからであると考えられています。

その後、エージェントによって当時のSCP-3293-JPの対象であったとされる清水しみず 結衣ゆい氏が発見されました。

 

補遺2: インタビュー記録

2004/██/██、██研究員による清水氏へのインタビューが行われました。

対象: 清水 結衣

インタビュアー: ██研究員

付記: 対象は当時9歳であり、心因性の要因によるSCP-3293-JPの活性化を防ぐため対象には「SCP-3293-JPはこの施設で預かっており、インタビューが終了したら返却する」と説明しています。

<録音開始>

██研究員: こんにちは、結衣さん。今日はよろしくお願いします。

清水氏: よろしくお願いします。……ええと、あの、ショコラ7は返してくれるんですよね?

██研究員: ええ、勿論です。必ずお返ししますよ。

清水氏: ありがとうございます。

[重要度の低い会話のため中略]

██研究員: それではSCP-3293-JP、いえショコラさんについてお話をお聞きしたいのですが。

清水氏: ショコラのこと? ……分かりました。

██研究員: ありがとうございます。ではまず貴方がそのショコラさんを手に入れたきっかけと言いますか、それを教えていただけますか?

清水氏: ……はい。ショコラは私のママ……お母さん8から貰いました。私の3歳のお誕生日の時にお母さんからのプレゼントって言ってショコラを渡してくれました。

██研究員: 分かりました。因みに、どこで買ったとかそういうことは分かりますか?

清水氏: ごめんなさい、それは分かりません。ただママがお下がりって言って渡してくれた事は覚えてます。確かお母さんも外国にいるおばあちゃんから貰ったとか……古いぬいぐるみだとか、そういうことは聞きました。

██研究員: ……分かりました。因みにいつ頃に作られたとか、そういう事は分かりますか?

清水氏: それは……えっと、分かりません。あ、でも日本にレッサーパンダが来てない頃からあるってそんな感じの事をお母さんから聞いた気がします。

██研究員: [19秒間メモを取る]ありがとうございます。では、次に2004/██/██9の事についてお聞きしたいのですが……

清水氏: えっと……ショコラについての事ですよね?

██研究員: はい。何かその日の事で結衣さんが覚えていることがあれば教えて下さい。どんな小さな事でも大丈夫です。

清水氏: ええと、あの日の前の日、私はママと一緒に██県からこの街に引っ越してきました。新しいパパとママに会いに行くって言ってました。そうしたら、ホテルにたどり着いたすぐ後に、私はショコラをどこかに忘れていることに気付いたんです。持ってきたキャリーバッグやリュックサックをひっくり返したりして、それでも見つからなくて、車の中も探したんですが、どこにも無かったんです。

██研究員: ……そうですか。その後、何かありましたか?

清水氏: 多分、どこかに置き忘れちゃったんでしょう。ママに相談しても「新しいの買ってあげるから。」って言われるだけで納得がいかなくて、その日はずっと泣き叫んでました。ショコラにはもう会えないって。

██研究員: [相槌を打つ]

清水氏: その後、えっと……お風呂に入って、髪をママに乾かしてもらった後、私は布団の上にショコラがいる事に気付いたんです。絶対にあるはずはないんです……けど、そこにいるのは間違いなくショコラでした。お母さんに伝えたら、良かったわね。って言われました。きっとママがショコラのことを探してくれたんです。

██研究員: ……なるほど。因みにですが、なぜそこに居るのがショコラだと分かったんですか?

清水氏: 3歳ぐらいの時に落書きしたのが残ってたからです。尻尾の生えてるところに……今も残ってると思います。

██研究員: [10秒間メモを取る]分かりました。他にお母さんから何か言われましたか?

清水氏: ええと、「これからはちゃんと大事に持っておくのよ。誰にも渡しちゃだめよ。」って。そう言ってました。

██研究員: 分かりました。ええと、その後ショコラさんについて何か変わったことはありましたか?

清水氏: いや、何も……。今はお母さんとは離れ離れになっちゃいました10が、ショコラがいるから寂しいって思うこともないです。

██研究員: なるほど。

清水氏: 新しいお父さんや、お母さんに厳しく怒られる事があっても、ショコラを抱きしめると何か落ち着くんです。

██研究員: ……分かりました。本日はありがとうございました。

<録音終了>

終了報告書: 清水氏にはクラスA記憶処理を行った後、SCP-3293-JPを返却し解放させた。また、清水氏の証言によりSCP-3293-JPの対象は譲渡できる可能性がある事が判明した。なお、清水氏が言及していた血縁上の母親はインタビューの2ヶ月前に失踪していた事が確認されている。

インタビュー終了後、清水氏にSCP-3293-JPを財団に譲渡するよう説得しましたが清水氏は明確な拒否反応を示しました。SCP-3293-JPは精神影響能力を有していないことが確認されているため、この反応は非異常性の要因によるものであるとの意見が有力です。

この事から清水氏に対しSCP-3293-JPに関する記憶処理を行う案が提出されました。しかしながら記憶処理によるSCP-3293-JPの予期しない異常性の発現を誘発する可能性があると同時に、既にSCP-3293-JPが清水氏の幼少期からの複数の記憶に結び付いていると予測されており記憶処理による清水氏の自己同一性への影響を及ぼす事が推定されたため却下されました。

またSCP-3293-JPと対象を同時に収容する案も計画されましたが、当時清水氏が養子に入っていた██氏からの反対があった事や当時清水氏の居住区から比較的近隣に存在するサイトにてSCP-████-JPを含む複数のアノマリーの収容にリソースを割かれていた事から、SCP-3293-JPの収容は優先度が低いと判断され提案は却下されていました。

 

補遺3: インシデント記録

20██/██/██、当時のSCP-3293-JP対応メンバーであった██研究助手によりSCP-3293-JPの精密な複製を作り対象の睡眠時にSCP-3293-JPと交換する案が提出されました。この提案は当初SCP-3293-JPの異常性を発現させないままSCP-3293-JPを運搬できるとして採用され、2005/██/██に実行されました。しかしながら結果として、この案はSCP-3293-JPを活性化させ後述するインシデント-3293-JPを引き起こしました。

映像記録


日付: 2005/██/██

注記: 以下はサイト-8181にて起こったインシデント-3293-JPの映像・音声記録です。


[記録開始]

[カメラはSCP-3293-JPが収容されているロッカーを映している。]

[00:00]: SCP-3293-JPが活性化し、ロッカーの外部に転移する。

[SCP-3293-JPは収容室を見回し、収容室の強化ガラス壁を手で叩く素振りを見せる。]

[00:04]: SCP-3293-JPが廊下に転移する。

[警報が鳴る。SCP-3293-JPは驚いているような様子を見せる。]

[00:07]: 通報を受け機動部隊が到着する。

[機動部隊は防護盾でSCP-3293-JPを囲む。SCP-3293-JPは機動部隊の背後に転移する。]

[00:10]: 機動部隊員は隊列を組み、SCP-3293-JPに向かって足止めを目的とした威嚇射撃を開始する。

[粉塵によりSCP-3293-JP-Aの外郭が視認できるようになる。]

[SCP-3293-JP-Aに命中した銃弾が跳ね返る。複数の機動部隊員が跳弾により負傷する。]

[00:14]: 機動部隊が射撃を中止し、収容スペシャリストに通報を行う。

[SCP-3293-JPは廊下を移動している。]

[00:15]: 通報を受けた収容スペシャリストを通じてサイト-8181の廊下の一部が防火扉によって閉ざされる。

[00:17]: SCP-3293-JPが廊下に隣接していた標準生物収容セルに転移する。

[標準生物収容セルに収容されていたSCP-███-JP、SCP-████-JP、SCP-████-JPが活性化する。]

[00:20]: SCP-3293-JPは複数の収容室を転移する形での移動を開始する。結果として、隣接するセルで連鎖的に収容違反が発生する。

[SCP-3293-JPは階段を下っている。]

[00:30]: SCP-3293-JPがサイト-8181の壁面に到達する。SCP-3293-JPはサイト-8181の窓に飛び乗り、サイト-8181の外部に転移する。

[00:34]: SCP-3293-JPの収容違反が宣言される。


[記録終了]

終了報告書: インシデント-3293-JPの結果、サイト-8181の廊下及び隣接する収容室に大規模な損害が発生した。また、SCP-███-JP、SCP-████-JP、SCP-████-JPを含む複数のオブジェクトはインシデント発生から2時間19分後に再収容が完了した。なお、SCP-3293-JPはインシデント発生から4時間11分後対象の自宅に到着したと記録されている。目撃者にはクラスA記憶処理及びカバーストーリーの流布により対処した。

なお、SCP-3293-JPが活性化した原因は対象がSCP-3293-JPと複製の差異を認識した事であると推定されています。インシデント-3293-JPの結果、SCP-3293-JPの収容は対象の意識に依存している部分が多く、SCP-3293-JPを財団の収容下に置く事はリスクが高いとみなされ2005/██/██に特別収容プロトコルが作成されました。なお、SCP-3293-JPの回収手順を提案した██研究助手及び当時の対応チームには1ヶ月の減給処分が下されました。SCP-3293-JPと対象を同時に収容する提案は現在も検討中です。 事案3293-JPをきっかけとしてSCP-3293-JP及び対象の収容が完了しました。詳細は補遺4を参照して下さい。

 

補遺4: 事案3293-JP

事案記録3293-JP: 2007/██/██、清水氏が養子に入っていた██氏夫妻から地元の警察に通報が入りました。██氏夫妻は通報当時非常に混乱した様子であった事が記録されています。通報の内容の不自然さ11から潜入エージェントを通じて財団に通報が入り、SCP-3293-JPに関連した事案であると判明しました。

当時財団は██氏夫妻にインタビューを試みましたが、██氏夫妻は錯乱状態にあり有益な情報を得られませんでした。そのため、財団は清水氏にインタビューを行いました。

対象: 清水氏

インタビュアー: ██研究員

付記: 清水氏の希望により、本インタビューは担当研究員の監視の下で清水氏にSCP-3293-JPを所持させた状態で行われました。

<録音開始>

██研究員: ……よろしくお願いします。

清水氏: [沈黙]

██研究員: 大丈夫ですか? もし辛ければ、また日を改めてインタビューを行いますが。

清水氏: いえ、大丈夫です。あの、ここで話す事ってその、お父さんやお母さんには内緒にしてくれますか?

██研究員: ……分かりました。約束します。

清水氏: ありがとうございます。

██研究員: では、あの日の事を教えていただけますか? 何があったのか、覚えている範囲で大丈夫なので話して下さい。

清水氏: 分かりました。話します。

██研究員: ご協力ありがとうございます。

清水氏: その、お父さんに怒られちゃって。お腹が空いてて、休みの日で、給食も無かったから、その。お母さんに……えっと、その……

██研究員: 落ち着いて下さい。ゆっくりで大丈夫ですよ。

清水氏: ……はい。ごめんなさい。その日、学校が休みで、給食も無かったので、お母さんにご飯作ってって、お願いしました。でもお母さんは何にも答えてくれなくて、でもお腹が空いてて、何回もお願いしました。そしたらお父さんに五月蠅いと、怒られて、仕置きを受けました。

██研究員: 仕置き?

[清水氏は上着を脱ぐ。右肩に紐状の痣が確認される。]

██研究員: [10秒間メモを取る]……なるほど。

清水氏: [上着を着る]私は、その後、押し入れに入れられて、黙ってました。そうしたら、声が聞こえてきました。怒ったりしてる声だったと思います。

██研究員: 何て言ってるかとか、そういう事は分かりましたか?

清水氏: ……すみません、その、押し入れとお父さん達との距離が遠くて、全く何を言ってるかとか、そういうのは聞こえませんでした。あ、でも何か喧嘩してるみたいでした……そして1時間ぐらい経った後、急に声が小さくなって、そしてちょっとしたら、家の玄関のドアが開いたみたいな音がして、外から車の音が聞こえてきました。

██研究員: [相槌を打つ]

清水氏: そして30分ぐらい経った後、お父さん達が帰ってきました。しばらくして、お母さんが押し入れの扉を開けてくれました。そうしたら、お母さんは笑って「お出かけしよっか」って、私に言いました。私はお父さんとお母さんに引っ張られて、車に乗り込みました。そして……[沈黙]

██研究員: 大丈夫ですか?

清水氏: ……はい。その後、私はお母さんに、ペットボトルに入ったオレンジジュースを渡されました。「喉乾いてたでしょう」って言われて、そういえばその日はまだ何も飲んでない事に気付きました。そして私はそれを飲んだ後……ええと、その後……[沈黙]

██研究員: 大丈夫ですか?

清水氏: すみません、その後の事をよく覚えてなくて……あ、でもしばらくしたら身体が浮かんで、ジェットコースターに乗ったみたいに、フワッとした感じがしました。そしてその、ちょっとだけ、2、3秒ぐらい経った後に何か柔らかいものが、私の傍にいるような気がしました。あの、気のせいかもしれませんが。

██研究員: ……なるほど。

清水氏: そして、気付いたら家に帰ってました。何だかお父さんとお母さんは何だか焦ってるみたいでした。そうしたら、その、お父さんが私を指さして、おっきな声で、「何でここにいる」……って。[清水氏はSCP-3293-JPを強く抱きしめる。]

██研究員: はい。

清水氏: 「確かに捨てたはずなのに」って。

██研究員: [沈黙]

清水氏: ……あの、ここでのお話って、お父さんやお母さんには内緒にしてくれるんですよね?

██研究員: ……勿論です。

[中略]

<録音終了>

終了報告書: インタビューの結果、清水氏は██氏夫妻から虐待を受けている可能性が高いとされ調査が行われ、それが認められた。なお、清水氏をサイト-8181に引き取る計画が検討中。 検討は終了し、清水氏はサイト-8181に正式に引き取られた。

清水氏をサイト-8181に引き取った事をきっかけに、SCP-3293-JPの調査が行われました。形式部門・現実改変部門などの協力により前述したSCP-3293-JPの詳細な異常性の発現の条件及びSCP-3293-JP-Aの性能が確認されました。この調査によりSCP-3293-JPの安定した収容が可能になり、SCP-3293-JPのオブジェクトクラスはSafeに再指定されました。

 

補遺5: SCP-3293-JPに関する調査報告書

2012/██/██、SCP-3293-JPの研究を担当していた複数の部門による調査報告書が提出されました。

SCP-3293-JP調査報告書
巷説部門,奇蹟論部門,神話・民俗学部門


2011/██/██から2012/██/██の間に行われた21回の実験の結果、SCP-3293-JPの異常性に対する再評価が行われた。以下に仮説を記す。

仮説: SCP-3293-JPの異常性は少なくとも1回、恣意的に変更が加えられている。

根拠: SCP-3293-JPは複数の面で巷説における「捨てられないぬいぐるみ・人形」と呼ばれるオブジェクトとの類似点が確認されている。これらの人形は巷説部門12の管轄下に複数存在しており、それらのオブジェクトには共通して以下に示すような特異性を有している事が確認されている。

  • 熱を含む物理的な破壊に対する強弱を問わない耐性
  • 所有者による放棄を要因とした異常性の発現
  • 物理的な移動・瞬間的な座標転移を用いた所有者への帰還

これらの特異性は主に古くから人間の歴史の中でぬいぐるみや人形が呪術的なアイテムとして使われていた事と深く関連があると推定されている。また、それらのオブジェクトが前述したような行為に使われていた理由はぬいぐるみや人形自体が人や動物を模しておりそれらのウォール理論におけるF5表象領域、平易な言葉で表せば「魂」を憑依させる媒体として優れていたからだと神話・民俗学部門により考察されている。

また、これらのオブジェクトに共通する特徴として製造されてから長い年月が経過している事が確認されている。2004/██/██のインタビューでの証言を参考にすると少なくともSCP-3293-JPは製造されてから40年以上経過しており、これは上記のような異常性を有するには十分な時間だと考えられる。


しかしながら、SCP-3293-JPはそれらのオブジェクトとは複数の相違点及び通常から逸脱した行動が確認されている。特筆すべき点を以下に示す。

まず最初に述べたい事は、SCP-3293-JP自体に破壊耐性が存在しない事である。前述したようなオブジェクトには強弱を問わずある程度の熱や物理的な攻撃に対する耐性を有しているが、SCP-3293-JPにはそれらが確認されていない。これらの疑問点に対してはSCP-3293-JPの周囲に存在するSCP-3293-JP-Aとナンバリングされている特殊な領域がそれらの役割を補っていると考えられている。また、SCP-3293-JP-Aについても不可解な点が複数存在する事が判明してしている。以下、SCP-3293-JP-Aについての見解を記述する事にする。

その1つは内部の環境、主に内部の空気濃度及び温度についての特異性である。2012/██/██から2012/██/██に行われたSCP-3293-JP-A内部調査の結果、SCP-3293-JP-Aの内部は非常に安定した空間である事が判明した。特筆すべき点として、密閉空間のSCP-3293-JP-A内の酸素濃度は対象の滞在時間によらず常に20%ほどで安定しており、対象に対して常に新鮮な空気が供給されている。この事はSCP-3293-JP自身が生命活動を行っていない事を考慮すると不自然であると考えられる。

また、2つ目の不可解な点は領域の最大半径が拡大している事である。調査報告によると2004/██/██で確認された最大の半径は124.7cmであったが、2007/██/██には151.2cmまで拡大されており、最新(2012/██/██時点)の調査によると現在の最大の半径は175.0cmとなっている。また、清水氏の協力を得た上で行われた██研究員へのSCP-3293-JPの一時的な所有権の譲渡に関する調査により、SCP-3293-JP-A領域の最大半径の著しい拡大が報告された事は特筆すべき点である。領域の拡大の原因として当初はSCP-3293-JPが経年劣化などの要因によって空間の維持が困難な状況に陥っていると推測されていたが、拡大するスピードの不安定さからこの可能性は低いと推測された。


これらの要因に対し、「SCP-3293-JP-AはSCP-3293-JPを保護するのみではなく対象を保護する目的で何らかの要因により異常性が変化した」という仮説が提出された。

この仮説に対して、SCP-3293-JPに何らかの奇跡論的儀式が行われた痕跡が存在している事が根拠となる。奇跡論を用いて異常性が変更された事例は複数確認されており、SCP-3293-JPも同様に何らかの奇跡論的儀式により異常性が変更されたと推定される。なお、奇蹟論部門により痕跡を調査した結果、奇跡論的儀式が行われてから現在までの間に少なくとも5年以上の期間が経過している事が判明している。

また、前述したSCP-3293-JP-Aの2つの不自然な点がこの仮説に対する裏付けとなる。まず内部の空気濃度については対象の窒息を防ぐ目的で新鮮な空気を供給していると考える事ができる。そして領域の半径拡大についてはSCP-3293-JP-Aの半径が対象の身長または体積に依存していると考えれば回収前の領域拡大及び譲渡後の急速な半径拡大についても説明ができる。

これらの要因により、現在はこの仮説が最有力であるとされている。しかしながらこの仮説を検討する場合、冒頭に記述した通りSCP-3293-JP以外の要因が変更のために必要であると思われる。その理由として、SCP-3293-JPと類似点が確認されている前述した「捨てられないぬいぐるみ・人形」の異常性は「オブジェクト自身を保護する」ために用いられ、「オブジェクトが対象を保護する」という目的での異常性の行使は現在までに確認されていない。

このため、元からSCP-3293-JP自身が有していた異常性をSCP-3293-JP自身が変更したという可能性は低いと考えられ、偶然または恣意的に何らかの要因によって異常性の変更が行われたという推定がされている。

 

補遺6: SCP-3293-JPの研究に関する会議

音声映像転写ログ


日付: 2012/██/██

参加者:

  • 会議長: 宮下副管理官13
  • 翠峰博士14
  • 荒田博士15
  • 飴本上級研究員16

注記: この会議はSCP-3293-JP及びSCP-3293-JP-Aの異常性についての調査報告書を受け、SCP-3293-JPの調査の検討のため行われました。記録は視認性のため、会議の一部を省略しています。完全な記録はこちらを参照して下さい。


[記録開始]

宮下副管理官: 皆様、本日はよろしくお願いいたします。

翠峰博士: よろしくお願いいたします。ではSCP-3293-JPの異常性に関する考察についてですが……何らかの恣意的な介入があったという仮説が最有力であるという結論が出ていました。

荒田博士: はい。補足しますと、いくつか巷説部門管轄下の類似したオブジェクトの資料を確認しましたがSCP-3293-JPと同様の挙動を示すものは確認されませんでした。このため、何らかの変更が加えられた事を前提として調査を進めて大丈夫かと思われます。

翠峰博士: 荒田博士、調査感謝いたします。

飴本上級研究員: ……とはいえ、そこまで確認されていないとなるとSCP-3293-JPが「捨てられないぬいぐるみ・人形」と呼ばれているオブジェクトとは起源から違っていたという可能性は考慮すべきかもしれませんね。

翠峰博士: それは否定はできません。しかしながらそれらのオブジェクトと複数の類似点が確認される以上、完全に無関係だと言い切る方が不自然かと思われます。そして仮にこの仮説を採用した場合……これらの異常性は後天的に獲得したものという事になりますが、今度はどのような要因でオブジェクトに変更が加えられたかという問題が浮上します。……それは既に調査報告書に記述した通りですね。

荒田博士: ふむ……そういえば、SCP-3293-JPに行使されたとされる奇跡論的儀式に対する調査は現状どのような結果となっていますでしょうか?

翠峰博士: その事についてですが……不甲斐ない事に、解析は当初想定されていたほど進んでいません。申し訳ありません。

宮下副管理官: 何か問題でもあったのですか?

翠峰博士: はい。……理由としまして、SCP-3293-JPに対して行われたとされる奇跡論的儀式に用いられた奇跡論的魔術が現在使われていないかなり古いものであるという事があります。解析の結果、奇跡論的儀式が行われたと推定される時期に対して明らかに古い奇跡論的魔術を用いてる事が確認されています。

荒田博士: 確か翠峰博士の調査報告を確認した限り奇跡論的儀式は最低でも5年以上前に行われた、とありますが……

翠峰博士: その通りです。しかしながら、少なくとも儀式に使われたとされる奇跡論的魔術は40年以上前に用いられていたものであると判明しています。これらの奇跡論的魔術に関する信憑性のある情報は殆ど残っておらず、奇跡論的観点からの研究はやや難航しています。

翠峰博士: 最低でも、奇跡論的儀式が行われた当時の状況が分かりさえすれば複数の資料を基に考察などはできますが……現状はそのような手がかりも無いような状況です。

宮下副管理官: 了解しました。では、SCP-3293-JPに関わったとされる人物の調査についてですが……

飴本上級研究員: 異常性の変更についてもそうですが、奇跡論的な要因だけでなく人々の認識によってオブジェクトに変更を加えられる例が複数確認されている以上ある程度SCP-3293-JPを扱っている周囲の人間に対し調査を行うべきだとは何回か話し合っていましたが……あまりそちらの調査は捗っていませんね。

翠峰博士: ……まあ正直に言えばその通りです。清水氏に対する調査ではSCP-3293-JPに精神面で依存している事は確認されましたが……あまりSCP-3293-JPに直接影響を与えているといった内容の文言は確認されていません。

荒田博士: なるほど。……確かに私たちが管理しているそれらのオブジェクトもそもそも対象の廃棄から身を守るために異常性が発現した場合が多いので、むしろ対象とは対立している場合が多いです。そのため、SCP-3293-JP自身が当時の対象であった清水氏を要因として異常性を変更した……それも対象自身を保護する形でというのは考えにくいとは思われます。

飴本上級研究員: ふむ。そうなると清水氏以外への調査が必要になると思われますが……

宮下副管理官: そうですね。しかしながら財団の資源も無限ではないですし、安定した収容が出来ている以上これ以上のSCP-3293-JPの調査は必要ではないという見方が有力ではあります。

飴本上級研究員: その事についてですが、実は我々の部門の中でSCP-3293-JPについての活用法が提案されています。そのため、もう少し異常性の情報を得るための調査が必要であるとされています。

宮下副管理官: 活用法……ですか。詳しく教えていただけますか?

飴本上級研究員: 了解しました。活用法として具体的に、そして簡潔に言えばSCP-3293-JPを機動部隊の帰還プロトコルに組み込むという案です。これは一例になりますが、敵対GoIの資料の回収作業及びオブジェクトの回収活動などに使用できるかと思われます。

宮下副管理官: お待ち下さい。荒田博士が所属している巷説部門の管轄下に複数のSCP-3293-JPと類似したオブジェクトは既に存在しているとお聞きしましたが……仮にそのような利用が本当に可能だとしても、SCP-3293-JPをわざわざ使う理由などはあるのでしょうか?

荒田博士: 理由としては先程説明した通りSCP-3293-JP-Aが対象の保護に非常に優れているからであるという点が挙げられます。その他のオブジェクトではSCP-3293-JPにおけるSCP-3293-JP-Aのような領域は存在せず、仮にオブジェクトを使った場合でも対象の運搬に対するリスクは殆ど変化しません。

荒田博士: それらのオブジェクトが転移能力を有しているとはいえ、帰還の際に物品を強奪されるリスクは通常と殆ど変わりません。この欠点を補うため回収する物品をオブジェクトに埋め込むという案もありますが、オブジェクトの破壊耐性によりその試みは困難であると思われます。

荒田博士: そして対象そのものを回収する必要があるような場合……つまり回収任務に身体的なリスクが伴う場合などにそれらの利点は大きく働きます。現に清水氏がその異常性を用いて██氏の自宅に帰還した際、目立った外傷は確認されませんでした。

翠峰博士: 補足しますと、回収任務は主に物資が不足する場合が非常に多く……それは多くの場合行きではなく帰りに顕著に影響が確認されます。そのような面から考えても、少なくとも帰還を安全に行えるという点でSCP-3293-JPの異常性は明確な利点があるかと思われます。無論、SCP-3293-JPの異常性から考えて担当職員を慎重に選ぶ必要はあるとは思いますが。

宮下副管理官: ……なるほど。

飴本上級研究員: 現にオブジェクトや敵対GoIの資料の回収任務には非常に大きなリスクが伴う場合が殆どです。サイト-8181の収容物品は収容が比較的容易にできるオブジェクトが殆どですが、それでも回収任務による重軽傷者や死傷者は後を絶ちません。

飴本上級研究員: ログなどを参照したところ、それらの任務を原因とした重軽傷者の人数が年間3桁を切ることは殆どない事が判明しています。また回収任務以外でも異常空間の調査などでも転移能力などは有利に働くかと思われます。

翠峰博士: 荒田博士や飴本上級研究員が説明して下さった通り、業務の円滑化及び安全性の確保のためSCP-3293-JPを利用するという案は重要視されています。このため、帰還の際に主体として扱われるとされるSCP-3293-JPの異常性の変更の要因を探る試みは継続して行われるべきだと考えております。

飴本上級研究員: 無論、SCP-3293-JPの異常性に対象の意識が関わっている以上清水氏からの回収を行うべきだとは思いますが……

飴本上級研究員: その点に関しては財団の医療チームに任せるしかないというのが現状ではあります。清水氏は事案3293-JP以降衰弱しきった様子なので……今のところはただSCP-3293-JPの研究をする事で先程言ったような有効活用ができる時に備える、というのが私達の考えではあります。

宮下副管理官: 了解しました。今のところその案を可決するためには少々時間がかかると思いますが……SCP-3293-JPを用いる事で人的被害を幾らか防げるのならば検討する価値は確かにあると思います。

宮下副管理官: とはいえ、皆さんが一番よく知っている事を承知の上で言いますが……異常性が私たちが想定できるような合理性を持っていないなんて例は珍しくありません。特に異常性の変更に至ってはまだ憶測に過ぎませんし、それ以外のオブジェクトの調査や実験、収容を疎かにしていい理由にはなりません。憶測のみの行動は時として重大な問題を引き起こす場合があります。深入りしすぎず、くれぐれも財団職員としての業務を全うする事を忘れないように。


[記録終了]

 

補遺7: 発見された記録

映像記録3293-JP


注記: 以下は2012/██/██に清水氏の生家の屋根裏部屋から発見されたVHSテープの映像です。鑑定の結果、この映像は清水氏の血縁上の母親である清水しみず 恵子けいこ氏を撮影したものであると推定されています。


[記録開始]

[清水 恵子氏と思われる人物(以下、単に「清水 恵子氏」と表記)が椅子の上に座っている。]

清水 恵子氏: 録画できてるかな? ああ、多分できてるみたいね。

[清水 恵子氏は机の上に置いてある水を飲み、1枚の紙を胸ポケットから取り出す。]

清水 恵子氏: この映像をご覧になる方へ。まず初めに、これを見ている頃には私は既にこの世を去っていると思います。

清水 恵子氏: 私はずっと前に、余命が僅かであるとの宣告をとあるお医者さんから受けていました。正直、心臓の持病の影響で子供を産めるかどうかとか色んなお医者さんに言われていたにしてはよく生き永らえた……で良いのかな? まあよく生きた方だと思います。さて、ここからは私の最後に残す言葉として話させていただきます。

[中略]

清水 恵子氏: さて、あらかた話し終わりましたし……どうせ最後なので、ちょっとだけ私の人生の思い出話でも。私はお気に入りのぬいぐるみがありました。私が5歳の頃、お母さんからぬいぐるみを貰いました。貰ったその日からずっと私はぬいぐるみと一緒に寝たりしてました。

[7秒の沈黙の後、清水 恵子氏は上を向く。]

清水 恵子氏: ええと……それで、思い出というのは私が14歳の頃の事です。ある日私はお母さんと喧嘩をして、家出をした時のことです。確か家事がどうだ受験がどうだみたいな事がきっかけと思います。その勢いで家を飛び出してしてしばらくたった後、あのぬいぐるみを持って来るのを忘れてる事に気付きました。

清水 恵子氏: まあ、今思えば取りに帰れば良いだけなのかもしれませんが……その時は意地を張っていたんでしょうね。全く取りに行こうとはしませんでした。それどころか「もうあのぬいぐるみなんてどうでもいいや」みたいな事を思っていました。その日は家から少し離れた公園で…毛布を一枚羽織って寝ていました。

[清水 恵子氏はジェスチャーを交えながら話している。]

清水 恵子氏: そうして朝起きたら、何故かあのぬいぐるみが目の前にいました。寝ぼけた頭でふとそのぬいぐるみを抱きしめて、目が覚めた後びっくりして飛び起きました。その時は「もしかしてお母さんとかお父さんが探して置いてくれたのかな」とか思って辺りを探しましたが誰も居なくて、不気味に感じて家に帰りました。そのころには頭も冷えていたんでしょうね。

[清水 恵子氏は咳払いをする。]

清水 恵子氏: その後、お母さんやお父さん……あ、これ結衣が見るならおばあちゃんおじいちゃんって言った方が正しいのかな? まあもうここまで撮り直すのも面倒くさいしこのまま話しますね。お母さんやお父さんにその事を話しても特に何も知らないようでした……その時私は、ふと「このぬいぐるみが私を迎えに来たんだ」と思いました。今思えば、馬鹿みたいですけど。まあ正直この事を友達に言っても信じてくれないか、面白がって茶化されるばかりでしたし。勿論信じてくれなくても大丈夫です。[咳込む]

[中略]

清水 恵子氏: じゃあ最後に結衣、好き嫌いしちゃダメよ。新しいお母さんやお父さんの言う事ちゃんと聞くのよ。良い子にしててね。ママが見守ってるからね。

[暗転]

[映像は暗闇を32分間映し続けている。]

[再び映像が表示される。画面中央には清水 恵子氏が確認される。]

清水 恵子氏: さて、ここまで聞いていただいてありがとうございます。ここからは少し個人的な話に……というか誰も興味ない話になるので少し間を空けました。先程、ぬいぐるみの話をしましたね。私は結衣に誕生日プレゼントとしてあのぬいぐるみを渡しました。そうして……[咳払い]はい、私が██さん達に結衣を預けに行った時の話です。要するに、私が結衣と別れる日の事ですね。その日の夜、結衣は私に向かって「ショコラを忘れてきた」と言ったんです。……ああ、ショコラというのは結衣がぬいぐるみに付けた名前です。

清水 恵子氏: 出かける前にぬいぐるみを持っていたのは一緒に確認したので、どこかの駅に置いてきちゃったんだろうと直ぐに分かりました。まあ探すのはけっこう大変でしょうし新しいのを買ってあげようともしましたが、結衣は泣くばかりでした。そうしてお風呂に入れた後、ふと窓を見るとあのぬいぐるみがこっちを見ていました。

[清水 恵子氏は7秒間強く咳込んでいる。]

清水 恵子氏: 私は、本当の事を言えばずっと不安になっていました。あの……実はその、何回か面会する中で私は██さん達に何か良くないような、何か取り繕ったような様子を……いえ、すみません、失礼しました。これは私のただの杞憂です。[沈黙]正直なところ、自分に結衣と最期まで一緒にいたいという気持ちが無いわけではないです。

清水 恵子氏: 私は、結衣を悲しませないために██さんに自分の娘を渡したと、そう思っていました。ですが、もしかしたらそれは私が勝手に結衣の気持ちを分かった気になっていただけかもしれないと、そう思うようになっていました。不甲斐ないお母さんで本当にごめんなさい。[咳込む]

清水 恵子氏: すみません、話が逸れていました。窓にいるあのぬいぐるみからふと目を離した瞬間、あのぬいぐるみは私の目の前の布団に置かれていました。その瞬間、私は昔の事を思い出しました。14歳のあの日の事です。[沈黙]

清水 恵子氏: そして、おばあちゃん……結衣から見たらひいおばあちゃんになるのかな。そのおばあちゃんがずっと昔に、私にお守りと言って教えてくれたおまじないがあるんですが……何となくそれをしました。それ自体は正直なところ気休め程度のものでしたが、私は不安をかき消すため、ゆっくりと、そのおまじないをしました。あのぬいぐるみを抱きしめながら。

[清水 恵子氏は「おまじない」についてジェスチャーを交えながら話している。]

清水 恵子氏: そして、あのぬいぐるみにお願いしました。「結衣を見守ってあげて」と。昔自分が家出したときに迎えに来てくれたみたいに……と。そうしたら、少しだけあのぬいぐるみが首を縦に振ったように見えました。まあ気のせいでしょうけど、何故かほんの少しだけ心は落ち着きました。

[一瞬カメラが天井に設置された照明を映し、再び暗転する。]

[清水 恵子氏のものと思われる声(以下、単に「声」と表記)が聞こえる。]

声: 翌日、結衣は私の手を無事離れました。精一杯小さな手を振ってくれたのが今でも脳裏に焼き付いています。泣き出さないか不安でしたが、これなら大丈夫そうだとちょっと安心しました。だけど家に帰ってしばらくしてから、ぽっかりと自分の心に大きな穴が開いたような気持ちになっていた事に気付きました。

声: [沈黙]つい先日家の中の掃除が終わりました。今は家の中ががらんとしています。こうするのが良かったんだ、と自分に言い聞かせてきました。

[17秒間の沈黙。]

声: とはいえ、もう後悔はしていません。強いて言えば、結衣の成長が見れない事が心残りでしょうか。今はただ元気に育ってほしいと、そう願っています。それでは、長々と失礼しました。皆さん、さようなら。ありがとうございました。


[記録終了]

以上の映像記録により、清水 恵子氏の行動がSCP-3293-JPの異常性に何らかの変更を加えた可能性が高いと考えられました。

奇蹟論部門により映像記録に記録されていたジェスチャーを基に調査を行った結果、清水 恵子氏がSCP-3293-JPに対して行ったとされる行動は一連の奇跡論キネトグリフ17である事が判明しました。また奇蹟論部門・キネトグリフ部門の共同調査・実験の結果、清水 恵子氏が実行したとされるキネトグリフは実行した相手に対しクラスⅠ奇跡論的障壁を発生させるものであったと確認されました。この一連のキネトグリフは本来、実行した人物が相手を保護するための簡易的な障壁を生成するという目的で使用されていたと推測されています。

これらの調査により、SCP-3293-JPは清水 恵子氏のキネトグリフによる奇跡論的異常とSCP-3293-JPが本来有していた異常性が混ざり合った結果として現在確認されている異常性を偶然有する事になったと結論付けられました。

 

補遺8: インタビュー記録

2012/██/██、清水氏に対してインタビューが行われました。

対象: 清水氏

インタビュアー: ██研究員

付記: このインタビューは清水氏に対するカウンセリングの一環として行われました。清水氏はインタビューの5日前、職員の監視の下で映像記録3293-JPを閲覧しています。なお、キネトグリフ災害の発生を防ぐため清水氏が閲覧した映像記録には編集が加えられている事に留意して下さい。

<録音開始>

██研究員: こんにちは。清水さん、それでは本日のカウンセリングを始めていこうと思います。

清水氏: よろしくお願いします。

[中略]

██研究員: それでは、先日清水さんが視聴した映像記録についてですが……

清水氏: あの、実はその事についてちょっと話したい事があります。

██研究員: 話したい事ですか……了解しました。

清水氏: ビデオを見させていただいてから……その、ずっと考えていたのですが、ショコラ……あのぬいぐるみをあなた方に譲渡しようと思っていまして。

██研究員: ふむ。……その考えに至った背景など教えていただけますでしょうか。

清水氏: あの、私はずっと……自分で言うのも変かもしれませんが、私はショコラに対して依存していました。あの大人達から守ってくれたという意識があったんだと思います。だけど、一方で少しだけ不安も感じていました。少しずつ自分自身が成長していって、ショコラの事を信用できなくなっていったんだと思います。

██研究員: [相槌を打つ]

清水氏: ショコラは確かに私の事を守ってくれましたが、それはどうしてだろうと、そういう疑問がここ数年ずっと頭の中を占めていました。昔は無邪気に「お母さんが守ってくれた」と信じていたんですが、それでも本当にそうなのか、と。本当に私を置いて居なくなった人が私を守っているのか、本当はショコラが私を騙しているのではないか、そもそも最初から私の気のせいじゃないのか、とかそういう事をずっと考えていました。[沈黙]

██研究員: 続けて下さい。

清水氏: ……はい。そんな中、私はあのビデオを見ました。当たり前ですが、映像にはあの時と変わらない、記憶通りの母がいました。いや、思ったよりやつれているようにも見えましたが。

██研究員: [相槌を打つ]

清水氏: その映像で、私は初めて母の不安や葛藤を知りました。少なくとも、当時の私の前では見せなかった顔で話をしていました。それと同時に、私は自分を責めたくなりました。あの時の母の気持ちを全然考えていなかったことに対して……というのもありますが、母の思いやりを疑った事に対してが一番でした。

██研究員: [8秒間メモを取る]なるほど。……とはいえ、清水さんの反応は異常存在に対する反応としては一般的なものですし、そこまで自分を責める必要は無いとは思いますよ。

清水氏: ありがとうございます。……私はあのビデオを見てから、ショコラに対する考え方がまた少し変わりました。ショコラに対し、信頼感というか、どこか母の面影を感じるようになったんです。

██研究員: なるほど。ですが、そこから何故譲渡しようという考えに至ったんでしょうか?

清水氏: 確かに私は映像を見た時、ショコラに母親の面影を感じました。しかしながら、それと同時にふと今の様子を母に見られたらどう思われるだろうと、そう考えるようになりました。

██研究員: ……続けて下さい。

清水氏: 私は確かにショコラに守られてきましたが、それはショコラに、もっと言えば母の愛情に甘えていたという事でもあります。流石にいつまでもそのままではいけないと、そんな事は母も望んでいないだろうと強く思いました。

██研究員: つまり親離れをすべき時だと、そう考えたという事ですか?

清水氏: ……そうですね。親離れです。その方が母も安心してくれるでしょうし……何より、私を今まで保護していただいたあなた方にならショコラを安心して預けられるとも思いました。

██研究員: ……分かりました。協力感謝いたします。

清水氏: いえいえ、こちらこそありがとうございます。それに、私はあのビデオを見る事が出来て、昔の母の不安や葛藤を知る事が出来て良かったと思っています。

██研究員: それは何故ですか?

清水氏: 捨てられたわけじゃなかったんだ、と思う事ができたので。

[中略]

<録音終了>

終了報告書: インタビューから2週間後、SCP-3293-JPの所有権が清水氏から██博士に譲渡された。また、清水氏の精神状態は回復の兆しが確認されている。

 

2013/██/██、SCP-3293-JPはその有用性が認められた事によりオブジェクトクラスがThaumielに再分類されました。現在、プロトコル・ヴィステージにより当初収容が困難だと考えられていた19のSafeクラスオブジェクト、7のEuclidクラスオブジェクト、1のKeterクラスオブジェクトの収容が行われました。また、それらの収容に対し想定されていた人的被害の約70%が軽減されており、財団の人的資源の確保に大きな影響を与えています。

 

 

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