SCP-3301-JP

評価: +7+x
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アイテム番号: SCP-3301-JP

収容クラス: Euclid

特別収容手順: SCP-3301-JP発生の防止や収容は極めて困難であるため、事後処理及び追跡調査に主眼が置かれています。SCP-3301-JPによる霊的実体の崩壊は録画記録の対象となります。SCP-3301-JP-Aは移動可能なものは同サイトの防霊収容庫に収容されます。移動不可能なものは各実体に隠蔽措置が施されます。未発見のSCP-3301-JP-Aの捜索として別件の事案で関連性が推測されるものの調査が行われています。

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SCP-3301-JP

説明: SCP-3301-JPはNx-541内に不定期に発生する起源不明の光線です。Nx-54内では降水時に約1%の確率で雨後の雲の切れ間から地上に向かってSCP-3301-JPが投射されます。SCP-3301-JPは投射の範囲内に侵入した霊体実体に対して、緩やかな形状崩壊を発生させます。対象となった霊的実体は概ね2分前後で外見上完全に形状崩壊し、消失します。

SCP-3301-JPと同様の現象は、財団によってNx-54の観測が行われ始めた19██年当初から確認されていました。また同時に、Nx-54内に棲息する知性を持った霊的実体の間でも自身らの霊体に形状崩壊を引き起こすSCP-3301-JPの危険性は認知されていました。しかしながら、近年ではSCP-3301-JPへの積極的な曝露を試みる霊的実体の出現が確認され始めています。

インタビュー記録3301-JP-3


対象: 小野田 五郎氏
インタビュアー: 前田研究員
付記: 小野田氏はNx-54在住の霊的実体である。


<記録開始>

[重要度の低い会話の割愛]

小野田: 気持ちは分かるよ、あの光ん中に入る奴がいるってのは。俺だって昔はそう考えてた時期も……いや、今でもたまにふらっと思うよ。たまにな。

前田: 多くの方にとってあの光は危険なものであるという認識があると確認しているのですが、例外も結構多いのですか?

小野田: いや、そりゃほとんどの奴はあんな自分がとろけるような光にゃ入りたいとは思ってない。ただはぐれもんはどこにでもいる。集団ってそういうもんだろ?

前田: どういった理由でそう思うものなのですか?

小野田: そうだなあ、まあなんていうか、俺ら……いやここの幽霊全員から分からないが別に好き好んでここにいるわけじゃあないんだよ。分かるか?

前田: ええまあ、分かります。

小野田: 普通この世にいる幽霊ってのは大体地縛霊みたいに、未練っていう強い理由があってこの世にしがみついてると思うんだよ。でも俺らは違う。何の理由もなく死んだらここに来ただけ、自分じゃあ何にもしてないのに。

普通死んだらそこで何にもなく終わりか、閻魔さまに裁きをくらって天国か地獄かに行かされるだろう?この町に来るのは何だとなったら……まあ天国が一番近いかもしれんな。

前田: かなり高評価ですね。

小野田: そら釜茹でにもされんし、針山にも刺されんしな。なっがい箸で飯を食わなくてもいい分天国よりマシかもしれんな。

ただまあ、さっきも言ったようにはぐれもんってのは必ず出てくる。ここが天国足り得てんのは、ここの奴らが死人なりに頑張って助け合ってるからってのはあるんだ。

じゃあその助け合いに入れない奴らはここをどう思う?ただただ何にもなく、終わりもないのがずーっと続くだけなんだよ。地獄みたいに具体的な刑期があるわけでも無しに、ただひたすら無の時間が終わらないんだよ。

それがどれだけ辛いことかは身に沁みてる。だから光さえ浴びれば無理やり終わらせることが出来るってのは、ある意味救いなんじゃねえかなって思うんだよ。

前田: 小野田さん自身もそういう経験があったということなのですか?先程考えていた時期があると仰っていましたが。

小野田: まあな、俺はこう見えて引きこもり体質なんだ。だからここに来た時とかは、もうすでに完成されてる集まりってのに中々入れなかったんだよ。それでも類は友を呼ぶというか、俺と似たような駒井って奴と二人で何となくやってはいけてたんだ……やっていけてたと思うんだけどなあ。

いつの間にか駒井の姿が見えなくなって、それで必死になって探したんだが、そんな俺の姿を見かねた優しい奴が駒井はあの光に入って消えましたって教えてくれたんだよ。

そん時からだな、なんか自分の価値ってのも分かんなくなって、じゃあ俺も消えちまおうかって思い始めたんだよ。結局いつも怖さの方が上回ったから実行こそしなかったが、今でもこう、たまにふらっと思うことはあるよ。

前田: もしそういう悩みを抱えている方がいるなら、我々としてもそうならないように協力させていただきたいと思うのですが、どういったことが必要だと思いますか?

小野田: そうだなあ、まあ機会があれば話でも聞いてやるくらいだなあ。別にほっといてもいいし、むしろその方がいいやつもいるかもな。

前田: そういうものなのですか。

小野田: そういう奴はな、もう疲れてんだよ。せっかく死んだのにって思ってるかもしれん。じゃあ二回目の死ぐらい自由にさせてやってもいいんじゃねえかなって俺は思うんだよ。

前田: そう、ですか。それでは本日はありがとうございます。インタビューはここで終わりたいと思います。

小野田: おう、また気が向いたら協力するぜ。まあ俺が死んでなきゃな。

<記録終了>

補遺3301-JP-A: 霊素観測技術が向上したことにより、SCP-3301-JPによって崩壊した霊的実体のその後の挙動が詳細に判明しました。霊的実体が崩壊した場合、一般的な環境であればそのまま霊素は霧散し空気中に希釈されます。しかしNx-54はMorris値2が全国平均と比較して高く、飽和状態となった霊素は完全に希釈されず部分的にエクトプラズムとして残留します。

研究者覚書: ヒトが原子によって構成されるのと同じように、霊的実体は霊子という粒子によって構成されている。霊子は単体の状態であらゆる場所に存在するが、集まることによってエクトプラズムという流体が作り上げられる。

ヒトが死亡した時に、その人物の体内由来の霊子から構成されたエクトプラズムが放出されることがある。このエクトプラズムには生前の情報を持った霊素構造(遺留子)が含まれており、これを核として周囲の霊子が結合・増大し人の形をとることで霊的実体となる。(J. Morgan et al., "霊的実体の生成条件", D.Foundation, Vol. ████ (20██), pp. 48-54.)

大抵の場合、この残留したエクトプラズム内の遺留子構造はほとんど崩壊し、また霊素も不足しているため極めて不安定な状態となっています。そのため、エクトプラズムが周囲の霊素を無差別に吸収することで霊的実体を再形成し安定化状態へ向かう現象が誘発されやすくなります。この再形成された霊的実体をSCP-3301-JP-Aに指定します。

SCP-3301-JP-Aは遺留子の大幅な欠落により、部分的な機能のみを有している霊的実体です。以下は確認済みのSCP-3301-JP-Aの一例です。

指定番号 概要
SCP-3301-JP-A-1 脚部のみの実体。外的要因が無い限りNx-54を東西方向に往復し続ける。
SCP-3301-JP-A-5 食道から大腸までの器官と、腕部のみの実体。上空150m地点に静止し、不定期に耳を排出する。
SCP-3301-JP-A-13 複数の生ゴミが合わさった様相の実体3。人型に近くなるように自身を構成しようとする。

SCP-3301-JP-Aは以前から無関係のAnomalousアイテムとして登録されていたものもあります。大部分のSCP-3301-JP-Aは知性や自我、意思伝達能力が欠落しているため、その起源については不明でした。2015年現在発見されたSCP-3301-JP-Aは16例ですが、SCP-3301-JPの観測記録から最低でも二倍以上が未発見であると考えられています。

インタビュー記録3301-JP-24


対象: SCP-3301-JP-A-2
インタビュアー: 谷口研究員
付記: SCP-3301-JP-A-2は頭部のみの霊的実体だが、眼球や舌といった複数の器官が存在しない。発話が困難であるため、インタビューには霊話コンバーター4を使用している。


<記録開始>

谷口: お名前を教えてください。

SCP-3301-JP-A-2: "こまい"だ。

谷口: こまいさん、ありがとうございます。まずあなたはいつから今のような状況になっているのですか。

SCP-3301-JP-A-2: 分からない、もう何十年も前、ずっとこうだ。

谷口: 分かりました、それではそうなった理由を教えてください。

SCP-3301-JP-A-2: 俺は死んで、それでもまだ生かされてるようなのが本当に嫌だった。だからただ死ぬだけじゃない、終わらせたかった。完全に俺を終わらせたかった。だからあの陽の光にすべてを委ねた。

俺は光の中で段々と自分が消えていった。だからこれでようやく終われると思った、思ったんだ……目も見えず、音も聞こえなくなっても、俺にはまだ意識があった。

谷口: 意識が、ですか。

SCP-3301-JP-A-2: そこから何があったかは分からない。ただ徐々に頭が冴えてきたと思ったら、段々と何も見えないし何も話せないことが分かってきた。

満足に動けもしないから事態を好転しようとすることも出来ない。死のうとしても死のうとすることも出来ない。俺はただそこにいるだけだった。

助けてくれ、ここは何も出来ない。俺はただ終わりにしたかっただけなんだ。このままじゃ終わりにすることも出来ない。頼む、俺を殺してくれ。

谷口: ……善処いたします。本日はありがとうございました。

<記録終了>

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