アイテム番号: SCP-331-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-331-JPの感染者は、BSL-1相当の封じ込め施設内に収容します。感染者の外出は許可されません。感染者に接近する研究員は、必ず化学防護服を着用してください。潜在的な感染者を発見するため、献血事業を装い民間人の恒常的な検査を行います。感染者を発見収容した場合、感染部位を除去し、記憶処理をすることで一般社会へ再入させます。
説明: SCP-331-JPは、ヒトの橈骨手根関節より末端部分に感染すると見られる異常現象です。
SCP-331-JPに感染した部位には、平均370秒に1個の周期でSCP-331-JP-1と呼ばれる粒子が落下してきます。SCP-331-JP-1は永続的に出現し、感染部位に堆積し続けます。
SCP-331-JP-1は、大気中で形成された氷晶に酷似した物体で、約0.1mmから10.0mmの大きさで出現します。組成や性質も氷晶と同一と見られ、感染者に接触しても感染者自身に影響は見られません。感染部位以外に接触した場合や、他者が触れた場合、即座に昇華します。そのため、物理的接触を伴う解析実験は成果が得られていません。
SCP-331-JP-1は、感染者にほぼ一切の害を及ぼさず、SCP-331-JP-1に気がつくことさえ稀です。
SCP-331-JPは、感染力を持った異常現象であり、病原性や情報汚染ではありません。SCP-331-JPは、橈骨手根関節より末端部分の内側表面のみに感染します。以降、これを感染可能範囲と呼称します。SCP-331-JPは、感染部位から感染可能範囲への接触によってのみ伝染し、その他の生体組織、あるいは霊長類を含むヒト以外の生物には感染しません。
一度感染した生体組織から、SCP-331-JPの影響を除去する方法は未だ発見されていません。感染者から感染部位を外科的に除去することで、異常性が消失することは確認されています。
19██/02/10 財団施設内において、エージェントCの血圧測定中にSCP-331-JP-1が出現し、SCP-331-JPが発見されました。検査により、更に1名の感染者を発見。感染者は、感染部位を除去し、職務に復帰しました。
SCP-331-JP-1の試料を一定量獲得するため、堆積実験を行ったところ、堆積物に新たな異常性が見られました。全ての実験において、感染部位の局所的な環境変移が観測されています。
堆積実験概要: 塵埃の発生しない完全なクリーンルームにて、SCP-331-JPに感染させた被験者の片腕を固定し、継続的な堆積実験を行いました。実験過程において、SCP-331-JP-1の堆積物は、粒子のみの状態とは異なる性質を見せました。
堆積実験ST-001: 19██/05/09 - 継続中
実施状況: 被験者JP331-D001をSCP-331-JPに感染させ堆積実験を行いました。
経過報告01: 堆積物が感染部位の38%を覆った時点で、堆積物の表面に実験室内の照明とは無関係な影が発見されました。(1440:05:30 60日経過時)
経過報告02: 投影像は粗雑な梯子の一部と、その上部に乗っている小型の鳥類のものと推定され、投影像は実物の1/50から1/80の大きさと見られます。(2688:02:10 112日経過時)
経過報告03: 堆積物が感染部位の表面全体を覆いました。(2688:02:10 112日経過時)
経過報告04: 堆積物の表面に、長さ2.5mm-3.0mm程度の足跡が出現し、断続的に5分20秒間で36個の足跡が形成されました。足跡は靴の底面と見られる形状をしていますが、SCP-331-JP-1との比率から正確性に欠け、種類の特定には至っていません。(4872:10:00 203日経過時)
- 補遺ST001-01: 被験者JP331-D001は、これら投影像および足跡についての知識を有していませんでした。
堆積実験ST-002: 19██/08/10 - 継続中
実施状況: 出現頻度などの差異を確認するため、被験者JP331-D002をSCP-331-JPに感染させ堆積実験を行いました。
経過報告01: SCP-331-JP-1は感染部位と接触した瞬間に融解し、液体として感染部位に留まりました。(0000:05:30 0日経過時)
経過報告02: 効率よく堆積物を得るため、被験者の両手にSCP-331-JPを感染させ、凹型に合わせるよう指示しました。(0078:01:20 3日経過時)
経過報告03: 堆積した液体表面に、実験室内とは異なる実像が映されていることが発覚しました。拡大鏡で観察した結果、樹木に囲まれた湖面と思われる景色が観測されました。映された湖面の約40%は、浮遊しているヒツジグサに覆われています。右手親指の付け根付近には、日本の太鼓橋に似た橋が架けられていることが確認できます。(2208:05:00 90日経過時)
経過報告04: 堆積物が感染部位の表面全体を覆いました。(2880:05:05 120日経過時)
経過報告05: 堆積物の最大深度が10mmになったところで、液体表面に波が発生しました。感染部位中央付近で、特に激しい波が見られ、16分35秒後に沈静化しました。(12360:01:50 515日経過時)
- 補遺ST002-01: 被験者JP331-D002は、これら投影像について幼少期に居住していた地域に似ていると証言しましたが、映像が不鮮明なため検証作業は難航しています。
- 補遺ST002-02: 被験者JP331-D002は、水に対して恐怖や嫌悪の感情を示していますが、通常の精神機能の範囲と考えられます。
堆積実験ST-003: 19██/09/02 - 継続中
実施状況: 除去されたエージェントCの感染部位を、NARA型生命維持装置に接続したところSCP-331-JPの異常性が回復し、継続的な堆積実験へ移行しました。
経過報告01: SCP-331-JP-1は感染部位と接触した瞬間に液化し、なおかつ感染部位内部へ浸透しました。接触直後は、感染部位に変化は見られませんでした。(0000:05:30 0日経過時)
経過報告02: SCP-331-JP-1が接触した全ての箇所から約1/60の大きさの双子葉植物の芽と見られるものが出現し、成長を始めました。(168:00:10 07日経過時)
経過報告03: 植物群の表面に、実験室内の照明とは無関係な影が発見されました。投影像は開いた状態の傘を持った人間と、その至近距離に立つ人間の影であると認定されました。投影像の焦点距離から光源は日光と見られ、影の人物が持つものは日傘であることが推定されています。(2208:03:00 90日経過時)
経過報告04: 植物群が感染部位の表面全体を覆いました。(2870:02:20 120日経過時)
- 補遺ST003-01: 堆積実験ST-003の投影像について情報を得るため、エージェントCに対し聴取が行われました。
聴取記録TT003-MC001-E001-001からの抜粋: 19██/07/28 13:45:10
(付記):エージェントCに堆積実験の結果を見せた後に行われた聴取記録。H博士: 我々が発見した手がかりはここまでです。他に何か気づかれたことはありますか?
エージェントC: あれはおそらく私です。
H博士: どういうことですか?
エージェントC: 小さな影はおそらく私です。傘を持った影はおそらく母でしょう。
H博士: このような場面に遭遇したということですか?
エージェントC: ひどく抽象的ではあります。屋外であったことはたしかです。
H博士: それはいつ、どこであったことか覚えていますか?
エージェントC: 正確ではありません。私も小さかった。20年ほど前でしょうか。別れを告げる母に、私は何も言えなかった。それ以上、思い出すことはできません。あの日、母が、なんと言っていたのか、あるいはあの影が答えてくれるのでしょうか。
H博士: あのオブジェクトから意思表示をした事例は確認されていません。これまでの記録からも、正確な過去の映像とは考えられません。
エージェントC: そうですね。あれは私の過去ではありますが、おそらく当時の映像や記憶ではありません。当時、私の暮らしていた地域を調査すればあれら植物は発見できるでしょう。
H博士: ご協力感謝いたします。
エージェントC: あれは、なにか伝えようとしているのでしょうか。私の過去を真似て、私に何か伝えようとしているのでしょうか。
H博士: まだわかりません。失礼かもしれませんが。母親はどうなされましたか?
エージェントC: [数秒の沈黙] それはあり得ません。あれらはこの世界の境界線を限りなく薄くしますが、穴を開けることはことはできません。母が私に情報を送っている可能性は非常に低いと思われます。いつもそうでした。
H博士: では死者からの伝言ではないと。
エージェントC: 意味などないのかもしれません。意味を求めるのはいつも我々です。あれは母と、私の過去などと、本当は無関係なのかもしれません。あれが実はイタズラで、誰かが後ろで笑っていても、そのように報告書に書くだけです。でももし、あれが、本当に、母の姿なのだとしたら、私の中の疑問がひとつ、解けるような気がするのです。
H博士: なにか気づいたことがあるのですか?
エージェントC: ほら、よく見てください。あの影は手を振っています。
H博士: 映像の確認を。
- 補遺ST003-02: エージェントCと堆積実験ST-003で得られた投影像とを関連付ける情報は現在まで得られていません。
事案報告IR331-001: 被験者JP331-D001が心不全により死亡しました。死亡時刻の32分前、堆積したSCP-331-JP-1の表面に2つ目の足跡が出現し、最初の足跡と同じ方向へ歩く様子を見せました。治療中の被験者が「待って」「兄ちゃん」などと発言したと記録されていますが、SCP-331-JPとの関連は不明です。