SCP-3320-JP
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アイテム番号: SCP-3320-JP

オブジェクトクラス: Da'aS Elyon1

特別収容プロトコル: SCP-3320-JPが正常に行われないことによる悪影響を軽減するため、フロント企業 ("Sleep Care Program")を通じて非異常な睡眠障害の治療研究に資金援助を行ってください。

夢を題材とした創作物及びその製作者に関わる情報を監視し、必要に応じて検閲してください。カバーストーリー「精神障害への発展」を流布し、民間人が夢を記録する行為2を行わないように情報操作を行ってください。財団WebクローラーはSNSやブログサービスなどを巡回し、夢の内容を記載したページに対して重大事案へ発展する可能性がある場合に限り、検閲あるいは削除を行ってください。

説明: SCP-3320-JPは覚醒状態を有する動物に特有の睡眠です。一般に睡眠の起源は代謝や繁殖を促進させるために獲得された行動、あるいは本来睡眠状態が生物の基本状態であり、覚醒状態が獲得された行動であるとされていました。3後述する発見経緯及びその後の実験により、睡眠は敵対的ミームに対する免疫において重要な役割を担っていることが判明しました。

敵対的ミームは情報を認識・記憶することが出来るあらゆる生物に悪影響を及ぼし、これは極めて原始的な神経系を持つ生物を含みます。ミーム学部門による網羅的な実験では、構成要素が極めて少ないミームにおいては脳を持たない線虫(Nematoda)などの生物に影響を及ぼすことが確認されています。そのため、ミームに対する免疫としての睡眠は覚醒状態の獲得とほぼ同時期に機能し始めたと推測されています。


発見経緯: 以下は財団ミーム学部門及び超常生理学部門による歴史的経緯に関する説明です。

敵対的ミームは情報を認識、記憶することが出来るあらゆる生物に悪影響を及ぼします。では何故この世界はミームに汚染されきっていないのでしょうか?何故より高度な情報を認識し、記憶し、表現できる我々のような知的生物は敵対的ミームに淘汰されなかったのでしょうか?
これは換言すれば「敵対的ミームに対する免疫とは何なのだろうか?」という疑問となります。
敵対的ミームに対する免疫は、以下の観測結果からかねてより存在を予測されつつも、長年解明されていない謎であり続けていました。

  • 多くのミームは時間経過によって自然治癒すること。
  • ミーム感染に対する耐性が存在し、耐性に個体差が存在すること。
  • 既に感染したミームには感染しないという獲得免疫に似た現象が確認されていること。

これらの情報からミームに対する免疫の候補として、「シナプス可塑性4による記憶の忘却と再形成」が有力とされていましたが、これは時間経過による自然治癒を説明できるものの、ミームへの耐性や獲得免疫を説明出来ませんでした。
また、「睡眠による記憶の整理」はこの時点でも仮説として存在しましたが、当時は睡眠しないとされていた脳を持たない生物に対しても感染するミームが存在することから、これらの生物が敵対的ミームに淘汰されていないことを説明できませんでした。


ブレイクスルーとなったのは、夢イメージ抽出機でした。
SCP-990を代表とする「夢」に干渉するアノマリーは客観的な観測が極めて困難であり、正確な情報を収集する必要性から被影響者の証言に依存するのではなく、夢そのものを観測する方法の開発が進められていました。
夢イメージ抽出機は、侵襲式脳波測定とfMRI5による脳血流動態を用いた機械学習と奇跡論による思念伝達の併用によって脳が感じているイメージを映像化する技術が確立されたことにより開発されました。
完成した夢イメージ抽出機の最も重大な成果は、夢関連アノマリーの情報ではありませんでした。最も重大な観測結果、それは全ての神経系を持つ動物は夢を見ること、そして夢はミーム的な構成要素を持つことです。
この観測結果はミーム学研究の重大な転換点となりました。夢にミーム的な特徴があるという事実はある仮説を導いたからです。それは夢は自身の記憶を元にミームへの免疫を獲得するために進化した行動である。という仮説です。
この仮説は低脅威度ミームを用いた動物実験により確かめられました。


実験記録-01

目的: 夢の適応的意義を確認するため、マウス(Mus musculus)の夢の内容を確認する。

実験内容: 軽微な敵対的ミームに感染させたマウスに対して夢イメージ抽出機を用いて夢の内容を確認する。夢の影響を確認するために介入群のレム睡眠を妨害した上で、同様に夢の内容を確認する。実験には低脅威度ミームLTM-3117を用いる。

使用ミーム 症状 伝達形式 消失期間 備考
LTM-3117 食事の前に手指をこすり合わせるグルーミングを30秒間強制される 影響行動の視認 7日±2日(マウス) LTM-3117は感染有無の確認が容易であり、侵襲性が極めて低いことから対抗ミーム研究のモデルミームとされており、複数の対抗ミームが存在する。

LTM-3117はマウスでは平均して7日±2日程度で自然治癒するため、経過観察のためミーム感染の前後10日間の夢を確認する。
介入群には三環系抗うつ薬を用いてレム睡眠を妨害し、夢を見ていない状態でのミームの影響を観察する。

実験対象 特筆するべき夢内容 感染期間 ミームによる影響 備考
対照群-02 グルーミングに関する夢は確認されなかった。 8日 グルーミングを行う時間は5日経過時点から漸減し、8日目にグルーミング行動は消失した。 特筆するべき夢がない場合にも自然治癒している例。
対照群-04 四肢が消失する夢、四肢を動かす感覚と視界の移動が同期していた。手指の認識の消失はLTM-3117の対抗ミームであるLTM-3117-a-3に類似している。 3日 ミーム摂取後2日目に前述の夢を経験し、グルーミング行動が急激に短縮、消失した。 前述の夢は既知のLTM-3117に対する対抗ミームに類似しており、当該夢を経験して以降に有意に感染期間が短縮している。
対照群-14 LTM-3117で強制されるものと類似する手指のグルーミング行動を行う夢がミーム摂取3日前に確認された。石鹼の匂いを伴っていたことから、飼育担当の研究員が手を洗っている記憶が元となっていると推測される。 N/A ミーム摂取後、感染は確認されなかった。 事前にミームと類似の行動を夢で見たことによって、既に感染してるミームには感染しないというミーム免疫を獲得したものと推測される。
介入群-02 夢は確認されなかった。 15日 グルーミングを行う時間は10日経過時点から漸減し、15日目にグルーミング行動は消失した。 症状の軽快および消失までの期間が延長した例。
介入群-06 手指の痺れを伴う断片的な夢、既知の対抗ミームと類似している。8日目から10日目まで連続で確認された。 10日 8日目以降グルーミングを行う時間が漸減し、10日目に消失した。 対抗ミームに類似した夢を断片的に経験した例。


結果: 対照群15匹中9匹、介入群15匹中1匹のマウスが対抗ミームに類似する夢を経験し、ミーム消失までの期間を短縮した。加えて1匹のマウスがミーム摂取以前にミームに類似する夢を経験し、ミーム免疫を獲得した。
レム睡眠の妨害はミーム消失までの期間を約2倍に延長した。これはレム睡眠に記憶を整理及び消去する機能があることから、レム睡眠には感染したミームの構成要素を破壊する機能があるためと推測される。



上記の実験結果から夢には敵対的ミームに対して対抗ミームを形成する機能があるとの仮説が立てられ、その後の実験によって夢によるミーム免疫の詳細な機序が確認されました。興味深いことに、そのメカニズムは未知の病原体に対しランダムな抗体を生成するという液性免疫のメカニズムと類似していました。

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対抗ミーム形成の概略図。色のついた点は神経細胞の興奮を表している。

機序: 睡眠中の神経細胞は記憶の整理及び定着のため、起床中に体験、あるいは想起した記憶を再び想起し、これにより当該記憶を体験した際と同じ神経細胞が活性化します。複数回同様の刺激を受けた神経細胞は細胞間の神経活動の伝達効率が上昇するシナプス長期増強という現象を引き起こし、これによって神経細胞は記憶を定着します。逆に、これによって想起されない記憶は逆の現象であるシナプス長期抑圧を引き起こし当該記憶は忘却されます。

この際、並行して過去に経験した記憶がランダムに想起され、これによって動物は睡眠中に夢を経験します。この夢は複数の遺伝子に制御された神経系の配線パターンによってミーム的な特徴を獲得し、これによって起床時に経験した記憶と過去に経験した記憶を材料にランダムなミームを合成し続けます。これは自身の記憶のみを材料にしているため、後述する「既に感染したミーム」と見做すことが可能であり、有害な異常性を発現することは稀である上、「既に感染したミーム」の範囲を広げることでミームへの耐性を獲得することが可能です。

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「既に感染したミームには感染しない」現象の機序

ミームへの感染にはミームを構成する情報の理解が必要になります。ミームを認識し、理解し、その情報を神経系に内在化することで初めてミームは感染し(存在するのであれば)異常性を発現します。

「既に感染したミーム」と類似するミームを認識した場合には、当該ミームは「既に感染したミーム」との比較によって理解されます。そのため、当該ミームの理解は「既に感染したミーム」との差異のみに留まる場合が多く、これによって感染するのは「既に感染したミーム」と同質のものになります。

この性質を利用するため、記憶から合成される夢はミーム的な特徴を獲得し「既に感染した無害なミーム」として認識されます。

加えて夢による対抗ミーム形成は、直近に経験した記憶からミームを合成するため、敵対的ミームに感染した際には当該ミームの感染源となる記憶を材料にミームを合成する確率が高くなり、その敵対的ミームと矛盾する情報を偶然想起した場合には対抗ミームとなりえるミームを合成することが可能となります。一方で前述の通り「既に感染したミームには感染しない」ため、敵対的ミームを増強する変異は「既に感染したミーム」と同質のものと見做され、それ以上の悪化は起こりません。6

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対抗ミーム形成の機序

対抗ミームは「感染したミーム」と矛盾するミームに感染することで、双方の情報を破綻させ異常性を喪失させるという機序で働きます。

夢による対抗ミームの形成は、直近に経験した記憶からミームを合成することで、「感染したミーム」と「矛盾する情報」を合成し、生成された「感染したミームと矛盾するミーム」によって感染したミームを破綻させると推測されています。


この機序は、これまで解明されていなかったミーム免疫の謎に説明を付けることが出来ました。具体的には、はじめに列挙した観測事実に対して、以下の説明が可能です。

  • ミームの自然治癒 → 睡眠による記憶の整理及びシナプス長期抑圧による記憶の忘却に基づくミーム構成要素の破綻
  • ミーム感染に対する耐性 → 夢による事前の対抗ミーム形成あるいは類似ミームの経験。耐性の個体差はこれらのミーム形成がランダムに行われることが要因に挙げられる
  • ミームの獲得免疫 → 一部は経験したミームが夢による対抗ミーム形成の材料に使用されることで説明可能


ミーム免疫の機序が睡眠及び夢に関連するという学説は、平均睡眠時間の短さとミーム災害の発生率に相関があることによっても支持され、これは財団が睡眠障害の治療に投資する7動機となりました。
しかし超常科学でしか説明が不可能とはいえ、普遍的な生理現象である睡眠を、なぜアノマリーとして収容しなければいけないのでしょうか?


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サルバドール・ダリ

事案記録-01: 199█年9月15日、スペインのカタルーニャ州を中心とした大規模なミーム災害が発生し、████名が感染、█名がこれに起因する暴動によって死亡しました。当該事案を引き起こしたミームはSCP-████と分類され、ミーム災害は成功裏に鎮圧されましたが、後の調査によって当該ミーム災害の起源がサルバドール・ダリの未発表の著作(以下SCP-████-1と指定します。)に由来すると判明しました。サルバドール・ダリは自身の夢を題材に創作を行っていたことが知られているため、この事案とSCP-3320-JPの関連が疑われました。

これを受けて既知のサルバドール・ダリの全著作を検査した結果、1952年に発表された「球体のガラテア」以降の作品において極めて微弱ながらミーム的な作用が確認されました。8これはダリが夢からアイデアを得るために特殊な睡眠法を訓練していたことから、ミーム的な影響を及ぼせる精度で夢を想起する能力を後天的に獲得したと推測されています。SCP-████-1は他の著作と比較してミーム的な構成要素の描写が精緻であるものの、後の作品に同様の特徴が見られないことから、当該作品は意図せずミーム的な異常性を獲得したと推測されています。

調査の結果、SCP-████-1は1960年代に制作されたと推定され、一般への発表前に異常芸術収集家として知られるPoI-6485("エドワード・リーヴィ")によって購入され、一般の目から遠ざけられていたと判明しました。PoI-6485の死後、彼のコレクションを相続した親族によって当該作品が一般のオークションに出品されたことが前述のミーム災害に発展した原因とされています。

この事案はSCP-3320-JPをアノマリーとして収容する論拠の1つとされています。夢が自身の記憶を材料に対抗ミームを合成するシステムであることは、夢を見る本人にとっては安全性の担保となりえますが、それが何らかの形で他者へ伝播すれば、それはミーム災害を誘発する危険性があります。なぜならば、夢によって形成されるミームは自身の記憶と類似するために自身には感染せず安全であるだけで、類似するミームに感染していない他者にとっては感染性のあるミーム足りえるからです。
尤も、当該事案の再現には極めて高度な写実的描写能力を要する上、レム睡眠時には記憶を消去する作用があるメラニン凝集ホルモン産生神経が活性化するため夢を記憶することは困難であり、夢を記憶するために長期間の訓練を必要とすることから、広範な収容プロトコルを策定する必要はないと考えられていました。


事案記録-02: 199█年、事案記録-01を受け、同様の事案が発生することを危惧したSCP-3320-JP研究チームによって、夢を記録する訓練を行っている人物の調査が行われました。1976年に出版された書籍「The Dream Game」にて毎夜見た夢を記録する「夢日記」が推奨されていたことを鑑み、当該書籍の購入記録を追跡し、5年以上夢日記を継続している人物を調査しました。

その結果、調査対象とされた1██名の内、3█名に新規の低脅威度ミームの感染が確認されました。加えて、調査対象者の近親者や友人等の「夢日記」を閲覧可能であった人物4█名にも新規の低脅威度ミームの感染が確認されました。Dクラスにこれらの「夢日記」を閲覧させる実験を行った結果、充分に詳細な描写がある場合9には████から█████文字程度の情報量を摂取した時点で、ミームへの感染が確認されました。

これは夢を想起する訓練を長期間行ったことにより、ミームとして感染するのに十分な精度で夢を想起することが可能になったこと、不完全な記録とそれに伴う想起によってそれらのミームに変異が生じたことによって、自身への感染性を有する新規のミームが生成されたと推測されています。

加えて「夢日記」には不完全な描写ながらミーム的な要素を持つ文章および図画が長期間に渡り記録されるため、本人以外がこれを多量に読むことによって新規のミームが生成されると推測されています。

「夢日記」は非異常のオカルティストやアイデアを求める表現者などによって広く行われていました。これは夢の記録を長期間続けることで夢を想起できるように訓練する方法であり、夢に由来するミームを想起、記録する懸念がありました。しかし事案記録-01におけるミーム災害は画家による極めて高い精度での描写に依拠すると考えられていたため、あくまでも微小な懸念点と考えられていました。
しかし、長期間「夢日記」を行っている民間人の追跡調査によって、この行動が新規のミームの生成に関与することが判明しました。夢を起源とする新規ミームの生成は描写能力に乏しい一般人による記録であっても、多量に摂取することで十分に新規ミームの生成が可能であることが確認されたのです。
これは、財団のミーム防疫における新たな懸念点となりました。かつて敵対的ミームへの防御機構として発生した睡眠というシステムが、人類の活動によって新たなミームを生み出すようになってしまったのです。


補遺: 事案記録-01を受けて行われた歴史資料の調査において、夢に由来したミーム災害と疑われる記録が複数確認されました。

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聖槍の発見を描いた絵画

これらの多くは夢の内容が現実に現れるいわゆる「予知夢」と呼ばれる現象であり、これは夢において生成されたミームを他者に感染可能な精度で詳述することによって、感染者が夢と同様の幻覚を経験し、遡及的に夢が未来を予知していたと誤認することで「予知夢」として記録に残されたと推測されています。

これによる大規模なミーム災害が発生した例として、1098年6月のペトルス・バルトロメオによる聖槍発見が挙げられます。

ペトルス・バルトロメオは1097年12月から1098年6月までの間にアンティオキア城内の聖ペテロ教会に聖槍が存在すると聖アンドレから伝えられる夢あるいは幻視を4度経験しており、1098年6月10日、アンティオキア包囲戦の最中にて諸侯の前でこの幻視について発言し、その言葉を信じた年代記作者レーモン・ダジールや、オランジェ司教ギヨームなどの人物によって聖ペテロ聖堂が掘り返されました。その後ペトルス・バルトロメオの手によって土中から発見された槍の穂先は聖槍だと信じられ、十字軍の士気を向上させました。

この事案に参加したレーモンらの書いたとされる文書を調査した結果、不完全ながらミーム的な要素が確認されました。複数名の文書に確認されたミーム構成要素を補完した結果、当該ミームは古びたものに神聖さを見出す効果があり、発見された古い槍の穂先を当該ミーム感染者らが聖槍と誤認したと推測されました。


追記: 2023年5月19日、シンガポール国立大学と香港中文大学はfMRIを用いて計測した脳活動のデータから時空間情報を学習するAIモデルを用いて、脳内イメージの映像化に成功したと発表しました。当該研究が進展した場合、睡眠中の脳内イメージを映像化することによって、夢そのものの映像化が非異常の技術で可能になることが懸念されています。これが達成された場合、夢に由来するミーム災害がより高頻度かつ大規模に発生することが懸念されるため、現在当該研究及び同様の研究に介入し、AIモデルにミーム的な構成要素の除去を組み込む計画がなされています。


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