アイテム番号: SCP-3330-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-3330-JPはサイト-81YMの低危険度物品収容ロッカーに収容されます。
SCP-3330-JPを用いた実験はセキュリティクリアランスレベル3以上の職員2名の許可が必要です。実験の際は財団管理下の駅を使用してください。実験にて対象者となった人物は記憶処理の後、簡易的な収容房に一定期間収容されます。この際、対象者に対し特定のワードが含まれる発言や物資の提供は禁止されます。禁止されているワードについては下記のリンクから参照してください。
実験時に撮影された東白原野
説明: SCP-3330-JPは「██1発、東白原野行き」と印字された切符です。
SCP-3330-JPを所持した状態で自動改札機2に進入した際に異常性が発現します。異常性の発現時点でSCP-3330-JPを所持していた人物(以降、対象者と表記)は自動改札機への進入後、空間転移します。転移先はポケット宇宙とみられる領域であり、周辺調査の際に当該領域は"東白原野とうはくげんや"という名称であることが判明しています。(以降、当該領域を東白原野と表記)なお、同一人物による連続でのSCP-3330-JPの使用は不可能であることが判明しています。
東白原野は空間の全域が常に季節上の冬となっており、植物や対象者以外の生命体は確認されていません。この特徴は水野 統治氏(以降、水野氏と表記)によって執筆された書籍、"夢現"内で描写される東白原野と特徴が一致しています。東白原野内部には"夢現"で明確に描写の確認される建造物の他、描写にはないものの類似した建造物などが存在しています。内部の食品とみられる物品においては、現実世界のものと同様に消費することが可能です。
東白原野内部に侵入した殆どの対象者は、東白原野を"理想的である"と表現しています。この表現の仕方には桃源郷や理想郷といった具体名を出す例が確認されています。
対象者は転移から約5〜20分以内に自身の置かれている状況を認識、理解します。状況を認識した対象者は帰還を拒むような言動を取ります。その要因は対象者によって様々ですが、「現実3に嫌気がさして帰りたくなくなった」という理由が多くを占めています。
対象者は転移から約2〜4時間後に基底次元に再度転移します。東白原野から基底次元への帰還の際、基底次元では対象者が東白原野に滞在していた時間と同時間が経過しています。この際の転移先は対象者の自宅、あるいは居住している建造物で一貫されています。対象は基底次元に転移した直後、酷く落胆するような様子を見せます。また、SCP-3330-JPを用いて再度東白原野に行くことを試みますが、その特異性から全て失敗に終わります。
SCP-3330-JP使用後、対象者はSCP-3330-JP、及び東白原野に執着し始めます。この精神的影響は記憶処理によって除去することが可能です。しかし、記憶処理からの一定期間中に東白原野や理想郷、現実逃避といった特定の単語を認識した場合、SCP-3330-JPに関する記憶が復元される事例が確認されています。現在判明している記憶復元の助長となる単語の一覧はこちらを参照してください。
SCP-3330-JPの存在は、水野氏が株式会社██出版社を訪問していた際に語った超常現象に深く関連すると推測される体験談の存在を潜入していたエージェントが補足、調査したことにより判明しました。出版社の職員には記憶処理が行われ、水野氏はその場で近隣のサイト-81YMに移送されました。水野氏の証言を参考に水野氏の自宅の調査が行われ、その際にゴミ箱に捨てられていたSCP-3330-JPが発見されました。
補遺1: インタビュー記録
SCP-3330-JPの異常性、及び東白原野に関する情報入手のために水野氏へのインタビューが行われました。
以下はその一部抜粋です。
インタビュー記録3330-JP-1
インタビュアー: 入江博士
対象: 水野氏
[抜粋開始]
入江博士: それでは、SCP-3330-JPの話に移る前に、東白原野について幾つか質問させていただきます。まず、東白原野というのは水野さんが考案された架空の地名であることに間違いはありませんね?
水野氏: ええ、確かに東白原野は私が考え、私の書いた本に載せました。
入江博士: では、その貴方が考えていた東白原野と貴方が実際に見た、あの東白原野の情景は同じでしたか?
水野氏: ……ええ、まぁ、見た目は私が考えたものと概ね。
入江博士: ありがとうございます。では、本題に移ります。貴方がSCP-3330-JPを入手した経緯について話していただけますか?
水野氏: ああ、あれについてですか。あれは私の友人がくれたんです。いや、くれたってのはちょっと違いますかね。細かく話すと、私の友人から、東白原野に行かないか? と提案されたんです。
最初は気でも狂ったんじゃないかとおもいましたが、彼の話を聞く限りどうもそうではなかったんです。彼は幻夢機構という組織とコネがある、その組織は魅力的な技術を扱う、自分も依頼をしたことがある、などという内容を私に教えてきました。もちろん、幻夢機構やら魅力的な技術なんて検索しても出てこないし、出版社の知り合いに聞いても知らないと言われたので信用はしていなかったんです。けど、彼があれを持ってきて、実際に使った時は信じざるを得ませんでした。
入江博士: あれ、とはSCP-3330-JP、つまり我々が回収したあの切符ということですか?
水野氏: ええ、その切符です。最初、あの切符は封筒に入った状態で彼から手渡されました。これは君が東白原野に行くためのものさ、という簡単な説明を添えて、中身も見せずに。最初は少し警戒しましたが、彼が私を陥れるようなことをする人間では無いと知っていたのですぐに受け入れました。
その後、彼は何の説明もせず、2日連続で暇な日はあるか、と聞いてきました。私は5月12日から同月の14日まで休暇をとっていたので、その日なら行ける、と返答したところ、12日の夜23時に封筒を持って西夜駅で落ち合おう、とだけ言い、彼は帰っていきました。
水野氏: 私は指定された日に、時刻通り西夜駅で彼と落ち合いました。彼は私に封筒をちゃんと持ってきたかの確認をし、封筒の封が空いていないのを見てから人気の少ない改札に、私を誘導しました。彼は改札に着いた途端、まるで誕生日を祝う子供のように屈託のない笑顔を私に向け、封筒の中身を話し始めました。
話の内容は、これはプレゼントであること、封筒の中身が切符であること、その切符は魅力的な技術が使われていること、そしてきっと、私が満足するだろうということ。そんな感じのものでした。彼は私に、ワクワクするだろう? と変わらない笑顔で問いかけてきました。[ため息]私は事実、期待を寄せていました。私の最高傑作でもある本の、その世界の一部を実際にこの目で見ることができるということに。浅はかな考えでした。その考えが辛い事実を呼び込むとも知らずに。
入江博士: そうして貴方は、その友人に言われた通りに、東白原野に向かわれたのですか?
水野氏: ええ、その通りです。私は彼の言うことに従い、あの切符を封筒から出さずに鞄に入れて改札を通過しようとしました。そしたら、急に景色が変わって。大体、改札機にSuica4を当てようとした直前でしたかね。辺りが薄暗い田舎の駅から、少し肌寒い真っ白な原野にかわって、最初はかなり混乱しました。
けど、周辺を見回してたらどこか見覚えのある光景で、そこでやっと今いるのが東白原野だと気づきました。彼の言っていることは正しかったということも、そこで分かりました。
私は試しに、周囲を散策することにしました。そのときは、どうせ完成度の低いジオラマのような物だろうとたかを括っていました。でも、どこを見回しても、地面を掘り返しても、雪の冷たさも、私が描いた通り、そっくりそのまま再現されていたんです。驚きましたよ。幾らあの東白原野が完成度が高いジオラマだったとしても、どうやってここまで来たのか、そもそも何で切符が必要だったのか、と。挙げればキリがありませんが、当時の私はあの原野に様々な疑念を抱いていました。私はそんな考えを切り捨てるために、あるいは現実から目を背けるために周囲を見回しました。私の幻想であり理想の東白原野がここにあるのだから、このまま幻想に逃げ込んでしまおうと。そんな考えはすぐに、周囲を実際に見回してみたときの酷い不快感を理由に完全に消え去りました。
[水野氏が表情を歪ませる]
入江博士: どうされました? 体調に何か問題でも?
水野氏: ああ…いえ…大丈夫です。当時を思い出してしまってつい。
ええと、ああ、そうそう。不快を感じた辺りでしたっけ。さっき、私が辺りを見回したとは話しましたよね。その時私はやっと、思い描いていた幻想を、現実からの逃げ場にしていたところを、現実にさせられたということにようやく理解したんです。それがあの頃の、いや今もそうですね。私にとってはとてつもなく不愉快なことで、言葉では言い表せないほどに悲しかったんです。
少しだけ、昔の話をさせてください。私は現実から目を逸らすために、創作を始めました。当初はネット小説などを書く程度だったのですが、そんな日々を送ってると、将来に不安を持つようになってきたんです。私はこのまま、まともな職につけるのだろうか、いずれ幻想から現実に帰らなければいけないのかと思うと、とても辛かったんです。だから、現実から逃げ続けるために作家になったんです。幻想に入り浸り、それを書き上げることを仕事に出来て、私は幸せでした。そんな中書き上げた処女作が、あの夢現でした。
だからこそ、不愉快だったんです。私の唯一の救いであった幻想を、逃避の対象の現実にさせられたことがあまりにも不愉快だったんです。
私にはもう、逃げることしかできませんでした。現実からも、幻想からも見放されたというのに。私は未だ逃げ道を追い続けてしまっているんです。もうそんなものはないというのに。
入江博士: 水野さん、少し熱が入りすぎています。お気持ちはわかりますが、どうか落ち着いて。
[水野氏が深呼吸する]
水野氏: ……失礼しました。話を戻しますが、私はその苛立ちと困惑、いやもっと多くの感情が入り混じり、うずくまってしまいました。常に明るく、雪が降り寒い東白原野では寝ることもできず、何も考えないようにするしか感情を押さえつける方法はありませんでした。
大体、1,2時間後、周りが暗くなっているのに気がつきました。何だろうと思って顔をあげると、私は自宅の布団の上でうずくまっていました。夢なのかと一度ほっとしましたが、指の爪に入り込んでる土や私に封筒を渡してきた友人からのメールを見るに、あれは夢でないんだと気づいてしまいました。
私は今、あの友人とはあの日を起に縁を切っています。しかし、困惑を抑えきれず、私は出版社の担当の方に体験したことを洗いざらい話しました。それから後は、あなた方の知る通りです。
入江博士: なるほど、ありがとうございます。
水野氏: 先生、幻想って何だと思います?
入江博士: 幻想、ですか? そうですね、私は人が脳内で完結させる現実から逸した想像、だと考えています。
水野氏: ああ、良かった。自分だけじゃなかった。幻想は人の脳内に留められているから、美しくて、神秘的なんでしょうね。やっぱり、現実にするべきではなかったんだ。
[抜粋終了]
終了報告: 今回のインタビューにて、水野氏が前例と反し、東白原野を理想的であると認識していないことが判明しました。このような例は水野氏以外に確認されていません。
水野氏に対する複数の調査の結果、水野氏が東白原野に対し不服な感情を抱いていたことに対する客観的な因果関係は確立されていませんが、非異常の感情であることが判明しています。これ以上の調査は困難であると判断され、現在は記憶処理の後に解放されています。なお、要注意団体・人物との再度の接触を防止する為、財団の監視下に置かれ続けています。
水野氏がインタビュー内で言及した"友人"の特定には至っていません。水野氏が証言した氏名も偽名であることが判明しています。要注意団体"幻夢機構"5と関係していることがインタビュー記録内で判明していることから現在、未発見の要注意人物として調査が行われています。



