アイテム番号: SCP-3331-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3331-JPの収容はその性質上困難です。収容班はSCP-3331-JPの発生を確認次第速やかに発生場所の周囲を封鎖し、関係者への記憶処理・生存者の保護を行ってください。
説明: SCP-3331-JPは閉鎖空間で20人以上のヒト(Homo sapiens)が存在する状況下でのみ発生する異常現象です。SCP-3331-JP発生時、該当空間は不明な理由によって閉鎖されます。これによりSCP-3331-JP発生中における外部からの侵入・内部からの脱出は不可能です。
SCP-3331-JPは以下の順序で進行します。
1. イベントが発生すると、空間の天井部から数本の全長60〜70cmに加工された木製の棒1が出現し、そのまま重力に従って落下・着地します。SCP-3331-JP発生時に密室内に存在していた人間(以下、"対象者"と呼称)が出現した棍棒に触れると異常性が進行します。
2. 棍棒に触れた対象者は突如として非常に強い暴力衝動を覚えます。この暴力衝動は精神汚染に近い物であり、結果的に暴力衝動は「棍棒による周囲の対象者への殴打」という形で発散されます。特筆すべき点として、暴力衝動は殴打や蹴りなどの暴力性を伴った接触によって感染します。
3. 上記の異常性により、大抵の場合においてイベント発生時から数分以内には全対象者が暴力衝動による闘争状態へと移行します。この状態は対象者が打撲・殴打を始めとした原因で死亡し、最後の一人になるまで継続します。
4. 対象者が一人になった時点で、生存していた対象者(以下、"生存者"と呼称)の精神汚染は消失します。その後突如として生存者の体が虹色に発光し、ファンファーレと共に成人男性の声で以下のアナウンスが流れます。
Contest champion is [生存者の氏名]. Congratulations!
その後、速やかに生存者の発光現象は消失します。同時に空間の閉鎖性も解除され、SCP-3331-JPイベントは終了します。
インタビュー記録:3331-JP
以下は2026/11/15に行われた、3331実例-4の生存者である浅田 裕也氏へのインタビュー記録です。浅田氏はSCP-3331-JPイベント発生当時16歳であり、実例-4は浅田氏が通学していた高等学校の教室内で発生しています。
インタビュアー: 黒潤研究員
対象: 浅田氏
[記録開始]
黒潤研究員: おはようございます、浅田さん。入院生活には慣れてきたでしょうか。
浅田氏: はい。っていうか怪我はもう殆ど治っているし、いつまで入院しなきゃいけないんだろう俺って感じです。まあその、色々事情があるのは重々理解してるんですけど……。
黒潤研究員: 必要な手順が終われば直ぐに退院できると思いますよ。[咳払い]さて、本日はあの日に何が起きたかを話して頂ければと思います。ゆっくりで大丈夫なので。
浅田氏: ……はい。
黒潤研究員: まあ、まずは貴方の事から話して貰えればと思います。カウンセリングですので、赤裸々に話して頂けると幸いです。
浅田氏: お願いします。俺の事、俺の事ですね。[三秒程の沈黙]……俺はご存知の通り、普通に高校生やってて。でも、ずっとなんというか、ぼっちというか。
浅田氏: いやぼっちではないか。友達はいたし、クラスメイトとも結構話していたと思います。でもなんか、表面上だけ満たされてる様な感じがずっとしてたんです。根本的に馴染めない、みたいな。それがずっと気持ち悪くて、部活も結構コロコロ変えちゃってて。
黒潤研究員: ふむ。
浅田氏: 基本的にわざわざ俺の席まで来て話しにくる様な奴もいませんでした。それはそれで心地よかったんですけど、授業が終わってスマホ弄って、ふと賑わってる席を見て。俺はなんでああいう風になれないんだろうなって思ったりもしてました。
[浅田氏が頭を掻く]
浅田氏: ……部活よく変えてたからそれなりに知り合いはいたんですけど。周り見てたら、テストで学年トップ獲ってる中田さんとか、陸部エースやってる桑原とか、「何かを極めてる」人達の周りに人が集まってるのに気づいたんです。めっちゃ楽しそうなんです。俺も何かを極めて、いや極めなくても何かで1位を獲るとかしたら、その、もしかしたら。
浅田氏: この寂しさも解決するかもしれないって、思ったんです。だからちょっと興味あったロードバイクやろうかなと思ったんですけど、もう今は2年の秋で。今から始めても、1位なんて獲れる訳ないじゃないですか。だから結局尻込みしちゃって、そのまんまモヤモヤしながら学校生活を送ってた時。[数秒の沈黙]その時に、突然アレが起きました。
黒潤研究員: ……では、事件の話にこのまま移りましょうか。改めて浅田さんのペースで大丈夫ですので、よろしくお願いします。
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浅田氏: 4時間目が終わって、皆が教室で一息ついてる時でした。弁当を各々が取り出して、それで誰かが「扉が開かない」って言い出したんです。えってなって皆が扉見てたら、突然なんか、棒が降ってきて。
浅田氏: 何だコレって誰か……確か井上が棒を拾いました。そしたら突然井上が周りの奴を殴り出して、なんか、「うおおおお」とか言いながら。眼とか血走ってて、アイツの頭おかしくなったのかと思ったんですけど。別の降ってきた棒を拾った明らかに大人しい女子までが俺の後ろで人を殴り出して、ああこれなんかヤバいなって咄嗟に気づきました。
黒潤研究員: その後、どうしたんですか?
浅田氏: いやどうするって、逃げ場ないわけじゃないですか。気付けば皆が皆を殴り出して、普通に血とか流れ始めて、パニックになってたら隣の席だった女子が俺に殴りかかってきたんです。ビビって思わず転んだら、机と机の間に棒が落ちてるのに気づきました。突然降ってきた奴です。それで殺らなきゃ殺られるって思って、最早迷わずに棒を取りました。そしたらなんか……心の中にずっと溜め込んできた事が込み上がってくる様な感じがして、無性に色々ぶっ壊したくなって、その。
黒潤研究員: 大丈夫です。貴方の行為は不可抗力で起こった物です。
浅田氏: ……はい。それで目の前の女子を思いっきり殴って、殴って、動かなくなる位まで殴ってたら、背中に衝撃が走りました。ドロップキックされてたんです。それ反則だろとか叫びながらしてきた奴に殴り返して、……沢山殴ったし、沢山殴られました。ほんとに必死でした。必死だったんですけど、なんか、俺。
[十数秒の沈黙。]
黒潤研究員: 一旦、少し休憩でも─
浅田氏: 楽しかった、んです。
黒潤研究員: [少しの沈黙]……ふむ。
浅田氏: いや、楽しかったというのは違うかもしれないです。でも今まで社会性とか理性とかで抑えてきた物を俺も皆も爆発させてる気がして、ただ殴り合う事だけを全員で成していて。殴られて凄く痛いんですけど、その痛みを俺も皆も同じだけぶつけ合っていて。多分こんな感想抱くの頭おかしいと思うんです、けど。
浅田氏: なんか、誰かと初めて会話できた気がしたんです。
黒潤研究員: 続けてください。
浅田氏: それで無我夢中で殴り続けて、気付いたら立ってるのは俺一人だけになってました。その頃には息も絶え絶えで、左目も血と腫れでほぼ何も見えなかったんですけど、突然ファンファーレ?が鳴り響いて。チャンピオン、コングラッチュレーション、みたいな声と一緒に光りだしたんですよ、俺の身体。ほんとに。ゲーミングな感じで。
黒潤研究員: 大丈夫です。貴方の仰ってる事は紛れもない事実です。
浅田氏: 頭がハイになってたのもあって、謎の達成感と、あぁ1位獲れたじゃん俺っていう嬉しさで思わず笑って喜んだ記憶があります。それで笑いながら振り向いたら、皆の死体がありました。
浅田氏: ……死んでました、皆。目とか虚ろでどこ向いてるのかも分かんないし、というかそもそも顔ぐっちゃぐちゃだし、とにかく惨い光景が一面に広がってました。今思えば、俺が殺したんだから当たり前ですよね。
黒潤研究員: 浅田さん。
浅田氏: 大丈夫です。それで徐々に頭が冷静になってきて、吐き気もしてきて、思わず蹲ったんですけど吐く事すらできなくて、謎に咳が出ました。それで、ふと思いました。
浅田氏: 1位獲っても、俺って結局独りなんだ、って。
黒潤研究員: ……それは、そうかもしれませんね。
浅田氏: 1位獲ったら寂しさはなくなるかもしれないなんて思ってたのに、いざ獲ってみたら全然そんな事無かったんです。只屍の山の頂上に一人取り残されるだけだったんです。その事に気付いちゃって、怖くて頭おかしくなりそうで、でも何より寂しいなあって思ってたら扉が開いて、先生達が半狂乱で入ってきました。それでここに入院して、あとはご存知の通りって感じです。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
黒潤研究員: さて、お聞きしなければならない事はここまでです。何か相談や質問などがあればお答えしますよ。
浅田氏: ……俺の人生、どうなるんですか?もうおしまいなんですか?
黒潤研究員: 今回の件において浅田さんは罪には問われません。あの状況では一種の強制力が働いていましたし、貴方が行動を起こさなければ死ぬだけでした。
浅田氏: そうですか。良かった。……でも、俺が皆を殴り殺したのは紛れもない事実です。しかもなんか、夢に出るとか全然無いんですよ。これも俺が悪いのかそうじゃないのかは分からないんですけど、皆の死体と達成感が俺の記憶の中に共存しているんです。一生のトラウマとかには全然なる気がしなくて、でもそこに俺の生き辛さの全てがある様な気がして、凄い嫌なんです。
黒潤研究員: 貴方にはこの一件の全てを忘れて元の生活に戻る権利があります。貴方は、紛れもない無辜の被害者です。
浅田氏: そうなんですか。俺は別にどっちでもいいです。……多分、どう説明しても誰も信じてはくれないですしね。きっと、苦しくて寂しい思いするだけです。でもそれって、記憶消しても消さなくても、1位獲っても獲らなくても、多分俺は何も変わらないんです。
黒潤研究員 それについてはまた追々相談していきましょう。では、本日のカウンセリングはこれで終了させて頂いてもよろしいでしょうか。
浅田氏: あの、最後に一つだけいいですか。
黒潤研究員: はい、構いませんよ。
浅田氏: ……俺、ロードバイクを始めようと思います。多分1位を獲る事なんて出来ないですけど。全力でぶつかり合えさえすれば、きっと、俺は誰かと会話ができると思うから。
[記録終了]
当記録の2日後に浅田氏に対して精神影響検査が実施されましたが、その数値はどれも標準的な値を示していました。退院後、浅田氏はクラスC記憶処理を受けた後に解放されました。



