SCP-3333-JP
アイテム番号: SCP-3333-JP
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: SCP-3333-JPは、サイト-81CHの高セキュリティ収容ロッカーに収容され、叡智圏保護課の管理下に置かれます。SCP-3333-JPを用いた一切の研究活動及びThaumielクラスオブジェクトとしての運用は、倫理委員会の承認を必要とし、その実施は叡知圏保護課が担当します。SCP-3333-JPの運用目的は、合意現実及び人類種の保護にとっての懸念となり得る外来概念の除去、解体または収容に限られます。
担当者は、1週間ごとにUHE-2943の現状を確認するためにSCP-3333-JPを利用する必要があります。
叡智圏 / ノウアスフィア (noosphere) は、人間の思考圏域、即ち人類が思考・認識してきたあらゆる概念及びその相互作用の集積体です。当初、このアイデアは非異常の哲学分野において、仮想上の存在として考え出されました。その後、財団のミーム学、空想科学および夢界学の発展に伴い、そうした異常存在の発生や変異、拡散の媒介として機能する非物理的な場として再認識され、その存在が仮定されています。
説明: SCP-3333-JPは、フクロウを象った高さ15cmほどの彫像です。SCP-3333-JPは、自身の所有者に対し、自己意識の人類叡智圏への接続及び、限定的な範囲での改変を可能にする異常性を付与することが可能であると考えられています。また、この異常作用は使用者の身体的性別が女性であることによって増強されることが示唆されています。
これまでに行われたごく少数の試験および実運用の結果から、SCP-3333-JPの異常性について以下の性質が推定されています。
- 異常性の活性化及び不活性化は、所有者の任意で行うことができる。
- 活性化中、所有者は内部を自由に行動可能な仮想現実を経験する。この間、視覚は完全に仮想感覚に置換されるが、聴覚及び触覚の置換は部分的である。
- 仮想現実内の構造体 (恐らくはそれぞれが固有の概念を反映したもの) に対しては変形や移動などの影響を与えることができる。この作用が反映元となった概念に与える影響については、基本的に存在しない、またはごく軽微であると考えられている。
- 仮想現実内での思考・行動が現実の肉体に反映されるか否かは、一定しない。思考の一部は発話となることが判明しているが、「仮想現実内で歩行をした」という自認は肉体の脚の運動を誘発しなかった。
サイト-81CHは、広島県に位置する中規模な収容・研究サイトです。フロント企業「白子ケーパブルプロバイダー株式会社」の工場及びオフィスを中心とし、その他の複数のフロント施設が周囲に緩衝帯として設けられています。当初は、アジア最大級の超常領域 "中国地方の穴蔵" の監視拠点として設立されました。
特筆すべき点として、このサイトは 81管区における非定型収容の実地試験施設として運用されています。そのため、一般的な収容施設と同様の研究・収容活動に加え、有用なアノマリーの特殊資産としての活用のための研究開発及び、非敵対的な要注意団体との協力関係の構築のための外交活動が展開されています。
保安施設ファイルより一部抜粋
補遺: SCP-3333-JPは、2022/12/01に確認された叡知圏における捕食的概念存在の出現に関連し、GoI-8189 ("トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション") より移譲されました。以下はその発端となった、サイト-81CH 渉外部門連絡窓口の通話音声記録です。
音声記録-1
日時: 2022/12/01 10:30 AM
関係者:
- サイト-81CH 渉外部門オペレーター
- EoI-TR-01 ("ヘルメス")
[記録開始]
通話が開始する。
オペレーター: お電話ありがとうございます、こちらは白子ケーパブルプロバイダー株式会社広島支社でございます。
EoI-TR-01: ええと、財団の窓口であってます?
オペレーター: お名前とご用件をお願い致します。
EoI-TR-01: いや、だから財団であってるかと-
オペレーター: ですから、お名前とご用件を。
EoI-TR-01: はあ、トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション社のヘルメスという者ですが。用件は、そうだな、叡知圏に起きているちょっとした — いや、割と重大な問題について話したいことがあるのでアポイントメントを。
オペレーター: 承知いたしました。日時のご希望は?
EoI-TR-01: 可能な限り速やかに。出来れば今すぐ。
オペレーター: 緊急度の高い案件ということですね。問題の詳細をお伝えいただければ、専門家に直接応対させることも可能ですが。
EoI-TR-01: なるほど。もしいるなら、人間じゃない職員を。 ヒトに有害な情報を含む可能性が。
オペレーター: 情報災害性の疑い、承知いたしました。担当の者に伝えさせていただきます。30分後に渉外部門棟正面入り口へお越しください。
EoI-TR-01: ああ、では。
通話が終了する。
オペレーター: (サイト内線に) IT部門に今の通話記録を送ってください。
[記録終了]
後記: EoI-TR-01は予定通り、通話終了から30分後に渉外部門棟正面入り口前に現れた。通話の逆探知は不明な要因のため成功しなかった。
人工知能コンスクリプト (artificially intelligent conscript / 人工知能徴募員とも訳される) は、財団 IT部門 人工知能適用課によって開発・運用されている人工知能プログラムです。一般的に、AICと略されます。基本的に自己認識能力を有し、特に高度なAICの中には "人格" を有すると考えられているものも含まれます。
70年代後半に開発が始まり、現在では財団が高度情報化社会に適応するための強力なツールとして機能しています。また、情報災害やミーム災害など、ヒト職員による取り扱いが困難なアノマリーの研究にも活用される、非常に重要な技術です。
EoI-TR-01の応対に際し、IT部門 人工知能適用課はサイト-81CHのシステム上に配属されている人工知能コンスクリプト群の中から、汎用知能 Turquoise.aic を本件に割り当てました。以下は Turquoise.aic による初期応対の記録です。
音声記録-2
日時: 2022/12/01 11:15 AM
場所: サイト-81CH 第3応接室
関係者:
- 人工知能コンスクリプト Turquoise.aic
- EoI-TR-01 ("ヘルメス")
[記録開始]
EoI-TR-01: まず確認しておきたいんだが、君たちは僕たちをどう認識しているのかな?
Turquoise.aic: ご質問に対する正確な応答はできかねます。財団が相手をどの程度知っているかを当事者に知らせることは保安上のリスクになり得るためです。
EoI-TR-01: オーケー。じゃあ、僕が先に話すから、それを知っていたかを教えてほしい。僕が話した内容はもう知っていると知っているからな、いいだろう?
Turquoise.aic: 承知しました。
EoI-TR-01: 僕たちのような "神々" — 君たちがどう呼んでいるのかは知らないが — は叡知圏上の概念集積体の現実世界への投影物のようなものだ。これは知っていたかな?
叡知圏投影体 (noosphere-projection entity) は、叡知圏上の概念集積体の現実世界への投影のうち、実体を有するものの総称です。このような投影は、物語性と信仰性の二面を持つ概念、特に神話上の神格においてよく見られます。現在、最も広く受け入れられている仮説は、キャラクター性自我と信仰エネルギーの両方を同時に獲得することでエネルギーの発散に指向性を与えることが可能になり、それを利用して実体を維持しているというものです。
そのような能力を有さない投影の一部は、実体を獲得せずに情報や物語によって媒介される (異常ミーム及び異常ナレム) か、他者の実体または他者に向けられる信仰エネルギーの奪取を試みる (憑依性人格存在及びピスティファージ実体) などの形で異常存在となることが知られています。
GoI-8189 ("トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション") は、主に叡知圏投影体を社員として構成された企業であり、その業務内容、顧客、構成員は一貫して、世界各地の神話・伝承及びそれらに由来するオカルティズム的要素と関連しているようです。この要注意団体の発見により、叡知圏投影体によって構築された社会構造の存在が明らかになりました。
Turquoise.aic: はい。なお、我々はそのような実体群を「叡知圏投影体」と呼称しています。意思疎通の円滑化のため、使用語彙の統一にご協力願います。
EoI-TR-01: かなりそのままだな。まあいいか。で、その叡知圏投影体は、紐づけられた概念に関する事物に干渉する力がある。例えば、海の神が海水にだけ通じるテレキネシスを持ってるとか、そんな具合に。これは?
Turquoise.aic: はい、知っています。
EoI-TR-01: では、我が社の副社長トート、泉に片目を捧げたオーディン、この国ならオモイカネか。彼ら、知の神の投影体が何に干渉できるかは知っているか?
Turquoise.aic: いいえ。予想されるものとしては以下が挙げられます。ヒト個人の知識・思考、あるいはその集積 — 即ち、叡知圏。
EoI-TR-01: 正解は後者だ。
Turquoise.aic: しかし、それはいささか奇妙なことのように思われます。叡知圏に依拠した存在が叡知圏を改変可能であるという点についてです。
EoI-TR-01: そうだな。だからその力を自由に振るうことはある種の国際条約のような、投影体同士の取り決めで禁止されている。自身や相手の存在そのものにすら干渉可能な力だからね。
Turquoise.aic: これまでの会話は財団にとって益になる情報であると評価できます。しかしながら、これは貴方がここへ来た本来の目的ではないと推論しています。
EoI-TR-01: まあ、そう焦らず行こう。危機的事態だからこそ、確認はしっかり。そうだろ? 最後の質問だ。古代ギリシャの神話体系に由来する投影体のうち、叡知圏への干渉能力を持つのは誰だと思う?
Turquoise.aic: 知を司る女神アテナと考えます。
EoI-TR-01: いいね、本題に入ろう。今朝、叡知圏上のアテナの概念集積体に異常な敵性存在が取り付いた。結果、彼女の投影体は形を保てなくなった。放置すれば、復古ヘレニズムの信仰基盤の崩壊に繋がるだろう。これを何とかして欲しいと思っている。
Turquoise.aic: 我々は叡知圏を直接観測できません。何らかの客観的な証拠が — いえ、並行して実行中だった検索の結果が出ました。GOCから財団への情報共有によれば、彼らの加盟組織のヘレニズム系信仰団体が「アテナへの祈りが届かない」と報告しています。更に、その原因を探るための神託を求めた構成員が意識不明状態に陥ったとも述べられています。
EoI-TR-01: それ僕に聞かせていい話か? — まあいいや、情報災害性は認識していたけど、遅効性だとばかり。深くアクセスしすぎると即効性があるらしい。早めに解決しないと。
Turquoise.aic: 緊急時判断です。しかし、依然として叡知圏を直接観測・干渉できないことは問題と言えます。大まかで構いませんので、何らかの問題解決プランを提示していただければ —
EoI-TR-01: そこでこれだ。
EoI-TR-01は上着のポケットから、フクロウを象った彫像を取り出し、机に置く。この彫像は後にSCP-3333-JPに指定されたものである。
EoI-TR-01: 支配される間際、瞳輝く聡明なるアテナは自分自身の概念の側面を切り離し、投影体として僕に託した。これは他者に彼女の能力の一部を与えるものだ。だけど、さっき言ったように僕らは条約のせいでこれを使えない。君たちが使ってくれ。
Turquoise.aic: 人工知能である私にはそれを使用することができないようです。しかし、ヒトに対する情報災害性のために私が本件に割り当てられたと理解しているのですが。
EoI-TR-01: 深くアクセスしないならば遅効性だよ。見立てだと1週間、短くて5日くらいかな。素早く解決できそうなメンバーを集めるのが君の仕事だ。
Turquoise.aic: 了解しました。
EoI-TR-01: じゃ、後はよろしく。もし必要になったら呼んでくれ。
EoI-TR-01は机の自身の名刺を置いた後、退室する。
[記録終了]
後記: 退室後、EoI-TR-01はサイト受付に帰宅の旨を告げて正面玄関から退出し、直後に消失した。
その後、Turquoise.aic はサイト-81CH 管理官、IT部門及び人事部門の承認の下、 本事案への対応のためのタスクフォースの人員選定を開始しました。専門分野に基づく網羅的検索の後、少数精鋭での構成を基本方針として2~3名を目安とする絞り込みを行った結果、以下の2名の配属が決定されました。
機動部隊 ふ-11 ("ノンクレーマー") は、GoI-8189 及び、関連する異常実体群への対処に割り当てられた機動部隊です。当初は異常な商業店舗への潜入に特化した部隊として組織されましたが、SCP-1988-JPへの対処を通じて叡知圏投影体への対応ノウハウを蓄積したことが評価され、現在の形に再編されました。
サイト-81CH 人事部門
人事ファイルより抜粋
氏名: 三笠 清 (Mikasa Kiyoshi)
セキュリティクリアランスレベル: 4
専門分野: 神話学 (mythology)、応用神学 (applied theology)
役職: 研究員、MTFふ-11 ("ノンクレーマー") 司令官、渉外部門 特別アドバイザー
経歴及び業務: 三笠研究員は、神話・民俗学部門のアーキビストとして財団に採用されました。その後、戦術神学部門における短期間の研究活動に次いで、MTFふ-11の再編の際に同部隊に配属され、現在は司令官を務めています。叡知圏投影体とのコミュニケーションにおけるスペシャリストと見做されており、サイト-81CH 渉外部門の特別アドバイザーとしても活躍しています。
叡智圏保護課は、倫理委員会の監督下にある小部門であり、叡智圏に関する総合的な研究 (ヌース理論) の実施及び、その応用による叡智圏の保護を目的としています。叡智圏には自己修復機構が備わっていると考えられていますが、その範囲を逸脱する影響は合意現実の不可逆な変化をもたらす可能性があります。叡智圏保護課は、そのような甚大な影響の兆候を監視し、未然に阻止することを任務としています。また、財団の収容活動に伴う大規模なメディア戦略は国家規模/世界規模での人類意識への干渉となります。こういった活動が叡智圏へ悪影響を及ぼすことを防ぐ内部監査も業務に含まれます。
サイト-81CH 人事部門
人事ファイルより抜粋
氏名: 芦洞 侑士 (Ashidō Yūshi)
セキュリティクリアランスレベル: 4
専門分野: ヌース理論 (nous theory)、ミーム学 (memetics)、物語論 (narratology)
役職: 研究員、81管区叡智圏保護課主任保護官
経歴及び業務: 芦洞保護官は、ミーム学研究員として財団に雇用されました。財団北米地域サイト群への2年間の留学を経て、帰国後に叡智圏保護課に加入し、現在も同課の主任を務めています。その主要な業務は、異常存在の活動による叡智圏への影響の予測と未然防止です。また、財団の収容活動に伴うメディア戦略がもたらす叡智圏への損害を最小限のものとするための内部監査も担当しています。
以下は、招集後の初回ブリーフィングの記録です。
音声記録-3
日時: 2022/12/01 15:37 PM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic
- 三笠研究員
- 芦洞保護官
[記録開始]
Turquoise.aic が [音声記録-2] の要約を招集されたメンバーに伝える。簡略化のため省略。
Turquoise.aic: 以上です。お二人には、本事案の迅速な解決のために力をお貸しいただきたいと考えています。
三笠研究員: なるほど、確かに今、女神アテナについて深く考えることができないことを自覚したよ。本能的に避けているかのように、踏み込めない。
芦洞保護官: ふむ、無意識に情報災害の地雷を避けている、いいことじゃないか。…… とは言え、まさかこのチンケなフクロウにそんな大それた異常性があるとはね。
Turquoise.aic: この彫像は現在、SCP-3333-JPに指定されています。
芦洞保護官: では、この3333-JPとやらを使って叡知圏に巣食う化け物を退治するのが我々の仕事というわけだ。
三笠研究員: 神から授かった武器で、か。まるでペルセウスの神話だ。
芦洞保護官: いいね、使い古された物語が成功を保障してくれているみたいじゃないか。
Turquoise.aic: それで、お二人のどちらがSCP-3333-JPの運用を担当されますか?
三笠研究員: あー、芦洞がいいだろう? 専門家だし。
芦洞保護官: 仕方ない。三笠は投影体関係だから呼ばれたんだろう、 最初から僕にやらせる気満々な人選じゃないか。
Turquoise.aic: 予測通りの返答、ありがとうございます。
芦洞保護官: じゃあ早速試してみよう。
芦洞保護官がSCP-3333-JPを手に取る。
三笠研究員: ちょっと —
芦洞保護官: おっと、意識が飛ぶなら椅子に座ったほうがいいな。
芦洞保護官は会議室を見渡し、最も良質と思われる椅子へ近づく。
芦洞保護官: これがいい。
三笠研究員: はあ。
芦洞保護官は着席し、背もたれに体重を預ける姿勢を取る。SCP-3333-JPを活性化させる。
5秒間の沈黙。
芦洞保護官: おお、これは、すごい。 (笑い声) すごいね。
三笠研究員: 声は出せるのか。
芦洞保護官: ん、そっちにも聞こえてるらしいな。
三笠研究員: こちらのセリフだよ。まあ、声での意思疎通が取れるというのは作戦上も良いことのように思えるね。じゃあ、さっさと戻って来てくれ。ブリーフィングは終わってないぞ。
芦洞保護官: 了解。
SCP-3333-JPが不活性化し、芦洞保護官は椅子から立ち上がる。
Turquoise.aic: もちろん、危険のない範囲であれば予行演習は行っていただいて構いません。ひとまず、第1回のブリーフィングを正式に締めておきましょう。
芦洞保護官: その前に1つ。研究者としては、この仮想現実の記録を取っておきたいと思うんだ。今体験して分かったんだが、明晰夢に近い。オミクロン・ロー1関係の技術が転用できないかな?
三笠研究員: それなら、夢イメージ抽出が使えるかもしれない。戦術神学にいた頃、同僚のチームが夢を通じた神託の映像記録化プロジェクトをやっていた。CHにも機材はあるんじゃないか?
Turquoise.aic: 検索中。備品管理システムの履歴によれば、研究開発棟に旧式のものが1台あるようです。
芦洞保護官: 素晴らしいね。それじゃあブリーフィングは一旦終了しよう。
Turquoise.aic: 承知しました。他に懸念事項があれば、いつでもお伝えください。
芦洞保護官: オーケー、それじゃあ機材を取りにいこうか。
芦洞保護官と三笠研究員が会議室から出る。
[記録終了]
後記: 点検の結果、回収された夢イメージ抽出用の機材は問題なく利用可能であることが判明した。
2022/12/01の夕方から深夜にかけ、夢イメージ抽出装置を併用したSCP-3333-JPの運用試験が行われ、その基礎的な性質が検証されました。一部は説明セクションに示されていますが、それに加え、ある程度使用者に依存すると思われる性質2が以下に列挙されています。
- SCP-3333-JPによってアクセス可能な仮想現実内の空間は、非常に広大な図書館または博物館と形容される。3 叡智圏の非実存性を考慮すると、SCP-3333-JPが「情報の集積」という概念を人間の認識に合わせて翻訳した結果の出力イメージであると推定される。
- 仮想現実内には"案内者"が存在する (SCP-3333-JPの副次機能の産物と考えられ、SCP-3333-JP-Aに指定)。フクロウを象っていることのみ共通しており、それ以外の形態は2名の被験者の間で大きく異なった。4 その広大さのため、SCP-3333-JP-Aなしに目的の概念へ辿り着くことは困難であると思われる。
- 互いに関連性のある構造物は、仮想現実中の位置関係において、近接して存在しているように知覚される。想定される概念間の相互作用ネットワークの複雑性を考慮すると、この相互の位置関係の三次元的なマッピングは恐らく不可能である。知覚される位置情報は使用者個人の定位能力に合わせて調整されたものであり、普遍的なものではないと考えられている。
情報食者 / インフォファージ (infophage) は情報を消費する異常存在を指します。現状、基本的には整理された分類体系に基づくものではなく、情報を消失させて何らかの利益を得る存在の総称として利用される用語です。叡知圏は大量の情報集積体であるため、情報食者による食害を受けている可能性が指摘されてきました。
- 仮想現実内の構造体は相互作用によって改変可能である。ただし、叡知圏上の概念集積体に由来するものに対しては、根本的な改変・除去が不可能であった。叡知圏への統合が不十分な外的存在 (寄生性情報食者など) は除去可能である。本事案において目標となる敵性存在 (UHE-29435) は未だ統合が不十分であると考えられており、この方法での無力化が計画された。
運用試験の結果を受け、翌日の2022/12/02に作戦が実行されました。以下はその記録です。
作戦記録-1
日時: 2022/12/02 10:00 AM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic (記録員)
- 三笠研究員 (補助員)
- 芦洞保護官 (実行員)
前記: 本記録は、音声記録と夢イメージ抽出映像記録から再構成されたものである。以下、夢イメージ抽出に基づく描写は下線を引くことで区別される。把握のため、作戦実行者は可能な限り発話し、作戦状況を現実世界側に伝えるよう指示されている。
[記録開始]
芦洞保護官は椅子に座り、コンピュータに接続された夢イメージ抽出装置を頭部に装着している。SCP-3333-JPが活性化される。
イメージ描画映像は暗転し、不鮮明な光景を映し出す。芦洞保護官の主観意識はSCP-3333-JP-Aに対面している。
芦洞保護官: よし、入れた。目標地点へ移動する。
芦洞保護官: 飛ぶぞ。
SCP-3333-JP-Aが羽を広げ、芦洞保護官はその背中に騎乗する。
芦洞保護官: 離陸する。
SCP-3333-JP-Aが羽ばたき、飛翔する。以降、イメージ描画映像はSCP-3333-JP-Aの背中と思われる白い映像を写し続ける。
芦洞保護官: 目標に接近中。あの辺りがギリシャ神話の区域と見えるな。
非常に巨大な彫刻が並んだ領域が見える。接近して細部を見ると、アトリビュートから、各彫刻が古代ギリシャ神話の登場人物を表現していることが分かる。
芦洞保護官: 目標を見つけた。そして、UHE-2943は — デカいな。 上に浮いてるようだ。
芦洞保護官: クモ型の — 見えてるだろ?
三笠研究員: ああ、確認した。
芦洞保護官: 実際は無形の存在な訳だから、今見えているのは待ち伏せ型の捕食生物という情報の解釈結果ということだろう。巣食った概念に踏み込んだ人間を糸に絡めとるような。
三笠研究員: 存在を知るだけでは遅効性というのは、こいつ自身は能動的に狩りに行くような存在ではないんだな。
芦洞保護官: そういう性質を総合して描画されたのがこの姿だと、そう考えてよさそうだ。
三笠研究員: ああ。
芦洞保護官: まずは周囲から観察してみよう。
SCP-3333-JP-AはUHE-2943の周囲を十分な距離を保ったまま旋回する。
芦洞保護官: 周囲に糸が大量に張られている。もしかすると、周囲の概念にも拡大するつもりかもしれない。
三笠研究員: やはり早急な無力化が求められるな。
芦洞保護官: ああ。まあ、デカく育ったインフォファージのようなものだろう。末端から攻撃して統合を崩していけば除去できそうだ。作戦を開始する。
芦洞保護官がUHE-2943の脚部の1本に向けて指を差すと、その先端が消失する。
芦洞保護官: これをもう7回。
UHE-2943が残留する脚のうち2本をSCP-3333-JP-Aに向けて突き出す。突き出された脚は急激に伸長する。SCP-3333-JP-Aはこれを回避するが、大きくバランスを崩す。
芦洞保護官: (叫び声)
三笠研究員: 反撃を受けたのか。危険なら中断しても —
芦洞保護官: いや、やるさ。
SCP-3333-JP-Aは体勢を安定させる。伸長した脚は収縮して引き戻されていき、芦洞保護官はそこに攻撃を加える。
芦洞保護官: 残り5本。
UHE-2943が再度、残留する脚のうち2本を突き出す。突き出された脚は急激に伸長する。SCP-3333-JP-Aはこれを回避し、直ぐに体勢を安定させる。
芦洞保護官: 何度も同じ手を — (叫び声)
上空から落下してきた網状の構造物が、芦洞保護官の身体に当たる。構造物は粘着性があるように見える。
芦洞保護官: クソ。
三笠研究員: 退却しろ。
芦洞保護官はSCP-3333-JPの異常性を利用して網を除去しようと試みる。網が上空に引き上げられると同時に除去に成功したため、芦洞保護官は空中に投げ出される。
芦洞保護官: (叫び声) 助け —
落下中の視界イメージから、SCP-3333-JP-Aが芦洞保護官に向かって飛翔してくるのが分かる。UHE-2943は先ほど消失した3本の脚部を再生・伸長させ、SCP-3333-JP-Aを妨害する。
芦洞保護官は落下を続ける。地面に近づき、衝突する寸前でイメージ描画映像が暗転する。
SCP-3333-JPが不活性化する。芦洞保護官は正常な意識覚醒状態に復帰する。バイタルセンサーは心拍数の急上昇を示した。
芦洞保護官: ゴミ箱!
三笠研究員: ほら。
芦洞保護官は差し出されたゴミ箱に向けて嘔吐する。
[記録終了]
後記: 作戦は失敗と見做された。第二次作戦のための計画立案を進行する必要がある。
第一次作戦実行の後、UHE-2943に生じた影響を調査する探査を目的として、三笠研究員によってSCP-3333-JPが使用されました6。以下はその記録です。
探査記録-1
日時: 2022/12/02 13:05 PM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic (記録員)
- 三笠研究員 (実行員)
前記: 作戦記録-1と同様のため省略。
[記録開始]
三笠研究員は椅子に座り、コンピュータに接続された夢イメージ抽出装置を頭部に装着している。SCP-3333-JPが活性化される。
イメージ描画映像は暗転し、不鮮明な光景を映し出す。三笠研究員の主観意識はSCP-3333-JP-Aの背後に立っている。
三笠研究員: お願いします。
SCP-3333-JP-Aは首だけを振り向かせ、頷くような動作を取る。
SCP-3333-JP-Aが歩き出し、扉を開けながら4つの部屋を通過する。三笠研究員はその後を追って移動する。数分間、大量の書架の間を移動し続ける。
SCP-3333-JP-Aは1つの扉の前で立ち止まる。
三笠研究員: この部屋ですか。
SCP-3333-JP-Aが頷くと、三笠研究員が扉を開ける。内部はドーム上の構造の部屋であり、壁が書架になっている。
三笠研究員: ここはアテナの部屋で間違いないのか?
三笠研究員は書架の1つに近づき、本を手に取る。本にはクモの糸が巻き付いている。
三笠研究員: 邪魔だな。ああ、取れた。
三笠研究員は本を開いて確認すると書架に戻し、別の本を同様に確認していく。
三笠研究員: アテナの部屋で間違いない。クモの糸もある、なのにいない。
Turquoise.aic: どういうことでしょう?
三笠研究員: UHE-2943がいないんだよ。きっと移動したんだ。芦洞を叩き起こしてくれ。
Turquoise.aic: マニピュレーターが接続されていません。実行不可能な処理です。
三笠研究員: ああ、もう。
SCP-3333-JPが不活性化する。三笠研究員は正常な意識覚醒状態に復帰する。
三笠研究員: 僕がやろう。
[記録終了]
後記: UHE-2943の移動先を調べる必要が生じた。第二次作戦計画立案と同時に進行される。
UHE-2943の移動先についての検討を行うため、芦洞保護官が陥っている精神状態の極度の悪化を改善する必要がありました。これを目的として、三笠研究員が会話を試みました。以下はその音声記録です。
音声記録-4
日時: 2022/12/02 13:21 PM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- 芦洞保護官
- 三笠研究員
[記録開始]
三笠研究員は簡易ベッド近くの椅子に腰掛ける。
三笠研究員: やることが出来た。起きてほしい。
芦洞保護官: 僕は死んだ。
三笠研究員: 何を言ってるんだ。怖いのか?
芦洞保護官: 一度死んだんだよ。だから —
三笠研究員: 二度は死にたくないって? 君が床じゃなくゴミ箱に吐いたのはこれからもこの部屋を使うという見通しがあったからじゃないのか? あのクモを倒して、生き残るために。
芦洞保護官: ゴミ箱に吐いたのは君らにゲロを見られたくなかっただけだ。
三笠研究員: ここで寝ててもタイムリミットが来て、二度目の死は不可避だろうに。
芦洞保護官: 正論はやめてくれ。
三笠研究員: (溜め息) いいか、私は君の専門 — 物語云々だとか、ピックマンだかパックマンだかの理論なんてのはよく知らない。だが、神話類型的に言えば、死はむしろチャンスだ。
芦洞保護官: 何だよ、僕にキリストにでもなれってか?
三笠研究員: それすら一例さ。境界を越える者には力が授けられる。それに、挫折を乗り越えるなんてのは物語にはよくある展開じゃないか。
芦洞保護官: 今のはランプシェード的だな。君はスロースピットに行っても出世しただろうよ。
三笠研究員: 調子が出てきたな。
芦洞保護官: 結局、僕は誰かに背中を押して貰いたかっただけかもしれない。我ながら全く面倒な性格だ。
芦洞保護官は簡易ベッドから起き上がる。
芦洞保護官: それで、何をすればいい?
三笠研究員: UHE-2943が移動した。行方は不明だ。
芦洞保護官: ああ、そいつは死んでる場合じゃなかったな。すまない。
[記録終了]
後記: Turquoise.aic によるバイタル値の解析から、芦洞保護官の精神状態は十分に改善したと評価された。
簡易的な現状確認ブリーフィングの後、芦洞保護官は Turquoise.aic に対し、「科学者、芸術家または宗教家」と「意識不明」をキーワードとして、財団のWebクローラーシステムから情報収集するように命じました。結果として、12/02 13:20から14:00の間に財団の数学者3名が意識不明となっており、数学部門とRAISAによって情報封鎖措置が行われていたことが判明しました。以下は、この情報を元に行われた会議の音声記録です。
音声記録-5
日時: 2022/12/02 14:03 PM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic
- 芦洞保護官
- 三笠研究員
[記録開始]
三笠研究員: なるほど数学者がね。
芦洞保護官: 恐らく、UHE-2943は数学に関連する概念に新たな巣を設けた。それも財団の数学者だけが倒れているのだから、異常なものだろう。
三笠研究員: ここの2人について言えば、数学は自分の研究に使う分くらいしか分からないぞ。どうする?
芦洞保護官: 巻き込むなと言いたいが、反論も出来ないな。我々だけでは目星をつけることすら不可能だ。別のアプローチを考える必要がある。
三笠研究員: さてどうしたものか。
芦洞保護官は Turquoise.aic が実行されているコンピュータ画面に視線を向ける。
Turquoise.aic: どうかされましたか?
芦洞保護官: Turquoise.aic、異常な方法で演算を実行する計算機のオブジェクトを、SCiPNETからリストアップしてくれ。
Turquoise.aic: 了解です。
三笠研究員: 何か思いついたみたいだな。
芦洞保護官: 人類が証明済な問題はどれだけ難しくても解けて、未証明な問題は一切できない、そういう性質のスキップがないか? その手の連中は叡知圏から情報を取得している可能性がある。
三笠研究員: なるほど。
(録音上の沈黙)
SCP-329-JPは、細長い線のような体型の異常な生命体であり、数学的な論理プロセスを実行する能力を有します。このプロセスの実行はSCP-329-JPの生命維持に必要であるとみられ、方程式を解く、命題を証明する、自身の身体を利用してグラフを描画するといった行動が含まれます。
実験の結果、SCP-329-JPにとって、人類の数学体系において現時点で未証明な問題を証明することは不可能であることが示唆されました。一方で、SCP-329-JPの収容後に証明された、その方法を知り得ないはずの問題であっても、その内容を記述することが出来た点は特筆すべきです。
芦洞保護官: ビンゴ、329-JPだ。このオブジェクトは緊急時拡張レベル4権限で利用可能か?
Turquoise.aic: 可能です。
芦洞保護官: そうか、では倒れた数学者たちのクリアランス範囲で取得可能な異常な数学的観念をリストアップするんだ。いくつある?
Turquoise.aic: 7件です。
芦洞保護官: 担当者に緊急連絡を入れて、329-JPを実験用に7体用意するよう指示を出せ。
Turquoise.aic: 了解しました。
芦洞保護官: そしたら、さっきのリストから、証明か演算の実行を指示する文章を作成してくれ。329-JPに実行させてスクリーニングする。
三笠研究員: かなり良いアイデアに思えるな。
芦洞保護官: ただし、試験は大型哺乳類に対応した空のチャンバーで行う必要がある。クマが出るかもしれんからな。
三笠研究員: (笑い声)
[記録中断]
[記録再開]
考案された試験は安全性のために細部を修正の上、問題なく指示・実行された。約2時間後の16:21、試験の結果が報告された。
Turquoise.aic: 結果が出ました。
芦洞保護官: どうだった?
Turquoise.aic: クマは出ませんでした。
芦洞保護官: 畜生。
[記録終了]
後記: 試験の結果、UHE-2943はSCP-1313に関連する概念上に存在していると推測された。再現試験が行われた。
SCP-1313は、その解が1頭の雌のヒグマ (Ursus arctos) である数学方程式として定義可能な異常論理プロセスです。SCP-1313は解かれることにより、有形の成体ハイイログマ個体を生成します。この解は物理的に表現される必要はなく、解に達するのに十分な思考を行うだけであっても、クマの出現を誘発します。SCP-1313プロセスの一部の省略、中断、途中からの開始は、異常効果を生じさせません。
一連の再現試験の後、SCP-1313の論理プロセス実行過程においてSCP-329-JP実例が死亡し、プロセスの完遂に至らないことが判明しました。この結果は、UHE-2943が叡知圏上のSCP-1313に関連する概念に営巣していることを示唆します。
続くSCP-3333-JPを用いた叡知圏探査の結果、UHE-2943のSCP-1313関連概念への営巣が実証されました。加えて、UHE-2943の周囲に、3体のクマ型の存在が確認されました。これらは、SCP-1313、または近接したその他のクマ関連概念を通じ、UHE-2943による制御を受けていると考えられました。
多角的アプローチによる問題解決方法の探索のため、SCP-3333-JPタスクフォースチームは、設定された時間内において各自が考え出した手法を提言するための機会を設けました7。以下は会議の音声記録です。
音声記録-6
日時: 2022/12/03 10:03 AM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic
- 芦洞保護官
- 三笠研究員
前記: 発表は、芦洞保護官、三笠研究員、Turquoise.aic の順に行われた。
[記録開始]
芦洞保護官: さて、SCP-3333-JPの改変力を直接UHE-2943にぶつけても勝てない。それは前回分かった。僕の提言は、叡知圏上の別の概念を利用するということだ。
Turquoise.aic: それは既存のものに改変を加えるということですか? 叡知圏保護の理念に反するのでは?
芦洞保護官: 多少マキャヴェリズムじみて聞こえるのも分かる。だが、実際のところ、叡知圏にはある程度の自己修復性があるはずだ。
Turquoise.aic: なるほど。
三笠研究員: それに、そもそも多少弄ったくらいでは損害すら受けないんじゃないか?
芦洞保護官: そう。知は噴水か、あるいは川に似ているようだ。同じ形を保っているように見えるが、構成する水は常に流動している。一部を汲み上げて使っても本体が崩れたりはしない。
三笠研究員: 知者楽水とはよく言ったものだ。
芦洞保護官: さらに言えば、そこらにあるような概念は、現代文明が続く限り減っても補充されるものばかりだ。氾濫する広告イメージ。大量生産品。模倣の模倣。だろ?
三笠研究員: 手垢のついたポストモダン講義は結構だが、それで勝算はあるのか?
Turquoise.aic: それが最も重要な論点です。
芦洞保護官: 1つ、強力な切り札を想定している。だが、その分扱えるかは不安かな。
三笠研究員: だったら私の提案は役に立ちそうだ。
芦洞保護官: それは楽しみだ。
[記録中断]
[記録再開]
三笠研究員: 私の案は、SCP-3333-JPの作用をより強力にする方法についての考察から生まれたものだ。
芦洞保護官: よしきた。
三笠研究員: 焦らず行こう。まず前提として、アテナは処女神だ。一部を取り出したとは言っても、男性に対し適合的ではないのではないかと考えられる。
芦洞保護官: ええと、それは女性に使わせるということか? 新メンバーを加えるのは慎重にと —
三笠研究員: 話は最後まで聞くものだ。Turquoise.aic、外的性転換でフラグ付けされたオブジェクトのファイルを、SCiPNETからリストアップしてくれ。
Turquoise.aic: 了解しました。
芦洞保護官: ああ、もう何も聞きたくない。
三笠研究員: 緊急時拡張レベル4権限で利用可能なものに絞り込んで、成功率と現在位置からのアクセス性を考慮して並び替えてほしい。
Turquoise.aic: 実行中です。
芦洞保護官: 出来れば痛くないやつを。
(録音上の沈黙)
SCP-1265-JPは、付近の男性を対象とした外的性転換イベントを発生させる異常性を有する岩石です。異常性の対象となった人物はメイド服を着用した女性へと変化し、その人格は次回のイベントの発生までの間、SCP-1265-JPの制御下に置かれます (この状態の対象者をSCP-1265-JP-Aと呼称) 。
通常、この異常性の活性化は不定期かつ自発的です。一方で、SCP-1265-JP-Aを拘束する、あるいは攻撃を加える等の外的作用により、即時の活性化を誘発させることも可能です。
Turquoise.aic: 強い痛みに対する言及のあるファイルを除くと5件です。最上位は、SCP-1265-JP です。
三笠研究員は表示されたファイルに目を通す。
三笠研究員: では、これに決めようか。
芦洞保護官: よりにもよってメイド服だと。仕方がない。
三笠研究員: もっと嫌がると思ったよ。
芦洞保護官: こっちは一度死んだ人間だからな。
[記録中断]
[記録再開]
Turquoise.aic: 私の提案は至ってシンプルです。作戦実行者である芦洞保護官を応援します。
三笠研究員: ええと、それは — 説明をお願いしたいかな。
Turquoise.aic: SCP-3333-JPの異常効果の発現中であっても、聴覚と触覚は部分的に身体に残存しています。これまでも指示や情報共有を行ってきましたが、今回の提案ではこれを利用し —
三笠研究員: 実行の方法じゃなくて、その…… 応援によって作戦成功率が上がると?
Turquoise.aic: 統計を元にお答えすれば、はい、その通りです。もちろん劇的なものではありませんが、ローコストでの実施が可能という点を考慮すれば、実行すべきでしょう。
芦洞保護官: なかなか悪くない提案じゃないか。僕は是非とも応援してほしいね。
三笠研究員: 実行者がそう言うなら反対はしないが。
芦洞保護官: それにしても、人工知能君はもっとお堅い発想をすると思っていたよ。
Turquoise.aic: 私どもAICは、開発過程で配属先サイトに向けて特化した学習を施されていますので。
芦洞保護官: 81CHはそういう場所だって?
三笠研究員: 否定できないな。
[記録終了]
後記: 3者の案はいずれも (会議中に合意に達しているため形式的ではあるものの) 投票によって全会一致で可決された。(3-0)
作戦内容の詳細に関する議論と、緊急時拡張クリアランスの適用による芦洞保護官のEクラス職員への再割り当てに続き、サイト-8181 管理官の許可の下、当該作戦は "オペレーション: ツイステッド・スネークス" として実行に移されました。
作戦記録-2
オペレーション: ツイステッド・スネークス
日時: 2022/12/03 19:30 PM
場所: サイト-8181 地下収容室
関係者:
- 芦洞保護官
- 三笠研究員8
- D-81529
前記: 当作戦は、SCP-1265-JP収容担当職員の協力のもと行われた。余分な詮索による情報災害の漏洩を抑制するために、芦洞保護官はDクラス職員の制服を着用している。担当職員らには「差し迫った異常事態への対処のために条件を満たす女性検体が必要であるが、完全に条件に合致した職員はいなかった。そのため、性別以外の条件を満たしたDクラスをSCP-1265-JPを利用して性転換させる」と説明された。
[記録開始]
芦洞保護官は、SCP-1265-JPが収容されている地下収容室に入室し、SCP-1265-JP-A (D-81529) の背後に回る。
芦洞保護官: やるぞ。
三笠研究員: よし。頼む。
芦洞保護官がSCP-1265-JP-Aを腕で拘束する。SCP-1265-JP-Aはそれに抵抗する。
三笠研究員: 意外と力強いなこいつ。
SCP-1265-JP-Aは突如として抵抗行動を停止する。
芦洞保護官: さようなら — 男の自分。
SCP-1265-JPの異常性が活性化する。芦洞保護官は約1分30秒の時間をかけ、新たなSCP-1265-JP-Aへと変化していく。
この間に収容室付属独房に新規のDクラス職員が補充される。
芦洞保護官の変化完了と同時に、以前のSCP-1265-JP-AであったD-81529が意識覚醒状態へ復帰する。D-81529は非常に困惑した様子を見せる。
D-81529: どうなって — え? ん?
三笠研究員: (通信機越しに) D-81529くん、説明は後だ。振り返って、そこにいるメイドさんに抱きついて、拘束してもらえるかな。
D-81529: はあ? もう、何だか分からんが…… ええい。
D-81529がSCP-1265-JP-A (芦洞保護官) を腕で拘束する。SCP-1265-JP-Aはそれに抵抗するが、抵抗行動はすぐに停止する。
SCP-1265-JPの異常性が再度活性化し、先ほど補充された新規のDクラス職員がその対象となる。
D-81529: ええ、倒れたぞ —
三笠研究員: ご苦労様、担当職員さんに身体検査してもらって。
D-81529が収容室から退出させられる。
約1分30秒後、芦洞保護官が意識覚醒状態へ復帰する。
三笠研究員: おかえり。
芦洞保護官は腕組みをして監視カメラを睨み付けるが、すぐに笑みを浮かべる。
芦洞保護官: ただいま。それと初めまして、かな。
三笠研究員: これからよろしく頼むぞ。
芦洞保護官が収容室から退出する。
[記録終了]
後記: オペレーション: ツイステッド・スネークスは成功裏に完遂された。
上記の結果を受けて、UHE-2943の無力化のための作戦 "オペレーション: アラクノマキアー" の実行が決定されました。2022/12/04 に最終ブリーフィングが行われ、作戦は実行されました。以下はその記録です。
作戦記録-3
オペレーション: アラクノマキアー
日時: 2022/12/04 13:00 PM
場所: サイト-81CH 第2会議室
関係者:
- Turquoise.aic (記録員)
- 三笠研究員 (補助員)
- 芦洞保護官 (実行員)
前記: 作戦記録-1と同様のため省略。
[記録開始]
芦洞保護官は椅子に座り、コンピュータに接続された夢イメージ抽出装置を頭部に装着している。SCP-3333-JPが活性化される。
イメージ描画映像は暗転し、不鮮明な光景を映し出す。芦洞保護官の主観意識はSCP-3333-JP-Aに騎乗している。
芦洞保護官: 用意がいいね、君もやる気満々か。
芦洞保護官: さあ行こうか。
SCP-3333-JP-Aは飛翔し、SCP-1313に関連する概念区域に向かって移動する。
芦洞保護官: 数学的観念と動物の中間区域という感じだ。自分で言ってても意味不明だな。
三笠研究員: そろそろか。
イメージ抽出映像はUHE-2943を映し出す。
芦洞保護官: よし、目標を発見。
三笠研究員: 熊出没注意だ。
芦洞保護官: ああ。
SCP-3333-JP-AがUHE-2943に接近すると、クマ型の敵性存在が3個体出現する。
三笠研究員: 手筈通りにな。
芦洞保護官: オーケー。
クマ型存在の1体が高速で飛翔し、向かってくる。SCP-3333-JP-Aはそれを避ける。
芦洞保護官: 要するに、奴はクマ数式を足がかりにクマ全体の包括的イメージの集合体にアクセスしている。
芦洞保護官: そこから、恐ろしい猛獣としてのイメージだけを引っ張り出してきて表出させているわけだ。
先ほど避けられたクマ型存在が空中で旋回し、再度突進してくる。
芦洞保護官: だから、こちらも干渉して、それ以外のイメージを引っ張り出す。上書きする。
芦洞保護官は掌をクマ型存在に向ける。クマ型存在の身体は糸状に崩壊し、再構成されてテディベア状になる。
芦洞保護官: いいね。
残り2体のクマ型存在は様子を伺うようにして、動かない。
芦洞保護官: おや、怖気付いたか。
UHE-2943がクマ型存在らを脚で突く。クマ型存在が両者とも同時に突進してくる。
芦洞保護官: ひどい上司だな。
三笠研究員: 2体、いけるか?
芦洞保護官: メイドになったお陰かな —
芦洞保護官は、左右両側から攻撃してくるクマ型存在に対し、両手を広げて向ける。2体ともに、1体目と同様に崩壊し、再構成される。
芦洞保護官: お裁縫は得意になったよ。
三笠研究員: すると、あとは本丸か?
芦洞保護官: ああ。リベンジだ。
SCP-3333-JP-AはUHE-2943の周囲を飛翔する。UHE-2943は脚を伸長させて攻撃するが、全て回避される。
芦洞保護官: まずは一発、こんなのはどうかな。
複数枚の巨大な折り紙が下から舞い上がるように現れ、SCP-3333-JP-Aの周囲に浮かぶ。それらはひとりでに折れ、紙飛行機を形作る。
芦洞保護官が何かを投げるような動作をするとともに、紙飛行機群はUHE-2943に向かって高速で発射され、衝突する。
三笠研究員: いいぞ!
芦洞保護官: いや、あまり効いてないかもだ。
芦洞保護官が新たな紙飛行機群を用意して放つ。UHE-2943は網状構造を周囲に展開し、身を守る。
芦洞保護官: 実にクモ的だ。
UHE-2943は網状構造を攻撃目的で射出する。芦洞保護官は大量の八分音符を集合させて壁を作り、身を守る。
芦洞保護官: そういえば三笠に聞いたが、クモってのは高慢さの象徴なんだって? …… だったら、この世で一番高慢ちきな奴らを知ってるか?
芦洞保護官が指を鳴らすと、八分音符は分散・再集合して複数の円盤状構造を形成し、射出される。
円盤はUHE-2943の脚の1つに集中して着弾し、断裂させる。
芦洞保護官: そいつらは、何だって自分達の支配下にあると思っていた。だけど、ある日少しだけ反省してね。
芦洞保護官の身体が発光し始める。発光が止まると、芦洞保護官の服装は鎧に変じており、槍を装着している。
芦洞保護官: 互いに敬意を持って、時にはこんな風に、誰かの力を借りた方が上手くいくこともあると知ったんだ。
芦洞保護官が槍を上に向けて掲げる。UHE-2943の周囲にエンパイア・ステート・ビルディングの複製が3本出現し、UHE-2943を挟み込んで動きを止める。
芦洞保護官: 君は知らないみたいだから、教えてあげよう。
芦洞保護官が槍をUHE-2943に向けて投擲する。
芦洞保護官: 確保。
槍は3本に分裂し、黒い矢印状の構造物へと変化する。UHE-2943はビルディングによる拘束から抜け出すが、矢印状構造物の接近には対応できない。
構造物は、UHE-2943に高速で衝突し、突き刺さる。
三笠研究員: いけ!
UHE-2943は身体を振動させ、矢印状の構造を振り落とそうとしているように見える。
芦洞保護官: 収容。
円を描く黒い輪状の構造物が出現する。構造物は次第に半径を縮小させるが、UHE-2943の抵抗を受けて縮小速度は減速していく。
三笠研究員: 頑張れ!
Turquoise.aic: 頑張ってください!
縮小が再加速する。輪は矢印状構造に重なり、その動きを止める。UHE-2943の動きは明らかに鈍くなる。
三笠研究員が自身の右手を芦洞保護官の左肩に置く。続けて、Turquoise.aic がソフトタッチ・マニピュレーターの作用部を右肩に置く。
芦洞保護官: 保護!
さらに外側に、3つの突起のついた黒い輪状の構造物が現れる。構造物は回転しながら急速に縮小する。
3種の構造物が合わさり、歪んだ財団のロゴマークを構成する。UHE-2943は完全に動きを止める。
芦洞保護官: SCP財団っていう奴らさ。
SCP-3333-JPが不活性化する。芦洞保護官は正常な意識覚醒状態に復帰するが、直後に睡眠状態へと移行する。
Turquoise.aic: お疲れ様でした。
三笠研究員: お疲れさん。
[記録終了]
後記: UHE-2943は現在、叡智圏上の財団の概念集積体の延伸部に固着されており、"収容状態"にあると推測されます。
作戦終了後、三笠研究員によるSCP-3333-JPを用いた探査が行われ、UHE-2943が非活性状態にあることが確認されました。以下は、探査の終了と、芦洞保護官の起床の後に記録された会話の記録です。
音声記録-7
日時: 2022/12/04 16:17 AM
関係者:
- 芦洞保護官
- 三笠研究員
- EoI-TR-01 ("ヘルメス")
[記録開始]
三笠研究員が、EoI-TR-01の名刺に対して、儀式を執り行っている。呪文は日本語で唱えられている。
芦洞保護官: 出てこないな…… ギリシャ語とかでやった方がいいんじゃないか?
三笠研究員: では少し付け加えてみるか。エーデー・エーデー・タキュ・タキュ9。
名刺から強い光が発せられ、それと同時にEoI-TR-01が出現する。EoI-TR-01は、通常身につけている帽子を着けていないなど、服装に変化が見られる。
EoI-TR-01: 僕の力が必要かい? 緊急事態かな?
三笠研究員: いえ、残念ながら —
芦洞保護官: 喜ばしいことに、だろう。
三笠研究員: 喜ばしいことに、これは戦勝報告会です。
EoI-TR-01: ああ、焦らずに正装してくるべきだった。急ぎじゃないならあの呪文はなしにして貰えるか?
EoI-TR-01は不明な異常性により自身の服装を整え、三笠研究員と芦洞保護官に対し握手を求める。
EoI-TR-01: 本当にありがとう。
EoI-TR-01: (芦洞保護官と握手しながら) そうか、君は境界を越えたのか。
芦洞保護官: はい。
EoI-TR-01: 境界を越える者には —
芦洞保護官: 力が授けられる、ですよね?
EoI-TR-01: ああ。この知恵の梟は君たちが持っていてくれ。彼女もお礼に渡してもいいと言っていた。
芦洞保護官: 定期的に収容の綻びがないか監視する必要がありました。助かりますよ。
EoI-TR-01: 収容だって?
芦洞保護官: ええ。叡智圏上にです。
EoI-TR-01: いやはや、君たちらしいね。いずれにせよ、よろしく頼むよ。
[記録終了]
後記: SCP-3333-JPは財団の管理下に入った。Thaumielクラスオブジェクトとして正式に分類される予定である。
事態終結報告
サイト-81CH 管理部門
要約: 叡智圏における情報災害性敵性概念体の出現。レベル4職員2名による複数のSCPオブジェクトの戦略的運用により、事態は解決された。
ステータス: 解決済み、経過観察の必要あり。
財団資産に対する不可逆的損害: レベル4職員1名の生得的性別の恒久的改変 — カウンセリングの必要あり。
副次的利益: SCP-3333-JPの獲得。GoI-8189との友好的関係の進展。
その他: 関係職員2名に対する冬季特別賞与は十分に増額されるべきである。
報告者: 人工知能コンスクリプト Turquoise.aic