クレジット
タイトル: SCP-3360-JP - イエス・キリストの再来を100,000,000人くらい呼び出すためのハウトゥー、もしくは死を超越する超大規模な公共事業
著者: CrabButter_12
作成年: 2025
アイテム番号: SCP-3360-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3360-JPの発生範囲・頻度は財団の収容能力を大幅に超過しており、カバーストーリー・記憶処理による隠蔽は不可能であると判断されたため、LK-クラス: ”捲られたヴェール”シナリオが宣言されました。現在SCP-3360-JPの発生要因の調査が行われています。
説明: SCP-3360-JPは2025/05/24 23:56:34(UTC)以降に基底世界全域で発生した死者蘇生現象です。SCP-3360-JPが発生した際、対象となった人間は肉体を構成していた物質が最も多く分布している地点を中心として、肉体が死亡直前の 生命活動が維持可能な状態で再構成されます。また、この際遺体の状態に関わらず、死亡時に所持していた衣服・物品も同時に再出現します。
多くの場合、SCP-3360-JPが発生する地点は遺体・遺骨が埋葬された地点、すなわち墓地となるため、蘇生した人間はその直後に圧死・窒息死することとなります。また、溺死もしくは海上に散骨された後にSCP-3360-JPにより蘇生したと思われる水死体、構成する物質が完全に拡散したことに起因すると思われる空中でのヒトの出現・落下が全世界で多数確認されています。その性質上、財団が観測に成功したSCP-3360-JPは全体の10~15%程に留まっていると推測されています。
補遺1: インタビュー記録3360-JP-1
2025/05/25、葬祭部門による葬儀が行われる予定であったD-32231を対象としてSCP-3360-JPが発生、死亡することなく蘇生しました。D-3223は死亡から蘇生までの期間に関する不明な記憶を保有していました。以下は実施されたインタビューの記録です。
インタビュー記録3360-JP.1
Record 20██/██/██
インタビュアー: ██研究員
対象: D-3223
«ログ開始»
██研究員: ではD-3223、貴方が死亡してから蘇生するまでに何があったのかを説明してください。
D-3223: 分かった。順を追って話していく。
D-3223: まず、俺は死んだ後……霧がかかった川岸みたいな場所に飛ばされた。
D-3223: 最初は戸惑ったよ。死にかけたと思ったら良く分からん場所に飛ばされて……けど、それはすぐに収まった。
██研究員: 続けてください。
D-3223: 霧の向こう側に……母さんの姿が見えたんだ。女手一人で俺を育てて、喧嘩っ早い俺のことをずっと心配してたんだ。けど病気でぽっくり逝っちまって……
D-3223: ずっと謝りたかったんだ。沢山迷惑をかけたこと、死刑囚なんかになったこと……言いたいことが色々あったんだ。そう思うと何の疑問も持たずに、川に向かって走……いや……あれは……
██研究員: どうしましたか?
D-3223: いや、話の内容からしてあれはどう考えても三途の川と思うんだ。死んだ後にたどり着いたり、向こうに死んだ家族が見えたり……
██研究員: 内容的には三途の川と類似していますね。でもそれとは何らかの相違点があると。
D-3223: ああ。俺が見たのは川と言うより……小雨が降った後の用水路みたいな、そんな感じのやつだったんだ。
██研究員: ……はい?
D-3223: 流石に例えが悪かった。深くても足首にギリギリ浸かるくらいで、流れもめちゃくちゃ緩やかだった。走っていて全く障害にならないくらいには。
D-3223: 最初は気にしていなかったが、次第に違和感の方が勝ってきて……その頃には、もう母さんの姿は見えなかったし、向こうに渡ろうという気も失せていた。
D-3223: そして思ったんだ。川の向こうがあの世なら、最初にいた地点の更に奥に行けば元の世界に戻れるんじゃないかと。
██研究員: それでどうなりましたか?
D-3223: 戻って来れた。あんたらが葬儀の準備をしている最中に。
«ログ終了»
補遺2: 調査記録SCP-3360-JP-A
D-3223の証言により存在が判明した形而上空間(以下:SCP-3360-JP-A)についてDクラス職員を用いた調査が行われ、以下に記す性質が判明しました。
- SCP-3360-JP-Aは人間が死亡した直後にその意識が転送される。
- 死亡した人間は肉体が完全に健康な状態で河岸に出現する。また、この際死亡時に所持していた衣服・物品も同時に再出現する。
- SCP-3360-JP-Aに侵入した人間は河川の対岸に親族や友人などが存在すると認識し、対岸への移動を試みる。この効果は時間が経過することで弱まる他、認知抵抗値が高い人間はより早期に影響を脱することが可能である2。尚、対岸に到達した人物がどうなるかは不明である。
- 河川の水深は最大10cm程であり、流量も極僅かである。このため対岸へ向かう際の障害とはなり得ない。
- SCP-3360-JP-A内で人間は異常な自己再生能力を保有する。これにより通常では致命的な負傷を受けたとしても即座に回復するが、痛覚は通常の人間と同様に維持されている。また、SCP-3360-JP-A内で人間は疲労を感じず、代謝も行わない。
- SCP-3360-JP-A - 基底世界間での通信は不可能であるが、撮影・録音機器は使用可能であるため、それらの機器を保有した状態で死亡・蘇生することで内部の情報を記録することが可能である。
これらの内容は臨死体験において典型的な「三途の川で家族・友人に招かれた」という証言と複数の類似点を有しますが、少なくともSCP-3360-JP発生以前に財団が把握した臨死体験の記録と比較して、SCP-3360-JP-A内で認識される河川の流量は明らかに少量です。この事からSCP-3360-JPの発生要因はSCP-3360-JP-A内の河川の流量の減少によるものであるとの仮説が提示され、SCP-3360-JP-A上流部の調査が決定されました。
補遺3: 探査記録SCP-3360-JP
探査記録3360-JP
Record 20██/██/██
内容: D-3223を標準的探査用装備を持たせた状態で死亡させ、SCP-3360-JP-A内に侵入させる。
«ログ開始»
[カメラは濃霧を、マイクは足音を記録している。探査開始から3時間以上が経過しても記録される内容に変化は見られない。]
D-3223: ……もう3時間以上歩いているのか。疲労が無いとはいえ、精神的にきつくなってきたぞ。
D-3223: 霧のせいで自分がどこにいるのかいまいち分からない上に、自分の声と足音以外何も聞こえないのがきついな。
D-3223: ……余計なことは考えない方がいいな。
[D-3223が更に2時間程移動する。記録される内容に変化は見られない。]
D-3223: これ、本当に終わりが見えな……
[マイクが僅かに水音を記録する。]
D-3223: ……なんで水の音が聞こえるんだ?
[D-3223の歩行速度が上がる。それに伴い水音がよりはっきりと記録される。]
[D-3223が停止する。]
D-3223: なんじゃありゃ。
[カメラはコンクリート製と思わしき巨大な建造物を映し出している。建造物の下部からは大量の水が放出されている。]
D-3223: 馬鹿でかい……ダム?
«ログ終了»
D-3223が建造物内部への侵入を試みた際、偶発的に一般的に「鬼」と呼称される存在に外見が類似する口碑実体と接触、対話が行われました。以下はその際の音声記録です。
インタビュー記録3360-JP.2
Record 20██/██/██
インタビュアー: D-3223
対象: 口碑実体
«ログ開始»
D-3223: ……じゃあまず、名前からお伺いしても?
口碑実体: [判別不能な発声]です。
D-3223: すまん、もう一回言ってもらえるか?
口碑実体: [判別不能な発声]。
D-3223: ……あんたって読んでもいいかい?
口碑実体: 全然かまいませんよ。
D-3223: ありがとう。じゃあ本題に入ろう。
D-3223: まず、あんたはこのダムについて何か知っているのか?
口碑実体: ええ。というかこれ作ったのが我々なので。
D-3223: ……どうしてこんなものを作ったんだ?下流の方は水が枯れちまってるぞ。
口碑実体: それが目的なんですよ。だって川があったら死者が対岸に渡れないじゃないですか。
D-3223: ……確か、三途の川って、対岸まで船で送ってくれる渡し守みたいなやつがいるんじゃなかったのか?そいつらはどうした。
口碑実体: 全員ストライキを起こしています。
D-3223: ……は?
口碑実体: ずっと運賃の六文銭を給料にしていたのですが、最近物価も上がってるので「八文銭にしろ」とか「有休を増やせ」とか言って仕事をボイコットしてるんですよ。
口碑実体: 亡者が川を渡れなくなると流石に困るので、今は突貫工事でダムを作って凌いでいます。
D-3223: ……あの世に物価とかあるの?というか橋掛けるなりダム作るのに使う金を渡し守たちに分配すればいいんじゃないのか。
口碑実体: そりゃありますよ。最近は人口増加に比例して亡者も増えてますし、こっちも色々と苦しいんです。
口碑実体: 橋は何本も建てる必要がある上崩れる可能性がありますし、全員の賃金を3割増やすよりはダム作ったほうがコスパがいいらしいです。あとストライキに負けたという既成事実を作りたくないとかなんとかと上が言っていました。
D-3223: 経済の話は今はいい。今までの話をまとめると、渡し守が全員いなくなって川を渡れなくなったから、ダム作って川を枯らして解決したということであってるか。
口碑実体: はい。
D-3223: 死者が現世に戻ってこれるようになってるが。それも徒歩で。
口碑実体: それは仕方がないですね。対岸に家族がいると錯覚させてる間に、渡し守で川を渡らせるという形で一方通行にしていたので。まぁ戻った瞬間に酸欠か窒息で死ぬので生者が増えることはそうそうないと思います。
[5秒ほどの沈黙]
D-3223: ……じゃあ最後に、この状況はいつ終わると思う?
口碑実体: 当事者じゃないので断言はできないですが……流石に2週間もすればストライキは収まるんじゃないですかね。そうなったら徐々に水を放出して、元の川の状態に戻します。
D-3223: 分かった。お時間いただきありがとう。
«ログ終了»
この会話記録から得られた情報を元に、財団はSCP-3360-JP、SCP-3360-JP-Aに対する介入を避け、事態の鎮静化を待つ方針を決定しました。SCP-3360-JPの終了が確認され次第アンニュイ・プロトコル、及び複数の正常化措置が実行され、LK-クラス: ”捲られたヴェール”シナリオの終了が発令される予定です。









