SCP-3363-JP
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記録データ情報


ファイル名: SurveyTeamA15.Spatial_Psychological_Infomation_Map.29271204B.log
回収日時 2960/02/01
回収者: 緑神 - 外郭調査部隊-己庚60
復元状況: 復元済


ファイル名: Site-19_AdminNotificationDocument_N9q4L12aGnZ.ptx
回収日時 2960/02/01
回収者: 緑神 - 外郭調査部隊-己庚60
復元状況: 復元済


ファイル名: DiscriptionDocument_FSF-3363-EPSILON.ptx
回収日時 2960/02/01
回収者: 緑神 - 外郭調査部隊-己庚60
復元状況: 復元済

2927年12月4日

SCP財団北米本部
サイト-19管理官 オリビア・アレクサンドル



A15事故調査班に対する特別捜査権限の付与の通知



 SCP財団における特別警報N51 (外部からの特殊攻撃の発生) 発令に伴い、 財団施設管理者に一部特例措置として個別行動権限が付与された。それに際し、SCP財団に対し発生する各諸問題の抜本的解決を目的とした下記人員に対する特別捜査権限ならびに責任所在の移譲を命ずる。以降、各人員はO5監督評議会による特別警報解除の宣言があるまで独断での行動が許可される。各人員、事態改善に向けて手段を選ばずあらゆる方策を講じ、事態が収束されるまで最善を尽くせ。



①特別捜査責任者

  • 古河 京介 (A15事故調査班長, フィールドエージェント)

②副次責任者

  • ハーヴェスター・ローゼンバーグ (情報分析顧問)
  • ローグウェル・マダラザ (技術官)
  • テレミー・キュリオン (技術官)
  • イリシア・トッド (フィールドエージェント)




以上



2927/12/4
02:04:23 (北米連邦時間)
北米連邦 アラスカ州上空
財団標準輸送艇 ERV-22

北米大陸上空から見る地上は、あまりにも混沌極まる景色ばかりだった。あらゆる建物がうごめく黒いカビのようにさえ見える金属の塊に飲み込まれ、街行く人々は騒乱と轟音で踏みつけられていく。報告の上では知っていた。『触れた金属を自身と同じ構造に加工し、自身と同じ構造に変質させ、増殖する』、インクリニティウムの暴走形態。現在進行形で、山を、大地を、川を覆いつくす津波。材料が不足すれば、次元に穴をあけて並行世界から金属を引っ張るというその貪欲ぶりは、巻き添えを喰らった世界からどう見えるだろうか。盗蜂を呆然と眺めるニホンミツバチの気持ちに近いのかもしれない。そういった意味では、この世界の人類はニホンミツバチの気持ちがわかることはないだろうことは明白だった。


「オタワ、飛び立った時には、もうほとんど地上が見えませんでしたね」

「俺たちが発てたのはある意味奇跡だったのかもしれん。施設外ギリギリまであの塊が迫っていたからな」

「ニューヨークで見たあの瓦礫の山が、既にここまで広がっているとは……」

機内から窓の外を不安げに見るキュリオンに、ローゼンバーグは手をポケットに入れたまま、天井を見ながらつぶやくように言う。そんなものを見ていてもなんの意味もない、と言いたげに、こけた頬の彼はため息をつく。

「プレイルがいつの間にか私たちからいなくなっていたと思ったら、まさかアトラスタの重役のところに連れて行かれてたなんて……引き渡し要請があったなんて話もないし、まさか秘密裏に管理官が?」

「そうだとしたらまだ良かったんだがな」と自動航行システムで制御され、操作する必要すらない運転席に深く腰掛けながら、まっすぐと視界を見据えてイリシアに言う古河。

「おそらくエノラのあの口ぶりからして、財団内に財閥の諜報員が紛れていた可能性を考えるのが自然だろう。俺たちが財閥周辺を嗅ぎ回っていたのは既に2度の取り調べで知られていたことだろうし」

「組織のパワーバランスやこれまでの活動経緯からしても、財閥は財団に、A15班周辺にスパイを送っていてもおかしくはなかった……ってところっすかね」

古河のセリフに重ねるように、頸髄から伸ばしたケーブルを接続した端末を操作するマダラザが不安げに言うと、古河は「そういうことになるな」とだけ答えた。

「いずれにせよ、俺たちはエノラとイサナギ、そして財閥の役員共を制圧しなければならない。目指すはアトラスタ財閥の管轄する施設、イザナミだ」

「うーん。とは言っても、そのイザナミっていうのがどういう施設なのか、あたしたち全然知らないワケじゃん。リーダーは情報得てるの?」

古河の言うそれに対してのイリシアの問いには、後ろでうなだれていたローゼンバーグが答える。

「嬢ちゃん、そいつは既にリーダーの端末から全員に資料が配られてるはずだ。HUDの添付ファイル欄を確認しとけ」

イリシアは顔を若干しかめながらも、視界に表示されているUIに通知が出ていることに気づき、言われた通りに開いた。



監視施設FSF-3363-EPSILON: 人工神格体創造研究センター "イザナミ"
2820年6月11日 SCP財団北米本部 諜報通信部門

イザナミ2.png

2817年時点の"イザナミ"。

基本情報

正式名称: 人工神格体創造研究センター "イザナミ"

所在: 北アメリカ民主共和国連邦アラスカ州フェアバンクスノーススター郡 (64°45'48.4"N 146°06'02.1"W)

建造年: 不明

発見日時: 2803年

所属: アトラスタ・ディエティラント(~2809年)、アトラスタ・インダストリアル(~2820年現在)

概要

人工神格体創造研究センター "イザナミ" (以下、単に "イザナミ" と表記) は、 アトラスタ財閥が管轄する極秘研究施設の1つである。北米連邦アラスカ州に位置しており、後述のインシデント "BREAK" が引き起こされるまで財団もその正確な位置や保有する諸機能を把握できないままであった。

イザナミは、人類の信仰能力を利用した人工疑似神格実体によるエネルギー供給技術の研究に用いられていたとされていたが、インシデント "BREAK" の震源地として働いた末、事件以降は一度も使用されることなく放棄されている。財閥傘下の直系事業体であったアトラスタ・ディエティラント名義で保有されていたとされるが、同事業体は経営不振を理由に2809年、アトラスタ・インダストリアルに吸収合併しているため、現在同施設はアトラスタ・インダストリアルが保有していると考えられる。

施設機能

人類の信仰能力の強度によって存在を確立させるアレフ型ピスティファージ実体を人工的に発生させ、信仰強度のゆらぎによって実体が弱体化する際に放出されるE.V.E..補足情報: 第六生命エネルギー (Elan-Vital Energy) 、神格実体や知性体などの生命を保有する実体が放出する生命エネルギーのことを指す。より高位の神格実体であればあるほど放出されるエネルギー効率は高い。を電力等に変換する動力機関 (財閥はこれを "ディエティル・エンジン" と呼称していた) の研究のために建造された施設である。円形構造の中心部には、外部からは不可視の機密領域が存在しており、中心部分からは高レベルのヒューム値変動、およびE.V.E.放射が検出される。実際にどのような形で動力機関の開発が行われていたかについては財団も実態として把握できておらず、得られる情報の断片から、内部にて非人道的実験が度々行われていた可能性が指摘される程度である。

インシデント "BREAK" との関係性

イザナミは、2817年に引き起こされたインシデント "BREAK" による全世界同時電源喪失問題、および一斉の債務不履行が発生した世界秩序の混迷の中心地となった場所である。信仰エネルギーの利用は財団内外の組織問わず、その影響や動作の不安定さ、実験段階で発生する事故がもたらす問題は度々指摘されていたものの、実際に問題として発生したのは同インシデントが初めてであり、最後でもある。財団の独自調査部隊によるイザナミへの立ち入り調査を機に施設全体の機能の把握が急がれたが、アトラスタ・インダストリアル、および同社に賛同する公的機関や国家からの圧力によって捜査は打ち切られることとなった。

関連する組織

アトラスタ・インダストリアル

放棄された同施設の現在の保有者。廃墟化しているイザナミを現在も管理し続けており、財団の計画した幾度かの侵入作戦の際も同社警備システムが常に配備されているため、作戦はすべて頓挫している。

アトラスタ・ディエティラント

インシデント "BREAK" 発生の5年前の段階で経営不振を理由にアトラスタ・インダストリアルに吸収合併しているため、商標としては既に消滅している。



「それでアラスカに向かっているっていうことなのね。でもなんでこんな山中の僻地に施設を……?」

「そりゃあ、施設の存在自体がよほど厳重に守られた機密情報だからだろうな」

イリシアの疑問に即答するのはたいていローゼンバーグである。イリシアは彼の回答に「ふうん」と若干の素っ気なさを含めた生返事をして、視界をまた窓から見える景色へ向けた。だが、ほんの僅かな時間を置いて、再度イリシアは口を開く。


「ねえ、ローゼンバーグ。関係ない話してもいい?」

「なんだよいきなり」

表情を見せないままに声をかけられたローゼンバーグは、少しだけ視線を彼女に向ける。

「私、人員不足を補うっていう理由で班メンバーに引き抜かれたことで、ローゼンバーグとは数年ぶりに会ったわけじゃない」

「……そうだな」

「それでね。私、なんとなく、なんとなくだけど思うのよ。もしかしたら、この配属含め、これは偶然なんかじゃないんじゃないかって。もしかしたら、この仕事が最後になるんじゃないかって。そう思ってならないのよ」

イリシアの声色がトーンダウンする。神妙な空気の中で、ローゼンバーグは問いかける。

「最後、ってどういう意味だ?」

「そのまんまの意味よ。こんな大災害に見舞われて、世界が瓦礫に埋もれていって、財団も、連合もめちゃくちゃになってる。いくら察しの悪い私でもわかるわよ、こんなの」

「……ここにきて怖気づいたか、イリシア」

「今更、普通の名前で呼ばないでよ。いつもの呼び方でいい。私はあの時みたいな関係に戻りたいとは思ってない」

肩をすくませたイリシアの拳が、少し強く握り込まれた。彼女の震える声には、後悔の念が多分に含まれているのを、ローゼンバーグは見逃さなかった。

「……あの時からずっと、迷惑かけてばかりでごめん」

「謝ることもないだろ。昔は昔、今は今だ。古いことにいちいち目を向けていたって何も変わりゃしない」

彼は少しため息を付きながら、若干呆れた様子で言う。するとイリシアはそのまま彼に向き直る。その表情は決していつもの快活な印象のものではなかった。

「ローゼンバーグ……」

「お前さんがどんなに脳筋女だろうと、こんなことで終わるほど世界はヤワじゃねぇよ。むしろそうならないようにするのが俺たちの役割だ。だから、目の前の仕事に集中しろよ」

だが、それでもローゼンバーグは態度を変えようとはしなかった。彼女は少しだけ頷いて、自分の顔を叩く。彼の叱咤を受けて、彼女は自分のやるべきことを思い返そうとした。

──その時、イリシアはHUDの通知欄に、見慣れない通知が見えたことに気づく。

「……なによ、こんな時に通知なんて」

それは、自分の記憶にない、詳細の書かれていない財団アーカイブ形式のファイルデータだった。送り主は、プレイル・イサナギ。イリシアは、不用意にそれを開いた。





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