SCP-3363-JP
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記録データ情報


ファイル名: ?????????????????_??????.log
回収日時 2960/07/24
回収者: Terra Verde - 外郭調査部隊-EP8
復元状況: 復元不能

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トリフォリウム・ラグナダ・イサナギ:

終わる。


トリフォリウム・ラグナダ・イサナギ:

ようやく、私の願いが、


トリフォリウム・ラグナダ・イサナギ:

私の、すべてが、完遂される。




吹雪が、止んだ。



アラスカ、北極圏。年に数度とない、穏やかな天気。冬の止むことのない雪は、少しばかりの小休止となった。

今日、人類は終わりを迎える。イザナミという最後の不安要素を消すことで、人類滅亡は盤石となる。ある山の峰で、私はすでに限界を迎えつつある心に鞭を打つ。踏み込むたびに雪原が足をつかむが、私はそれでもなお歩みを止めなかった。


トリフォリウム・ラグナダ・イサナギ:

やがて、ここも金属に沈むだろう。


それは、私が誘導したインクリニティウムの動きの通りであり、既に私が目で見てわかる範囲に黒い金属が壁となって阻んでいる。私はそれでも歩みを止めず、雪原は次第に重い鋼を叩く音へとすり替わっていく。
カツン、カツン、というおぼつかない音が、人間などいない冷えた空気に木霊した。


アマランサス・イサナギ:

そして、私もそこに深く沈んでいく。


精神の摩耗率は次第に高まる。深い闇のような夜空を見上げれば、星空が天球に貼り付けた塵のようにさえ見える景色だ。このまたとない見晴らしの良さを無駄にはしたくはなかった。
金属の壁面を手でなぞり、体重を支えるように力を込めて前進する。


アンモビウム・イサナギ:

その前に、最後の仕事を成し遂げなければならない。


仕事。そう、この七百年間、私はただ仕事を続けていた。全てを失った私に、ただ一遍の希望として照らし続けてきた光。私はその光にすがることだけを考え、耐え難いはずの苦痛をも乗り越えた。そのひと仕事が、ついに終わる。用済みの希望に思いをはせ、それもすべて塵にする。
体重を支えていた腕が、金属の壁から剥がれなくなる。強引に引っ張り、左腕を壁に打ち付け残した。


アコニタム・オルフォリア・イサナギ:

ああ、見える。ここでなら、すべてを見届けられる。


ついに、私は地を覆い尽くす金属の塊の上で、世界を見渡した。


身体は動かない。ギチギチと、一度も休まずに稼働し続けた自らの筐体に侵食を続ける金属に、私は意識を向けることもなく、その場に崩れ落ちる。

もはや動く意味も残されていない私にとっては、この場で世界を見ることができれば、どうでもよかった。


遠景に見えるあの施設は、役目を終えたことを宣告されるかの如く、空から降り注いだ閃光とともに蒸発した。

長らくの間、ただ片時も気を緩めることなどなかった私は、ようやく安堵を手に入れる。

最期、走馬灯というものだろうか。唐突に、フラッシュバックする記憶。

『これでどうにかなるアンタじゃないけど。せめて叩かれたことは覚えてて』

その言葉と共に打たれた頬が、急に痛んだ。痛くも痒くもなかったくせに。

なぜか。その検討がつくのは一瞬だった。

復活の日、僕は君に一度打たれたのだっけか。










ヘレボルス・イサナギ:

アルベルタ……僕は、君と……




















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最低。


ヘレボルス・イサナギ:

░▟▓▚█▒▐▐▓▜……ごめん。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

もういい。それで?世界はどうなったの?


ヘレボルス・イサナギ:

つまらなくなったよ。これから100年かけて壊すところだ。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

でしょうね。あなたは言ったもの、
『僕だけでは、この世界はつまらなくなってしまう』って。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

『だから、太陽みたいな私が必要だ』って。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

今度は世界を壊すための道具になれって、言ってるのね。
私がしてほしくなかったこと全部やってまで、必要だったのね。


ヘレボルス・イサナギ:

……ごめん、░▟▓▚█▒──


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

良いですよ、もう、全部吹っ切れました。


ヘレボルス・イサナギ:

……ごめん。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

謝らないでください。そこまで謝りたいなら、
ちゃんとやった後、私の願いを聞いてくださいね?


ヘレボルス・イサナギ:

……░▟▓▚█▒▐▐▓▜


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

何でしょう、イサナギさん。


ヘレボルス・イサナギ:

……いや。なんでもない。
役目を終えたら、君が安らかに眠れるようにするよ。


ヘレボルス・イサナギ:

ここを、イザナミを、神のおわします庭を、君の最高の棺にしよう。


░▟▓▚█▒▐▐▓▜ ▐▒██▚▐ ░▟▜▓:

……ええ、期待していますよ。



直後、視界に駆けまわる像が、意識の弾けるフラッシュにちらつく。彼女だろうか。ああ、僕は謝りたいんだ。心の底から。ごめんよ、ごめんよ、死を汚してごめんよ、義体を作ってごめんよ、こんな世界しか作れなくてごめんよ、壊すしかなくってごめんよ、僕が君を好きになってしまって、ごめんよ。アルベルタ、僕は、君と──────── 一緒に世界を、作りたかったんだ。





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