クレジット
記録データ情報
ファイル名: Lebensraum_Management_Committee-status_report_29650309.ptx
記録日時: 2965/03/09
記録者: 生存圏管理委員会
2965年3月9日
生存圏管理委員会
生存圏管理委員会状況報告
"生存圏"の現状と今後
概 説
2948年、FE-クラス: "黒鋼の地球"シナリオの発生が宣言されて以降、2960年10月24日の生存圏管理委員会による共同声明により、全人類の保護を目的とした包括的収容策の提案・公表ならびに全人類に対してのSCP-3363-JP指定に基づく大規模共同収容サイト(現在の"生存圏"につながる)の確定が宣言された。この宣言をもとに、これまで回収された現在の状況へとつながる一連の中核的な経緯情報および、現状打開のための研究資料はすべて生存圏管理委員会により構築されたSCP-3363-JPデータベースに集積され、「生存圏共通 開示情報参照システム」にて全体に公表されることとなった。
このような経緯によって、SCP-3363-JPの指定と保護を目的として樹立された"生存圏"であるが、その運用状況はいずれも決して芳しいものであるとは言い難く、いつその安定性が覆されるかわからない状況が続いている。以下に記す記述は、外宇宙有人軌道ステーション"アストリズム"へのLX圧縮レーザー通信ゲートウェイを用いて定期記録された各生存圏の現状を記したものである。SCP-3363-JP-1による侵食のため通信技術は著しく損失していることから相互の直接的な現状把握がかなわない中で、現状最も確実な相互の情報源であると認められている。
"テラ・ヴェルデ"を示すエンブレム。
正式名称: 財団管轄F.5555領有区域アルファ
一般的な公称: Terra Verdeテラ・ヴェルデ
概要: 生存圏"Terra Verde"は、旧ベネズブラジリア共和国の領土上に位置する生存圏であり、O5-13ならびにSCP財団旧南米支部管理メンバーによって統括・自治されている。2961年現在、3大生存圏の中で最も広大な領域を擁しており、SCP-3363-JP-1に対する効果的な植物兵器の研究・開発においては突出した力を持つ。
Terra Verdeは、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューソンズ(WWS)南米支局によって保護されていた南米特有の熱帯環境と生態系をもとに設置されており、財団が収容していたいくつかのオブジェクトや、WWSが保護していた動植物を利用した環境設計によってTerra Verdeの構造基盤が確立している。生存圏外縁部から覗くTerra Verdeの様相は、まるで「金属に苔むした青カビ」のようであると形容され、複雑に入り組んだ巨木や多種多様でいびつな草花がほぼ無造作に生い茂る環境を生み出している。
一見するとTerra Verdeは最も安定した生存圏であるように思えるが、群生する植物の多くはSCP-3363-JP-1に対する耐性が弱く、太陽光が弱まると急速に枯死してしまうという脆弱性を持つため、ほか2つの生存圏と比較すると対処実施区域の範囲比率はかなり広いため、人類が安定して生活できる範囲は想像するよりも尠少である。
生活環境: Terra Verdeで生活する住民のほとんどは旧北米連邦の国民であり、人種・種族は極めて入り乱れている。SCP財団やWWSに所属していた者も少なくはなかったことから植物発展技術の研究開発が率先して行われているなど、技術的優位性は高い。
しかしながら、生存圏内における治安維持状況は必ずしも芳しいとはいえず、被差別階級の自然発生が生存圏樹立早期から見られ、純粋人類(いわゆる"ホモ・サピエンス")至上主義とも取れるようなカースト制度が社会基盤となっている。特性保有者や異種族、身体障害者、純粋人類であっても被差別階級出身者に対しては極めて冷酷な処遇となることが多く、対処実施区域での雑務作業や、開発中の植物兵器の試験作業に従事する者のほとんどはこれらの素養を持つことがほとんどである。
旧時代(FE-クラス: "黒鋼の地球"シナリオ宣言以前)の機器の利用に対しての取締は他の生存圏と同様に行われているが、一部の機器や部品は経済的価値が見出され、ある種の通貨のように取り扱われている。生存圏管理委員会によって安全認定された旧時代機器に使用されるパーツ類は、特に高値で取引される。
"生存圏"の将来的な存続性の考察
以上の3つの生存圏の現状を記した前提情報から、生存圏管理委員会は今後の生存圏の存続可能性の予測と、そこから導き出される対策の方法について委員会内にて議論が交わされた。結論から言って、3つの生存圏のうち"緑神"以外の生存圏は現在より最長40年以内に、"緑神"については最長100年以内にSCP-3363-JP-1の侵食によって消滅することとなる可能性が非常に高い。
"Surface City"については独立した環境システムが構築され安定した状況が続いているが、報告通り設備の老朽化が懸念点であり、生存圏としての環境維持がどこまで続けられるかは今後のSCP-3363-JP-1および2を取り巻く環境変化に大きく依存していることから、安定した生存圏であるとは評し難い側面がある。また、海上メガフロートとして運用されている以上、陸地にて発展している他2つの生存圏からの支援を行うことは(それぞれの連絡手段が存在せず、またいずれもそれなりに閉鎖的であることも含めて)簡単ではなく、"Terra Verde"による定期的な物資支援に関しても、人的・物資的コストなどを考慮すると決して安易に実行可能なものではないだろう。また、住民同士による人治主義に傾倒しすぎた運営体制も、長期的な生存圏の管理・維持を行う上では余計リスクとなり得る点も指摘せざるをえない。
次いで消滅の懸念が高い"Terra Verde"は領土規模は非常に大きいものの群生する植物が脆弱であり、安全活動区域が規模に比較して尠少であること、また居住している人々が自然な階級社会を生み出しており純粋人類史上主義の先鋭化も見られること、そしてそれに対して当初の統括・自治組織は腐敗し現状を黙認していることも含め、将来的には階級間の軋轢が限界を迎えた際に統率を取ることができない可能性がある。開発されている植物兵器はSCP-3363-JP-1に対して非常に有効であるものの、それを取り扱う人々の側が自滅に向かってしまうおそれは否定できない。一刻も早い自治機能の回復・拡充と階級社会拡大を防止することが望まれる。
最も存続可能性を有している"緑神"は、環境的要因による消滅も人的要因による消滅もしにくい環境にあるといえる。労働至上主義を掲げる神華党による実質的な独裁体制が敷かれている状態であり、他の生存圏と比較しても豊富な資源が行き渡るような制度設計に成功している。しかし、「使い物にならない者は排除する」という強引な経済思想や、神華党党員に対する特権的優遇が与えられている状況が続いている現在の運営体制はまさしく圧政そのものであり、反発した者や部外者に対する冷酷な対応も合わせて、神華党の内政能力が低下した際にこれらの不満が爆発し、クーデターという形で内戦に発展する懸念がある。存続可能性を長引かせるためにも神華党はその統率力を維持し続けなければならず、そのためには現在の豊富な資源を拡充し、そして何よりも神華党によって不正が引き起こされる事態は可能な限り避け続ける必要があるだろう。
また、これは特定の生存圏に限らない点であるが、すでに各運営組織の意見調整機関である生存圏管理委員会自体の形骸化の徴候が見られる。直接の通信手段がSCP-3363-JP-1ならびに-2によって妨害され続けている以上、足並みを揃えること自体の難しさは無論であるが、アストリズムへの定例通信で挙げられる生存圏の状況報告に明らかな杜撰さや、当初は正常性維持機関が主導して運営していたとは思えないような運営体制が見られたりなど、生存圏管理委員会による強制力が制限されていることを逆手に各運営組織が暴走していると考えられる様子も見られる。SCP-3363-JP-1による世界崩壊が招かれてから20年、このような人類そのものの存続可能性が危ぶまれている状況が続き、これから先も続いていくであろうことが予見されている中で、生存圏同士の足並みを揃えようとしない状況はまさしく自滅行為であるというほかない。各運営組織一同、その点を踏まえて将来に渡る長期的な生存方法の模索を行うようここに通達したい。
以上が、2961年現在までの各生存圏の外観と諸問題、そしてそれに対する対策法の提案を記したものである。各生存圏運営者は本文書に記された対策通りに、生存圏の存続を第一に運営をするようにされたし。
以上
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