SCP-3363-JP
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記録データ情報


ファイル名: SCP-GOC_ResearchReport_29151224.ptx
回収日時 2948/9/08
回収者: Terra Verde - 外郭調査部隊-J62
復元状況: 復元済

2915年12月24日

SCP財団
世界オカルト連合




ヴェール条約撤廃後の正常性維持機関の現状と対策




 本稿は、SCP財団ならびに世界オカルト連合が共同して主導してきた「国際未解明事象共同研究条約(ヴェール条約)」の段階的撤廃と廃止以後、300年以内において見られた社会・経済変化の経過の報告が概略としてまとめられている。これらは現存している各国が保有しているあらゆるデータを元に構成され、そこから導き出される正常性維持機関の今後の運用の変化とそのあり方の経過の概略を説明したものである。




0. 国際未解明事象共同研究条約の締結と廃止

 国際未解明事象共同研究条約(ヴェール条約)は、2000年代より以前から続いてきた超常現象や技術の一般利用を正常性維持機関が制限する体制を明文化するため、財団/GOC間および当時の国際連絡機関加盟国で2129年に批准・締結された条約である。

 この条約は、超常的事象や技術の濫用が認められた場合に限り、各国に対する超法規的介入ならびに、有事の際における個人・団体・思想・人種・国家に対する正常性維持機関の裁量による権利調整を可能とし、それによる世界終焉シナリオの温床となり得る事象を「超常技術の利用」を優先的に制限することで未然に防ぐことを目的としていた。しかし、2003年に実行されたオルメイヤー計画、およびその後2317年まで継続されていたノストロモ計画の失敗を受け、小惑星AL120の地球への衝突シナリオが世界的に秘匿困難な状況にまで陥ったことに起因するヴェール体制全体の崩壊("事案1000-JP"として記録される)、及び事案収束のため民間の事業体と協力の上で立案・継承された「アストリア計画」の実行によって条約そのものの存在意義が問われることとなり、2351年にヴェール条約は段階的に撤廃されることとなった。

 特に、アトラスタ財閥やプロメテウス・ラボ・グループ(当時)に代表される複合事業体が条約体制下で秘密裏に保有し、事案1000-JPの収束に向けてアストリア計画に提供された技術は一般社会にも広く公開されることとなり、それらの技術の一般社会や軍事利用を目的とした世論が世界的に強まったことは、ヴェール条約の撤廃の大きな後押しとなったこととして知られている。

1. ヴェール条約撤廃後の正常性維持機関の変遷

 財団およびGOCに主導されるヴェール条約の撤廃以後、計画に利用された技術は一般社会に広く公開され、事業体による市場が形成されることとなった。今日では社会基盤システムに大きく普及しているXANETはSCP-1000-JPの自己進化型対話制御プロトコル「αNETアルファネット」を基盤に開発されたものであり、外宇宙有人軌道ステーション「アストリズム」は対話制御プロトコルの管制塔及びAL120の物理的破壊を目的とした衛星兵器として配備されたものである。これらの複合事業体がもたらした技術はその後の人類社会の技術水準の向上に大きな貢献をもたらすこととなり、それに伴ってこれらの複合事業体は後年発言権を次第に増すようになった。

 しかし、ヴェール条約の撤廃以後も、正常性維持機関は超常技術の一般社会での普及に伴う人類そのものへの影響や危険性の懸念を可能な限り排除する目的で、これらを利用する国家やさらなる普及を目指す複合事業体との連携を重ねて実施し続けることとなった。実例として、アストリズム、およびそれに搭載された衛星兵器「カシウス」は本来小惑星AL120の物理的破壊を目的にアトラスタ財閥により建造されたもので、一度も利用されることは現在までなかったものの、これは地上の任意の地点をどの位置からでも直接攻撃できる大量殺戮兵器としての側面も併せ持っていた。それを受け、その制御管理及びアストリズムそのものの所有権は国際連絡機関が全権限を保有する形で権利調整がなされたことなどがある。それでもなお世界的な発言権の増大を抑えきれずにいた正常性維持機関の立つ構図は、次第に国家と複合事業体との間を取り持つ緩衝役としての地位へと追いやられていく結果となった。インシデント"BREAK"の発生に伴う経済立て直しが行われて以後の正常性維持機関の現状は、「世界の正常性を維持する」という本来の組織目的からは大きく乖離した状況であると言わざるを得ないだろう。

2. ヴェール条約撤廃後の国家の変遷

 ヴェール条約が撤廃された2351年時点において、既に主要な先進国家の経済状況は複合事業体のもたらす超常市場の上に成り立つ傾向が示されていた。しかし、長年正常性維持機関が堅持してきたヴェール体制そのものが無意味化した状況で、正常性維持機関が複合事業体の国際的信用を覆すことは叶わず、2915年現在、いずれの正常性維持機関も複合事業体と国家、あるいは他の組織間による経済的紛争の調停や対応に苦慮している。とはいえ、アストリア計画の副産物として生み出された軍事技術や兵器開発技術の複合事業体を含む私設組織が保有することを制限した「民間軍事能力保有規制条約(グリニッジ条約)」が2355年に批准・締結された結果として、軍事能力を複合事業体が私的に保有することに制限を与えられた点は重要である。

 しかしながら、経済戦争が繰り広げられる中で「軍需産業」という市場に対しての制限を複合事業体に重ねて与えることがかなわなかった点は、皮肉にも各国家の保有する軍事的物資や設備に対しての締め付けを許す事態を生み出してしまうこととなった。これが国家そのものの弱体化を決定づけるファクターとなったことは、インシデント"BREAK"以降の国家統廃合という形で表出したことがそれを物語っていると言えるだろう。

3. ヴェール条約撤廃後の経済の変遷

 ヴェール条約が段階的に撤廃されたことにより、一般社会における既存・未知の超常技術の研究開発および利用が次第に活発化していった。アストリア計画に提供された超常技術の権益を複合事業体が多数保有していたことから、経済市場は複合事業体が寡占状態として支配する構造が成立した。よって、2915年現在、各国家の経済活動のほとんどが複合事業体傘下という枠組みの中で運営されている。

 そして、複合事業体の傘下として活動することが出来なかった企業や団体、個人は経済活動域から排除される傾向が大きく見られる。国家および国際連絡機関、正常性維持機関によるこれらの不健全性を是正する措置を幾度となく重ねられたものの、2915年現在までこの措置が実効的な効果をもたらしたと言える状況には至っていない。

 なお、この寡占状態はその後に発生したインシデント"BREAK"による全世界同時デフォルトの発生に伴う経済破綻によって一度崩壊に至る直前までに至ったものの、国家統廃合と正常性維持機関の介入、かねてより複合事業体が提唱し運用を予定していた経済自律調整システムの早急な導入を行ったことで、可及的速やかな経済の立て直しが成功した点は付記しておくべき事柄である。

4. 今後発生しうるであろう問題と対策

 2915年現在、正常性維持機関による複合事業体への牽制や締め付けが十全に発揮されているとは言いがたい状況が長らく継続している点は、今後の人類社会の安定と保護において重大な障害となり得ることは言うまでもない。財団・GOC間での緊密な連携だけでなく、現在の国家や既存の組織・団体とも協調の姿勢を取りつつ、可能な限り複合事業体が今後もたらすであろう悪影響を未然に防ぐよう調整を重ねることが大きな課題であるだろう。





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