SCP-3379-JP
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アイテム番号: SCP-3379-JP

オブジェクトクラス: Pending

特別収容プロトコル: アイテムの収容方針は未定です。後述のSCP-3379-JP-βの発生に伴い、行為主体の身体に異常性由来の特徴が生じるため、SCP-3379-JP-βが確認された場合は財団が委託する医療機関において診断を行い、非異常性の疾患に偽装してください。また、SCP-3379-JP-βの行為主体と行為対象のそれぞれの家系図を取得し、CoIデータベースに記録してください。

説明: SCP-3379-JPは、一定の条件を満たす女性による人肉食(SCP-3379-JP-β)を伴う家系の改変現象です。この改変現象を司る規則のモデルが提案されていますが、SCP-3379-JPについて現実的に検証できる情報はSCP-3379-JP-βと歴史上の家系の改変現象を除けば非常に乏しく、技術的制約により十分な検証は行われていません。

SCP-3379-JP-βの発生時、SCP-3379-JPの異常性によって男性器が生じた行為主体が行為対象の身体を捕食します。行為対象の性別は任意ですが、行為主体との間に面識がある事例のみが確認されています。以下は、財団が本アイテムの関与を認定するに至った最近の事例です。

事例3379-JP-01 概要


行為主体 三園 槐 (MISONO Enju) / 女性

殺人事件の発生後、被疑者の診察を行った提携医療機関が異常な男性器の存在を認知し、財団に報告したことで発覚した。発生と器官のスケールに関しては異常であるが、組織のスケールに関しては非異常のインターセックスに見られる変異の域を出ないことが確認された。

切除を希望していたが経過観察のため措置を行わず、非異常の疾患として偽装を行う。のちに妊娠が確認され、出産までに男性器の痕跡および異常性由来の思考様式は確認されなくなった。現在に至るまで、監視を継続している。

聴取記録3379-JP-β-01 - 2023/██/██

担当: 催馬楽 鈴奈 (SAIBARA Suzuna) [研究員]

対象: 三園 槐 (MISONO Enju)


催馬楽研究員: まずは三園さんの身体に起こった現象について伺いましょう。身長と筋肉の急激な増加、そのうえ半陰陽、つまり陰茎が生じていたということでよろしいですね。

三園氏: はい。男性の性器が生えていました。体格については違和感がある程度ですが。

催馬楽研究員: ありがとうございます。ほかに気付いたことなどあれば適宜仰ってください。

催馬楽研究員: この症状の発生の後で、三園さんが██氏を殺害されていますが、症状と関連して思い当たることはありますか。

三園氏: 何を話せばいいんでしょうか。

催馬楽研究員: 因果関係にありそうなことであれば何でも構いません。我々が聞いた情報は症状の解析に必要な範囲内でのみ使用し、警察などの機関に供与することはありません。

三園氏: 経験したことのないような興奮がありました。殺したのも、死体を食べたのも、もしこの症状が無かったら、そもそもやっていないと思います。

催馬楽研究員: 気分が高揚して、普段しないことをしたということですか。

三園氏: いや、確かに昂ってはいたような気はするんですが、興奮というか、あくまでその時は順当に思えた行動をしてしまっていたと思います。

催馬楽研究員: 遺体を食べることが順当に思えたんですか。

三園氏: 変な思考の連鎖でした。それでいて、見聞きしたことや学んだこと、常識よりももっと深くから湧き出てくるような。

催馬楽研究員: 詳しく説明して頂けませんか。

三園氏: 昔の話からすることになりますが。

催馬楽研究員: 構いません。

三園氏: ██は小学校に上がる前からの知り合いでした。私は確かに仲が良かったといえるでしょうが、██はそれ以上の気持ちを抱いていたと思います。それは多分、私が何かを██にしたからではなく、██がやろうとした事を私が悉くやり遂げていたからでしょう。

催馬楽研究員: どういうことでしょうか。

三園氏: 縄跳び、将棋といった遊戯や、勉強などの集団内の評価基準になりうると思い至ったものにできるだけ力を入れていたんです。私も██もどちらもやろうとしていたことは同様だったと思います。ただ、██はいつも肝心なところで辞めてしまったり、目標に届かなかったりすることが多かったですね。

催馬楽研究員: 三園さんには向いていたけど、██氏には向いていなかったのかもしれませんね。

三園氏: たしかに、もし挑戦する目標が違えば██も上手くいったのかもしれませんが、私には██があと少しで届きそうなのにそれを継続しなかったように見えました。今思えばその評価は██にとっては不条理なものであったのかもしれませんが。結局のところ、私たちは要所要所で違う選択肢を選び、成人するころには疎遠になっていました。

催馬楽研究員: 連絡は取っていなかったんですよね。

三園氏: はい。しかし、互いの行動はある程度認知していたようです。██は私の失敗を願っていたのでしょう。公開情報やインターネットの情報、血縁経由での情報を駆使して、██は私を見続けていました。他方で私も似たようなことをやっていました。

催馬楽研究員: 何のためにですか。

三園氏: わかりません。幼少期を共に過ごした数少ない人間が気になっていたのかもしれません。しかし、最終的には██の挫折を観察するための日常的な行為になっていました。██がコンタクトをとってきたのも、私が勉強のみならず、就職、恋愛、その他の社会的な関係において上手くいっていたことを知ったからかもしれません。それまでの成功と失敗の際は集団内の差異であることがある程度納得できるものでしたが、青年期以降においては、所属している集団内での評価が社会的な評価に近似していく場合が多くなるのでしょう。そして、██はそこでの差異が人生において大きな意味を持つことを意識し始め、取り返しがつかない事を悟ったと思います。

催馬楽研究員: ██氏がそう思っているという保証は無いのではないでしょうか。

三園氏: 確かに私がそう思っているだけかもしれません。しかし、██の記憶のようなものも混じっているように感じるんです。

催馬楽研究員: それも症状に関連するということですか。

三園氏: はい。このあたりから、症状なしでは説明がつかないと感じています。その後まもなくして、██は「私が見ていることを知っている」と、伝えてきました。なぜ知られているのかはわかりませんでしたが、その時の嗜虐的な感覚、特に、自らがなすべきことをするだけで苦しむ存在がいることから来る心地よさは、明らかな身体的変化の予兆でした。

催馬楽研究員: そこから身体的変化が始まって、会うときにピークになっていたわけですね。

三園氏: そうですね。██は私を殺してやろうという心積もりで呼び出したのでしょうが、私に見下ろされ、小さな刃物をほんのひと突きだけ私に当てて殺せそうにないことを悟ると、呆然と座り込んでしまいました。そこが身体的変化と怒張の最高潮であり、その嗜虐的欲求のままに、██を絞殺してしまいました。

催馬楽研究員: そこがピークということはそこからは減少したということで良いですかね。

三園氏: 減少というより、霧散に近いかもしれません。私はある意味欲求の消費のために欲求の対象を停止してしまったわけですから、代償的に別の思考が生じました。

催馬楽研究員: それはどのようなものでしょうか。

三園氏: はい。説明しがたいのですが、子孫に生まれ変わってほしいという欲求が生じました。私が生まれ変わるべきところを放棄してでも、生まれ変わって苦しんでほしいという感情です。そして、それは可能であり、そのためにはその血肉を食らう必要があることも分かっていました。求めている行為の主体としての立場と、行為の結果とを比べて、前者を捨ててでも後者を保ちたかったんです。

催馬楽研究員: 常識よりももっと深くから湧き出てくる思考ということですか。

三園氏: そうですね。今まで見聞きしたこともないけれども、しっくりくるような考え方です。

催馬楽研究員: なるほど、ご協力ありがとうございます。

補遺: 史実調査部により、SCP-3379-JPの類似現象として、神功皇后、斉明天皇のダエーワ的形質が指摘されました。具体的に、以下の点で関連が疑われています。

  • 両性具有であること
  • ダエーワ文化に典型的な嗜虐的死生観を持つこと
  • 殺害対象が転生者となることなどの転生に関する直感を保持していること
  • 日本国内にダエーワの異常性をもたらす因子が残存していると疑われること

これを受けた催馬楽家文書の調査により、転生と家系改変の規則を説明する資料として有力な候補が提示されました。

資料 SCP-3379-JP-M-01


豊葦原瑞穂国は神代のしるしを事さはにうくる国なり。いにしへの大御代に産巣日神のみわざによりて八十種のやまとどもは秋津洲に至れりといふ真を削り、偽を定めて、皇孫のしろしめす国となし給ふ。人は、いにしへに道もことわりもなく、親子の習はし、うからやからの定めは、はかりがたきさまにあらぶるといへども、天竺にはこの御心のことわりを見出す者あり。下に詳らかに説く。

天域中有情皆為天族。
当有者亦復如是。
前後双合亦復如是。
半雄女前導者亦復如是。
男子前導者亦復如是。
於不重処、独子無相者用之。
前女食後者。
一切前当有中、後族再現。

自らの計らいをさしはめども、かひなし。思ふに、さだめこそ上無けれ、人の仕業はいたづらなり。

以下の資料は、資料 SCP-3379-JP-M-01の漢文で書かれている部分の対応物と推定されます。

資料 SCP-3379-JP-M-02

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資料の該当部分


1. daivadeśe bhūtaḥ daivakulaḥ.
daiva1の土地においてbhūta2はdaivakula3である。

2. bhavitavyaś ca.
〔未来に〕あるべきもの4も〔daivakulaである〕。

3. pūrvottaradvandvaś ca.
〔daivakulaの〕前後の組も〔daivakulaである〕。

4. ardhavṛṣanārīprohitaś ca.
半雄の女を最前に持つものも〔daivakulaである〕。

5. puruṣaprohitaś ca.
男性を最前に持つものも〔daivakulaである〕。

6. ekaputrālakṣaṇāv anādare.
無視されるべきところにおいて、ただ一人の息子(または娘)を持つ〔男性〕と、しるしを持たないものとが〔ある〕。

7. aśaktiś ca.
〔無視されるべきところにおいて、〕働きを失った〔女〕も〔ある〕。

8. śaktiṃ tyaktvā pūrvanāry uttaram atti.
働きを捨離したのち、前者の女は後者を食べる。

9. sarve pūrvabhavitavye uttarakulaḥ punarbhavati.
すべての前者のあるべきものにおいて4、後の家族が再び現れる。


1 原義は神や天に属するもの、転じて運命を意味する。超常種族としてのダエーワを指すことがある。
2 √bhū(存在する)の過去受動分詞。存在する・したもののほかに、亡者の意味がある。
3 kulaは一族を意味する言葉であるが、3の場合は単なる組であり、必ずしも血縁によらない集団を指している。
4 注釈において、apatyajanma(子孫における再生・転生、処格の格限定合成語)の起こる場所と説明される。ダエーワの中では、複数の転生先を持つものが存在する。
5 この処格は、代入されるべき位置を表す規則(1.1.49)に基づく表現。

家系改変現象の計算論的モデル


SCP-3379-JPにおける家系改変現象は、λ計算の計算論的プロセスとして理解することができる。上記の文書に記された規則は、宇宙履歴の改変プロセスをλ抽象とβ簡約の操作としてとらえた記録であると考えられる。

規則「ardhavṛṣanārīprohitaś ca」(半雄の女を最前に持つもの)は、λ計算におけるλ抽象に対応する。

ardhavṛṣanārīprohita = 三園氏が██氏を捕食する

規則「sarve pūrvabhavitavye uttarakulaḥ punarbhavati」(すべての前者のあるべきものにおいて、後の家族が再び現れる)は、λ計算におけるβ簡約の物理的実装である。

三園氏の転生先に「██氏以降の子孫」を代入

家系図を可視化すると、以下の通りに世界線が変更されていく。この変更履歴は、初期状態と評価戦略によっては世界の一貫性を保証しない。

凡例: 濃色は半雄の女、淡色はその転生先、濃灰色は男性を表す。

1. まず、xがyを捕食すると、

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2. xの転生先に代わりにyが転生し、その子孫も同様に生じる。捕食後はxが無視される(anādare)。

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3. さらにyがzを捕食すると、

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4. yの転生先に代わりにzが転生し、その子孫も同様に生じる。

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5. 同様に改変される。転生先も捕食される。

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最終的に、x、y、y'が無視され、zとzの転生先のみが残る。

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家系改変現象には不動点コンビネータ、特にYコンビネータの例が確認されている。実際のdaivakulaの系図は以下の通り。Yコンビネータが再帰関数を可能にするように、この系図は最上位者が別のものを捕食した際に、再帰的改変を実現する。

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理論的には、この現象はチューリング完全である可能性が高く、停止問題に相当する予測不可能性を持つ。SCP-3379-JPは抽象的な計算理論を世界の改変現象として実装する現象であり、世界が行う計算を生殖によって実行することを運命づけられた種であるといえる。

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