記録情報セキュリティ管理室より通達
貴方は以下の文書を正式な査読のために選択しています。当文書の現在のステータスは提出済です。
注釈ならびに編集の提案は青字でハイライトされています。

記憶処理剤を分析するSCP-3393-EX
アイテム番号: SCP-3393-EX
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: N/A
説明: SCP-3393-EXは反ミーム部門のレベル3研究員であるヘイリー・リベラ博士です。リベラ博士はベリティ博士に関する知識を保持できず、直接向き合ってもベリティ博士を認識できません。リベラ博士は16/04/12までこの異常性を示していませんでした。この異常性の原因は現在調査中です。
発見: 以下はリベラ博士のオフィスの監視映像であり、リベラ博士の異常性の効果を示しています。
ベリティ博士がリベラ博士のオフィスに接近し、ノックしようと手を上げた状態でドアの前に立つ。その後、ベリティ博士が廊下を見渡し、携帯を確認する。ベリティ博士がドアに向き直り、ドアを2回ノックする。
ベリティ: ヘイリー? いるかい?
返答なし。
ベリティ: いるのは分かってるよ。今日は会議が無いってレイチェルが教えてくれたんだ。
返答なし。
ベリティ: 僕に何か不満があるようだね。そのことで君と話したいんだ。
返答なし。
ベリティ: ドア越しで会話しても意味ないか…… 入るよ。
ベリティがドアを開け、オフィスに入室する。リベラは自身のコンピュータ前に座っており、新しい実験の報告書を書き上げている。
ベリティ: ヘイリー…… 僕を無視しているだけじゃ解決できないだろう。
リベラは振り返らない。
ベリティ: せめて振り返ってくれないか? 僕を見て。ほら、これじゃただの意地悪じゃないか。
リベラは振り返らない。ベリティがリベラの椅子の背もたれを掴む。
ベリティ: ちょっと回るだけだ。そんなに難しくない。
ベリティがリベラの椅子を自身と向き合うように回す。リベラがタイピングをやめ、膝の上に両手を置く。
ベリティ: ね、そんなに難しくなかった。だろう? ヘイリー?
ベリティがリベラの前で手を振る。返答なし。
ベリティ: ヘイリー? ヘイリー!
ベリティがリベラを揺らす。
ベリティ: どうして何も言ってくれないんだ!
ベリティがリベラを揺らすのをやめる。ベリティの息遣いは一定していない。リベラがコンピュータに向き直る。
ベリティ: ヘイリー?
返答なし。ベリティがリベラのオフィスから駆け足で退出する。
毎日 "ハロー?" ってメールするんじゃなくて面と向かって会話したらって私が提案したのは省略したのね。
補遺3393-EX-2: 以下はベリティ博士とレイチェル・フリーエ博士 (リベラ博士の親友) とのインタビューの転写です。インタビューはリベラ博士が異常性を示しているとベリティ博士が認識した翌日に実施されました。
フリーエ: あら、録音装置も持ってきたのね。"インタビュー" ってのはさっとランチを取りたいかを尋ねる湾曲表現だと思ってた。
ベリティ: それについてはすまない。残念だけど、これは公務なんだ。
フリーエ: じゃあ、ヘイリーの話がしたいわけじゃないの?
ベリティ: ヘイリーの話だよ。だから公務なんだ。
フリーエ: 冗談でしょ。
ベリティ: 彼女は何にも答えてくれない。メールにも、電話にも、オフィスに行ったときだって —
フリーエ: 前にも言ったけど、それはサイレント・トリートメントっていうのよ、ユリウス。
ベリティ: でも彼女は僕をじっと見据えていたんだ! まるで僕がそこにいないかのように!
フリーエ: ん。
ベリティ: 君もこれまでに記憶処理された人を見てきたはずだ。そういう人の眼差しなんだ、空虚さのような。
フリーエ: うーん。
ベリティ: 僕が心配している理由が分かっただろう。
フリーエ: ええ、まあ。でもそう考えてるのは絶対アンタだけだとも思ってる。
ベリティ: その通りだ、だから君に彼女と話をしてほしい。
フリーエ: いやだからさ、仮に記憶を消されてるとしても —
ベリティ: 頼む。何かきっかけがあってこうなったのか帰って確認しないといけないのに、僕に分かることは限られている。僕は彼女の頭の中にはいない…… 彼女のどこにもいないんだ。
フリーエ: ……分かったわよ。あの娘と話してみる。
ベリティ: 本当にありがとう。
ベリティがその場を去る。残されたフリーエは一人で昼食を取った。
補遺3393-EX-1: 以下は財団での勤務中におけるリベラ博士とベリティ博士の交流に関するタイムラインであり、詳細な背景を示すために、それぞれの注目すべき出来事にベリティ博士の考えが加えられています。
日付 | 出来事 | ベリティ博士の回想 |
---|---|---|
15/06/07 | 財団研究員のオリエンテーション中にリベラ博士がベリティ博士と出会う。 | 全体で50人前後いたから、誰とも全く知り合えなかった。2けど初日、ヘイリーと僕は隣同士に座って、ギクシャクしながら緊張を解きほぐせる会話をして暇をつぶした。 |
15/06/21 | リベラ博士とベリティ博士が反ミーム部門に割り当てられる。 | 嬉しかった。少なくとも一緒の部門に知り合いが1人いるってことは。 |
15/07/02 - 15/08/04 | リベラ博士とベリティ博士がポリネシア島を訪れ、SCP-2256実例を観測および追跡する。 | 楽しい旅行だった。メモを取る必要がある点を除けば、サファリみたいなものだった。3 |
15/08/05 | リベラ博士とベリティ博士が記憶処理対象評価チームに加わり、共有のオフィスを与えられる。 | 部門のどこに割り当てられるかは特に拘りが無かったけど、リベラがやりたがっていたのは知っていたから、彼女のもとに加わることにした。労働倫理としてはあまり良くない事だけど、彼女をデートに誘ったのはこの頃だ。肯定の返事をもらったなんて未だに信じられない。 |
15/12/15 | リベラ博士が新型の記憶処理剤の開発援助のために転任させられ、別のオフィスに移される。 | いつまでもオフィスを共有できないって分かっていたけど、それでも少し悲しかった。オフィスに一人きりというのは寂しい。これまでと同じテスト作業をやっているのに、今となってはそれをすぐに共有できる人がいない。4 |
16/02/16 | リベラ博士が新型の記憶処理剤の設計と製造の監督官に昇進する。 | 一緒の時間を確保しようとした。誰にだってたまには休息が必要だ。特に、彼女のように懸命に働いている人には。彼女が無理をしていないか確かめるために、僕はそこにいる必要があったんだ。5 |
16/04/09 | リベラ博士が新型の記憶処理剤の完成を反ミーム部門に発表する。 | 彼女は人前で話すのが全く得意でなかった。聴衆から質問してヘイリーの思考回路を手助けし、公演中に忘れていたであろう点をいくつか広げてみた。 |
16/04/11 | リベラ博士が倫理委員会に成果を発表し、自ら進んで実演に志願する。 | レイチェルが教えてくれるまで、彼女が自ら実演をしていたなんて知らなかった。 |
16/04/12 | リベラ博士が異常性を示し始める。 | そして僕は彼女の前に存在しなくなった。 |
補遺SCP-3393-EX-3: 以下は新型の記憶処理剤に関するリベラ博士のプレゼンテーションにおけるQ&Aの転写です。
リベラ博士: えー…… はい。これが同一性消去型記憶処理剤の成果です。質問はございますか?
聴衆の中央に設置されたマイクの前に列ができる。ジョンソン博士が列の先頭にいる。
ジョナサン博士: おっしゃった内容によれば、その記憶処理剤は特定箇所のシナプスを破壊し、それから直すことで作用するのですよね。どのようにして人に関連する神経接続のみを対象とし、例えば一般知識や習慣を対象から外しているのでしょうか。
リベラ博士: そうですね、えー、幸いにも、人はほとんどの場合その種の知識と直接結びついてはいません。関連している可能性もありますが、隔たりがあるためシナプスは、えー、それらのシナプスに触れる可能性は低くなっています。
ジョナサン博士: 分かりました。それと、ご発表おめでとうございます。
リベラ博士: ありがとうございます!
ジョナサン博士が席に戻る。ベリティ博士がマイクの側に近づく。
ベリティ博士: 先ほど、ほとんどのタイプの関係性で記憶を消去することに成功したとおっしゃいましたが、どの関係性に問題があったのか詳しく説明していただけますか?
リベラ博士: どういう種類の関係性ですか? 意味がよく分からないのですが —
ベリティ博士: 例えば双子です。
リベラ博士: ああ。双子。
ベリティ博士: それか別の親しい関係性です。
リベラ博士: そうですね、双子で問題があったというか…… その、双子だと少々問題があって……
ベリティ博士: もっと大きな声で言っていただけますか?6
リベラ博士: 対象としていない神経経路にオーバーフローする場合も度々ありました。これでいいですか?
ベリティ博士: 詳しく説明していただけますか?
リベラ博士が拳を握りしめる。
リベラ博士: 自分たちがどのような顔をしていたのか忘れたのです! ですがお互いを忘れさせるために双子に記憶処理剤を使うというのは —
ベリティ博士: 新型の記憶処理剤を使用し、同様の不具合が発生した事例は他にありますか?
リベラ博士: いいえ。双子だけです。次の質問を。
ベリティ博士が席に戻る。リベラ博士がマイクに背を向け、3回深呼吸をしてから質問を続ける。リベラ博士の声は依然として緊張している。
<簡潔さのため残りの転写を省略>
ここに書くべきなのは「上記の通り、ベリティ博士は自分の気持ちを大っぴらにする代わりに、公共の場で故意に挑発的な質問をすることで嫉妬の感情を押し殺しました。」よ。丸ごと使ってもらっても構わないから。
解釈: 現在のところ、リベラ博士は倫理委員会への記憶処理剤の実演中にその薬剤が誤って作用したことで、思考からベリティ博士の存在が抑制されていると考えられています。この消去を元に戻す方法の調査が進められています。フーリエ博士がリベラ博士にインタビューを実施して追加情報が得られれば、新たな打開策が見出せる可能性もあります。7
記録情報セキュリティ管理室より通達
現在、貴方はこの文書をSCiPネットデータベースのアーカイブからリジェクトするために選択しています。理由を以下に述べてください。
レイチェル・フリーエ博士により査読完了