夢イメージ抽出機により対象から抽出されたSCP-3405-JP-1の風景。
特別収容プロトコル: 回収されたSCP-3405-JPは全てサイト-81DSの物品収容区間で管理されます。未収容のSCP-3405-JPについても近畿共同ネットワーク1の人員によって回収されますが、民間人が所有している場合は"稀本収集"の名目を用いて適切な方法及び金額で購入して下さい。SCP-3405-JPを利用した実験の実施には担当職員3名からの許可が必要になります。サイト-81KKなど他サイトへの貸出については現在倫理委員会による審議中です。
説明: SCP-3405-JPは「白昼夢の草原にてIn The Daydream Grassland」という題名のハードカバー書籍です。SCP-3405-JPの表紙には風力タービンとヒマワリ(学名: Helianthus annuus)の特徴が混在した抽象的な造形の構造体が草原に点在する風景の水彩画が描かれており、奥付には「出版:淵幻玉楼えんげんぎょくろう」と記載されています。
淵幻玉楼
概要: GoI-8127("淵幻玉楼")は、悪夢の克服や不眠の解消などの効果を有する書籍の作成を目的とした超常創作コミュニティです。当初は保護者による児童への朗読を目的とした絵本の制作・発刊を行う作家グループでしたが、ターゲット層を児童から不眠症の大人にまで拡大する中で「夢」や「空想」を刺激する描写を研究していたところ、偶発的に夢界と接触した事で現在の団体になりました。
GoI-8127のメンバーは一貫して読者に「より良い眠りと目覚め」を齎す作品を作成しており、倫理道徳及び現実法則に縛られない破壊的執筆活動を目的とするアートテロ集団であるGoI-8133("下天茶屋")とスタンスの違いから緩やかに対立していました。最終的にGoI-8133側が実行した事案1648DK("ハーメルンの魔法使い")を契機として両団体間で事実上の敵対関係が発生しました。
2019年4月1日、GoI-8127が拠点としていたNx-87-B("マホロバ・リユニオン")2内の宿泊施設がGoI-8133の敵対的報復に遭い同施設ごと全メンバーが消失し壊滅に至りました。にもかかわらず、GoI-8127を名乗る団体から出版されたと思しき未確認の作品が近年奈良県を中心とした近畿圏で確認されており、財団によって監視と調査が継続されています。
SCP-3405-JPの異常性は、親しい人物との死別を経験した人物(以下対象)がSCP-3405-JPを読了して次に就寝した際に発現します。親しい人物との死別を経験していない人物は異常性の影響を受けません。
対象は必ず同一の明晰夢(以下SCP-3405-JP-1)を経験します。SCP-3405-JP-1の様相は概ねSCP-3405-JPにおける描写と一致しており、「空間内の太陽らしき光源は移動しているものの、現実世界における白夜と酷似した低緯度の軌道を取る故に時間帯が昼頃で固定されている、無数の風力タービン以外の構造物が確認できない面積不明の草原」と対象は知覚します。対象は限りなく現実に近い五感をSCP-3405-JP-1で体感しますが、同時にこれは夢の中であって現実ではないという事実も理解します。対象はSCP-3405-JP-1内部で退屈感を覚える状況にあり、その解消手段が存在しないため、SCP-3405-JP-1の探索を開始します。SCP-3405-JP-1内部で再現される対象の所持品は就寝時の衣服や装身具のみであり、携帯電話などを所持したまま就寝したとしても再現されません。
不明な時間の後3に対象はSCP-3405-JP-1内で風力タービン以外の構造体である一軒家を発見します。一軒家の様相も対象に寄らず固定されており、近代的な西洋風の一軒家として確認されます。SCP-3405-JP-1はその外観に反して玄関以外のドアは玄関から続く廊下の突き当りにある1つしか存在せず、結果的に対象はその扉を開けて部屋に侵入します。
SCP-3405-JP-2は対象にとって重要な生前交流があった故人を自称する不明な人型実体です。SCP-3405-JP-2は自分自身が故人本人か対象から質問されても曖昧にはぐらかすのみであり真偽は不明です。対象はSCP-3405-JP-2と故人の事をどう思っているかや対象の近況報告などの対話を行います。対象が対話に満足するとSCP-3405-JP-2は対象を見送り、「またいつか会おう」と告げます。玄関から対象が退出した時点で対象は覚醒します。
起床した対象の精神状況は、以前の検査結果より改善されていることが確認されています。対象が故人に対して抱いていた喪失感や後悔などが緩和/解消されたことが理由だと推測されています。
SCP-3405-JPの内容は主人公が今際の際に見た走馬灯を書き起こしたという一人称視点の詩集です。作中において不明な要因から死期が迫り意識を失った主人公は、五体満足な状態で暖かな白昼の草原に出現します。主人公が草原を探索していると風力タービンを発見して、主人公にとっての重要な人物と考えられる故人に見立てて話し掛けます。そして、このまま行けばいつか故人に会えると確信は持てないが、諦めるべきか逡巡しつつも踏ん切りが付かず、躊躇いながらも草原の地平線を目指す所で終了します。
以下は、SCP-3405-JPの内容の抜粋です。
草原にいくら足跡増やしても、僕は気怠い朝すら迎えられず。
風を頬で撫でたとて、置き去られるのは涙跡と今。
それでも光る海の中 ただ笑うきみが在るから、廻る太陽で眼を焼きたい。
向日葵は太陽しか眼中になく 風車も連られて首を回す。
ただずっと浴びていたいのさ、きっと追い続けるのだろう。
夜は一体どこを向けばいいのか されど久遠の日は草原に沈まず。
轟音と振動。鉄の巨塔は僕を無視して唸る。
電気すら生まれずどこにも行けず 空回り。
力の為に回るのじゃない、回る事が意味なように。
無限彼方の地平線 遥か果てなく続く鉄樹並木。
再会まで歩みを止めてなるものか、強い決意と動かぬ足。
ごめんね、今は少し休ませて。蹲る僕の上には太陽がいつまでも。
昼に囚わる者より、夜を征く者へ。夜明けがあらんことを。
インタビュー記録: SCP-3405-JP
日付: 2020/05/01
インタビュー対象: SCP-3405-JP-2(容姿はAgt.太秦の実父に酷似)
インタビュアー: Agt.太秦 (ネクサス外交部門)
備考: Agt.太秦は本人の志願によって実験に参加しました。
<思念転写開始>
SCP-3405-JP-2: …あぁ、葵4か。
[台上にあったオセロ盤が、インタビュアーの来訪と共に霧散する。オセロ盤はインタビュー対象がかつて遊戯していたと思われる型番のものである。]
Agt. 太秦: 昔はよくお父さんとオセロで対決したけど、勝てた試しが無かったなぁ。口論では勝てなくても、ゲームならお父さんを負かせると歯向かってはねじ伏せられてさ。だからさ、また打たない?
[霧散していたオセロ盤が再出現する。]
SCP-3405-JP-2: おお、そうか。最後に打とうと思った時、お前は運悪く海外出張中でな。
[以後インタビュー対象とインタビュアーがオセロを遊戯しながら対話を続ける。]
Agt. 太秦: 打てなかったのは本当に悔しかった。これでもお父さんが亡くなってから、職場の同僚全員に勝てる位にはオセロの腕を鍛えたのよ?
SCP-3405-JP-2: そうか。なら腕並みを拝見だな。茜5以上の手応えを期待しているぞ。
[インタビュアーがインタビュー対象とオセロを遊戯する。]
Agt. 太秦: 不思議ね。恨み言でもガンガンぶつけようと思ってたのにどうも出てこない。
SCP-3405-JP-2: 葵が言わずとも分かる。母さんが本家を継がなかった代わりに他の家の養子になり、自分と妹の名字が違う事を。
[盤面の9割が白で埋まる]
Agt. 太秦: 今でも底にあるんだ、答えの無い問いが。
SCP-3405-JP-2: ふむ、どうやら死んでも私の腕は衰えていないようだな。
[インタビュー対象がインタビュアーにオセロで勝利する。]
[記録上の沈黙。]
Agt. 太秦: …勝ってたのにな、私。
SCP-3405-JP-2: 負けを認めたがらない悪い癖、今でも治ってないようだな。
Agt. 太秦: 確かに今はお父さんの黒一色。でも1手前まで盤面は白が勝つ寸前だったのに、それなのにいきなり黒に塗り替えられてしまった。こんな小手先のズルなんて要らなくても勝てる筈なのに。
Agt. 太秦: もしかしてお父さんじゃない?
[記録上の沈黙。]
SCP-3405-JP-2: 勝てないからって言い訳は辞めなさい。葵の事も家族の事もここまで知ってる人が私以外にいるものか?
Agt. 太秦: 私との関係を知ってる身近にいる人。身近にいて、劣等感を覚えていることを知っている人。お父さんじゃないなら、貴方は私だ。
[記録上の沈黙。]
SCP-3405-JP-2: 私は父と腹を割って話したかったんだよ、ずっと。
Agt. 太秦: 父さんが高熱で魘される私を勉強机に縛り付けて院まで行かせた学歴は、私の自信をしっかりと支えてくれた。財団に加入したのも父さんが趣味でよく登ってた葛城山6に卒業旅行で登ったら穴に落っこちて保護されてだし7。ずっと父さんが私の人生に与えた恩恵を見ないふりをしていたんだと思う。
SCP-3405-JP-2: 穴蔵に転勤した事自体は後悔してる?
Agt. 太秦: そういう事じゃない。財団に来た事も、一度行ったら気軽に現世に帰れない裏世界への転勤も全部私の選択。滞在中の身内の不幸も想定しなかった訳もない。
SCP-3405-JP-2: 穴蔵から帰ってきてから今まで以上に仕事に打ち込んでたのも、避けていたせいで死に目に会えなかった後悔から目を背けたかったからなんだろうね。
[オセロの盤面が改変されインタビュー対象の勝利が覆る]
Agt. 太秦: 本当は褒められたかった。もっと茜みたいにオセロを父さんと打ちたかった。自分の中のわだかまりに蓋をしていたんだと思う。
[インタビュー対象とインタビュアーが対戦を再開する]
SCP-3405-JP-2: 次会えたら言う事決まったみたいね。
Agt. 太秦: [微かに笑う]勿論よ。その時は絶対勝ってやるから。
[インタビュアーが勝利する。]
SCP-3405-JP-2: また会おうね。
[オセロ盤とSCP-3405-JP-2が急速に霧散していく。インタビュアーが一瞥すると、椅子の上にはヒマワリの花束だけが残されている。インタビュアーが部屋を出ると一軒家の輪郭が揺らいでいく。玄関から退出した時点で家屋全体が椅子とテーブルを残して消失し、インタビュアーは起床する。]
<思念転写終了>
後記: SCP-3405-JPの実験後、Agt. 太秦の精神状況が改善されていることが確認されました。本人は「本家で育てられた妹に対して抱いていた不合理な嫉妬や悪感情が解消され、今後は長期休暇で帰省した際にも妹と会おうと考えている」と報告しています。









