SCP-3426-JP
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アイテム番号: SCP-3426-JP

オブジェクトクラス: Argus1

特別収容プロトコル: SCP-3426-JPは真桑の家名を守るために財団サイトでは収容されず、無期限に真桑家の帰属となります。SCP-3426-JPの生家屋内または敷地内に無断で侵入しないでください。財団職員が真桑家の人間と接触した場合、彼らの問い掛けに返答することを禁じます。

不測の事態に備えて、SCP-3426-JP収容担当職員に喪服の着用を義務付けます。所持した通信機器の電源は予め切っておいてください。弔問客との談笑は厳に慎むべきです。真桑家の人間に笑顔を見せてはいけません。その代わりに、亡くなった真桑友梨佳を偲び、我々と共に涙を流す行為が推奨されます。

SCP-3426-JPは、囚われなければなりません。

説明: SCP-3426-JPは20██/██/██に自殺した真桑友梨佳氏の死体です。真桑家の意向により、SCP-3426-JPの直接の死因や自殺に至った経緯などは判明していません。SCP-3426-JPの肉体は腐敗の兆候を示さず、外部からの物理的影響に対する極めて高い破壊耐性を発揮します。これらの特性に起因する火葬プロセスの失敗を経て、SCP-3426-JPは真桑家の人間によって檜の木棺に安置されています。

SCP-3426-JPは肩甲骨付近の背部に、鳥類の翼に似た器官を有します。木棺の開放は禁止されているため、正確な翼開張は計測できていません。翼の表面は白い羽毛に覆われており、不定期的に羽ばたくような動作を見せることで、異常性を持たない羽根を周囲に舞い散らせます。SCP-3426-JPによる上記のような巣立ちの試みは、彼女の肉体が木棺の内部に囚われている限り、決して成功することはありません。

SCP-3426-JPは生前、地元では名家とされる真桑家の長女として、何不自由のない生活を送っていました。学業やスポーツに熱心で、双方共に優秀な成績を収めていました。普段から気の置けない友人たちに囲まれていました。恵まれていました。そんな彼女が真桑の外の道を選んだという現実に、真桑家の人間は耐えられませんでした。

SCP-3426-JPの私室は完全に封鎖されています。彼女から抜け落ちた羽根は速やかに焼却されました。過去にSCP-3426-JPと親交のあった真桑家以外の人間は、その過半数が現在まで行方不明となっています。持続可能な収容のため、彼らの行方を捜索しないでください。彼らには人並みの翼がありました。だからこそ彼女の前で、殊更に空を翔る後ろ姿を見せるべきではなかった。

以下は、SCP-3426-JPの収容違反が危ぶまれる事態となった際の転写記録です。なお、本記録中に登場する真桑恵子氏は、SCP-3426-JPの実母にあたる人物になります。

収容の記録: 20██/██/██

[Agt.皆木と恵子氏は、真桑家の玄関に立っている。]

Agt.皆木: この度は、お悔やみ申し上げます。

恵子氏: 恐れ入ります。……失礼ですが、友梨佳とはどういった関係で?

Agt.皆木: ああ、申し遅れました。[名刺を差し出す] 私は████の皆木です。亡くなった友梨佳さんのカウンセリングを担当していました。最近は治療の効果もあって前向きな言葉も増えてきていたのですが、私の力及ばず、痛恨の極みです。

恵子氏: ████? そんなところに友梨佳を連れていった覚えはありませんよ。あなた、誰だか知りませんが、あの子のことを馬鹿にしているんですか?

Agt.皆木: え? いや、何も馬鹿にするつもりはありませんでした。ただ、彼女の方から 「家族に心配をかけなくないので秘密にしておいて欲しい」と頼まれていたんです。ご存知なかったのも、仕方ありません。

恵子氏: 言い訳はやめてください。あなたは真桑の人間を侮辱しています。それだけは許されない。どうか、お引き取り下さい。

Agt.皆木: ……司令部、指示を。

[司令部からの指示により、制圧用のスタンガンの使用が許可される。]

Agt.皆木: 了解。

恵子氏: ちょっと、聞いていますか。あなた、さっきから誰と喋っているんですか……。

[Agt.皆木は恵子氏の腹部にスタンガンを押し当てる。恵子氏は体を痙攣させながら、床に倒れ込む。その後、Agt.皆木は身動きのできない恵子氏の手足を結束バンドで拘束する。]

恵子氏: [小さな悲鳴]

Agt.皆木: 司令部、恵子氏の無力化に成功しました。火葬場からの通報にあった、未詳アノマリーの所在を確認します。

[Agt.皆木は恵子氏のもとを後にして、木棺の安置された仏間に侵入する。仏間の至るところに、無数の白い羽根が舞い散っている。]

Agt.皆木: 火葬場に残されていた羽根と似ていますね。サンプルを採取します。

[Agt.皆木は屈み込んで、羽根を手に取り観察している。すると、目の前の木棺が左右に揺れ動き始める。]

SCP-3426-JP: そこにいるのは誰? お母さんの声じゃないですよね? あの、誰でもいいから助けてください! ずっとここに閉じ込められているんです!

Agt.皆木: ……司令部、棺の中に未詳アノマリーの存在を確認しました。対象は遺体の筈ですが、恐らく内部で運動と発声を行っています。

[司令部は短い協議の結果、Agt.皆木に棺の開放を指示する。]

Agt.皆木: 了解……マジかよ。

[Agt.皆木は周りに注意を払いながら、棺の蓋を開放する。すると、SCP-3426-JPは白い羽根を舞い散らせて起き上がってくる。]

SCP-3426-JP: ああ、良かった……良かった! 本当にありがとうございます!

Agt.皆木: ……確認しますが、あなたは真桑友梨佳さんで間違いないですか?

SCP-3426-JP: ええっと、そうです。でも、どうして私の名前を知っているんですか? 真桑の知り合いの方でしたっけ?

Agt.皆木: 私は皆木という者です。ある依頼を受けて、あなたを探していました。

SCP-3426-JP: ……もしかして、探偵さんですか? 私の噂を聞いて、探しに来たんですか?

Agt.皆木: まあ、そんなところです。

SCP-3426-JP: やっぱり! じゃあ、私の背中の翼のことも知っているんですよね。家に閉じ込められたのは、この翼のせいだって。

Agt.皆木: いや、そこまでは。実のところ、私の目的はあなたの保護です。なので、友梨佳さん。あなたの翼や真桑の家のことは、私の事務所に着いてから詳しく聞かせてください。

SCP-3426-JP: ……それは皆木さんが私をこの家から連れ出してくれるってことですか。

Agt.皆木: はい、今すぐに。

[SCP-3426-JPは悲しみの表情のまま俯く。]

SCP-3426-JP: ごめんなさい。それは無理です。

Agt.皆木: 何故ですか?

[SCP-3426-JPはAgt.皆木の方に顔を向けて、少しの間、涙を流す。]

SCP-3426-JP: 皆木さんには、ここから飛び立つための翼が、どこにもないから。

[突然、背後の襖が開き、恵子氏を先頭にして真桑家の人間が大勢仏間に入ってくる。]

恵子氏: 浩介さん! なんてことを!

Agt.皆木: あっ。

恵子氏: 棺を開けてはならないと、あれほど言いつけておいた筈ですよね!

Agt.皆木: ……お義母さん、お許しください。どうしても最後に、友梨佳の顔を見たくなってしまいました。俺は彼女を愛していたんです。

[Agt.皆木は司令部の通信を無視する。]

恵子氏: まったく、あなたの気持ちは痛いほど分かります。それでも、その子の存在は世間の目から隠しておかなければならないんです。

[真桑家の人間が、SCP-3426-JPを棺に押し込めようとする。SCP-3426-JPは必死に抵抗するが、少しずつ棺の中に沈んでいく。]

恵子氏: あなたも財団の人間だったなら、私たちの行いの意味ぐらいは理解できるでしょう? だから、今はただ友梨佳の死を悼みませんか。もし友梨佳が生まれ変われたら、今度は籠の中で死なずに済むように。

Agt.皆木: ああ、友梨佳……。何の助けにもなれなくて、ごめんな。

[真桑家の人間によって棺の蓋が閉められる。仏間には白い羽根が舞っている。]

SCP-3426-JP: 私はただ、この家から自由になりたかっただけなのに。

[Agt.皆木は司令部との通信を拒絶する。記録終了。]


SCP-3426-JPの収容は必要ありません。夫である私が棺の前に座って、死ぬまで彼女に哀悼の意を捧げます。彼女の背中にあった翼は異常でした。真桑家の人間が、あれを地の底に沈めようとする気持ちは分かります。私たちの存在は真桑家の人間と同じようなものでした。財団の使命を最期まで全うすることが叶わず、申し訳ありません。

SCP-3426-JPの報告書を執筆する必要はありません。私が書いているこの文章を、真桑家の玄関前に置いておきます。お義母さんには事前に許可を頂いています。報告書の内容は財団以外の人間に知られないよう、くれぐれも宜しくお願いします。真桑家の人間は、それを許さない。

私の妻である真桑友梨佳は自殺しました。改めての弔問は無用です。財団の誰もが、真桑家の末席に加わってしまうことを私は望みません。例え我々の行いが、真桑家の人間と同じように、最初から間違っていたのだとしても。

皆さん、後は頼みます。



真桑 浩介(旧姓:皆木)

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