SCP-3435-JP
アイテム番号: SCP-3435-JP
オブジェクトクラス: Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-3435-JPは無力化されています。担当職員は月に一度、SCP-3435-JPの動作確認及び撮影された写真の整理及び報告を行ってください。
説明: SCP-3435-JPは1967年にライカカメラ社1から発売されたレンジファインダーカメラ・ライカM4です。ボディの一部に傷や経年劣化の跡がみられますが各部品の破損はみられません。また、主要な機構も全て正常に作動します。これらは異常性によるものではなく、適切な管理が行われてきたことによるものと考えられています。
SCP-3435-JPを保持した人物(以下、保持者と記載)は、SCP-3435-JPを使用して自分自身以外の人物の撮影をしたいという強い衝動に駆られます。この際、保持者はフィルムカメラの使用方法を理解していなくともSCP-3435-JPを用いて撮影することが可能です。保持者は写真を撮り終えると、被写体となった人物にSCP-3435-JPを手渡します。SCP-3435-JPが被写体となった人物に渡った時点で、保持者だった人物はSCP-3435-JPの影響から離脱します。SCP-3435-JPを渡された人物は新たな保持者となり、SCP-3435-JPを使用して自分自身以外の人物を撮影したいという衝動に駆られることとなります。SCP-3435-JPの影響から抜け出した人物は撮影時の記憶を保持していますが、一連の行動について違和感を覚えることはありません。
SCP-3435-JPの強制力は比較的緩やかなもので、撮影の際には被写体に対して声をかけ、写真を撮る許可をとるなど、一般的な良識の範囲内で撮影を行うことが分かっています。この際、声をかけられた人物は被写体となることを拒否することができ、保持者も拒否の意思表示に対して強い反応を示すことはありません。
回収時、SCP-3435-JPの内部にはカメラフィルムが装填されていました。このフィルムは本来24枚撮りの35mmフィルムですが、内部のネガフィルムを確認したところ、約██████枚分のネガが格納されていました。約██████枚のネガを格納することは物理的に不可能であるため、SCP-3435-JPの異常性によるものとみられています。ネガの保存状態は非常に良く、撮影された映像の全てが現像可能でした。現像した写真を確認したところ、被写体は人物と周囲の景色のみでした。撮影場所は人通りの多い箇所に偏在していますが、明確な規則性は確認されていません。また、撮影者の国籍や撮影が行われた国2にも明確な規則性はみられませんでした。
発見経緯: SCP-3435-JPは「写真を撮らせてほしいと懇願する浮浪者の男がいる」との通報により財団の知るところとなりました。該当の人物にインタビューを行った結果、その人物はすでにSCP-3435-JPの影響から離脱しており、SCP-3435-JPも別の人物に渡っていました。当該人物及びSCP-3435-JPを渡された人物の追跡の中で行われたインタビューを元にSCP-3435-JPの大まかな異常性の推定に成功しましたが、SCP-3435-JPの確保には至りませんでした。当時の情報網ではSCP-3435-JP保持者の特定が困難であったこと、異常性自体が世間に及ぼす影響が比較的低いことから、大規模な捜索活動は行わず情報収集による保持者の追跡を主として行うこととしました。
1998/10/27、██大学でゼミの講義を行っていた千堂博士3によりSCP-3435-JPが発見されました。千堂博士は、自身のゼミの生徒が講義の休憩時間にSCP-3435-JPを用いて互いの写真を撮りあっており、カメラフィルムの枚数を明らかに超えた回数の撮影を行っていることに気が付きました。千堂博士は大学周辺のエージェント数人を教室付近に待機させ、千堂博士とエージェントを交互に保持者とすることで、付近のサイトへの収容を試みました。千堂博士が被写体となりSCP-3435-JPを保持しましたが、千堂博士は異常性に曝露することはなく、またエージェントにSCP-3435-JPを保持させても異常性が発現することはありませんでした。
SCP-3435-JP収容後の初期調査の結果、SCP-3435-JPは元々千堂博士の所有物であったことが判明しました。SCP-3435-JPの異常性及びその起源に千堂博士が関わっている可能性が浮上したため、SCP-3435-JP収容から数日後、千堂博士に対してインタビューが実施されることとなりました。
インタビュー記録 - 日付 1998/11/4 9:45
対象: 千堂博士
インタビュアー: 俵博士
<録音開始>
俵博士: SCP-3435-JPは元々貴方の所有物であったと伺いましたが間違いはありませんか。
千堂博士: ええ、シリアルナンバー4、カメラについた傷、フィルムを巻く際に少々引っかかる癖を見るに、過去に私が使用していたもので間違いないかと。
俵博士: 「過去に」とのことですが、具体的にはいつまで所持されていたのですか。
千堂博士: 今から20年ほど前、ちょうど私が財団に雇用される前までですね。
俵博士: その経緯を詳しく教えてください。
千堂博士: 分かりました。異常性の解明に関わる可能性もあるため、手に入れた経緯からお話しいたします。少々想い出話のようになってしまうやもしれませんがご容赦いただきたい。
[千堂博士は姿勢を直す]
千堂博士: 私がこちらを手に入れたのは修士の時分です。日本中を巡ることが好きだった私は旅の記録を何か残したいと思い、雑誌で何度も見かけたカメラであるライカを手に入れたいと思うようになったのです。しかし、当時のカメラは一番安い物でも月収数カ月分もかかるような高級品です。ましてやライカは非常に人気の高い機種。本来ならば学生の身分で手の届くような代物ではありません。様々な方の元に出向き、頭を下げて、お金をお借りしてようやく手に入れたものでした。
俵博士: なるほど、博士は学生時代の頃からフィールドワークに力を入れていらっしゃいます。SCP-3435-JPを使用してフィールドワークを行っていたということでしょうか。
千堂博士: いえ、カメラはあくまで趣味のためのものです。フィールドワークは記録を取ること以上に、現地の方とコミュニケーションを取りお話を聞かせていただくことが肝要でしょう。しかし、カメラがあると記録をすることに執着してしまいます。そのため、現地へ持ち込むことは控えていたのです。そのような調子でしたから、このカメラをあまり外に出してやることはできませんでしたね。
俵博士: 普段の博士を見ていると容易に想像がつきます。しかし、それだけ思い入れのあるSCP-3435-JPを何故手放したのですか。
千堂博士: 博士課程も終わりが近づき、さて就職をどうしたものかと考えている時、ありがたいことに財団から声をかけていただきました。もし財団に参加するならば機密保持の観点からも個人的な用事で写真を撮ることは避けるべきでしょう。ですから、このカメラは手放すべきだと、そう考えたのです。
[千堂博士はSCP-3435-JPへ目をやる]
千堂博士: 写真を撮ることなく手元に置いておくこともできたでしょうが、それではこのカメラが不憫だ。自分の能力を発揮する機会なく鑑賞品扱いにされてしまうわけですから。悩みはしましたが、近所にあった写真館5にカメラを買い取っていただいたのです。そこからの経路は把握しておりません。
俵博士: なるほど、ありがとうございます。次にこちらをご覧ください。
[俵博士は写真の束を千堂博士の前に提示する]
俵博士: SCP-3435-JPにはフィルムが装填されていました。膨大な量のため現像が終わっているものを一部抜粋して持ってきました。撮影場所や被写体の人物に何か心当たりはありませんか。
[千堂博士は写真を確認する]
千堂博士: 過去に訪れたことがあるのは、こちらの写真に写っている中尊寺の金色堂だけですね。その他は残念ながら人物も含め覚えはありません。
俵博士: そうですか。現在の推定ですが、SCP-3435-JPは全47都道府県に加え、世界53か国ほどを巡っているようですね。こちらもご確認を。
[俵博士はリストを提示する]
千堂博士: これまで訪れたことのない国ばかりです。様々なところを巡ってきたんですね。
[千堂博士はリストを俵博士に返却する]
俵博士: ありがとうございます。お話の内容から、博士がSCP-3435-JPを手放した後に異常性が発現したと考えられます。異常性の発現要因について何か思い当たる点はありますか。
[千堂博士は数秒の間思案している]
千堂博士: 現状、思い当たることはありません。
俵博士: こちらの調査の結果、SCP-3435-JPは売却の3ヵ月後に異常性を発現させ、丸山氏の手を離れています6。SCP-3435-JPの発生には千堂博士が強く影響していると考えています。先ほどの回答は可能な限り客観的に考えていただいた上のものと勘案しますが、今回のオブジェクトと博士の関係性を鑑みるに、客観的な視点だけでは異常性の解明が難しいと考えています。主観的な内容で構いません。何か思い当たることをお話しいただけると助かります。
[千堂博士は少しの間思案する]
千堂博士: 先ほど、このカメラをほとんど外に出したことがないと言いましたが、一度だけ、このカメラと旅行に出かけたことがありました。いつだったか、長期休みを利用して日本全国を巡ろうと考えたのです。研究内容の兼ね合いもあり、フィールドワークで同じ場所に留まることが多かったものですから、研究に忙殺されて行けなくなる前に色々な場所を見て回りたくなったのです。されど、このカメラを買ってしまったことで私は素寒貧。打つ手のない私は、当時流行っていると聞き及んだヒッチハイクなるものをやってみようと思い立ちました。そう決めたが最後、その日のうちにバックパックと少しの所持金とカメラだけをひっつかみ、外に繰り出していました。悲しいかな準備不足が祟ったのでしょう、二日目で流行り病に罹ってしまい、旅の続行が不可能になりました。幸い親切な男性に地元の病院まで送り返してもらえたため事なきを得ましたが、様々なところを巡るどころか東北すら越えることなくこの旅は終了してしまいました。
[千堂博士は俵博士の方を向く]
千堂博士: 以来、少しばかり心残りだったのです。旅ができなかったことも、このカメラを狭い世界にとどめてしまう結果になったことも。私がカメラを丸山さんのところへ持ち込んだのもそのためです。私はこのカメラを外へ連れて行ってやれなかった。私の代わりに広い世界をその目で見てくるんだよと願いつつ。
[千堂博士は笑顔を見せる]
千堂博士: どうやらこのカメラは私の願いを律儀にも守ろうとしたのかもしれませんね。
俵博士: なるほど。では異常性が停止した理由はどのようにお考えで。
千堂博士: 先ほどの荒唐無稽な話が真であるとすれば、私が手に持った瞬間に元の持ち主の所へ戻ってこられたと分かったからではないでしょうか。約束通り様々な所を巡ってきて、もうヒッチハイクを続ける必要もなくなったわけですから。もっともこれが、親の顔を見て安心した子供のように、疲れて眠ってしまっただけのか、はたまた、急に別れ話を切り出し自らの願いを押し付けてきた勝手な男に大層ご立腹なのかは分かりませんが。前者であって欲しいものです。
[二人は互いに軽く笑う]
俵博士: 流石にオブジェクトに寄りすぎた推測とは思いますが、当事者の参考証言として報告させていただきますね。ひとまず、本日のインタビューはこちらで終了いたします。ありがとうございました。
千堂博士: 時に。
[千堂博士は俵博士の方に目を向ける]
千堂博士: SCP-3435-JPは最後に私を撮影したはずですが、その写真を見せていただくことは可能ですか。
俵博士: ええ、構いませんよ。
[俵博士は写真を手渡す。千堂博士は写真を確認する]
千堂博士: この子には手に持った瞬間ではなく、私が被写体になった時点で持ち主の元へ戻ってこられたのだと気づいてほしかったが。なるほど、これだけ時が経っていたらそれも酷な話というものか。
<録音終了>
補遺: インタビュー後の実験にて、SCP-3435-JPに新品のフィルムを装填し千堂博士以外の職員に保持させましたが、異常性は発現しませんでした。また、発見時のフィルムを再装填しても異常性が発現することはありませんでした。定期的な状況再現実験を行いましたがSCP-3435-JPの異常性が確認されなかったため、2001/10/27、SCP-3435-JPは無力化されたとみなされ、異常性の発現要因の特定も行わないことに決定しました。
SCP-3435-JPが再び異常性を発現させる可能性を考慮し、千堂博士をSCP-3435-JPの担当職員とし、SCP-3435-JPから発生した写真類の調査、データ収集を任せることとなりました。写真類の調査のためSCP-3435-JP及び関連物品は現在、千堂博士の自室ロッカーに保管されています。









