アイテム番号: SCP-3470-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3470-JPはサイト-81CHの低危険度物品収容ロッカーに収容されます。ネコ科動物の接近は収容違反リスクとなり得るため、ロッカーは動物を扱う設備の近傍に設置すべきではありません。
プロジェクト・カーテンコールの実施に伴い、SCP-3470-JPはアノマリー雇用推進プログラム1の対象に指定されました。詳細は補遺を参照してください。
説明: SCP-3470-JPは小型の1対の革製ブーツです。平常時、SCP-3470-JPは視認したイエネコ (Felis silvestris catus) を誘引し、自身に後肢を挿入するよう行動を誘導する比較的弱い2認識災害を有します。この効果は後述する主要な異常性の自発的な発現に貢献します。
SCP-3470-JPは、正確な基準は不明ながら、少なくとも何らかの形でネコの要素を含む存在 (以下、対象) によって後肢を挿入されることで異常な性質を示します。SCP-3470-JPは対象の身体構造を、元の外見的要素を大まかに保ちつつ再構成し、二足歩行能力、手指巧緻性、ヒトと極めて類似した知能構造、言語処理能力3等の特性を付与します。この状態のSCP-3470-JPと対象を併せてSCP-3470-JP-Aと呼称します。この変化はSCP-3470-JPが対象の身体から離れることで完全に逆転し、元の状態に戻ります。
心理学的プロファイルに基づき、全てのSCP-3470-JP-Aは連続性を保つ単一の記憶と人格を共有すると考えられています。個々の対象に由来する影響は存在しないか、少なくともごく微弱な因子であるようです。SCP-3470-JP-Aは改変イベントから30~40時間程度経過すると、「借りた身体を返却する」と称して自発的にSCP-3470-JPを脱ぐ行動を見せます。これにより、同一の対象に由来するSCP-3470-JP-Aが2日以上連続して存在することは稀です。
SCP-3470-JPは、2020/08/02、FP-06 ("中国地方の穴蔵")4 の異常物品市場からの購入を通じて、他数点のオブジェクトとともに回収されました。以下は回収後に行われたインタビュー記録の転写です。
インタビュー記録
日付: 2020/08/03
場所: サイト-81CH
対象: SCP-3470-JP-A (身体はサイト内で飼育されていた実験動物のイエネコに由来する)
インタビュアー: 木下 由美 研究員 (サイト-81CH 研究・開発部)
前記: 回収直後に行われた、収容指針の決定のための初期インタビュー。
[記録開始]
重要度の低い会話を省略。
木下研究員: さて、私たちは貴方が何者なのかを知りたいと思っています。もしよろしければ、自己紹介をお願いできますか?
SCP-3470-JP-A: おや、私の武勇伝はこの国にも伝わっていると思っていましたがね。
SCP-3470-JP-Aは立ち上がると、身体を木下研究員に見せるようにその場で回転する。
SCP-3470-JP-A: さあ、この姿を見て、何か思い当たる物語は?
木下研究員: ああ、「長靴を履いた猫」ですか?
SCP-3470-JP-A: 正しく。何を隠そう私こそ、かの靴履き猫なのですよ。我が主人カラバ侯爵より賜った靴に魂を宿し、今日まで生きながらえてきたのでございます。
木下研究員: ええと、魂が靴に宿ったとおっしゃいました?
SCP-3470-JP-A: (笑い声) 猫に九生有り、と申します。二生目が靴ということもありましょう。
木下研究員: なるほど、ありがとうございます。記録しておきます。それから、猫を寄せ付ける効果があるようですね。これについても教えていただけますか?
SCP-3470-JP-A: 私の名は猫界隈ではよく知られたものなのですよ。皆喜んで身体を貸してくれます。
木下研究員: それでは、貴方の本体部分とは靴であって、何かに履かれなければ今のように活動できないものということで合っていますか?
SCP-3470-JP-A: その通りです。
木下研究員: それでは、履かれていない状態での、靴としての貴方の意識の有無についてお聞きしたく思います。
SCP-3470-JP-A: どういうことでしょう? 問いの意図を掴みかねておりますが。
木下研究員: 意識があるにもかかわらず行動できない状態を、私たち人間は苦痛に感じる事がほとんどなのです。貴方の精神構造がヒトと全く同一かは分かりませんが、今のところ、よく似ていると感じます。これは貴方の倫理的取り扱いにとって非常に重要な情報です。
SCP-3470-JP-A: ああ、なるほど。では正直に答えましょう。意識はありません。例えるならば、それは眠りに似ています。ですが ……
木下研究員: 何でしょう? 遠慮なくおっしゃって下さい。
SCP-3470-JP-A: 茨の奥の眠り姫は苦悶を浮かべずとも、民は哀れに思うでしょうな? 長く眠れば眠るほどに、目覚めた時の世の変わりように悲しみを感じます。
木下研究員: なるほど。参考にいたします。
SCP-3470-JP-A: ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします。
重要度の低い会話を省略。
[記録終了]
後記: SCP-3470-JP-Aは多少大袈裟な言動を取る傾向があるものの、基本的に協力的な態度を維持しており、意思疎通にも大きな問題はありません。そしてまた、オブジェクト自身が自らの倫理的取り扱いについて関心を示していることを鑑み、アノマリー雇用推進プログラムの被験者としての採用を提案いたします。
補遺: アノマリー雇用推進プログラム
続く複数のインタビューと実験の後、SCP-3470-JP-Aはアノマリー雇用推進プログラムの被験者第一号として正式に認定されました。プログラム実施のため、サイト-81CH職員によるワークグループが設立されました。主要メンバーは以下の通りです。
- 横山 弘 (研究・開発部所属 研究員)
- 木下 由美 (研究・開発部所属 研究員)
- 湯浅 裕一 (資産・人事部所属 人事スタッフ)
ワークグループのコミュニケーションは主に、サイト-81CH 記録・情報部が提供する職員向けチャットアプリケーション "Mingler"5 を用いて行われました。コンテキストの提供のため、当報告書内にも会話ログの一部が掲載されています。
Mingler会話ログより一部抜粋
湯浅裕一(A&H)
一先ず、このアノマリー雇用事業には二点要件があります
1. アノマリーが知性ないしは自我を有する。
2. アノマリーが自身と財団にとって有用なスキルを提供する。
統合プログラムを参考にしているそうです。一点目はとりあえずクリアですね
木下由美(R&D)
もしかして: 猫とセットじゃないとクリアじゃない
横山弘(R&D)
それに大きさが猫ではやれることにも限度があります
猫以外はどうなんでしょう?
湯浅裕一(A&H)
確かに
猫以外のボディがあれば選択肢が広がりますね
木下由美(R&D)
収容直後の簡易実験で剥製までいけるってのは分かってます
ぬいぐるみとかもいけそうな気がしますね、色々試してみましょう
湯浅裕一(A&H)
ではまずはそこからでしょうか
横山弘(R&D)
それなら我々の得意分野です
実験あるのみ!
木下由美(R&D)
異議なし
SCP-3470-JPの異常性発現の詳細な条件を探るため、実験が行われました。結果の一部を表形式で以下に掲載します。
対象 | 結果 | メモ |
---|---|---|
イエネコ | 陽性 | 陽性の標準。 |
イヌ | 陰性 | 陰性の標準。 |
ヒト | 陰性 | |
条件の異なるイエネコ10個体 | 全て陽性 | 年齢、性別、品種等による影響について検証。 |
イエネコの剥製 | 陽性 | 生きている必要はない。ここまでが過去の実験結果。 |
イエネコの骨格標本 (針金で固定) | 陰性 | 剥製との差異を考えると、外見的要素が重要? |
イエネコを写実的に模ったぬいぐるみ | 陽性 | やはり外見的要素が重要か。生体由来である必要はない。 |
イエネコをモデルとしたキャラクターのぬいぐるみ | 陽性 | 猫を指す記号的要素が重要?(以下「猫記号仮説」とする) |
イエネコをモチーフにしたアニメ作品のキャラクターのフィギュア | 陽性 | イエネコの本来の形状から随分と離れたが、異常性を示した。猫記号仮説と矛盾しない。 |
イエネコを写実的に模ったぬいぐるみから耳を切り落としたもの | 陰性 | 猫記号仮説に基づく還元主義的アプローチに着手。不可欠な記号要素を特定する。 |
イエネコを写実的に模ったぬいぐるみから尾を切り落としたもの | 陰性 | |
人型の人形 | 陰性 | |
イエネコの耳を模った装飾をつけた人形 | 陰性 | |
イエネコの尾を模った装飾をつけた人形 | 陰性 | |
イエネコの耳と尾を模った装飾をつけた人形 | 陽性 | 不可欠な要素を耳および尾と特定。 |
Mingler会話ログより一部抜粋
横山弘(R&D)
猫耳と猫のしっぽさえあればOKっぽいです
彼の言う「身体の返却」がないのでずっと使えますし、人形でいいでしょう
湯浅裕一(A&H)
かなり嬉しい結果です
人型の身体なら道具や制服は既存のデザインを流用しやすいです
横山弘(R&D)
靴サイズの制約があるので、ある程度小柄なものにはなってしまいますがね
木下由美(R&D)
あと衛生の問題が解決したのはデカいかも
食堂や清掃は生の猫じゃNGでしょ
湯浅裕一(A&H)
実際、猫アレルギー持ちの人もいますから、その指摘は的確です
じゃあ実際の試験をやっていきますか
横山弘(R&D)
何が向いてるんだろうか
木下由美(R&D)
簡易知能テストの結果を見る限り、書類仕事向きって感じじゃなさそうな
賢くはあるけど、学校のお勉強っていうよりパズルとかそっち系なんです
湯浅裕一(A&H)
体力テストの結果はかなり良い方に見えます
収容保安部の平均と比べても遜色ない
横山弘(R&D)
身体の軽さは敏捷性にプラスに働いているでしょうね
保安スタッフはアリでしょうか?
湯浅裕一(A&H)
彼自身の希望は特になしってことでしたよね
木下由美(R&D)
そうですね、今の世の仕事は分からないから〜と
昔は農家でネズミ取りをやってたとも言ってましたが
湯浅裕一(A&H)
では色々試してみましょう
関係部署との調整はお任せください
横山弘(R&D)
よろしくお願いします!
SCP-3470-JP-Aのサイト内雇用に向けた試験が開始されました。以下は試験記録の一部抜粋です。
試験内容
SCP-3470-JP-Aをサイト内食堂の調理スタッフチームに参加させた。
結果
食材の皮剥きや切り分けの手際は比較的高く評価されたものの、調味についての認識が一般的なヒトの嗜好と大きく異なることが指摘された。更に、水および炎に対する忌避感を持つことが確認され、食材の洗浄や加熱において特別の配慮を必要とした。
SCP-3470-JP-A: 私としましては、この魚などは生の方がよろしいかと。
試験に協力した調理員らへの聞き取り調査の結果、アノマリー雇用推進プログラムへの協力自体にはある程度好意的だったものの、より味覚的・嗅覚的嗜好がヒトに近いオブジェクトを割り当てるよう希望する意見が多数を占めた。
試験内容
SCP-3470-JP-Aに標準的な掃除用具を与え、サイト内の非使用部屋の清掃を指示した。
結果
初回の試験は事故による中断 (後述) を挟んだものの、最終的には完遂された。同様の試験を3回行った後の最終評価では、サイトに雇用されている清掃員と比較して作業能率及び完成度は大きく劣ると判定された。
作業途中、SCP-3470-JP-Aは水の入ったバケツを尾で持ち上げようとしたが、その重みで尾を人形本体に固定するパーツが破損した。尾が脱離したことでSCP-3470-JPは異常活性を喪失した。
SCP-3470-JP-A: ご心配なさらず、痛みなどはありません。
試験担当者によって尾は再接続され、SCP-3470-JP-Aは不注意な行動に対する叱責を受けた。SCP-3470-JP-Aはより破損しにくい身体を用意することを要望し、これは翌日に承認された。
試験内容
SCP-3470-JP-Aをサイト保安チームの訓練に参加させた。
結果
護身術の訓練では技術面で高評価を受けたものの、膂力の不足が課題として挙げられた。実践的な模擬制圧訓練の成績は比較的低水準であった。加えて、現在のSCP-3470-JPは小柄で威圧感に欠ける点が指摘された。
SCP-3470-JP-A: 毛を逆立てればあるいは…… と思ったのですが、この体には毛がなく。
指摘に基づき、より大柄な身体を作成することが望ましいとされたが、SCP-3470-JPのサイズの制約のため、一定水準以上の体格は重量バランスに影響して身体活動パフォーマンスの低下に繋がると試算されている。毛の移植については検討中。
Mingler会話ログより一部抜粋
横山弘(R&D)
なんとも上手くいきませんね
木下由美(R&D)
結局正体は何なんだろう
それが分かれば得意不得意が見えてくるんじゃないかと
横山弘(R&D)
自称はともかく、少なくとも僕は物語に由来すると考えています
大体日本語しか話せないなんて変ですし
湯浅裕一(A&H)
ああ、原典の舞台はヨーロッパですよね
横山弘(R&D)
そうですそうです
なので日本で出版された絵本とかに関係するものだと予想してます
木下由美(R&D)
例えば?
横山弘(R&D)
Imaginanimalとか?
木下由美(R&D)
結局よく分からないと同義ですねー
横山弘(R&D)
まあそうですが…
湯浅裕一(A&H)
物語に由来するとしたら、そこで描かれてるようなことは得意だったり?
木下由美(R&D)
長靴をはいた猫が得意なことと言えば何でしょう?ハッタリ?
湯浅裕一(A&H)
以前言ってましたが、ネズミ取りもそうですかね
横山弘(R&D)
サイトでネズミなんか見かけたことないですよ
木下由美(R&D)
「自身と財団にとって有用なスキルを提供」ってのが案外難しくて…
湯浅裕一(A&H)
本人(本猫?)に聞いてみます?
何が得意か
木下由美(R&D)
ではここまでの結果も踏まえて、改めて聞いてみます
SCP-3470-JP-Aが財団に提供可能な有用なスキルを把握するため、インタビューが行われました。
インタビュー記録
日付: 2020/08/29
場所: サイト-81CH
対象: SCP-3470-JP-A (身体は支給された人形に由来する)
インタビュアー: 木下由美研究員 (サイト-81CH 研究・開発部)
[記録開始]
木下研究員: ここまで実験に付き合っていただきありがとうございます。
SCP-3470-JP-A: いえ、こちらこそ。今まで経験のないことばかりで、中々楽しませてもらいましたとも。
木下研究員: ですが、あまり上手くは行っていないのが現状です。私どもとしても、適材適所というのが一番良いことだと考えておりまして、貴方の適性を把握したいのです。
SCP-3470-JP-A: ありがたい話です。
木下研究員: そこで、単刀直入に聞きます。貴方の特技は何でしょうか?
SCP-3470-JP-A: そうなりますと、やはり、ネズミ捕りですかね。
木下研究員: ネズミ捕りですか。以前もおっしゃっていましたね。
SCP-3470-JP-A: はい。
木下研究員: なるほど。
記録上の沈黙。
SCP-3470-JP-A: あっ、もちろんネズミ捕りというのは文字通りネズミを捕ることですよ?
木下研究員: それは分かっています。他にはどうでしょう?
SCP-3470-JP-A: ウサギやリスもいけますよ。大抵の小動物ならばお任せください。
SCP-3470-JP-Aは胸を張るような仕草を見せる。
記録上の沈黙。
木下研究員: ええと、はい。なるほど。情報提供ありがとうございます。一応、そうですね、一度その実演をやっていただいても?
SCP-3470-JP-A: もちろん喜んで!
[記録終了]
後記: 突出した技能なら使えるかもしれませんし、ともかく試してみましょう。
インタビューの結果を元に、追加の試験が行われました。
試験内容
実験場に放したラットを生きたまま捕獲するようSCP-3470-JP-Aに指示した。実験場は密閉された室内であり、捕獲対象の隠れ家や追跡の阻害として機能する障害物が設置されている。道具の要求は安価なもののみ可能と伝えられた。
結果
SCP-3470-JP-Aはパンくずを要求し、承認された。SCP-3470-JP-Aは試験担当職員の昼食として購入されていたパンの一部を提供され、それを手に持ったまま試験場へ入室し、非常にゆっくりとした動きで仰向けの姿勢で床に寝転がった。
10分程度が経過すると、捕獲対象は警戒しつつもSCP-3470-JP-Aに近づき、その身体に触れ始めた。この間、SCP-3470-JP-Aは一切動かなかった。最終的に捕獲対象はSCP-3470-JP-Aの手中にあるパンを摂食するために手のひらの上に乗り、SCP-3470-JP-Aはそれを素早く握りしめて捕獲に成功した。
SCP-3470-JP-A: この身体ならば体温も匂いもありません。私が動かなければ全くモノと同じであり、我が身をそのまま罠として使えるというわけです。
試験場の条件や対象の生物種を変えて複数回実験が行われ、SCP-3470-JP-Aはそのいずれにおいても、条件に応じた戦略の転換を見せ、高い成績を示した。
Mingler会話ログより一部抜粋
横山弘(R&D)
想像以上の成績です
木下由美(R&D)
とはいえ、結局この才能をどこに活かすかという問題に戻ってきましたね
横山弘(R&D)
小動物型オブジェクト脱走時の再収容とか?
ちょっと限定的すぎるし、できれば恒常的な仕事を与えてあげられればと思うんですが
木下由美(R&D)
サイト内のその手の仕事、警備員と機械システムで99%何とかなっちゃいますからね…
湯浅裕一(A&H)
それについてですが、収容・保安部が試験結果に興味を示しています
新部隊の編成計画があるらしく、そこで使えないかということですが
横山弘(R&D)
部隊ですか?
収容チームにでも参加させるつもりなんでしょうか
木下由美(R&D)
サイトの外に出せるんですか?
服で誤魔化せるとはいえ、結構あの外見は目立つのではという気もします
湯浅裕一(A&H)
それは大丈夫らしいです
穴蔵に生息する異常動物を捕獲調査するのが目的と聞いています
木下由美(R&D)
あーなるほど
異常領域ならそこの問題はクリアですね
湯浅裕一(A&H)
というわけで、異常動物での試験もやっていただきたいです
木下由美(R&D)
了解です
Anomalousアイテムの使用許可をとらないと
湯浅裕一(A&H)
それともう一つ注文がついてまして、万が一の時にアノマリーの行動を停止できる安全装置が欲しいそうです
木下由美(R&D)
やっぱそこはリスクですよね
横山弘(R&D)
安全装置の方は一つアイデアがあります
とりあえず設計図を書きますのでお待ちを
湯浅裕一(A&H)
お二人とも、よろしくお願いします
木下由美(R&D)
いよいよゴールが見えてきた感じですね!
続く複数の試験を経て、SCP-3470-JP-Aは新設された機動部隊お-10 ("キャッチャー・キャッツ") の隊員として正式に運用されています。以下に関連資料の要約を掲載します。
機動部隊お-10におけるSCP-3470-JP-Aの運用
FP-06 ("中国地方の穴蔵") の内部調査が進展する中で、多種の異常動物の生息が確認されました。当該空間自体に異常動物相を自発的に生成・維持する効果があるとは考えにくく、(1) 住人が移入または作成した異常動物の野生化、及び (2) 野生動物の深妙物質への長期間の暴露による異常化の2点がその主要な原因として考えられています。
機動部隊お-10 ("キャッチャー・キャッツ") はこの異常動物相についての捕獲調査を目的として設置された部隊です。異常動物学者を中心とし、FP-06の空間構成や社会事情に精通したエージェントや、特殊機材を運用する場合に同行する技師などから構成されます。また、同部隊はアノマリー雇用推進プログラムの一環として、SCP-3470-JP-Aを隊員として組み込んでいます。
SCP-3470-JP-Aは小動物の捕獲を得意としており、その戦略的思考能力と観察力が高く評価されています。また、その異常性によって身体寸法に可変性がある点も活動における利点の一つです。身体として利用するための人形は現在、サイズの異なる3種類が制作されていますが、特に小さめにデザインされたものが、狭まった地形の多いエリアでの調査に有効活用されています。
SCP-3470-JP-Aに支給されている全ての人形には、安全装置として遠隔操作で尾パーツを分離するシステムが取り付けられています。このシステムにより、万が一の収容違反時にSCP-3470-JP-Aの活動を効果的に停止させることが可能です。なお、現在までこのシステムが起動されたことはありません。
現在、SCP-3470-JP-Aの運用状況はアノマリー雇用推進プログラムの模範例の一つと見做されています。
特殊資産としてのSCP-3470-JP-Aの利点と欠点をよく反映した資料として、MTF お-10の作戦記録の一部が以下に掲載されています。その他の全ての活動の記録は、要請に応じて閲覧可能です。
作戦記録
日付: 2020/10/06
場所: FP-06 内部
主要な関係者:
- MTFお-10 隊員
- SCP-3470-JP-A
- 永山 治孝 (隊長)
- 安達 杏奈 (超常動物学者)
- サイト-81CH 司令室
- 江崎 穂 (収容・保安部 部長)
- 木下 由美 (SCP-3470-JP担当研究員)
前記: FP-06内で活動していた財団工作員より、「瞬間移動能力を持つイエネコ」の複数回の目撃が報告されました。展開されたMTF お-10の調査チームが同様の異常性を共有するイエネコの集団を発見し、同部隊はSCP-3470-JP-Aを含む少人数の捕獲チームを生息域に派遣しました。
[記録開始]
チームが遠方に捕獲対象を発見する。
SCP-3470-JP-A: あの黒猫がそうですか。
永山隊長: そう、今回の作戦対象はアレだ。少なくとも一個体を捕獲し、サイトの研究チームに回すのが我々の任務ということになる。
安達研究員: 当該実体は非実体化またはテレポートの能力を有しているようで、それを逃走に活用しています。
永山隊長: そう、テレポート猫。まるでエイリアン・ビッグ・キャットみたいだろ? イギリスの。
安達研究員: ああ、実はアレは正体が分かってます。テレポート能力だと思われていたものは、実際には瞬間的に地面に穴を開けるという異常性でした。
永山隊長: へえ。すると、あれこそ正真正銘のファントムキャットってわけだ。
SCP-3470-JP-A: それで、捕獲についてはどのように?
安達研究員: 罠はすり抜けられました。反応速度は一般的なネコと同等と考え、麻酔銃の使用も検討したのですが、ボツに。
SCP-3470-JP-A: 同胞を撃つのはあまり気乗りしませんし、ありがたい話ではあります。まさか私に気を遣って?
永山隊長: それも無くはないかもしれないが、基本的には政治的制約というやつだ。財団自体ここではそう歓迎されていないし、実銃ではないと言っても、武器の持ち込みはそれに拍車をかけるだろう。
SCP-3470-JP-A: 何か、効果のあるものは?
安達研究員: 恐らく、非物質化抑制や存在力学的能力の無効化は効果があるかと。そのための機材もサイトにはあります。
SCP-3470-JP-A: おや、ここにはないのですか?
安達研究員: ええ、単純に持ち込むのが難しく こちらは物理的制約です。主に大きさの問題ですね。
永山隊長: それで、どうするかだが
SCP-3470-JP-A: 要は、彼をサイトへ連れて行きさえすればいいのですよね?
安達研究員: 基本的には、そうです。
永山隊長: おお、何か案があるのか?
SCP-3470-JP-A: ええ。それならば何も難しいことはありません。私を履かせればいいのです。
記録上の沈黙。
安達研究員: なるほど、賢いアイデアではあると思いますね。
永山隊長: 同じく。しかし、上の判断も聞いておきたいところだな。
サイト司令室との通信が、SCP-3470-JP-Aを除く2名に繋がれる。
永山隊長: 猫吉6の案について、どう思われます?
江崎部長: ふむ、履かせること自体で問題が起きるとは考えにくいのだったかな? 木下研究員。
木下研究員: そうですね。単に、新たに生成されるSCP-3470-JP-Aが対象のアノマリーと同様の能力を持つということが想定されます。
江崎部長: であれば、その後は信頼の問題だろう。
永山隊長: なるほど。
江崎部長: 私としては、最終的な判断は現場に任せたいと考えている。靴自体にも探知機を仕込んでいるので、最悪何か起きたとしても回収は可能だ。もちろん、その責任を君たちに取らせることもないよ。
永山隊長: 了解しました。はい、では—
SCP-3470-JP-A: いかがでしょう?
永山隊長: 司令部は問題ないと。私個人としても、その案には賛成だ。
安達研究員: 私も支持します。
SCP-3470-JP-A: お二人とも、ありがとうございます。必ずやお役に立って見せましょう。
SCP-3470-JP-Aはしゃがみ込むとSCP-3470-JPを脱ぐ。
SCP-3470-JP-A: では、よろしくお願いします。
SCP-3470-JP-Aの身体は元の人形へ戻り、地面に倒れる。
永山隊長: 作戦を開始。まずはSCP-3470-JPを設置する。
永山隊長がSCP-3470-JPを対象の視界に入る場所に置き、ゆっくりと後ずさりする。
記録上の沈黙。
対象がSCP-3470-JPに近づき始める。
安達研究員: おお。
永山隊長: 行けるか?
対象がSCP-3470-JPに後肢を挿入し、その異常性を発現させる。SCP-3470-JP-Aが生じる。
永山隊長: でかした!
安達研究員: こっちへ!
SCP-3470-JP-Aは待機中の隊員らに向かって腕を振って見せると、その場から消失する。
永山隊長: おい待て、そんな。
安達研究員: 猫吉! どこに!
江崎部長: どうした? 報告を!
永山隊長: はい、対象と接触したSCP-3470-JP-Aが消失し (驚く声)
永山隊長は自分の背中を突かれ、素早く後ろを振り向く。SCP-3470-JP-Aが立っている。
安達研究員: あっ!
SCP-3470-JP-Aはウインクをし、親指を立てるジェスチャーを見せる。
永山隊長: 猫吉!
SCP-3470-JP-A: にゃあ。
木下研究員: 一体、何が起きているんですか?
永山隊長: あっ、いえ、あの消失していないというか、再出現? はい、ええと。作戦は成功かと。
木下研究員: はい?
記録上の沈黙。
江崎部長: あー、映像を確認した。まず今回、異常能力の不必要かつ不用意な行使によって隊に混乱をもたらしたことについて、叱責せねばならないね。
SCP-3470-JP-A: すみません。
江崎部長: しかし、司令部としては、それ以上の責任は問わないこととする。功績と打ち消しとしよう。
SCP-3470-JP-A: ありがとうございます。
永山隊長: 私からも、ありがとうございます。
江崎部長: こちらの落ち度もある。
永山隊長: はい、作戦開始前に徒歩で戻るように指示すべきでした。
SCP-3470-JP-A: いえ、私が遊ぼうとしたのが悪かったのです。計画が上手くいったので、つい調子に乗ってしまいました。本当にすみません。
江崎部長: ああ。ともかく、ご苦労だったね。帰還してくれ。3人とも、あとで私のデスクまで来るように。
[記録終了]
後記: 作戦終了後、収容・保安部はSCP-3470-JP-Aに対し、現場におけるプロフェッショナリズムについての指導を行いました。また、資産・人事部は、アノマリー雇用推進プログラムの第一号例としての功績を讃え、作戦に関与した3名を表彰しました。