アイテム番号: SCP-3471-JP
オブジェクトクラス: Anomalous Safe
特別収容プロトコル: SCP-3471-JPのSCPオブジェクト指定は、SCP-3471-JPを限定的に模倣したアノマリー群に関する対抗研究の必要性に基づく例外的な措置であり、予防的に電磁暗室としての機能を持つ格納庫が使用されることを除き、収容プロトコルは一般的な大型Anomalousアイテムのものに準じています。
説明: SCP-3471-JPは、2045年現在よりも未来の時点で製造されたと推測される、4肢とセンサーの複合体である頭部を備えた頭頂高10m級の乗用人型機械です。
SCP-3471-JPの基本的なフォルムは、背面に露出した推力偏向式の反動推進器を除き、おおむね人体を5倍のサイズまで拡張したもので、胸部に1人乗りのコックピットを備えています。両腕部には5指のマニピュレーターに加えてハードポイントが設けられていますが、ここに接続される増加装備などは発見されていません。脚部の構造が地球重力下での直立2足歩行を想定したものである点、推進器が大気圏内外両用の複合サイクルエンジンである点などから、地球・宇宙空間の広範な領域での運用が想定されていたと判断されています。ボディの主要な材質はチタニウム、アルミニウム、イットリアからなる合金であり、それぞれの金属が均一混合されていることから、無重力環境下で製作されたものと推測されています。
財団の収容下に置かれた時点で、SCP-3471-JPは人型機械としての全機能を喪失していましたが、発見直後に行われた起動実験が成功裏に終わった記録が残されていることから、機能喪失は運用に必要な整備や消耗品の補充などが断たれた状態で一定期間が経過した結果であると推測されています。SCP-3471-JPの機構は、2045年時点では実用化されていない技術に立脚していると判断される箇所が過半を占めるため、財団による機能回復の試みはいずれも失敗しており、不可逆な損壊を防ぐために分解調査も限定的なものに止められています。
経緯・関連事項: SCP-3471-JPは、ナチス・ドイツのアーネンエルベ・オブスクラ軍団によって、第二次世界大戦/第七次オカルト大戦中の1941年にはじめて確保され、「トリスメギストス」という暗号名を与えられました。財団とペンタグラムがペーパークリップ作戦の中で得た資料には、オブスクラ軍団が「ベルグクライス」という暗号名で呼ばれる地点で、保護用の「殻」に覆われた状態で落下・埋没していたSCP-3471-JPを発掘した記録が残されています。一次資料が失われた回収時の状況証拠に基づき、SCP-3471-JPが未来由来の兵器であるという判断を最初に下したのもオブスクラ軍団であり、SCP-3471-JPは模倣・習得すべき技術の集合体として重要な研究対象と見なされました。
前述のように、この時点ではSCP-3471-JPは人型機械としての機能をある程度維持しており、ドイツ本国への移送後に、研究の一環としてクンメルスドルフ試験場にて極秘裏に起動実験が行われました。この実験はアドルフ・ヒトラー総統の視察を受け、ドイツ軍は人型兵器で武装すべきである、という強烈な印象を彼に与えました。戦後財団に身を寄せたオブスクラ軍団の元構成員は、ヒトラーがその場で、SCP-3471-JPのような「民族の破滅を覆す鋼鉄の巨人」の開発を命じたと証言しています。
SCP-3471-JPを手本としたナチス・ドイツによる人型兵器開発は少なくとも2つの系統で行われ、うち生産・運用の容易さを重視してパラテックの使用を最小限に抑えた系統は、「マムート」と名付けられた試作機として結実しました。しかし、マムートの実態は当時の戦車の履帯を2脚に置き換え人型に組み立てたと言えるものであり、脚という構造が複雑かつ脆弱な走行装置で大口径砲と重装甲を支えた結果、整備面で難があった同時期のドイツ軍重戦車と比較してなお機械的信頼性に劣っており、量産には至りませんでした。
一方で、1945年にはベルリン防衛戦の初期段階において、戦力不足を補うべく駆り出された2機のマムートが、鉄道輸送中にソ連赤軍の戦車隊と接触する形で実戦に参加しています。この遭遇戦においてマムートは赤軍の1個戦車大隊を一時的に後退させていますが、実際には脚部の故障によって戦闘開始前あるいは直後に2機とも擱座しており、火力と装甲を頼みに固定砲台同然の状態で攻撃を凌いだのちに放棄されるという、人型である意味が無い戦果でした。しかし、失敗者の粛清や収容所への収監が常態化していた中で、赤軍側の指揮官は自らの保身のために「ナチス脅威の技術力」が生み出した未知の新鋭人型兵器について、その性能を過剰に表現した報告を提出し、戦後にソ連が人型兵器開発に注力するきっかけを作りました。
マムートとは別にオブスクラ軍団が開発を主導した「ギガントリッター(GR)」と呼ばれる系統は、神聖動力炉として知られるSCP-1927-JPのバリエーションを搭載するなどパラテックをふんだんに用いることで、機能的にはよりSCP-3471-JPに近い、既存の兵器体系に類例を持たない「巨大な兵士」としての性能を実現した一方で、工芸品的な設計ゆえに生産数は数機レベルに止まったとも見られ、GR-1からGR-3までの3機が製造されたとする説が有力視されています。財団はこの機種と一度も接触しておらず、詳細な仕様・性能なども不明です。1945年に連合国オカルトイニシアチブが実施したアルプス国家要塞攻略戦において、オブスクラ軍団がGRを迎撃に投じたことが知られていますが、当事者の後身である世界オカルト連合(GOC)は詳細な情報を開示していません。しかし、当該情報の厳重な機密としての扱われ方から、GOCおよび協調していた米英軍にとって重大な事象として受け取られたことが推測されています。
SCP-3471-JPおよびそこから派生した人型兵器に関する情報は、ドイツと同盟関係にあった他の枢軸国にも伝わったと見られていますが、その影響下にある兵器開発の中で試作以上の段階に達したものは、大日本帝国異常事例調査局による「鉄武者計画」のみです。ただし、詳細資料を輸送していた遣日潜水艦が北極海でイギリス海軍の戦艦に撃沈されたため、鉄武者計画は「巨大人型兵器」というコンセプトのみを継承しており、技術的な面は日本独自のものとなっています。
大戦後、SCP-3471-JPはナチス党幹部が脱出を進めていた南米への移送のため、[編集済]との密約に伴いスペインのグラナダ県沿岸部で一時的に保管されていたところを財団に接収されました。一方で、連合国オカルトイニシアチブおよびそれとは独立した米英ソの各国は、ドイツ製人型兵器のサンプルの入手を模倣元のSCP-3471-JPよりも優先していたことが確実視されています。これは、ドイツ製人型兵器群がSCP-3471-JPとは異なり、当時の技術によって構成される「解析可能な」兵器であったためと思われます。
SCP-3471-JPの存在と大戦時のドイツ製人型兵器の「戦果」から、未来のある時点において人型兵器が軍の主戦力となるという印象は、戦勝国となった列強各国軍の戦略思想において、時制を未来に置いただけの歴史的事実として扱われるようになり、さらなる人型兵器の研究を惹起することになりました。1960年代にヴェール外でゼネラル・エレクトリック社が製作したハーディマンやウォーキング・トラックといった一連の実験機は、アメリカにおいて行われた初期の試みの一例です。しかし、これらはいずれも不十分な性能しか発揮せず、以後の研究はパラテックの使用を前提にヴェールの内側で行われる方針が取られています。これらに対してアメリカ政府は機密保持を徹底しており、財団は開発状況を具体的・客観的に綴れるだけの情報を入手できていませんが、第二次大戦後にアメリカに移住したドイツ製人型兵器の開発陣の一部を祖とする、「メック・マフィア」と渾名されるグループが長期に渡って精力的に活動していたことは判明しています。
ソ連においても研究はヴェール内で精力的に進められ、1960年代中頃には試作機の稼動実験が行われていたことが判明しています。ソ連による人型兵器の開発は、軍に加えて内務省やKGBが絡み合った結果いくつかの系統に分岐しており、その中にはウラル山脈などの山岳地帯への配備を前提とした、大陸間弾道弾を装填する歩行型の輸送起立発射機(TEL)と形容すべきものまで含まれていました。最終的に、ソ連・ロシアが培った人型兵器の技術は、ソ連崩壊後あるいは宇露戦争後の混乱の中で中国へ流出したものと考えられています。米ソなどによるこれらの計画の産物は、いずれもパラテックの導入によって人型兵器という有り様を成り立たせているものであり、バラウェポンの普遍的な問題点である整備・生産面での課題をクリアできず、量産には至りませんでした。
一方で、パラテックの使用について制約が少ない超常団体は、早い時期からより積極的に人型兵器の開発に取り組みました。それらの中でもっとも著名なものは、GOCが排撃用装備として部隊配備している超重交戦殻(U-HEC)であり、これはアルプス国家要塞にて鹵獲されたドイツ製人型兵器のリバースエンジニアリングが開発の端緒となっています。また、東弊重工製のSCP-1079-JP-Gやプロメテウス研究所製のSCP-2912-JPといった人型兵器タイプのSCPオブジェクトも、SCP-3471-JPおよびドイツ製人型兵器がSCP-2406などとともに開発に影響を与えていたことが確実視されています。SCP-3471-JPが財団の装備体系に与えた影響は軽微ですが、GOCからU-HEC関連の技術提供を受けて建造されたSCP-5514は、ドイツ製人型兵器の傍系と言える立ち位置にあります。
2040年代に入り、SCP-3471-JPを起源とする人型兵器の中で、国軍による量産化・部隊配備に至った機種が登場するようになりました。地球近傍の宇宙空間での活動に特化したアメリカのRICOと、山岳地帯における軽戦車的な運用を想定した中国の42式軽機兵です。これらの機体は、高効率化されたバッテリーや内燃機関を動力源とするなど2040年代の通常技術に立脚しており、パラテックは用いられていませんが、1960年代までの試みとは異なり実用レベルの性能を獲得しています。これらは「人型」という形態がある程度有利に働く限定された環境での使用が想定された兵器であるため、SCP-3471-JPのような「汎用性」は未だ獲得していません。また、評価対象を一部性能に限定した場合でも、SCP-3471-JPと同等の値に達しているかは疑問視されています。そのため、SCP-3471-JPのEX指定は見送られます。
2045年現在、6ヶ国の国営機関と5社の企業体によって、「次世代の将来人型兵器」としてSCP-3471-JPに類するであろう性能を目標とした人型兵器の研究が進められています。これらの研究計画に関連したSCP-3471-JPの情報漏洩は確認されていません。