アイテム番号: SCP-3499-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: インシデントK2962-Aを踏まえた改訂により、SCP-3499-JPの船体を覆うように網が新たに形成されます。この網は耐腐食性金属で構成された鎖から編まれ、海底への固定と付加された10ktの錨による加重によりオブジェクトの浮上を抑止します。管理と維持は機動部隊ガンマ-6("大食らい")によって行われます。
SCP-3499-JPの特異性による影響についてはカバーストーリー「地球温暖化に伴う海面上昇」を流布し、同時にオブジェクトに対する一般社会の認知度の高さに伴う機密漏洩を防ぐため、収容当初偽装用に建造され意図的に別地点へ沈没させられたダミー船を用いた偽情報キャンペーンを行ってください。
説明: SCP-3499-JPは北大西洋の特定地点約3,500m下に水没している豪華客船、RMS ███████号です。1912年にニューヨーク行き大西洋横断クルーズのためハンプシャー州サウサンプトン港を出発した当該船舶は、航海中に不明な要因により浸水、沈没したと見なされています。
SCP-3499-JPの特異性は、オブジェクトが常に異常な推進力で海底からの"浮上"を試みていることです。この行動は船首を海面に向けた状態という船舶の浮上としては明らかに不自然な形で、機関部駆動系を轟音と共に稼働させながら行われます。正常な機能性と動力源を喪失しているはずの当オブジェクトがこれを達成している方法は未解明です。
第二の特異性として、SCP-3499-JPの浮上は異常な因果関係により海面水位に影響を及ぼします。即ち浮上によりオブジェクトが移動した距離と同等の値だけ、世界平均海面水位の上昇が観測されます。水位の上昇原因となったと思しき増加した海水の発生源は判明していません。
この影響は一方的かつ不可逆的であると考えられており、SCP-3499-JPの船体をその浮上に逆らう形で下降させた場合には、浮上の場合に見られたような有意な海面水位の変動は観測されませんでした。結果として、この2種の特異性によりオブジェクトは浮上による移動では海面に到達することができず、海面との距離は常に約3,500m以上に保たれています。
補遺: SCP-3499-JPの特異性は沈没直後に発覚しました。当初、財団は生存者の証言から、沈没の原因となったとされるミイラボードなどの心霊学的な積み荷による影響を特異性発現の原因として疑い、次に1,490人から1,635人と見積もられる沈没事故に関わって死亡した犠牲者の死後ベクター1の影響を疑いましたが、双方ともに裏付けとなる証拠品は発見されていません。
初期にSCP-3499-JPの主任研究者であったレイカーズ博士はその点に異議を唱えていました。以下は、財団退役の直前に博士が発表した文書の一部です。
海洋性異常の収容に関わってきた経験から言って、水難事故は心霊現象の巣窟だ。航海者の幽霊伝説は世界各地にあり、そのどれもが生者に激しい恨みと呪いを向けてくる。陸で生まれるヒトという生き物にとって、海での死が穏やかなことなど殆どない。
特に今回の事故は凄惨なものだった。救助ボートの不足と奪い合い、北大西洋のマイナス2℃の海水に溺れ死んでいった苦しみ……死後ベクターが発生することは想像に難くない。だが、我々は何も発見できなかった。不自然なほどに、あの船からは人間の思念というものが欠落していた。まるで、もっと巨大な何かの恨みに塗りつぶされてしまったように。
そして恐らく、"それ"が呪っているのは人ではない。世界全てにこう叫んでいる。
「共に深きへ沈め」と。
この主張は、当時まだ不十分であった海中での騒音除去装備のため、SCP-3499-JPを長期的に観察していたレイカーズ博士が、その浮上の轟音に起因する聴覚障害と精神疾患を患っていたことから学術的正確性を欠くものとして重要視されていませんでした。
インシデントK2962-A: 収容以後、年々SCP-3499-JPが浮上能力は高まりつつあり、これを阻止する対策として順次船尾に対する錨の付加が行われてきました。しかし2009年、船体が突如第3煙突の真下から破断したことによりオブジェクトが錨の荷重から解放され、付近に待機していた機動部隊ガンマ-6の緊急即応までの間に大きな浮上を許す結果となりました。
特筆すべき事項としてこのインシデント時、適切な騒音除去装備を装着中でありながら、ガンマ-6の隊員は鋭い絶叫に似た船体の破断音を耳にしたと報告しました。数人の隊員は、現在もこの音に関する重篤なストレス障害を訴えています。
また、当インシデントにより船体後部の推進機関部を喪失しているという明白な事実にもかかわらず、SCP-3499-JPの浮上と由来不明の轟音の発生は継続されています。これらの事例に対し調査が進行中です。