アイテム番号: SCP-3511-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-3511-JPと榛名山との境界線を中心とした半径1kmはレッドゾーンに指定され、一般の民間人の侵入は禁止されます。
説明: SCP-3511-JPは群馬県高崎市榛名山の一部より進入可能な異常空間です。ただし、オブジェクト内部風景、並びに地表は通常の榛名山と相違のないものが広がっており、認知抵抗薬を用いなければ、境界線を判断することは困難であるという調査結果が得られています。
SCP-3511-JPに知性体(以下:対象と呼称)が侵入するとその3~4分後に降雪現象が発生します。これは侵入前後の季節、天候状況、風向などとは一切の関係がありません。この降雪現象によって空間の上部から降下する雪は、現地の調査によってセロトニンに類似した鎮静作用を引き起こす複数の異常物質によって構成されていることが判明しています。これらの溶解物を対象が経口摂取する、もしくは皮膚から吸収するなどすることで、異様な精神状態に陥りやすいことが推測されています。
上記の現象により、オブジェクトの内部においては移動距離に応じて非常に強い電波減衰や通信範囲の縮小などが発生します。その影響によりリアルタイムで対象と通信を実施することは困難であり、推奨されていません。よって、SCP-3511-JPの内部調査の殆どは対象より送信されるメール形式のドキュメントによって行われていますが、そのどれもが上記の影響により、ラグを伴って受信がなされます。SCP-3511-JP内で別の空間、もしくは現実に帰還するための何らかの手段は発見されていません。
以下は現在までに財団が受信することの出来たメールの一部抜粋です。現在、データは編纂中であり、読み込みに時間がかかるものも存在することに留意してください。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 11:23:55
受信: 1989/03/23 11:24:05
件名: No title
To: 霧島博士
目的された地点に到着しました。その後、3分20秒の待機を行ったところで降雪が確認できました。手順に従って、ここから前進を開始いたします。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 11:29:20
受信: 1989/03/23 11:34:44
件名: No title
To: 霧島博士
前進を開始してから5分ほどが経過しました。以前として降雪が続いており、また、記録の開始から336m地点にて、積雪が確認できるまでになってきました。支給されていた対雪用の装備に変更し、前進を続けます。今のところ積雪以外には風景に変化がなく、先程までと遜色ない山岳風景が続いています。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 11:37:19
受信: 1989/03/23 11:52:37
件名: No title
To: 霧島博士
<添付ファイル 1件>
前進を開始してから15分ほどが経過しました。現在、凡そ1m13cmほどと推測される氷塊の傍に立っています。前進を開始してから特筆すべきオブジェクトは見られなかったのですが、約961m地点において、初めてこのようなものの存在が確認できました。写真ファイルを添付いたしますので、ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 11:55:56
受信: 1989/03/23 12:27:21
件名: No title
To: 霧島博士
<添付ファイル 1件>
現在、前進を開始してから30分ほどが経過いたしました。依然として山岳風景そのものに変化はありませんが、先程添付した画像の様な氷塊が、前進中にいくつか発見されるようになりました。それぞれの大きさには一貫性はなく、大きいものは恐らく1m80cmほどのものも発見することができました。現地点で見渡すことのできる風景を撮影した画像を添付いたします。また変化があり次第、ご報告をいたします。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 12:22:06
受信: 1989/03/23 15:37:31
件名: No title
To: 霧島博士
前進を開始してから1時間ほどが経過いたしました。43分ほどが経過した地点から、急激に先の氷塊の数が多くなってきた印象を受けます。また、樹木を含む植物類の数が徐々に減少しているように思えます。この一帯の植物は明確にこの雪による影響を受けているのではないかと思われます。
また、氷塊に関して気づいたこととして、一か所に集中して、樹氷の様な形で増加しているように思えます。気温の変化などを考慮するに、そのような現象が起きることは考えづらいため、これも何かしらの異常が作用しているのではないかと思われます。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 13:34:28
受信: 1989/03/23 15:49:11
件名: No title
To: 霧島博士
<添付ファイル 5件>
前進を開始してからおよそ2時間が経過いたしました。気温の変化、並びに積雪による体力の消耗が予想よりも激しく、現在、簡易テントを用いて体力の回復に努めております。
この場所に至る数分前より、氷塊の数が激減したような印象を受けます。これ自体が何を示しているのかは依然として分かりませんが、距離によって数が変動するというのは特筆すべき事情であると思われます。また、先のメールで報告いたしました植物の減少に関してですが、今休憩している地点から見渡す限り、ほぼ見られなくなりました。先ほどは確証が持てず報告をしていなかったのですが、恐らくは徐々に積雪が増加していることによって、植物の生命活動が困難な域に達したのだと推測されます。
もう少々の休憩の後、再び出発いたします。今まで撮影した画像を全て添付いたしましたので、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 15:13:34
受信: 1989/03/23 21:09:13
件名: No title
To: 霧島博士
一面が、雪景色になりました。植物も、氷塊も、何も、見えません。他の生命体や脱出口は未だに確認できていません。雪だけがここにあります。ただ、それに反して積雪は歩行可能域を出ていません。少なくとも、直線距離だけで見るのであれば現実の榛名山自体を、出発地点から横断する距離はまだ歩いてはいませんので、引き続き前進します。
From: D-19872
日付: 1989/03/23 18:19:23
受信: 1989/03/24 18:23:39
件名: No title
To: 霧島博士
電力消費を抑えるため、暫くメールの送信を停止いたします。もし他の異常が発見できた場合にのみメールを送信いたしますので、よろしくお願いいたします。
From: D-19872
日付: 1989/03/26 21:23:58
受信: 1989/04/12 14:49:21
件名: No title
To: 霧島博士
定期連絡です。D-19872、生存しております。現状、周囲の風景などに変化は見られません。前進は続けられており、現時点の距離において現実の榛名山を横断いたしました。
正直な話、私自身、ここまで冷静に進行を進められていると思ってはいませんでした。食料品や装備品、或いは侵入までに投薬していただいたものに、そういった精神状態を安定させるものが入っていたのでしょうか?
From: D-19872
日付: 1989/03/31 23:21:46
受信: 1989/05/26 19:33:54
件名: No title
To: 霧島博士
予備を含めない食料品などの消費が終了いたしました。その場合、引き返すように指示をされていましたが、現状、方向感覚の乱れを感じ、先程まで進行していた道を正しく引き返すことは困難であると判断したため、このまま進行調査を続行いたします。恐らくはその方が、研究としても有用なはずです。
なぜこんなにも危機的な状況であるにも関わらず、私はここまで冷静でいられるのでしょう。改めて、私に、博士は何をしたのですか?
From: D-19872
日付: 1989/04/03 19:10:30
受信: 1989/07/21 07:46:13
件名: No title
To: 霧島博士
<添付ファイル 2件>
体温 低下 食料が ない 信仰困難 ここで 調査は もうしわけ なのn こわくない なぜ?
From: D-19872
日付: 1989/04/10 11:01:20
受信: 1989/11/12 13:45:22
件名: No title
To: 霧島博士
<添付ファイル 1件>
死なない
From: D-19872
日付: 1989/04/21 10:52:29
受信: 1990/04/24 21:13:56
件名: No title
To: 霧島博士
あのメールより暫くメールの送信を行わずに申し訳ありません。色々実験を行っておりました。
どうもこの空間の内部では、私は死ぬことができないようです。死んだ場合、その地点に先の報告で画像を添付したような氷塊が発生し、私自身は蘇生、もしくは複製されるような形で付近に出現するようです。勿論、それまでの記憶や所持していた品物なども全てそのままの状態で。
つまり、あれらの氷塊は何らかの形でこの場所に迷い込んだ人間が、この気温などによって死亡した場合に発生したものだと考えられます。そして私自身がこのような形で存在しているということは、彼らもまた生存している可能性は高いと考えられます、が。
一か所に集中して発生していた氷塊、あれらはもしかすると、その場所で死に続けて、この場所から出る事を諦めた彼らの墓標なのかもしれません。
ただ彼らには悪いとは思いますが、現状、彼らを助け出せる手段は私の方でも見つかっていません。それらを見つけることが私の仕事であったはずですから。それにしても、先程も実験のために自殺を図ったのですが、それに対する恐怖心を、一切私は感じることができません。これももしかすると、この場所の異常に関連したものなのかもしれませんね。
考えてみれば、こんなにも長い時間、一人でずっと歩き続けているのに、そういったものを感じたことはありませんでした。
私は一体、どうしてしまったのでしょうか。
From: D-19872
日付: 1989/05/21 23:31:36
受信: 1992/11/29 09:21:45
件名: No title
To: 霧島博士1
<添付ファイル 2件>
自分の氷塊を観察していて気付いたことがあります。薄っすらではありますが、内部に私自身の姿を見出すことができるのです。そのため、これは蘇生ではなく、複製といった形で私は出現していることが改めて判明いたしました。
以前に墓標とこれを喩えたことがありましたが、良い得て妙だったと一人で笑っています。もし私が死ぬことが叶ったとして、それが土の中であるのか、それとも氷の中であるのか、なんてことで悩むことになるとは思いませんでした。
また、複製時に体温の低下や空腹など、生命活動に必要な条件はある程度リセットされるようです。それらを引き継ぐのであれば、恐らくこのメールでの報告は途切れていたでしょうね。そしてあと1つ気づいたことがあります。以前の恐怖心の話にもなりますが、
どうやら私の感情の一部は、ここを歩むうちに、凍てついてしまったようです。
不思議です。何も感じないことに、何も感じないのですから。
From: D-19872
日付: 1989/07/21 14:41:23
受信: 1995/02/14 18:32:19
件名: No title
To: 霧島博士
こんな状態になっても尚、なぜ私は歩き続けるのだろうと考えていました。あまりにもここは時間がありすぎるし、やけに私は冷静でいられている。体温の低下や、空腹、その他の要因で死ぬことにも慣れてしまいましたから。
あの氷塊となり続けている彼らのように、諦めてしまえば楽になれると頭の片隅では分かっているんです。それなのに、足を止めることができない。
どうしてでしょう。あの日、殺人などに逃げてしまった私に、そこまで、強い信念も何もなかったはずなのに。
From: D-19872
日付: 1989/12/24 19:28:31
受信: 2010/1/4 21:12:39
件名: No title
To: 霧島博士
いつか墓標の話をしましたよね。それでもしかしてと思ったことがあって。
私は、死に場所を求めているのだと思います。
元々私は死刑囚で、どうして死ぬのか、どこで死ぬのかも、決まりきっていた。それが、様々な化け物と対峙したり、よく分からない団体との戦闘に駆り出されたり、こんな場所に放り込まれたり。
贅沢な考えです。そうして自由になったらなったで、こんなにも生きていたい、死にたくない、死ぬにしても、何かを、名前でもなんでもいい、ただ歩き続けたものと称されるだけでもいい、悪名だっていい、何億人といる中で、特別な誰かになりたい、そんな何かを残してから死にたいだなんて。
ああでも、最初に私が人を殺した時も、そうだったのかもしれませんね。どこで間違えたんだろうなぁ。
2024/12/29 現在、D-19872からの新たなメールは受信されていません。侵入時に装備に含まれていた端末の電池残量などを考慮した結果、これ以上新たなメールの発信は望めないと判断し、財団はD-19872はロストしたものと見做しました。当報告書は各メール、並びに添付ファイルの解析などが終了次第、確定済の情報を元に更新、データの削減が実施されます。



