サンプルとして回収されたSCP-3544-JP標本。
アイテム番号: SCP-3544-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3544-JP生息域周辺の山道を封鎖し適切なカバーストーリーを用いて人物の不用意な進入を防いでください。
SCP-3544-JP-A群の保護のため、充分な期間をおいて領域内にDクラス職員を進入させてください。前回投入したDクラス職員の死亡を確認した上での投入が理想的ですが、領域内の監視は人員喪失のリスクを伴い、死体の確認も困難であるため、前回投入時のDクラス職員の平均余命に対し、男性職員の場合はその半分、女性職員の場合はその3分の1に当たる年数を経過した時点で再投入可能とします。
説明: SCP-3544-JPは██山麓の特定領域に群生する、樹木に擬態した異常実体群です。その構成要素は脊椎動物の筋繊維に類似する組織からなります。
SCP-3544-JPは光合成により栄養を獲得します。そのエネルギー変換効率は極めて高く、オブジェクトを構成する筋繊維の運動に必要なエネルギーを賄うことが可能です。生息域を通過する可視光や電磁波を含む放射線は異常な倍率で減衰するため、GPSや無線通信は著しく阻害されます。SCP-3544-JPは何らかの異常なプロセスを介した集光を行なっていると目されます。
SCP-3544-JP生息域は昼夜問わず暗黒環境となる上にSCP-3544-JPの根にあたる部分の運動に伴い地形が変化するため遭難のリスクが極めて高いです。根の運動によって遭難者を後述の“果実”の群生域に誘導するかのように地形を変化させることからSCP-3544-JPはなんらかの手段で遭難者を知覚しているものとされます。
SCP-3544-JPは外観上イチジク(Ficus carica)のそれに類似した“果実”をつけます。その内部構造は成体のマボヤ(Halocynthia roretzi)に近い動物性の筋繊維からなり、内腔は乳汁に類似した液体成分で満たされています。遭難者はこの“果実”の摂食のみで長期間の生存が可能です。
SCP-3544-JPは“果実”の群生域に“湖沼”に類似した地形構造を形成します。水深は概ね50cm程度、その底面はSCP-3544-JPに由来する粘膜・腺組織に覆われており、水温は概ね36℃台後半に保たれます。湖水成分は先述の“果実”内腔の液体成分に概ね一致しますが、これに加えて中枢神経に抑制的に働き麻薬に類似した作用を呈する複数種のアルカロイドを含みます。
“湖沼”内外にはSCP-3544-JP-Aに指定される生物が生息しています。SCP-3544-JP-Aは概ねヒト型をしているものの、多くは骨格や顔貌に異状を呈しています。回収されたサンプルのうちおよそ7割は手指および足趾の欠損あるいは多指症、長管骨の変形、頭蓋骨や下顎骨の形成不全による顔貌の異状などをそれぞれ認めましたが、これらの特徴は生息域の暗黒環境においては確認が困難であり、SCP-3544-JP-Aの個体総数や骨格異状の発生率は明らかになっていません。
SCP-3544-JP-Aは1日の半分以上を“湖沼”内で過ごし、SCP-3544-JPに由来する果実の摂食、生殖行動のほかには積極的な行動をとりません。知能は低く、疼痛を除く外部刺激に対する反応は薄弱です。SCP-3544-JP-Aは通年において繁殖可能でありほとんどの雌個体は妊娠していますが、それに比して幼体の個体数は少なく、多くは死産あるいは成体になる前に死亡しているものと考えられます。
SCP-3544-JP-AのDNAハプロタイプの解析結果は、SCP-3544-JP-A群がコロニー内で近親交配を反復していることを示唆します。これによって複数の遺伝子疾患をきたしているものと考えられており、前述の骨格/顔貌の異状はこれに由来すると見られています。
SCP-3544-JP-Aの寿命は30年程度と見られていますが、一方でSCP-3544-JP生息域においてSCP-3544-JP-Aの死体および死産体は発見されていません。このことからSCP-3544-JPがSCP-3544-JP-Aまたはその死体ををなんらかの方法で消費している可能性が高いと見做されています。その詳細は不明ながらSCP-3544-JPが明らかにSCP-3544-JP-Aを生存させるために多くのエネルギーを使用していることから、SCP-3544-JP-Aコロニーの存続はSCP-3544-JPの保護に必須であるものと考えられています。
補遺: SCP-3544-JP-Aの中に、19██/██/██に消息不明となった██ ██氏と一致するゲノムを有する個体が確認されました。当該個体はSCP-3544-JP-Aに特徴的な遺伝子疾患の徴候を呈していないものの、大脳新皮質および骨格筋に著しい廃用萎縮を認めました。遺伝子情報に加えて歯の治療痕などの一致が見られたことから当該個体が██氏であると特定され、救出された上で一般社会への復帰を目的としたリハビリテーションが行われました。
これによって██氏は認知機能や筋力の回復を認め意思疎通も可能となりましたが、次第に通常の食物の摂食やリハビリテーションを拒否するようになり、収容室の壁を叩くなどの問題行動を認めるようになりました。聞きとり調査により、██氏に一般社会に復帰する意思がないことが明らかになりました。██氏は一貫してSCP-3544-JP生息域内への解放を要求しています。
██氏の周辺人物についても調査が行われましたが、同胞はおらず、両親は死亡済みでした。加えて遭難前の配偶者はすでに再婚しており、長女は██氏のことを覚えていません。縁者の支援が望めないことから、一般社会における生活基盤の確保も断念されました。
以上から当該個体は一般社会での生活能力を喪失したものと判断されました。後述の理由で必要となる人的資源の温存を兼ねて当該個体はSCP-3544-JP-Aとして生息域内での収容が継続されることが決定されました。
なお、生体サンプルを用いた再現実験の結果、SCP-3544-JP-Aはヒト(Homo sapiens)と交配可能であることが立証されました。SCP-3544-JP-Aは遺伝的にヒトと同種であるものと考えられています。
追加調査において血液サンプルが回収されたSCP-3544-JP-Aのうち少なくとも7個体は██氏と直接の血縁関係にあり、それらの個体もさらに子孫を残していることが明らかになりました。また、その他の個体についても生息域周辺で消息を絶っている人物と血縁関係にある実例が報告されています。
SCP-3544-JPは“湖沼”周辺に遭難者を誘導し定住させることで、SCP-3544-JP-Aのコロニー内に遭難者の遺伝子を取り込み、近親交配に起因する種々の遺伝子疾患の発症を抑制しているものと考えられます。SCP-3544-JPの収容により遭難者が途絶えた場合、SCP-3544-JP-Aはおよそ3世代で絶滅しうると試算されています。SCP-3544-JP-Aの絶滅がSCP-3544-JPの安定した収容に影響を与えることは明白であり、現行のプロトコルが制定されました。現プロトコルではDクラス職員を“遭難者”として投入する事によってコロニー内の遺伝子の安定化が図られています。









