SCP-3554-JP-D
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記録・情報保安管理局(RAISA)より通達

当該ファイルは解体済のアイテムに言及しており、アイテムは既に特異性を喪失しています。当該ファイルは参照性のためにアーカイブされています。

— RAISA管理官、マリア・ジョーンズ


アイテム番号: SCP-3554-JP-D
収容クラス: Decommissioned
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レベル4/3554-JP-D
機密

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画像化されたSCP-3554-JP-D実例群(非変色状態)


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昏睡以前のネイサン・ブラック

特別収容プロトコル: N/A

説明: SCP-3554-JP-Dは集団で行動するクラスV悪夢実体です。基底宇宙において、SCP-3554-JP-D実例群は当時9歳(2015/02/01生まれ)のコーカソイド男性であるネイサン・ブラックの無意識空間への継続的な攻撃を行っていました。この攻撃に伴い、ブラックは2025/01/02より昏睡および悪夢障害に陥っていました。実例群はブラックの無意識空間に留まっており、外部の無意識空間へは攻撃をしていませんでした。SCP-3554-JP-Dに対しては既知のあらゆる対悪夢実体手段が有効ではなく、またその除去もSCP-3554-JP-Dの攻撃によって不可能であると結論づけられました。

多財団連盟より提供された、SCP-3554-JP-Dに関する情報は以下の通りです。

  • SCP-3554-JP-Dは基底宇宙を含む5件の並行宇宙において存在が確認されており、うち4件において全人類への攻撃によるΨK-クラス("全人類昏睡")シナリオを引き起こしている。
  • 各宇宙において観測された実例群がいずれもほぼ同一の観測結果を示していることから、SCP-3554-JP-Dは宇宙間移動を可能とする悪夢実体である可能性がある。
  • ΨK-クラスシナリオの発生した4件の並行宇宙において、初期段階で実例群の攻撃が確認されたのは1名のみであった。
  • その後、実例群は全人類の無意識空間に爆発的に拡散した。この時、実例群の拡散直前に攻撃されていた1名の無意識空間が崩壊していること、および実例群が赤色に変色していることが観測されている。

以上の情報から、基底宇宙においても実例群の攻撃によってブラックの無意識空間がいずれ崩壊し、それに伴いΨK-クラスシナリオが発生するものと推定されていました。


補遺3554-JP-D.1: 歴史

2025/01/08、短期間に3件の並行宇宙で発生したΨK-クラスシナリオに対し、多財団連盟の間で調査が実施されました。その最中に発生した1件のΨK-クラスシナリオを中心に収集された情報の精査が実施され、結果SCP-3554-JP-Dの存在が浮上しました。これに伴い、2025/01/09より基底宇宙において全ての昏睡状態のヒト個体の調査が実施され、その結果ネイサン・ブラックがSCP-3554-JP-D実例群の攻撃を受けている事実が判明しました。

ΨK-クラスシナリオの発生した並行宇宙において用いられたものを除く、心理学部門の所有する対悪夢実体手段が実例群に用いられました。しかしいずれも有効な結果は得られず、SCP-3554-JP-Dの直接的な収容ないし解体は現状不可能であると結論付けられました。このため、以下の計画が解体部門のフレデリック・トレヴァー博士より立案されました。

文書記録


付記: 当該文書は、SCP-3554-JP-DがDecommissionedクラスに再分類される以前のものです。


概要: 当該計画は、SCP-3554-JPの解体およびそれによる基底宇宙におけるΨK-クラス("全人類昏睡")シナリオの回避を目的としたものである。

手順:

  1. 現在SCP-3554-JPの保有者となっている、ネイサン・ブラックを終了する。

理論: 無意識空間は、その人物の生命活動に紐づけされている。このため、その人物の生命活動が終了した段階で、無意識空間はその内容物と共に消失する。つまり、SCP-3554-JPが如何に強固な悪夢実体であろうとも、SCP-3554-JPがブラックの無意識空間に留まっている限り、ブラックの生命活動が終わると同時に消失する。

これまで集積された情報から、SCP-3554-JPの拡散プロセスは以下のようなものであると部分的に推定できる。

  1. SCP-3554-JPが特定の人物1名の無意識空間を攻撃し、その人物の無意識空間内にて増殖する。
  2. その人物への攻撃が完了し、無意識空間が崩壊すると同時に全人類の無意識空間へと拡散される。この時、SCP-3554-JPは変色する。
  3. 全人類の無意識空間をSCP-3554-JPが攻撃することにより、ΨK-クラスシナリオが発生する。

既にSCP-3554-JPの変色が開始しているため、第2段階への移行への猶予はそう多くないものと思われる。このため、既存の対抗手段ではどうにもならない以上、ブラックの終了が最も迅速かつ確実なSCP-3554-JPの解体手段であると言える。

当該計画案はトバイアス・ラザフォード心理学部門管理官およびカルヴィン・ボールド解体部門管理官によって承認されたものの、直後に当該計画案に関して心理学部門のアニータ・ブリッジ博士が倫理委員会を通じて異議申し立てを行いました。これを受け、心理学部門・解体部門・倫理委員会の間での会議が実施されました。

映像記録


日付: 2025/01/14

出席者:

  • トバイアス・ラザフォード心理学部門管理官
  • アニータ・ブリッジ心理学部門博士
  • フレデリック・トレヴァー解体部門博士
  • ロバート・フィー倫理委員会副委員長

<記録開始>

ラザフォード管理官: それでは、会議を始めましょう。まず、トレヴァー博士、この案について説明を —

ブリッジ博士: 必要ありません。こちらから既にフィー氏には話を通してあります。

フィー副委員長: ええ、聞き及んでおります。

ラザフォード管理官が咳払いする。

ラザフォード管理官: これは失礼。では、早速本題に入りましょう。この件について把握していらっしゃるのであれば、現状がどれほど危機的状況かも委員会は十分ご存じのはずです。であるにもかかわらず、この件に異議を申し立てるのは何故なのですか?

ブリッジ博士: 管理官、では逆に問いましょう。たった9歳の子供を殺す計画の、いったいどこが「倫理的」なのですか?

沈黙。

フィー副委員長: まあ、端的に言ってしまえばそれが我々の異議の理由です。1名とはいえ、民間人の終了を前提とする計画を「はいそうですか」と通すわけには我々もいかないのですよ。

トレヴァー博士: あなたがたはいつもそうだ。そうやって、ただ我々の足を引っ張ることしか考えていない。

ブリッジ博士: 何を —

ラザフォード管理官: 2人とも、ここは口喧嘩の場ではない。落ち着きなさい。

沈黙。

ラザフォード管理官: フィー副委員長。正直なところ、こちらとしても進んで行おうとは考えていません。ですが、問題となるのはやはりタイムリミットです。言ってしまえば、こうして話している今この瞬間にもΨKが起こる可能性は十分にある。ですから —

ブリッジ博士: だから、私の息子に犠牲になれと!?

沈黙。

トレヴァー博士: … やけに感情的だから何かと思えば、私情でしたか。くだらない。我々は冷徹に、人類の保護と必要となる犠牲を天秤にかけ続ける「財団」でしょう。それくらいの覚悟もないのですか、ブリッジ?

フィー副委員長: お待ちを。個人的な話はどうであれ、これはあくまで倫理委員会としての異議です。いくらタイムリミットが近いとはいえ、民間人を犠牲にするのはいささかラインを超えていると言わざるを得ない。我々はあくまで、なるたけ全てをヴェールの内側で済ませるためにいるはずです。それに、今回の件は多財団連盟の案件でしょう。より倫理的な手段が開発されるのも時間の問題ではありませんか?

トレヴァー博士: その「いつか」がΨKよりも後だったら、我々のせいで基底宇宙80億人が昏睡する羽目になるという話をしているんです。だからこそこっちは実行を急いでいるのに、その寸前になってあなたがたに茶々を入れられても困るんですよ。

ブリッジ博士: ならば、せめてギリギリまで計画を実行せずに、代替となる解体手段の模索をすべきでしょう。それこそ今、私が夢中ドローンを開発しているというのに …

ラザフォード管理官: 確かにその通りだな、ブリッジ。君も含め、我々は今もなお収容や解体の手段を模索し続けている。しかし、君の言う「ギリギリ」はまさに今なのだよ。もう知っていることだろうが、例の悪夢実体の変色は既に始まっている。つまり、パンデミックとそれに伴うΨKは目前に迫っているわけだ。そして、君が開発中のドローンは未だ設計段階。そう、どう考えても間に合わない。天秤の前で迷っているうちに、その天秤ごと崩れてしまっては元も子もないのだよ。

沈黙。

ラザフォード管理官: … 繰り返すが、私としても不本意なのだ。もし代替手段が間に合うのなら、私だってそれを選びたい。だが、間に合わないのだ、残念ながら。だから、我々は苦汁を飲む決断を下さなければならない — ブリッジ、君の子供を、殺すという決断を。

沈黙。

フィー副委員長: そちらのご意見はわかりました。ではせめて、監督評議会にこの計画の実行許可を仰いでいただきたい。それで承認が得られたならば、我々もそれに従いましょう。その代わり、その間にドローンが開発されればそれで解体していただく。それでよろしいですね、ブリッジ博士?

ブリッジ博士: … はい。

トレヴァー博士が舌打ちする。

ラザフォード管理官: トレヴァー博士 … わかりました、フィー副委員長。こちらから案を提出します。それで承認が得られれば実行し、却下の判断が出れば取りやめる。こちらとしてもそれで構いません。

フィー副委員長: 感謝します、ラザフォード管理官。

<記録終了>

この会議後、心理学部門および解体部門より当該計画案が監督評議会へと提出されました。2025/01/31、監督評議会は当該計画案を承認し、同日にブラックは薬学的手段を用いて終了されました。これにより、基底宇宙におけるSCP-3554-JP-D実例群は解体されました。ブラックの死に関しては、カバーストーリー「癌による病死」が関係者に流布されました。

2025/02/09までに、3件の並行宇宙においてSCP-3554-JP-Dの発生が確認されました。当初は当該宇宙の財団によって保有者の終了による解体が予定されていましたが、2025/02/11、ブリッジ博士によって対抗夢中ドローン「ネペンテ-990」が開発されました。これにより、当該宇宙における実例群の解体はネペンテ-990を用いて行われ、保有者は終了されることなく解放されました。

以降5年にわたって多財団連盟に加盟している全宇宙でSCP-3554-JP-D実例が確認されていないことから、2030/03/31、SCP-3554-JP-Dの根絶が多財団連盟によって宣言されました。この根絶は、SCP-3554-JP-Dの宇宙間移動が変色状態において発生すること、そして非変色状態の実例群が全て解体されたことが要因であると推定されています。このため、SCP-3554-JP-DはDecommissionedクラスに再分類されました。

これを受け、多財団連盟よりブリッジ博士への表彰および報奨金の支払いが行われました。しかし、ブリッジ博士が既に自主退職していた上、退職時に報奨金等の受領を拒否する意思を表明していたため、報奨金は心理学部門への寄付金という形で受領されました。

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