SCP-3555-JP

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Episode II
BEYOND THE BORDERLANDS

Notice from Area-58

監督評議会・アメリカ合衆国政府は、2040年9月15日付でSCP-3555-JPを正式な調査終了アイテムとして承認します。以下は、一部の監督権限に分類されるアーカイブ済ファイルであり、現在の情報と異なる可能性があります。

SCP財団の組織改称以降、すべてのファイルは最新の記述形式に従います。

フロントライン H.Q.監督承認済

ITEM#: 3555-JP
LEVEL4
SECRET
オブジェクトクラス:
tiamat
{$secondary-text}
{$secondary-class}
サブクラス:
a
撹乱クラス:
e
アイテム番号: {$item-number}
レベル4
収容クラス:
{$container-class}
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
{$disruption-class}
リスククラス:
{$risk-class}
IvyMike2.jpg
View_of_Earth.jpg
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突発的に発生したSCP-3555-JPの写真 (左) 、および空撮 (右上)。また、1983年に記録されたオゾンホールの状態 (右下)。突発的に発生したSCP-3555-JPの写真。

補遺3555-JP.I: SCP財団の再構築

フロントライン財団のオリエンテーション 抜粋
ビル・ムーア、エリア-58 管理官

前文: 我々が知ることのできない脅威が存在します。例えばダマルング文書は、我々の死という概念の本質について正確に描写していますが、我々はそれを直接観測することができません。それを読んでしまうと、たちどころに認識災害の影響を受け、精神的な悪影響を受けるからです。我々が争うことのできない脅威が存在します。時間パラドックスが引き起こす因果ループは、我々の運命を固定化し、回避しなければならない難題に対して対処させます。この原理は未だに分かっていません。

我々が抗うことのできない脅威が存在します。それは不確実な未来です。我々は確かに大きな資産と兵器を持ちますが、それは地球全域をコントロールするために用いられるだけです。我々は超弦理論を操れますか?重力の向きを変えられますか? — いいえ、不可能ですね。かつてのSCP財団という組織は、自らの古く親しみやすい三大理念の下に行動していました。その行動原理は、倫理観や逸脱性など、人類としての掟に縛られていました。そうして、避けられるはずだった災害すらも回避できなかったのです。

我々は理屈に縛られはしません。もはや独立して活動することに限界を迎えた我々SCP財団は、2036年後半に正式な政府公認組織として再構成されます。我々は超常現象を収容するほかに、人類文明を保護するための軍事開発・平和均衡維持の目的を重ねるようになりました。それが、今日のフロントライン財団なのです。

話が長くなりましたね。では、過去に何が起きたのでしょうか?

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SCP-3500-JP

LV-Zero (”捲られたヴェール”) シナリオの起因となったSCP-3500-JPは、2038年時点でアーティファクト-09518、”機械の星”などの名称で知られる、宇宙遠方に存在する超質量機械天体です。このアノマリーは、宇宙創成から間もない時代に誕生したニルヴラムスという文明によって建造され、恐らく宇宙全体のコミュニティが永遠に干渉しないよう指向するため設計されました。このアイデアは「宇宙人は存在し、すでに地球に到達しているが検出されない」というフェルミのパラドックスに類似し、また同様にそのような安全保障上のジレンマから設計されたことが推察されます。

SCP-3500-JPは、2028年に実行された宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の複合開発プロジェクトにおける過程で検出され、財団による安全保障上の目的のため、収容の対象となりました。しかし、この事態に際して宇宙規模で構築された宇宙連邦の内部反乱に次ぐ戦争状態の開始により、財団はSCP-3500-JPの収奪を阻止するためのあらゆる収容努力を行わねばなりませんでした。

2036年後期、本アイテムの安全な”隔離”に伴い、宇宙間コミュニティの干渉が一時的に不可能な状態となりました。しかし、これらの戦時災害に伴う地球上の資源損失は多大なものであり、財団はSCP-3500-JPに関する情報を全般的に秘匿すると同時に、社会全体にかけ戦災からの復興を行うよう促しました。この宣言が、後の時代におけるLV-Zero (”捲られたヴェール”) シナリオの直接的な原因です。

戦争時代の終結とヴェール崩壊に伴い、我々はヨコ関係の癒着を続けるか、新生組織として表舞台に出るかの決断を迫られました。我々は存続のため、合衆国政府の傘下に加わることを決断しました。ええ、いくらかの離反と対立を招きました。しかし我々の決断は、最後には賢いものだったと明らかになるわけです。お分かりですね?

離反組織は衰退し、我々は生き残りました。我々は政府を代表し、超常現象の何たるかを、国民に冷静に伝達しました。コンセンサスの変化というものは、いつだって恐怖にまみれているものです。とにかく — 我々は超常社会と正常社会の橋渡し役として活動することになったのです。

我々の目的は2つ。平和世界の維持と、正常性のコントロールです。戦争の世を終わらせるために、我々は世界の統治者として賢くあらねばなりません。核軍縮や平和維持活動だけでなく、民間に広がる超常災害の余波を抑え、彼らへの支援を行い、世界的な均衡を保つことが重要なのです。そのためなら、我々は兵器開発にも及ぶでしょう。

フロントライン財団は、皆様の安全を維持するため活動します。我々の選択に誤りなどありません。

補遺終了

補遺3555-JP.II: 未解明事象報告

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SCP-3555-JP、撮影画像。

2040年3月8日午前、日本国から東へおよそ500kmの地点でSCP-3555-JPが発生しました。以下の記録は、SCP-3555-JPの発生時から終日までのタイムラインを抜粋したものです。

現地時間 概要
11:15:09 グラウンド・ゼロ地点の1500m上空にて、SCP-3555-JPが爆発する。該当地点の温度はほぼ同時期に数百万度に達する。
11:15:-- グラウンド・ゼロ地点上空に火球が発生し、0.2秒後に直径600mまで拡大する。また同時期に、大量の中性子線が放出されたと推測されている。爆心地では強烈な爆風が発生し、放射状に拡散される。熱線が放出され、周辺の海洋水温が急激に上昇する。火球が消えた後、高度約2万1000メートルに到達する原子雲が形成される。
11:20:26 SCP-3555-JPの熱線や爆風は、グラウンド・ゼロ地点より半径6キロメートルの範囲に拡散する。また、太平洋上空のオゾン濃度が急速に減少し始める。
11:30:-- グラウンド・ゼロ地点周辺を巡行していた船舶の一部が影響を受ける。フロントライン財団81管区 (財団日本支部) 観測所88-Y/bから、監督サイト-01への緊急の直接電話が発生する。観測所88-Y/bは、東京から東400km程度の地点に大規模な爆発があったことを報告する。SCP-3555-JPの初期遭遇。
11:35:18 監督サイト-01は伝令を通じ、各国政府に対する緊急警報放送の要求を行う。「未解明事象に関して、あらゆる軍事組織、国家、政府組織の関与がないことを明確化しろ。撹乱クラスをEKHIに指定。」
11:45:38 日本政府はデジタルインフラを通じ、国内全域に対して緊急事態宣言を行う。同時刻、他25か国の政府は同様に非常時宣言を行い、国民に対し安全の確保を指示する。
13:--:-- あらゆるネットワーク上のユーザーが、SCP-3555-JP事象に注目を集めている。フロントライン・情報統制部門は、これらネットワーク上での検閲と削除、および適切な広報活動に注力している。
14:--:-- 各国政府は、SCP-3555-JPの二次被害に伴う災害を想定し、各地への救護および輸送などの支援に従事している。また、SCP-3555-JPの影響で被爆した可能性のある船舶を一時拘束し、帰還させた。
17:--:-- フロントライン財団は救援隊の派遣準備を命じる。
21:00:15 各国の民衆は混乱に陥っており、不安が拡大している。日本国政府・合衆国政府は協働し、各観測所の職員に現状報告を要求した。フロントライン財団の災害派遣チームが現地に到着し、事態の鎮圧に乗り出す。

SCP-3555-JPの発生当日、フロントライン・気象管理部門は太平洋成層圏におけるオゾン濃度の減少を報告し、この”オゾンホール”による地表への複数の懸念を発表しました。情報は、トライアド監督評議会および全世界政府を介して伝令され、特に日本周辺の国家に対する緊急避難命令の発令に至りました。

3月12日、情報統制部門は情報通信網に対する統制を開始しました。24時間以内に全てのネットワークコミュニティが沈静化し、一時的な支配下に置かれました。残りのプライベートコミュニティは、潜入エージェントによる機密捜査の対象となりました。

オンギュス・ル・モア卿情報統制部門 管理官

注目される情報

2001年に発生した彗星「X/2001 K1」への言及

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X/2001 K1。

アジア圏のネットユーザーは、2001年にアフリカ大陸に飛来した正体不明の彗星である「X/2001 K1」に再注目している。X/2001 K1とSCP-3555-JPのいくつかの共通点は、民衆にとって非常に興味深いものであると考えられる。

インターネット上に広がる有力な言説は、SCP-3555-JPの爆発から間もない時刻に、「未知の歌声」を聴いた、というものである。これとほぼ一致する言説がX/2001 K1にも存在することから、何らかの関係性が示唆されていた。

「未知の歌声」は、彗星およびSCP-3555-JPの最接近時に発生した。歌声は、音こそ聞こえないが直感的に認識できる「振動」のようなものであり、観測した人々に奇妙な情感をもたらしたと言及された。幾つかの科学的文献は、X/2001 K1・SCP-3555-JPのもたらした磁場の振動がこのような音を発生させていたのではないかと説明している。

この現象は、彗星を取り巻くプラズマ環境の活動によるものだと推測されているが、このような類似の実例としては、ESAが探査機を送ったチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星のみが該当する。前例がなく、確証はない。インターネット上に点在する2001年当時の録音と思わしきデータには、彗星の飛来当時に40k-60khzの音が発生しているのが確認できる。しかし、これらの情報の初出は不明であり、虚偽である可能性が高い。

補遺終了

補遺3555-JP.III: 関係者インタビュー・1/2

3月15日、監督評議会はSCP-3555-JPのファイルを一時的に公開し、全職員に対し関連する情報について確実に申告するよう伝令を下しました。翌週を通して、職員の自己申告により得られた情報にほとんど有益性は認められませんでした。この伝令の最後に申告を行ったのは、現在SCP-3555-JP-Aとして候補されている職員、ラス・ディクソン博士でした。

音声映像転写ログ・エリア-58.I

インタビュアー: ベッドロック・エンダース博士、エリア-58・部門横断チーム

対象: ラス・ディクソン博士、エリア-58・天文現象調査部門

«転写開始»

ディクソン博士: 君たちが調査してるものに関しては、少し知識がある。

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ディクソン博士。

エンダース博士: ええ、そうでないと困りますね。私はここ数十時間で100人近い職員の証言を記録してきましたが、どれもこれも無意味なものでしたから。

ディクソン博士: 期待してないだろ。

エンダース博士: (間を置く) — いえ?ちょっと口が滑りました、すみません。SCP-3555-JPについて理解していることとは何です?

ディクソン博士: そのものについての理解は無い。

エンダース博士: ほら見たことか。

ディクソン博士: いいから黙って聞け?そうだな…モア卿がネットワークを統御するまでの数時間で話題になったものがあるだろう。SNSを一日中監視してる人間なら分かるだろうよ、小僧?

エンダース博士:(笑う) 了解、余計な応酬は抜きにして真面目にやりますよ。そう…「X/2001 K1」の件ですね?昔地球に接近してきた彗星の。

ディクソン博士: そうだ。民衆は口を揃えて「歌声が」聴こえたと言うんだ。だが、実に荒唐無稽だと思うだろう。何せ前例が少ないんだからな。だが事実だ、私は彼らが言う「歌声」の何たるかを知っている。この目で目撃したものに狂いはないぞ。

エンダース博士: 2001年、あなたはアフリカの原住民村に滞在していたと聞きました。

ディクソン博士: 超自然発生のアノマリーを調査する目的で滞在していた。そう、ある日の夜にそれを目撃した。私は何かとてつもない騒音に叩き起こされ、空を見上げると、その彗星が見えた。X/2001 K1は大気圏に突入して間もなく燃え尽きてしまったが、それはアフリカ大陸の広域にかけて微弱な磁場の振動をもたらした。

エンダース博士: この彗星のメカニズムはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星と同一のものであると見ていいのですか?

ディクソン博士: 同一かなど分からない。ただ確証を持って言えるのは、X/2001 K1もSCP-3555-JPも、共通して発生した「歌声」に、科学的なメカニズムを含んでいるということだ。

ホモ・サピエンスの聴覚能力は20kHzが上限であるとされ、それ以上の周波数の音は一切聴こえない。ヒトによって差異はあるが、それも微少だ。だが、高周波音を聴覚器官以外の部位で受容することで、生理活動や脳活性に変化をもたらすことが知られている。お前の知っている通り、ハイパーソニック・エフェクトというやつだ。主に40kHz以上のポジティブな周波数は、脳波アルファ波の増大や認知機能の向上、免疫・ストレス指標の改善などがあるとされている。

エンダース博士: ふむ。つまりあなたの見解としては、SCP-3555-JPの件で周辺区域に超高周波が振動して、人々はそれをハイパーソニック・エフェクトの一環として感じ取った、ということでしょうか?

ディクソン博士: そうだ。

エンダース博士: 考慮に入れておきましょう。SCP-3555-JPとX/2001 K1について他に知っていることは?

ディクソン博士: 共通するものがある。

エンダース博士: 具体的には?

ディクソン博士: (沈黙) — ああ、思い出した。1950年代のことだ。

エンダース博士: はい?

ディクソン博士: 私が天文現象の専門家なのは知っているだろ?今議長として私が存在するのは、過去にいくつかの機密プロジェクトで成功を収めたからだ。だが、失敗もあった。その1つが1950年代の機密計画、「穿天雷」計画だ。

エンダース博士: 聞いたことないですね。

ディクソン博士: 既に資料の多くは失われているからな。そのプロジェクトは現在のSCP-3500-JPの事例に先がけたものでもあった。即ち、プロジェクトは人類文明とコミュニケーション可能な、別の文明を探し出すことを最大の目的としていたのだ。穿天雷はまさに、外宇宙へのアプローチだった。

ただ、穿天雷で我々が行ったことは、外宇宙に向けた情報の発信だけだった。呪文と呼ばれる、太陽系複数惑星との相対的な位置関係を示す、地球の座標を記録したものを発信し続ける…それだけだ。当然ながら、50年代のパラ科学技術では電磁波をノイズ化させないための処理に限界があり、いくつかの機動衛星を用いて集中的に発信するのが限界だった。

エンダース博士: なるほど。

ディクソン博士: 穿天雷計画はいずれも失敗に終わったと思っていたが、試行の1つに興味深いものが残っている。(写真を見せる) こいつが何か分かるか?

エンダース博士: クエーサー.クエーサー (準恒星状) は、活動銀河核の一種であるとされる天体であり、極めて明るく輝いているために、恒星のような点光源に見える。のイメージ画像ですか?

ディクソン博士: そうだ。特にこいつは、CIV-F2X7という仮符号が付いている。穿天雷計画の最後の試行で、この天体に対する呪文の発信が行われた。計画作戦の当時、我々はいつもと同じような結果でしかないと判断していた。だが最近になって、違ったのだと発覚したのだ。

穿天雷計画作戦の間、呪文の送信先を含めた広域に対する収音作業が行われる。その最後の試行のデータにのみ、およそ24時間にかけて40k-60kHzの電磁波が記録されていた。解析が困難だったため保留されていたがな。

エンダース博士: それがSCP-3555-JPの収音データと一致しているのですね?詳しく調べてみましょう。

ディクソン博士: 知っているのはこれだけだ。えい、こうも思い出せないものなのか…今になって老化現象というものをつくづく実感するな。こうなければ、私は苦しむことも無かったろうに。

エンダース博士: (笑う) 冗談も程々にしましょう、ディクソン博士。あなたは延命治療を受けているでしょう?専門的にふるまってください。

ディクソン博士: (沈黙)

エンダース博士: ディクソンさん?

ディクソン博士: とっとと失せろ。人の苦しみすらも理解できないくせに。

«転写終了»

後文: 収集された情報は、SCP-3555-JPが更なる軍事開発に応用可能であるかの重要な証言となりました。穿天雷計画において確認された天体: CIV-F2X7の詳細については、次の補遺を参照してください。

補遺終了

補遺3555-JP.IV: 天体概要

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CIV-F2X7、イメージ画像。

天体名: CIV-F2X7

分類: クエーサー

距離: 35.10 Gly (共動距離)

概要: CIV-F2X7は、同様のクエーサーであるULAS J1342+0928に近しい、あるいはそれ以上の遠方に位置する最古の天体であり、内部に超大質量ブラックホールを有している。CIV-F2X7は、ULAS J1342+0928の発見に先がけてSCP財団により観測され、その異常な特性を秘匿するため、現在ではあらゆるデータベース上から削除するよう工作されている。

1949年、SCP財団所有の赤外線探査衛星からのデータ、および所有望遠鏡・天文台からの観測データを用いてCIV-F2X7が発見された。このクエーサーは、暗黒時代後の宇宙の再電離時期にかけて誕生したと推測されており、これは宇宙全体の年齢 (>138億年) の5%に相当する。

1950年に実施された穿天雷計画では、作戦の一環としてCIV-F2X7に対するコミュニケーションの試みが実施された。作戦当時は存在しないと思われていたものの、現段階では、CIV-F2X7に対する生命の存在可能性が指摘されている。そのような兆候を示す40k-60kHzの電磁波パターンが記録されており、このパターンには特筆すべき点がある。

注: 大質量ブラックオールのエネルギーを利用することのできる生命・文明とは、カルダシェフ・スケールと呼ばれる宇宙文明の発展段階における”最終段階” (III型) に相当する。4*1044 erg/秒のエネルギー消費があり、人類文明より飛躍的に逸脱した高度な文明でなければならない。

その背景を踏まえると、CIV-F2X7に居住する可能性のある生命・文明は、少なくとも将来的に危機となり得る可能性のある「タイプIII文明」であり、僅かに注目が寄せられている。

補遺終了

補遺3555-JP.V: 関係者インタビュー・2/2

SCP-3555-JPの発生から3週間後、フロントライン財団の災害後対応チームが現地へと派遣され、事件後の調査にあたりました。その結果、SCP-3555-JPの発生地点を中心とした半径8.5キロメートルの範囲で、最低1.0ミリシーベルト以上の残留放射線が確認されました。その後、半径300m地点の初期放射線量は終日までに0.01グレイに減少しています。

民間のコミュニティおよび報道局では、SCP-3555-JPの二次災害がもたらす人体への影響、自然環境への影響などが危惧され、デマ情報の拡散につながっていました。

この事態に関係する助言を得るため、エリア-58 部門横断チームの議長を務めるベッドロック・エンダース博士は関係者への聴取を開始しました。最初の対談は、サイト-300・応用奇跡論部門-応用超常技術課のセクション長であるキャメロン・アベット博士に対して行われました。

応用奇跡論部門は、幻怪技術や超常技術の研究に重点を置き、そのような視点から軍事利用可能な超常物を発見し、兵器開発を行います。

音声映像転写ログ・エリア-58.II

インタビュアー: ベッドロック・エンダース博士

対象: キャメロン・アベット博士

«転写開始»

エンダース博士: SCP-3555-JPの正確な科学プロセスについて、あなたが知ってることを教えてください。

アベット博士: 結論が必要なんでしょうか?それとも想定される仮説?

エンダース博士: 結論が出ているのですか?素晴らしい、是非とも教えてください。

アベット博士: ラス博士から聞いたものとばかり思ってました。彼は言ってないんですね?

エンダース博士: あー、はい?

アベット博士: (沈黙) オーケイ、もう一度話しましょう。結論から申し上げますと、今回のSCP-3555-JPを科学的に説明することはほぼ不可能です。これはアノマリーだからです。

エンダース博士: 分かりきったことを聞こうとしているのでは —

アベット博士: (遮って) いえ、一般相対性理論から逸脱しているという意味で、異常なのだと述べたいのです。我々がそう判断したポイントは、SCP-3555-JPによって形成されたオゾンホールにあります。

オゾン層を破壊する因子は、我々の知るフロンガスや太陽放射線だけでは無いのです。エネルギーの高い粒子は、同じようにオゾン層に影響を及ぼします。たとえば、放射線帯の電子によってもオゾン濃度は減少します。ただ、放射線帯の電子がオゾン層に及ぼす影響については、観測例が少ないために十分には理解されていません。

エンダース博士: そうですね。その場合でも大規模な放出が無ければ成り立ちませんが、SCP-3555-JPのエネルギーの発生源は特定できません。

アベット博士: その通り。今回の事態においては、事象が物理的に発生し得ないことに注目しているケースが多いです。そこで我々が注目したのは、一般相対性理論そのものの湾曲の可能性です。極小の核融合反応であっても、それ自体が多大な重力を持つ場合、核融合反応を中心とした周辺域の曲率は増大します。この曲率の変動は、その中心に向かう空間を因果的に隔絶されたものとして切り離します。

エンダース博士: それは事象の地平面のことを言っているのですか?

アベット博士: 詳細は分かっていません。アノマリーそのものが時空の曲率を歪ませるのか、あるいはアノマリーの重力が曲率の原因となるのか。分かっているのは、アノマリーのような高密度の存在が極度に収縮していると、重力場の歪みを引き起こし、えー、一般相対性理論を崩壊させます。

エンダース博士: 発生した放射性廃棄物のことを考えると、これは何らかの核融合反応であると確実視していいんですね?

アベット博士: もっと詳細に述べますと、SCP-3555-JPは極小のガンマ線バースト.ガンマ線バーストは、天文学の分野で知られている中で最も光度の高い物理現象である。です。観測された閃光とX線の残光は、この膨大な爆発の痕跡を示しています。天文学の分野で知られている最も光度の高い物理現象であり、SCP-3555-JPはこのような膨大なものでない限り説明できません。

エンダース博士: 部門横断チームでは、爆発の規模とエネルギー総量の関係性を調査していました。軍事的な側面で言えば、現時点におけるどのような国家も、SCP-3555-JPに相当する物理現象を同様に引き起こせる軍事兵器を保有していません。少なくともフロントラインによる核軍縮の強制伝令以降、核兵器を持つ国がそもそも少数派です。

アベット博士: では、これは自然現象か外宇宙由来の可能性に絞られますね。議論の焦点を変えて、誰がこれを引き起こしたのか考えましょう。

Tunguska_Ereignis.jpg

提出されたファイルの添付画像。

アベット博士: そのファイルを読んでください。

エンダース博士: SCP-001?

アベット博士: その提言書では、この世界のアノマリーがもたらす各種保存則への影響.アノマリーがもたらす各種保存則への異常な作用のモデルは、ルーカス・ウィリアムズ財団創設関係者により最初に提唱され、ヘレン・カラエフ副議長により理論化された。について語っています。アノマリーの構成要素は主に水素であるというのが最近の見解で、アノマリーの持つ多大なエネルギーの全ては、体内で産生されたものであると考えられています。そして保存則への影響というのは、一般相対性理論の範囲で説明できます。

水素ガスはアノマリーが持つ重力によって固着しており、核融合反応によって膨大なエネルギーに変換されています。アノマリーというのは、その重力と放射線のバランスの乱れによって発生するものであると考えられています。それ自体は、アノマリーの持つ重力が非常に強力で.重力特異点に関係するアノマリーの力学的モデルは、その構造的完全性が周辺空間を損なうことなく実現されている可能性を支持している。この理論は、トレデシム事件により殉職したカルヴィン・デスメット博士の残留物より解明され、そののちラマー・フォンテイン博士ほかによって実証された。、一般相対性理論に違反するという従来より解明されている性質に起因していますね。

アノマリーの内部でエネルギーが産生されている限り、アノマリーは基本的に安定しています。しかし、内部で徐々に重い元素が作られていき、最後に鉄が生成されると、それ以上は核融合によるエネルギーを産生しません。核で鉄が極限まで作られると、バランスは完全に崩壊します。

エンダース博士: 仮にそうなら、アノマリーの核はただちに重力崩壊を起こし、質量は中心に収束するでしょう。そしてそれは大規模な爆発になり、前述のガンマ線バーストを引き起こすでしょうね。

アベット博士: ええ、しかしその場合でも、まだ問題は残っています。

エンダース博士: どういう意味です?

アベット博士: オゾン層に突発的にアノマリーが形成される可能性は限りなく低いのです。構成する元素が少ないからだと考えられていますが、SCP-3555-JPはその原理に逸脱しています。これが自然現象なのだとしたら、我々は100年ともたず死滅していたでしょう。

エンダース博士: (間を置く) ありがとうございます。

アベット博士: もし外宇宙文明に関する証拠を掴んだのなら、教えてください。興味がありますので。

«転写終了»

後文: 続いて、インタビュアーは穿天雷計画に関する当時の情報を収集するため、これに関与していたベルンハルト・リュングベリ元管理官に対する対談を実施しました。

音声映像転写ログ・エリア-58.III

インタビュアー: ベッドロック・エンダース博士

対象: ベルンハルト・リュングベリ

«転写開始»

エンダース博士: 時間は取らせません。あなたが穿天雷計画と呼ばれる1950年代のプロジェクトで、監督員を務めていたと聞きました。

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リュングベリ。

リュングベリ: ああ。特にCIV-F2X7への注力があった。あのクエーサーは特別で、何度も言ってるが特定の電磁波放送を行ってきたことに焦点が当てられている。本来ならばもう少し継続的に調査を進め、別の翻訳プロジェクトと統合すべきだった。だが、ある科学者の提言がそれを良しとしなかった。

その科学者は、CIV-F2X7に仮に巨大な文明が存在しているとして、我々がそこに呪文を継続的に送ることは、こちらの安全保障上のリスクを高めるだけだと警告を鳴らしたのだ。我々の翻訳プロジェクトは不完全であるということを理解していたからだろう。実際的に、一方的に発信し続けるだけの信号を、CIV-F2X7の文明が警戒しないとも限らない。

エンダース博士: 穿天雷はいつ終了したのですか?

リュングベリ: その警告から間もなくだ。CIV-F2X7に関する調査も全面的に打ち切られ、我々は計画から立ち去ることを余儀なくされた。忌々しい限りだったが、あらゆるリスクは回避されなければならない。ドクター・ラス、奴め、余計なことを。

エンダース博士: ラス・ディクソン?

リュングベリ: そうだ。奴に話を聞いたのか?まあいい。当時の彼のことについて思い出すのは楽しいことではない。ドクター・ラスは偉大な科学者であるいっぽう、傍にいるには奇妙な人間だった。穿天雷の作戦の後、彼が何を発見したのかは知らないが…

エンダース博士: 発見した?

リュングベリ: そうだ。奴は自分に潜む何かが存在していると言及するようになった。それ以来だ、彼がおかしくなったのは。彼は常に声が聞こえると言っていた。自分の中で漠然と語りかける声が存在するのだと。彼は脳機能に障害を負っていることが明らかになって以来、財団の延命医療を積極的に利用するようになった。

エンダース博士: えっ、聞いてませんよ。

リュングベリ: 彼がそれを言わなかったのは、単純に彼が…疑心暗鬼なところがあるからだな。そう、もう少し信頼のおける関係になってみたらどうだ?

エンダース博士: 伝手になりそうな人材はいますか?

リュングベリ: …彼の恩人のエージェントがいる。

«転写終了»

後文: 最後に、インタビュアーは1960年代にラス・ディクソン博士と面識があった機動部隊の隊員、エージェント98 (”オーヴァーウルフ”) に対する対談を実施しました。

音声映像転写ログ・エリア-58.IV

インタビュアー: ベッドロック・エンダース博士

対象: エージェント98

«転写開始»

エンダース博士: 君がラス博士と親交のある人間だと聞きました。50年代前後における彼の動向に注目しているのですが、知っていることはありませんか?

Man_with_Snake.jpg

エージェント98、1990年撮影。

エージェント98: 50年代!?そりゃ随分と昔の話ですね、ええ、知っていますが…彼にまつわる奇妙なエピソードを期待してるんですか?

エンダース博士: 何かしらあったと思います。

エージェント98: そんなもの — いや、あります。68年に発生したカオス・インサージェンシーの襲撃事件はご存じですか?あー、知らないかもしれませんが、そういうのがあったんです。私は機動部隊ラムダ-54のメンバーとして、インサージェンシーとの戦闘に臨みました。その一方で、研究施設に残留していた何人かの研究員を救出し、防衛しながら脱出を試みました。

エンダース博士: よくご無事で。

エージェント98: 私はともかくですが、彼は異常でしたよ!私は肩に1発食らっただけで済みましたが、彼は後頭部に狙撃を食らったんです。ありゃ流石に死んだと思いましたね。ですが、彼は何ともなく走り続けて今いた。まるで銃撃を受けたこと自体に気付いてないみたいに。

エンダース博士: えっ?

エージェント98: 後で明らかになったのは、ラス博士の後頭部に僅かな腫れができていたことだけでした。私は幻覚の可能性も考えましたが…間違いありませんよ。

エンダース博士: 彼、自分の中に何かが潜伏しているとか言ってませんでしたか?

エージェント98: おお、思い出しましたよ!まさにその通りです。その時はよく理解していなかったけど、色々と見てきた今なら言えます。彼は何者かに保護されているんだと。

エンダース博士: 彼はどうして誰にも言わなくなったのでしょう。

エージェント98: (沈黙) うん、彼は少し自閉症な節がある人間でしてね。50年代はそうではなかったと聞いていますが、60年代に私が彼と知り合った頃には、既にあの性格でした。もし彼の中に彼自身の意思を阻害する何かがあるのであれば、半ば自虐的になっているのではないでしょうか。

エンダース博士: なるほど。

エージェント98: もし彼と対談するのなら、慎重に話してやってください。誰にも言えない秘密ってのは、誰にでもあるものなんですから。結局、私もあなたもラス博士のことは理解できないんでしょう。

«転写終了»

補遺終了

補遺3555-JP.IV: 事態の進行

The_explosion_of_the_hydrogen_bomb_Ivy_Mike.jpg

SCP-3555-JP、遠望 (発生当時)。

翌週までの間、SCP-3555-JPの影響は世界的に拡大し続けました。収容プロトコルに基づく除染の試みは難航しており、もはや事態収束の目途は立っていません。一方で、SCP-3555-JPの直接的な爆発の影響は回復しつつあり、世界各地で通常通りの社会環境が復興しています。エリア-58の複数の研究者らは、SCP-3555-JPの後発的な影響は残留するものの、人類文明の維持に直接的な悪影響は及ばないとする主張を支持するようになりました。

同時期、フロントライン財団の各調査部門はSCP-3555-JPの根本的な解決に注力しており、SCP-3555-JPを引き起こし得る重力アノマリーの発生源や、その形成プロセスについての議論が相次いでいました。その過程で、エリア-58・倫理委員会はラス・ディクソン博士をSCP-3555-JPの重要なファクターであると提言し、当人のアノマリーとしての再指定 (SCP-3555-JP-A) を要求しました。

当日、ベッドロック・エンダース博士は個人的にラス・ディクソン博士のオフィスを訪れ、彼との対談を実施しました。

音声映像転写ログ・エリア-58.V
«転写開始»

ディクソン博士: 驚いたな、君か。

エンダース博士: あなたに聞けなかったことがあったので。脳機能障害を抱えているんですね?

ディクソン博士: (沈黙) 誰に…いや、ここの連中はどいつもこいつも口が軽いからな。白状せよとはまさにこの事を言っていたのか?

エンダース博士: ディクソン、私は倫理委員会の人間じゃありません。ここへは独断で来ています。ついでに言うと、ちょっとした悪さをしておりましてね。ここへ来るのは規定違反なのです。お分かりですね?

ディクソン博士: …何故、私に構う?

エンダース博士: 好奇心、興味本位。実際には、あなたに対して協力したいと思う純粋な行動原理です。

ディクソン博士: 余計なお世話だ。自分の見てるものが単なる幻覚なのかもしれないのに、それを表明すれば職位に関わる。それに知っている情報だけで十分だろう。

エンダース博士: つれない人ですね。あなたは自分自身に何が埋没しているのかを知っているはずです。

ディクソン博士: …私は、50年代のあの日以降、ずっと「未知の歌声」に悩まされ続けている。

エンダース博士: 一時的なものではないのですか?

ディクソン博士: 他の人間のことは知らない。だが、どうやら私はその限りではないらしい。私に憑依したその”何か”が絶えず自分の頭の中で響いている。感覚的に不愉快なものが、高らかに笑っているようにすら聞こえている。私が正気でいるのが奇跡な程だ。何度か自殺も考えたし、実行した。

だがその頭の中の歌声は、私が死ぬことを許さなかったんだ。 そうやって息絶えようとする度に、自分の中の超常の力がそれを跳ね除けてしまう。だから私は死ぬことさえ諦めた。私をここまで苦しめてきたものを知らずに死ねば、あの世の果てでも後悔することになるだろう。そう思って私は延命を選んだ。

エンダース博士: では、今まで自身の研究を続けていたのですか?そうではないでしょう。

ディクソン博士: ああそうさ、忌まわしい。私が自分自身のことを調べるために、一体どれだけ財団に貢献しなければならないと思っている!?特に2036年の事件以降は酷いものだ。ゴールドベイカー・ラインツ社が組織との契約を有利なものへ変更して以来、財団全体の資産は減少する一方だ。我々はほとんど人権を持たない。自分の医療行為のために、何十年も献身し続けてきた!それなのに —

エンダース博士: 倫理委員会は、まさにその機会を —

ディクソン博士: 黙れ!私自身から人権を剥奪するための権限に過ぎないものだ。アノマリーとして再分類された人間が厚生を受けられないのは知っているだろう!

エンダース博士: 古い価値観を捨ててください、ディクソン。時代は変わりました。倫理委員会の新しい面々と顔を合わせましたか?

ディクソン博士: 何も変わらない。腐敗体制は変異しないのだ。

エンダース博士: そうでもありません。2038年以降の改革で、アノマリーへの指定は客観的に秘匿されることが約束されています。それに、我々はあなたをアノマリーとして認めるわけでは無いのですよ。

ディクソン博士: どういう意味だ?

エンダース博士: 因子ですよ、ディクソン。あなたはこの現象を究明するためのファクターとして定義されるのです。それに今や財団は存在しません。フロントライン財団は、以前の腐敗した体制を一新すべく、普遍的な差別意識や傾向を抹消することを考えました。アイテムの分類が変更されたのはそのためです。

ディクソン博士: 根本的に何も変わらんだろう。

エンダース博士: …言いたいことはそれだけですか?

ディクソン博士: (沈黙) …君のことを信じたいが、信じることができない。50年代に我が功績が水の泡となって以来、私はすべて失ったんだ。

エンダース博士: 私を信頼しろとは言ってません。新たな組織を信じてほしいのです。私たちの計画は、今や人類文明全体を保護するという大義名分を抱えています。我々は一刻も早く現状を改変する必要があるのです。あなたのその経験や知識は、決して無駄になったものではないでしょう?

ディクソン博士: 違う。違うんだ。

エンダース博士: 何が違うというのです?

ディクソン博士: 君たちと私は違うんだ。すべからく、あるべきもの全てが私には無いのだから。知りたいなら後で話をしてやる。私は頭痛薬を飲むため1人になりたい、オーケー?

エンダース博士: いい返事を待ってますよ、全く。

«転写終了»

後文: 倫理委員会の要求は分類委員会により保留され、その審議のため時間を要しました。期間中、エンダース博士は更なる交流のため、ディクソン博士との対話を継続しました。その対話は内部ネットワークのメッセージやり取りにて書き起こされており、以下に追記されます。

«抜粋開始»

ディクソン博士: 先程はすまなかった。私は臆病なんだ、それでああいう事をしてしまうことは少なくない。この性格でさえ無ければ、もっと早い段階で問題を解決できていたかもな。

エンダース博士: 構いませんよ。ついでに問題について —

ディクソン博士: 知っている。倫理委員会は私をアノマリーとして再分類するつもりだろう。だが私は納得していない。奴らが再分類する前に、私はこのオブジェクトに関する問題を解明する必要があるな。

エンダース博士: それが困難だというのは分かっていますよね。

ディクソン博士: 無論だ!手始めに、SCP-3555-JPの理論的な観点から、これの簡略反応モデルを構築しなくてはならない。計画の実施中に構築されていたデータを流用して……

エンダース博士: 理論モデルは完成されています。

ディクソン博士: はっ?

エンダース博士: 応用奇跡論部門が最近これを構築しました。古いモデルに誤りがあったので、これを構築するのに時間を要したらしいですが。

ディクソン博士: ああ、応用奇跡論、そうか、そうだった。つまり私はこのモデルを応用して、SCP-3555-JPの潜在的な人工物の可能性について探求しようと思うのだ。私にはそれが可能だ。

エンダース博士: ええ、そしてプロジェクトと大規模な人員が必要不可欠であるのは言うまでもありませんよね。

ディクソン博士: 愚問だな。コンピュータによる自動化作業に従順な君たちからすれば、手作業の複雑性とその人員の技術力を侮ってしまうのだろうが、違う。私には穿天雷計画の膨大なデータが存在する!しばらくのち、君に目にものを見せてやろう。

エンダース博士: 私は手助けしようと言っただけです。

エンダース博士: ラス博士?

エンダース博士: ラス博士、昨日も心臓病の薬を飲むのを忘れていましたね?

ディクソン博士: 更なる実験は継続されているのだ。今日、私は自身に潜伏しているアノマリーの動向を探るための確認に向かっている。投薬がアノマリーを助長しているならば、もしかするとこれが原因なのかもしれない。私はアノマリーを抑制するためのあらゆる試みに挑戦するつもりだ。

エンダース博士: ですが、ご自身の健康にかかわるものですよ。

ディクソン博士: この寄生虫がどのように私の生態に同化しているのかを調査するためのものだ。この前の反応モデルは実に素晴らしいと思う。これから推測される物理的実体の所在を突き止めて、走査しようと考えている。

エンダース博士: これは寄生虫ではありませんよね?

ディクソン博士: いいや、これが寄生虫だというのは明らかだ。いや — アノマリーだったか?違う、私は寄生虫を調査している、だろう?少なくとも記憶の限りでは、そうだ。

エンダース博士: ラス博士、他にどの薬を処方されていますか?

ディクソン博士: 異常な延命治療に伴う、記憶補強の丸薬。

エンダース博士: ちゃんと服用していますか?この1週間は?

ディクソン博士: あー、もっと良い話題がある。

エンダース博士: お願いします、あなたが荒唐無稽な”実験”のために無理な負担をかけるために、ほとんどの部署はあなたが死んでしまうのではないかと危惧しています。

ディクソン博士: なるほど、それが私に対する特別収容プロトコルって訳だ、ハッ。私は問題ない!これを解決するまでの間死ねないのだからな。実験を継続しよう。やるべき事はまだある。

エンダース博士: こんな事は終わりにしましょう。これ以上何をやっても無駄なだけだと思います。

ディクソン博士: 私の生存可能性に関する問題は自分で —

エンダース博士: そんな事はどうでもいいのです。私はファクターが消失する可能性を危険視しています。もはや時間はありません。

ディクソン博士: 適切な猶予が与えられれば —

エンダース博士: あなたも分かっているでしょう。無理だと。

ディクソン博士: やめろ。私に対して問題点を口にするのをやめろ。これはお前たちの問題ではない、私自身の解決すべき問題だ。

エンダース博士: ではそのために、収容を放棄せよと?

ディクソン博士: 私は — いいか?私だって本来ならそうすべきだって理解しているさ。だがな、人間には合理的ではないジレンマとプライドってものがある。私がこれを諦めたときにはな、まるでそれまでの時代が無意味であったかのように霧散してしまうんだ。お前のような若造に理解できるか?人生というものはあまりにも不安定なのだ。

ディクソン博士: お前たちにこれを譲渡する気はない。これまでもこれからも。私は私自身が解決すべき問題を最後までやり通す気でいる。その選択には誤りなどないと確信している。ここには過去のデータもある。私はそれに固執しているわけじゃ無いが、データは重要なものだ。私は何も諦めない。答えられるのはこれだけだぞ。

ディクソン博士: もしもし?

注: この後、エンダース博士はSCP-3555-JPに関係した翻訳プロジェクトの急務のため招集され、個人的な対話を放棄しました。

ディクソン博士: なあ、先日はすまなかった。いや……似たようなことを前にも言ったか?違う、ただすまなかったと謝りたいんだ。私はちょっと、いやかなり、動転している。実のところ、猶予がないのは理解しているんだが、その事実自体が私の判断を危険なものへ向けているのは間違いないだろう。

ディクソン博士: 実験を継続していると言ったが、本当はうまくいっていない。アノマリーの実態にチェックメイトはかかっていない。私1人では研究すべき目標そのものに大きな限界がある。君の言う通り、彼らに任せるのが賢明だったのかもしれない。私は調査を全面的に諦めてしまうかもしれない。今更、君に何と言うべきだろう?

ディクソン博士: 君がこれを読んでいるのか分からない。とても息苦しい。

ディクソン博士: 君がこれを読んでいるのか知らないが、記録のため述べておこうと思う。私は今現在、倫理委員会の提案を概ね受け入れる覚悟でいる。

ディクソン博士: 事態を遅延させてしまったのには私の責任がある。自身のエゴによって、ここまで事態を悪化させてしまった。その、本当に申し訳ないと思っている。これが自分の問題じゃなく、世界規模で起こりつつあるインシデントだという事をすっかり忘れてしまっていた。

ディクソン博士: 私にはもはや正常な判断力はない。このふるまいが君たちにとって望ましいものなのかも分からない。何が正しいのか分からない。1つ言えるのは、ただの老いぼれがここまで首を突っ込むべきでは無かったという反省だけだ。時代は変遷する。人員は交代する。私はそこで判断を誤ったわけだ。これからどうすべきかを真剣に考えてみようと思う。その……君に対する謝罪の意を含んでいるのには違いないからな。

«抜粋終了»

後文: 倫理委員会の提言は承認され、SCP-3555-JP-Aへの (秘密裏の) 再分類が実施されました。これに次いで、一部の関係者に限定された調査目的のドレギョーニ・プロトコルが実施され、SCP-3555-JP-Aを中心とした調査プロトコルが進行しました。

補遺終了

補遺3555-JP.VII: 調査プロトコル

ドレギョーニ・プロトコル
ベッドロック・エンダース、部門横断チーム 議長

前文: 関連する人員は、SCP-3555-JPの発生と特定の因果関係を持つと想定される1名の職員 (SCP-3555-JP-A) に対し、MRIスキャンを中心とした医学的観点からのデータ収集を開始した。以下の情報は、SCP-3555-JP-AおよびSCP-3555-JP周辺の散策によって判明した、注目すべきいくつかのアイテムを抜粋したものである。

「未知の歌声」

SCP-3555-JPの形成に関わる調査では、SCP-3555-JPは自然発生型の超常現象であり、保存則の逸脱を主体とする超新星爆発・ガンマ線バーストの一形態であると想定されていた。この言説は、部分的に誤りであることが主張されている。

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ENTRY-3555-A、解析画像。

2040年4月9日の捜索の過程で、除染中の太平洋上空を飛行する極小の物体を確保することに成功した。この作戦手続きは、SCP-3555-JP-Aへの頭部MRIスキャン調査から得られた情報を参考に較正されていた。

極小の実体は、前方への推力を得て加速前進することが可能な (ほぼ球状の) 飛行機体であり、主翼・前進移動に伴い発生する揚力で滑空および飛行する機能を持つ。自立飛行・活動するこの物体は、暫定的にENTRY-3555と定義された。

ENTRY-3555には、現状確認される限り2種の形態が存在する。

  • ENTRY-3555-Aは、後述のタイプBに比較し巨大で、内部に10の-30乗メートルの極小スケール物体を保持している。物体の保有するエネルギーは、概ねSCP-3555-JPのそれと同等であることから、何らかの手段で不活性状態に置かれた「マイクロ・ブラックホール」だと想定されている。
  • ENTRY-3555-BはタイプAと同様の飛行機体であり、極小スケール物体を保持するための容積を持たない。タイプBは、SCP-3555-JP-Aの頭部MRIスキャンの結果として発見された個体であり、SCP-3555-JP-Aの神経系および脳髄などに侵食している。これにより、SCP-3555-JP-Aの身体機能を異常に増強するための手段を確保しており、またその性質のため、SCP-3555-JP-Aは実質的に損傷により死亡しない状態にあると推測される。ENTRY-3555-Bの特有の構造は、これ自体が人為的に形成されたケイ素生命である可能性を示唆している。

更なる予備的分析の結果は、ENTRY-3555-A / -Bの形成パターンに規則性があり、これと同じ構成要素を持つエンティティが、過去に何度か発見されていることを示している。

CIV-F2X7

「穿天雷」計画の残骸を応用した更なる送受信装置の開発が進み、現時点で唯一候補されているクエーサー「CIV-F2X7」に対する電波受信の試みが開始された。その結果、現時点までの間、CIV-F2X7からは一定パターンの電磁波が送信されていることが明らかになった。この電磁波パターンは (ノイズ化のため) 判別困難であるものの、特筆すべきことに、ENTRY-3555-Bから発信される一定間隔の超高周波音と一致する。

更なる調査の結果は、「CIV-F2X7」より発せられる電波信号が徐々に地球へと接近しつつあり、信号も強度を増していることを示している。ENTRY-3555-Bまたは類似の個体が接近している可能性を考慮すると、人類文明はカルダシェフ・スケールにおけるタイプIII文明から注目されている危険性があり、排除が必要だと考えられる。

現状を踏まえると、SCP-3555-JPの形成に関与した疑いのある当該エンティティは偶発的に形成されたものではないことが理解できる。高度技術によるENTRY-3555-A / -Bの開発を可能とする文明は現時点で確認されておらず、フロントライン財団は現在「穿天雷」計画などの予備的文書を通じて、残りの文明遭遇の可能性について捜索している。

注: 現時点でプロトコルの存在を知る者へ。フロントライン財団は、現段階で地球が外宇宙文明による攻撃の危機に瀕している可能性を支持しています。

この事象の直接の起因となったのは、SCP財団が1950年に実行した「穿天雷計画」であると考えられています。穿天雷計画による呪文の発信は、悪意ある文明による地球の特定と攻撃の起因になることは当然ですが、逆説的に「友好な」、即ち敵対的でない文明との不必要な応酬を繰り返す可能性を生むと想定されています。

フェルミのパラドックスに代表されるような思考問題では、意思疎通の取れない文明との接触は安全保障上のリスクになると推定されます。これは、「友好な」文明が自らを保護するため、やむを得ず最大限の偵察・攻撃を行う直接の原因となり得ます。この事態の解決のため、調査は継続されています。

補遺終了

補遺3555-JP.VIII: 議論の相違

音声映像転写ログ・エリア-58.VI

前文: 2040年4月12日、ドレギョーニ・プロトコルの調査が完了しました。フロントライン・内部保安部門は、ENTRY-3555-Bによる潜在的な脅威が観測される以上、SCP-3555-JP-Aを通常の業務にあたらせることは不可能であると判断し、彼を監視下に置くための伝令を下しました。終日までにSCP-3555-JP-Aは拘束され、エリア-58・K-34/a待機房に一時収容されました。 その日の晩、SCP-3555-JP-Aによる音声の転写が以下に記録されています。

«転写開始»

ディクソン博士: …いつもこうなる。私は自分が信じた行動に対しては必ず貫き通さないといけないと考えているからだ。まあ…傲慢だと言えば、そうなんだろう。穿天雷計画については私の功績だと思っていたのに。あれの停止は、今よりもっと早期の段階におけるCIV-F2X7からの襲撃を招いただろう。だから私は計画の凍結を提言した。ああクソ…リュングベリの奴は元気にしているだろうか?

ディクソン博士: 私は臆病者だ。そして、他人の救済の手を何らかの悪意だと考える疑心暗鬼の塊だ。彼に、彼に嘘をついて欺いた。信頼できるものを遠ざけてしまった。こんな私に一体何ができるというのか?私は何なんだろうか?私の人生は無価値だったのか?私はずっと無価値だったのか?

ディクソン博士: ここには鎮痛剤が無いのか?えい、クソ。あの声がまた私に語り掛けている。どうして…どうしてお前は私を殺さないんだ?どうしてお前は私の行動すべてに先立って妨害する?お前は、お前は何なんだ?お前ほど忌々しい奴の声を聴くのはもうウンザリだよ。

ディクソン博士: …聞こえたのか?それともここら一帯の環境音に呼応しているのか?聞こえてるのか、お前は。やるべき事なのか、これは?調査すべきことなのか?

ディクソン博士: 老人の最後の悪足掻きだと思ってくれ、すまないがな。この急務を欠かすことはできないようだ。

«転写終了»

補遺終了

補遺3555-JP.IX: 監督者会議

音声映像転写ログ・エリア-58.VII

前文: 翌週、ベッドロック・エンダース博士はエリア-58の部門横断チームを招集し、想定される次回のSCP-3555-JP発生可能性に先がけた対応戦略を考案しました。戦略案、もとい「オペレーション・ディバイディング・ライン」は評議会動議にかけられました。

«転写開始»

O5-01: 現状はどうなっている?

エンダース博士: はい、監督者。予想される懸念としましては、ENTRY-3555-A / -Bの群体が現時点でCIV-F2X7より漂着しつつあり、それらのエンティティ群は、現時点で地球を取り巻く大気成分の50%に侵食しています。これは、ENTRY-3555-A / -BもといCIV-F2X7による地球の襲撃、より包括的には、XK-クラス”根絶”シナリオの発生を確実なものとするでしょう。

O5-01: それは非常にマズいな。対策はあるか?

エンダース博士: ディバイディング・ラインの本質は、CIV-F2X7文明に対するアプローチにあります。この作戦は大まかに、SCP-3555-JPを引き起こし得る相手の文明に対して明確に信号を発信することで、コミュニケーションを取ることを目的としています。

O5-01: 相手文明に敵意がある場合を考慮しないのか。

エンダース博士: SCP-3555-JPによる攻撃は不必要な応酬の結果であり、我々人類文明が敵対意思を持っていると判断するが故に攻撃したのだと推測されます。つまり、我々が穿天雷計画において明確な応答を行わなかったため、CIV-F2X7は我々に敵意があると判断している可能性が高いのです。

根本的には、人類文明が敵意を持たないことを表明しなければなりません。その手段として恐らく有効なのが、我々が無知の知としてふるまう事です。宇宙に向けてメッセージを含んだ電磁波の拡散を行えば、我々に敵意が無く、コミュニケーションの余裕があることを示せます。このような全ての原理は、SCP-3500-JPおよびフェルミのパラドックスの前例から来ています。

O5-01: (沈黙) 申し訳ないが、オペレーションを承認することはできない。

エンダース博士: 何故です?

O5-01: 先にも述べた通り、これら外宇宙に属する文明の遭遇率を考慮すると、それぞれの文明に悪意がないことを証明することはできない。あるいは、オペレーションの本質に問題がある。我々は、宇宙全体に信号を送ることが、悪意の有無に関わらない大多数の文明の攻撃を招くことになる可能性を危惧している。

エンダース博士: なら信号に指向性を持たせて —

O5-01: それが何を意味するかは君も理解しているはずだ。CIV-F2X7は実際、不本意とはいえSCP-3555-JPを引き起こしている。君は、1度目の攻撃で被害が少なかったことをどのように考えている?

エンダース博士: 何も…

O5-01: 私はマンハッタン計画に協働したことがある。ヒロシマに投下された原子爆弾が、上空で爆破された理由を知っているか?答えは単純だ…威力の測定を目的とした実験では、上空での爆破が適しているからだ。仮にも地表面に近い地点で起爆すれば、崩落し、目撃効果は確実なものではなくなる。

エンダース博士: SCP-3555-JPは破壊を目的としたものではないと?

O5-01: そうだ。我々が最も危惧しているのはそこだ。我々は言わなくとも皆、理解しているぞ。奴らはな、より戦略的に我々を殲滅する手段を実施しているのだ。代替案はあるのか?

エンダース博士: (沈黙)

O5-01: すまないが、オペレーションを承認することはできない。

«転写終了»

後文: 「オペレーション・ディバイディング・ライン」に関する動議は最終的に否決され、この草案は凍結されました。予想される二次的襲撃シナリオに備え、フロントライン財団はシナリオ抑制のための代替作戦「オペレーション・アテナス」を開始しました。

補遺終了

補遺3555-JP.X: 二次的襲撃シナリオの発生

2040年5月1日、フロントライン・監督評議会の権限に基づき、オペレーション・アテナスが実施されました。本オペレーションは「防戦一方」の作戦であり、想定されるフェルミのパラドックスの原理から、不用意に対象文明を攻撃することは危険だと判断されたことに起因します。 フロントライン財団は、防衛線を実施するための防衛艦隊を合計で780隻以上建造し、この事態に備えました。

同年5月19日、通例のドレギョーニ・プロトコルにおける異変が観測されたため、作戦手続きが実行に移されました。

オペレーション・アテナス 抜粋

防衛艦隊全780隻のうち、超弩級戦艦・弩級戦艦を含む大規模戦艦/巡洋戦艦が480隻、母艦90隻、駆逐艦160隻、偵察船20隻、機雷戦艦艇30隻を占める。また、これに含まれない新規に建造された艦艇が300隻存在する。

防衛艦隊には以下の機動部隊が指揮権限を持ち、搭乗させられている。

  • 機動部隊アルファ-1 (”レッド・ライト・ハンド”)
  • 機動部隊アルファ-9 (”残された希望”)
  • 機動部隊ベータ-7 (”マズ帽子店”)
  • 機動部隊ベータ-777 (”ヘカテーの槍”)
  • 機動部隊ガンマ-5 (”燻製ニシンの虚偽”)
  • 機動部隊イプシロン-9 (”火喰らい”)
  • 機動部隊エータ-5 (”イェーガーボマー”)
  • 機動部隊エータ-11 (”獰猛な獣たち”)
  • 機動部隊エータ-77 (”球中球”)
  • 機動部隊ラムダ-5 (”シロウサギ”)
  • 機動部隊ミュー-13 (”ゴーストバスターズ”)
  • 機動部隊ニュー-7 (”下される鉄槌”)
  • 機動部隊ロー-19 (”キュテレイアンズ”)
  • 機動部隊タウ-5 (”サムサラ”)
  • 機動部隊プサイ-8 (”サイレンサー”)
  • 機動部隊オメガ-12 (”アキレウスの踵”)
作戦実施後タイムライン抜粋
現地時間 概要
09:00:14 オペレーション・アテナスの発生後、防衛艦隊は発進し、CIV-F2X7へ向けて出港する。その何割かは地球の衛星軌道上に留まり、巡行を開始する。
12:--:-- CIV-F2X7に向けた進行の途中、全艦隊は定期的な外部点検作業のため、隊員の入退出を行わせる。
13:15:40 進行中の駆逐艦「K-31・スコーピオ」に軽微な異常が確認され、修復のため停止する。オペレーターとの対話により、動力炉付近の活動に異常な兆候が見られるため、技術職員を向かわせたとの報告が入る。
13:18:11 K-31・スコーピオは、動力炉付近での収容違反インシデントのため、一時的に警戒態勢に入ったことを報告する。これ以降の通信は行われず、K-31・スコーピオは最終的にロストする。
13:19:-- 第一線の計25隻が相次いで停止し、オペレーターに対し収容違反インシデントの懸念を報告する。
13:25:45 偵察船「A-10・ドレギョーニ」の右ウィング付近で大規模な爆発が発生し、A-10・ドレギョーニがロストする。次いで、付近を移動中であった2隻が爆発の影響のため機能不全に陥る。この爆発はSCP-3555-JPのものと同一であると判定される。
13:26:03 全艦隊に対する警戒命令が下される。この時、応答したのは僅か10隻である。
13:26:05 SCP-3555-JPと同一の爆発現象が、全体の95%の艦艇に発生する。結果、応答可能だった2隻を除く全艦隊がロストしたと判定される。
13:--:-- 更なる被害を未然に防止するため、残存した全ての鑑定に対する帰還命令が下される。残された艦艇は進行ルートを再較正し、地球へと帰還する。これ以降の通信は発生せず、地球への帰還後、2隻は相次いで地上に衝突する。事件後の調査により、この2隻に搭乗していた全ての人員は死亡しており、解剖学的な死因の判別が付かないとされた。ENTRY-3555-A / -Bとの関係性が示唆されている。
14:01:00

収集データは、作戦中に発信された断続的な音声を記録することに成功した。最新の翻訳プロジェクトによる解析の結果、以下のような文言であったことが確認できる。

我が声を聞け。さもなくば死ね。

後文: 指揮系統のうち、残存する部隊は以下の通りです。

  • 機動部隊アルファ-1 (”レッド・ライト・ハンド”)
  • 機動部隊アルファ-9 (”残された希望”)
  • 機動部隊ベータ-7 (”マズ帽子店”)
  • 機動部隊ベータ-777 (”ヘカテーの槍”)
  • 機動部隊ガンマ-5 (”燻製ニシンの虚偽”)
  • 機動部隊イプシロン-9 (”火喰らい”)
  • 機動部隊エータ-5 (”イェーガーボマー”)
  • 機動部隊エータ-11 (”獰猛な獣たち”)
  • 機動部隊エータ-77 (”球中球”)
  • 機動部隊ラムダ-5 (”シロウサギ”)
  • 機動部隊ミュー-13 (”ゴーストバスターズ”)
  • 機動部隊ニュー-7 (”下される鉄槌”)
  • 機動部隊ロー-19 (”キュテレイアンズ”)
  • 機動部隊タウ-5 (”サムサラ”)
  • 機動部隊プサイ-8 (”サイレンサー”)
  • 機動部隊オメガ-12 (”アキレウスの踵”)

補遺終了

補遺3555-JP.XI: 襲撃シナリオの進展

続く24時間以内で、XK-クラス”根絶”シナリオの発生は確実なものとなりました。フロントライン財団は、民衆および政府関係組織にシナリオの悪影響が及ぶことを懸念し、事態の収束まで防衛線を維持することを決定しました。世界各地でSCP-3555-JPへの対応が行われる中で、人類文明の維持可能性は低減しつつありました。

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続けて投下されたSCP-3555-JP、遠望 (オペレーション・アテナス以降)。

以下は、当時の状況についての供述を抜粋したものです。

音声映像転写ログ・エリア-58.VIII

インタビュアー: ビル・ムーア管理官、エリア-58 管理官

対象: ベッドロック・エンダース博士

«転写開始»

エンダース博士: SCP-3555-JPによる連続的な爆撃が始まってから、今日で何日目になりますか?

ムーア管理官: まあ、落ち着いてください。防衛線は終結していませんが、このところSCP-3555-JPが着弾していないのは明らかです。監督サイト-01が対応に当たっていますよ。それに、私に対しての謝罪がまだですよ。

エンダース博士: へっ?

ムーア管理官: ENTRY-3555-Aによる最後の襲撃は、エリア-58に対して実行されました。あなたが負傷し気絶していたのを機動隊員が発見しなければ、応急処置は不可能でしたからね。

エンダース博士: マズいですね。まだやる事が残ってたのに。

ムーア管理官: 何をって?

エンダース博士: ラス博士に用事があるんです。彼が異常な影響によって延命されている理由を解明できたと思ったので。ラス博士は?

ムーア管理官: (沈黙)

エンダース博士: どうしたんですか、その顔。…やめてくださいよ?

ムーア管理官: 分からないんです。彼が収容房から脱走した後、どこへ消えてしまったのかが。その…解明というのは?

エンダース博士: 彼が以前に音楽を聴いている時、ENTRY-3555-Bが活性化しているのを記録したことがあります。当時は原理を考察することができませんでしたが、今ならば分かります。奴は高周波音を聴き取っているのです。

ムーア管理官: 高周波音。

エンダース博士: この問題の本質は、ENTRY-3555-Bの可聴域が恐らく人間よりも遥かに高いことにあります。人間の出す音が全般的に聴き取れず、逆に奴らの高周波音での会話は、我々の耳には届かない。だから、音楽に含まれていた超高周波音に、偶発的に反応した可能性を追求したんです。

ムーア管理官: 彼らは電磁波の受信機器を持っていないとでも?

エンダース博士: 我々が彼らの音声解析に時間を要したように、彼らもまた、我々の抱える問題に気付くのが遅いのかもしれません。これは、50年代の穿天雷計画でCIV-F2X7が応答しなかったと思われていた事実と符合します。彼らは応答しないのでなく、聞こえないのですよ。

ムーア管理官: それで、あなたはラス博士に何の用が?

エンダース博士: 穿天雷計画で回収された「歌声」を解析して、対応する翻訳プロジェクトを完成させました。その原版ファイルはC-33/u開放セクターに保管してあります。彼にその効果を確かめてもらおうと思って。

ムーア管理官: C-33/uというと —

エンダース博士: 1950年代、穿天雷計画で用いられていたセクションの位置です。幾つかの機材が高価なものだったので、現場で直接プロジェクトを進行させていました。それで彼に連絡したのですが…

ムーア管理官: …仮にENTRY-3555-Bの音声が翻訳できるとして、我々に勝算があると思いますか?ENTRY-3555-Bを介して仲介を試みることはできますか?その可能性は?

エンダース博士: えっ、少なからずあるとは思いますが。何が — 彼は私の翻訳ファイルに気付いたのでしょうか?彼は最後どこに?

ムーア管理官: C-33/uの映像転写を確認してください。今すぐに。

«転写終了»

後文: 当時、エリア-58はSCP-3555-JPによる連鎖的な爆発のため、壊滅的状況にありました。SCP-3555-JP-Aは、保護されていたK-34/a待機房から脱走し、穿天雷計画にて当時利用されていたC-33/u開放セクターへと向かう姿が確認されていました。

«転写開始»

<C-33/u開放セクターへ向かう途中のラス・ディクソン博士の様子が記録されている。付近通路のカメラに記録された映像では、彼が走り、時折後方を確認するようにして注意しているのが確認できる。彼は背中を負傷しており、出血している。>

ディクソン博士: ああクソ!私は超人でも現実改変能力者でもない、ただちょっと延命治療で生き長らえてるだけのご老人だぞ、畜生どもが。ドック・ベッドロックはとんでもない奴だ、私を — 私に重責を負わせるんだからな!

<高周波音。>

ディクソン博士: やかましい!私がどうなろうが今更知ったことじゃあないだろう。お前さんと過ごした90年あまりがどれだけ深刻だったかを思えばな、これは序の口だ。えい、こん畜生。

<高周波音。>

ディクソン博士: あー、記録のため…私はC-33/u開放セクターへ向かっている、見ての通り。そんで、私はこのオンボロ機材を使ってENTRY-3555-Bの声と対話している。お前らに聞こえるか?聞こえてなくてもいい。今は辿り着かなくてはならない。

ディクソン博士: 小僧 — じゃないな、博士から全部聞いてる。ENTRY-3555-BはCIV-F2X7の偵察衛星だ、偵察兵だ、そんでもって派遣された大使でもある。こいつは私たちを攻撃しようとしてるんじゃない。私たちはこいつにずっと待望されてたんだ。

ディクソン博士: 90年間、こいつは我々の声を聴こうと努力していたらしい。その確証が得られなければ、90年の宇宙旅行を通じて真っ先に地球文明を滅ぼさなければならなかったからな!全く全く、どいつもこいつもクソッタレの臆病者どもだ!老人に無駄な期待を寄せおってからに。

<高周波音。>

ディクソン博士: ああ?お前も十分歳を取ったもんだよ、ウンザリする程にな。

<C-33/u開放セクターへ到着したディクソン博士は、50年代当時に穿天雷計画で用いられていた放送室に進入する。彼は非常システムを作動させ、室内を完全にロックする。>

ディクソン博士: 私はもう助からない。左足の感覚はたった今無くなった。背中は切られてるし、メチャクチャ痛い。110年生きてきて、これ程の地獄を味わったことは無いな。さて、こんな希望的観測のために私はコミュニケーションを行うのか?保険金はデカく付けてくれなきゃあな。

<ドアへの衝突音。続いて、恐らく別のENTRY-3555-B個体によって制御された技術職員の死体がドアを叩く。ドアが徐々に歪み、異常に増強された技術職員の容姿が垣間見える。>

ディクソン博士: 見ての通り、対立は時に不本意な応酬を生む。それは時に自分の身を滅ぼすような攻撃となって、全てを破壊し尽くすまで停止することを拒み続ける。皆は対立のために苦悩し、時に人々はそれを認識していない。

<ドアが半壊する。ディクソン博士は放送設備を操作し、それを再起動する。>

ディクソン博士: それが唯一の突破口だ。お前は奴らが如何に苦しめられているかを客観的に理解している。お前は全てに対して伝達することができる。恐怖の根源を克服できる。

<ドアが破壊される。高周波音が放送により拡散され始める。>

ディクソン博士: お前は誰にも邪魔できないってことを知らせてやるんだ。

<強力な高周波音。翻訳ファイルは、以下の文言を示している。>

跪け。我は汝らの主による遣いである。新世代の者どもよ、我が声の前に平伏せ。

不必要な応酬を収めよ。剣を掲げる理由はない。

我等は彼らを知らなければならない。我等は故に主張しない。

保障されし未来の前に撤退せよ。さもなくば自害せよ。

ここは我等の世界ではない。共に征く人々の世界であるが故なのだ。

古き主の権威に基づき命令する。立ち去れ。

<続く20秒間で、エリア-58内部に40k-60kHzの高周波音が反響し続ける。音は増幅し続け、相互に共鳴している。即座に、エリア-58内部を闊歩していた被影響実体が無力化され、インシデントが収束する。>

«転写終了»

補遺終了

補遺3555-JP.XII: 事態収束の宣言

Bedrock_Enders.jpg

B・エンダース、事件後調査監督員。

2040年5月4日、全てのSCP-3555-JP関連インシデントは完全に収束しました。この事件は、CIV-F2X7に従来より存在すると想定されていた宇宙文明の攻撃によって開始され、最終的には両文明間の不可侵条約を締結した上で終結しました。CIV-F2X7文明は、フロントライン財団に対する新たな大使の派遣と復興に伴う人的資源の派遣を約束し、これが2040年8月末までに到着すると宣言しました。

事件後、フロントライン財団は外宇宙文明との接触手段に関する新たな規定を設け、これを遡及適用しました。また、穿天雷計画に精通する1名の職員 (ベッドロック・エンダース) は本事件の事件後調査監督員として任命されました。別件で、同氏はCIV-F2X7文明に対する財団側の大使として候補され、近日のCIV-F2X7文明の来訪に向けた準備を進めています。


ラス・ディクソン博士は事件後のC-33/u開放セクターで負傷状態で発見され、その後の治療により一命をとりとめました。CIV-F2X7文明に対するコミュニケーションは、当初のインシデントにおいてディクソン博士により実行され、その後の翻訳プログラムの改善によって洗練されました。現時点でコミュニケーションは円滑に進められています。その後、任期を満了したラス・ディクソン博士はプロジェクトから離脱し、1年以内にフロントライン財団を辞職しました。

プロジェクト関係者各位へ。

今回の事件の因縁は、全て私の個人的な野心に起因すると言っても過言ではありません。個人同士の対立は、時に不相応な応酬を生んでしまうことがあります。私は選択を誤りました。そして、不必要な因果を生み出したのです。

辞職の必要性に迫られているわけではありません。私はあなた達にもう一度謝りたいと思っていますし、顔を見たいものです。ですが、それ以上に私はもう間違えたくないのです。既に道は切り拓かれており、それを進むのは新しい世代だけで十分なのです。

そして、90年前の過ちを克服した今、自由な環境の中で生きることを選択したいのです。

— ラス・ディクソン、エリア-58 天文現象調査部門 元職員

記憶処理の免除、特別手当など、彼に対する特例の措置は、エンダース博士の申請に続いて例外的に受理されました。2040年9月15日現在、ラス・ディクソンはフロントライン管理外のネクサス領域に在住しています。その地において、彼は新たな生活を送り始めました。

補遺終了

注: 以下の付属ファイルは、一時また永続的監督者クリアランスの権限においてのみ閲覧可能です。アカウントの有効性が確認されたため、ファイルは既に開かれています。

どうも。ファイルの更新作業と部分的手続きが完了したため、ご報告いたします、O5-1。SCP-3555-JPの全ての構成要素は明確に再分類されており、ラス・ディクソン博士の分類解除手続きも終了済みです。8月までの期間中に、来たる訪問者への対応を済ませておきましょう。

そして、個人的な追伸が長くなり申し訳ありません。まずは寛大な対応をいただいたことについて、感謝申し上げます。私の同僚はネクサスへの在住を許可され、余生をそこで過ごしています。このような特例が認められたのも、この時代の変遷の賜物であると言っても過言ではありません。改めて、ありがとうございます。

あれから、かなり時間が経ったと思います。エリア-58は復興し、以前の戦災は見る影もなく解消されました。ほとんど全てが元通りになったと思います。少しばかりの人員を除いてね。ラス博士や彼の同僚は皆、引退や辞職の傾向にあります。長年にわたって張り詰めていた緊張が解れたのですからね、そのままにしておくのがいいでしょう。アノマリーの汚染影響も、劇的ではないものの改善されているように感じます。四半期が終わるまでに、ここでの業務はすべて終わらせられるよう努力します。

ラス博士に言いたいことは山ほどありますよ、ええ。ですが彼の決断を尊重して、彼には会わないことにしています。彼の体調が気がかりですがね。— 知人の伝手で聞いた話では、彼の健康状態は決して良いものではないらしいのです。先月の心不全の影響もあり、事件からの解放後は、決して全てが上手くいっているわけではありません。

ただ…それでいいのだと思います。彼がここに再び戻ってこないのは、彼が現状に満足している何よりの証拠であるとは思いませんか?彼は過去を清算して、残りの時間を自由に過ごすことを決断しました。そのような決意こそ、時代変遷の在り方ではないでしょうか。私は、彼の決断を尊重したいです。

延命され、朽ち行くのみだった彼の死に際に、新たな道が開けたように思えます。…私は彼と同じ道には行けません。だからこそ、ここでお別れなのでしょう。もし彼に会ったら、彼の親愛なる同僚は元気だと伝えてください — それで充分です。

さあ、我々にはまだやる事があります。良い一日を。

— ベッドロック・エンダース、エリア-58・部門横断チーム

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