アイテム番号: SCP-3567-JP
収容クラス: Euclid
特別収容手順: SCP-3567-JPを記録したデータはサイト-77の映像保管庫に収容されます。SCP-3567-JP視聴中の睡眠は禁止されます。専用のWebクローラーによって発見されたインターネット上のSCP-3567-JPは、カバーストーリー「個人の申し立てによる削除」を適用して削除されます。
説明: SCP-3567-JPは同一の異常性を有する動画群です。SCP-3567-JPは撮影場所や人物が部分的に共通する点があるため、一本の映像作品から切り抜かれたものであると推測されています。SCP-3567-JPを視聴中に睡眠状態に入った人物は特定の明晰夢を見ます。
明晰夢は小規模なシアターで隣にアジア系の男性が座っているところから始まります。男性は対象者に対して非常に攻撃的であり、暴言および暴力を対象者に振るいます。また次第にシアター内の照明の明滅、スクリーンへの映像の投影などの現象が発生し始めます。男性からの攻撃が終わってからしばらく経過すると対象者は覚醒します。
SCP-3567-JPは英語圏のオカルト系コミュニティで「謎の東洋人の夢を見られる動画」として話題とされていました。財団が捕捉した時点で転載を含むと、インターネット上には57件のSCP-3567-JPがアップロードされていました。以下はAgt.イングリスによる夢の報告記録です。Agt.イングリスは記憶力に長けており、夢の内容を高精度で覚えることが可能なために本調査に抜擢されました。
標準夢報告3567-JP-1
[Agt.イングリスは周囲を見渡す。小さめの劇場で木製の椅子が縦横6席ずつ並んでいる。蛍光灯は全体の半分ほどが点灯しており、若干薄暗い。イングリスの横にはアジア系の若い男性が座り、強く睨み付けている。]
Agt.イングリス: やあどうも、私はイングリス。今日はあなたとお話がしたく
[イングリスが話し終わる前に男性は怒鳴りながら殴りかかる。その動きから訓練などは受けていない感情任せの暴力であると推察される。イングリスは攻撃を避けながら対話を試みる。]
Agt.イングリス: 待って!私はお話がしたいだけなんです!
[男性の攻撃は止まらず、狭いところで動き辛くなっていたイングリスは3発殴られる。]
Agt.イングリス: 痛っ!ああもう埒が明かないったらありゃしない。ちょっと大人しくしてもらいますよ!
[イングリスは男性に飛びかかり両腕を抑え、そのまま床に倒す。男性は蹴ろうとするがイングリスが馬乗りになっているために思うようには届かない。]
Agt.イングリス: 手荒くしてごめんなさいねえ。でもあなたが先に手を出したんだから言いっこ無しですよ。さあ、話を聞かせてもら……何?
[突然劇場内の証明が激しく点滅し、スクリーンに激怒している男性1の映像が映し出される。また観客用出入口から男性と同一の容姿をした人型実体が多数出現し、イングリスに向かって動き出す。]
Agt.イングリス: え、やばいやばいやばい。
[大量の男性に腕を捕まれそうになるところをイングリスはすんでのところで避ける。状況の打開を目論んでステージ側の出入口に向かう。しかし鍵がかかっている上に木製のような見た目に反して異常に固く、破壊もままならない。破壊に手間取っている隙に大量の男性に背後を取られ、イングリスは羽交い締めにされる。]
Agt.イングリス: あークソっ!離せ!
[イングリスは拘束を解こうとするも、次から次へと別の男性から抑えつけられるために振りほどけない。しばらくすると男性たちがイングリスの前の空間を空けて、そこに一人の男性が向かってイングリスと相対する。]
Agt.イングリス: もしかして、あなたが最初の一人?じゃあ改めてお話してくれるってこと?
[前の男性はイングリスの顔を思い切り殴り、イングリスはその衝撃で気絶する。]
松木蘭次氏
補遺3567-JP-A: 異常芸術部門の調査によって、SCP-3567-JPが1977年に映像作家である松木蘭次氏制作の恋愛映画「雨が止むその時まで」であることが判明しました。当該映画は神奈川県内の一部映画館でのみ上映され、数少ない視聴者の感想においてもおおむね芳しくない評価であることが確認されています。
松木氏は2025年現在では横浜市在住で、慢性的な睡眠障害により通院中です。Agt.イングリスを含むSCP-3567-JP暴露者は、夢の中の男性の容姿と若い頃の松木氏が類似していると証言しています。以下は松木氏に対するインタビュー記録です。
インタビュー記録3567-JP-5
対象: 松木蘭次氏
インタビュアー: Agt.礼田
<記録開始>
[松木氏にSCP-3567-JPの概要を説明する。]
Agt.礼田: ということで、これらの現象と松木さんに関係があると思い、お話を聞かせていただきたいのですが。まずこれを引き起こしているのは松木さん、ということでしょうか。
松木氏: 俺じゃねえ!と言いたいところだが、そうとは言い切れないのがな。だから尚の事腹が立ってんだこっちはさあ。
Agt.礼田: この事態は松木さんの想定外ということでしょうか。詳しくお聞かせください。
松木氏: 確かに、映画を見てる時に寝たら、俺の夢を見るようにしたのは俺だ。
Agt.礼田: それは一体どうしてですか。
松木氏: 映画を見てる時に寝るって、大体どうしてか分かるか?
Agt.礼田: えと、まあその映画がつまらなかったからとか、退屈だったとかですかね。
松木氏: そうだ。その映画がつまらなかったから寝た。だったらその寝てる間にどうしてつまらなかったかを聞ければ参考になるだろうと思ったんだよ。思ったっていうか、そういうことが出来るぞと言われたんだが。
Agt.礼田: その言ったのはどなたでしょうか。
松木氏: えー確か……オネイロイなんとかってやつだった気がする。なんかうちに営業かけてきて、この夢見るように仕組んだのもソイツらなんだ。そんなこと俺にできっこ無いからな。
それでいざ上映が始まってから分かっ
[松木氏が突然眠り始め、3分後に覚醒する。]
あークソっどこまで話したっけか。
Agt.礼田: 上映が始まったところです。
松木氏: それで上映開始してから何人かからの感想は聞けた。聞けたんだが、正直途中で寝るような奴の感想なんてたかがしれててな、なんの参考にもならなかった。なんもだ本当に。一応次の映画作るときもオネイロイの営業が来たが、もういいって断った、そいつらとはそれきりだ。
Agt.礼田: なるほど、ありがとうございます。ちなみにそのオネイロイに今連絡することは出来ますか?
松木氏: 出来ねえよ、連絡先は受け取ったがもう書いたもんもどこにあるか分かんねえよ。何十年も前だぞ。
Agt.礼田: 分かりました、それでは最近の松木さんについてお聞かせください、あの環境は感想を聞くにはいささか厳しいとは思うのですが。
松木氏: 別に最初からあんなめちゃくちゃだったわけじゃない。もっと大人しくて、ただ劇場で話を聞くってだけのやつだったんだ。この夢ってのは誰かが眠ると俺も眠って、一つの夢を同時に見ることになるんだよ。だから上映時間は夜だけにしてもらってたし、上映が終わればもう夢を俺が見ることもなかった。
でも最近になってまた、しかも今度は昼夜関係無しに突然眠ってこの夢を見るようになった。本当にひどい時は1日の半分くらいは寝てた時もあったわ。12時間連続じゃないぞ、5分寝て5分起きるをずっと繰り返すんだ。地獄のような日だったよ。そんなことが続いてく内に段々と気が立っていって、夢を見た瞬間にそいつを叩きのめそうってなったんだ。そしたら段々と内容も過激になってな、俺の怒りがまんま出てるようだよあれは。
Agt.礼田: ご自身で夢の内容を変えることが出来るのですか?
松木氏: 別に自覚あってやってたわけじゃねえ。まあでもそうだな。こうしてやりたいってのは割と自由は利いてるかもしれん。
Agt.礼田: 分かりました、ありがとうございます。
<記録終了>
補遺3567-JP-B: SCP-3567-JPによる明晰夢の内容の変化が確認されました。変化後の夢の内容はおおむね座席に座らされた状態で特定の映像を見せられるというものです。映像の終了まで座席から立ち上がることは出来ず、また視聴中には老年期の男性の声のナレーションが流されます。映像の内容はジャパニーズホラーの要素が見られる複数の動画が連続で流れるトレーラー風のもので、最後には黒い背景に「2026/1/30 ROADSHOW」と表示されます。
この変化を受けて各コミュニティでは興ざめしたなどの意見が目立つようになり、明晰夢を見ようとする文化は急速に衰えました。これはSCP-3567-JPを視聴していたコミュニティが真剣にオカルトと向き合うことをメインとしており、一般的なインターネットミームと比べて茶化す方向に行きづらかったことが理由と考えられています。以下は変化の内容に関する松木氏へのインタビュー記録です。
インタビュー記録3567-JP-8
対象: 松木蘭次氏
インタビュアー: Agt.礼田
<記録開始>
Agt.礼田: お久しぶりです。今度は夢の内容の変化についてお聞きした
松木氏: 変化もどうもこうもないわ!最近めっきり俺もあの夢を見なくなったぞ!どういうことだこれは!
Agt.礼田: どうもというと、夢を見ようとする方が減ってるということですね。松木さんにとっては喜ばしいことではないでしょうか。
松木氏: そ、それはそうなんだが……だからそんなに俺の映画を見ている奴が多いなら、せっかくなら次回作の宣伝をしてやろうと思ったんだよ。だから今は夢を見ようとする奴が多い方がいいんだよ!だのにそうした瞬間減るったあどういうことだって話だ。
Agt.礼田: ああ、やはりあの変化は松木さん自身でやられていたのですね。
松木氏: もう少し自分の思った通りに出来るんじゃないかと思ってやってみて、出来たと思ったらこれだよまったく。俺の映画が外国で再評価されてるんじゃないのか。
Agt.礼田: あー……非常に言いづらいんですが、夢を見ようとしていた方は映画を見て寝てしまった、ではなく夢の方を見るために映画の途中で寝た、というのがほとんどだと思います。
松木氏: ……は?なんだそれは。
Agt.礼田: 不思議な夢を見ることが目的だったので、それが露骨に宣伝っぽくなったせいでシラけてしまった……ということ、です。
松木氏: ……。
Agt.礼田: あ、あの松木さん?
松木氏: あーあーなんだよったく。もういい帰れ帰れ、お前に話すことなんかねえよ。
Agt.礼田: はい、その
松木氏: 帰れってんだバカ!
Agt.礼田: は、はい失礼します。
<記録終了>
その後の経過観察で、インターネット上でのSCP-3567-JPに関する話題の消失と、松木氏の健康状態の改善が確認されました。









