2015/08/13
抜け出すことはできない。僕たちの中の誰にも。でも僕は自分のカメラを持っている。時々写真を撮ろう。ここで起きていることを知って、これがただの悪い夢じゃないことを確かめるんだ。
2015/10/06
トリスタンが数年前のことを話してくれた。彼は11才からここにいる。一時期、彼、アレクシス、リーの3人しかここにいなかったことがある。彼は3人でケイトの家の庭にあった古びた赤いワゴンで通りを下っていたことを話してくれた。ある日、リーがサビで身体を切ってしまった時にそろそろ止める頃合いだと思い、花壇として再利用したんだとか。今はすっかり枯れてしまったが、まだ綺麗だ。
彼にどうして誰も境界を越えなかったのか聞いた。何度か行こうとしたが、空気が違うというか、おかしいというか、そこに居ちゃいけないように感じたから、殆どすぐに戻ってきた、と彼は答えた。彼が言うには、少し前にとても勇敢なダイロンという子供がいて、境界を越えてからは誰も彼を見ていないらしい。
恐怖以外に引き留めるものはないかも聞いてみた。ない、ただ、止めるものが何もないとしても、食料が無くなるまでだけどな、と彼は言った。
馬鹿げてる。
2016/04/24
動物は通過できるんだな。この間、コマドリを眺めていたら境界を越えたところでいったん消えて、もう一度境界を越えて戻って来たらまた現れた。
とても大きな進歩だと思い、トリスタンに伝えたけど彼はもう知っていると言った。食料の肉を入手する方法だと。ライフルと弾薬を持って屋根の上で待ち、一発で仕留める。彼曰く、リーは最高の狙撃手なのだそうだ。
それで外と連絡は取れないかと聞くと、彼は却下した(マジか)。数年前、助けを求める手紙を出したことがある。一向に返事がないから諦めたと。
もっと色んなものを送ってみよう。猫を1匹捕まえて、首にメッセージを結ぶのはどうかなってマーシャルに話した。救難信号だ。外の誰かがどうするかわからないけど、全く何もしないよりは良い。
2016/07/10
来た時にグレーのズボンを履いていてよかった。何事もないように棘をはじく。緑のシャツはとてもいいが、ここに来てから大分汚くなってしまった。まあ、毎日着てるわけじゃないけど、今でも良く思い出させるものになっている。
痩せてもきている。自分の食べ物の分を農業することは、食事の優先順位を考え直させることになる、っていうことがいつも議題になっていた。髪は顔に似合わないくらい短いが、誰が気にするだろうか。皆酷い見た目だ。それが仲間意識になっている。
死について考え続けている。それはとても、とても簡単なことだろう。"下"にいるヤツが持っていないから、僕らは倉庫にライフル数丁と弾薬の箱を持っている。僕はそれが公務みたいにも感じる。数年に一度、自発的に誰かが大物に食らいつき、数週間かけて美味しく食べ、残りで冬まで持つジャーキーを作る。
吐き気を催すべきところだけど、僕はそう感じない。ただ空腹を感じているだけだ。もしも、彼が僕を追求していると僕が思ったなら、僕は許してほしいと願うだろう。
2017/04/21
今日はモリーを埋めた。
彼女は、ジョンの屋根の上で雨漏りの修理をしていた。倒れて、彼女の脛骨が小枝みたいに半分に折れて、骨が皮膚や色んなものを突き破っていた。アレクシスはとても簡単に治ると言っていたけど、彼女は何か汚いものを何処かに入れてしまったに違いない。2日後の夜、彼女は叫び声で皆を起こしたからだ。明らかに熱があったし、立ち上がることができないようだった。アレクシスは恐らく骨折が原因で感染したのだろうと言った。敗血症ショックの疑いがあった。僕らには抗生物質なんてなかった。
その夜、キッチンでミーティングをした。アレクシスは彼女の側に居たから出席しなかったが、数日以内に感染症で彼女の内臓がやられてしまっても驚かないと言っていた。僕らが持っているもので治療するか、彼女を悲劇から解放するか選択しなければならなかった。
多数派がルールだ。ケイトは僕の顎を殴った。沢山酷いことを言った。止められなかった。モリーは僕らが彼女を庭に運ぶのを止めなかった。
終わった後の草むらの中に彼女の頭蓋骨の破片を見つけた。ウォーターポンプへ向かい、それを洗った。今、ナイトテーブルの上に置いてある。
彼女は僕らが出発すると決心するとしても、一緒に来てくれるだろう。
2017/11/25
学校の近くには古い建設機械が何台かある。マーシャルと僕は、より挑戦的になるように○×ゲームの新しいルールを考案していた。面白かった。暇を潰すのが難しくなってきた。15人のグループがお互いにできる交流なんて限られてくる。ベオグラードに戻って家族と暮らしたいと思っていても、ここに他の人間がいることに感謝している。
おかしくなったのか?自殺願望を感じなくなった。何が変わったのかわからない。恐らく自殺を自分の人生を破滅させるものじゃなくて、他人の人生を破滅させるものとして捉えるようになったんだろう。僕が死んでも農場で何の役にも立たないだろう?
続けるしかない。
2018/07/12
今日返信が来た。ありがとう神様。
犬たちが南から通りに小走りでやってきた。エマは泣き崩れてしまった。オムニアスという彼女の老いたマスティフに良く似ていたというのが大きな理由だろう。犬たちは、黒くてポケットのある軍用のベストを着ていた。犬たちをじっくり調べると、アメリカ政府関係者を名乗る人物からのメッセージを見つけた。もし誰かいるのなら返事が欲しいと。僕らの状況を説明する手紙を書き、犬を境界に送り返した。
噂はすぐに広まった。ちょっと面白かった。15人全員が何かしらを待って、通りの境界の端で座っていた。10分後、オムニアス2世が水とグラノーラバー、そして必要な物資があれば送れると書かれた手紙を持って戻ってきた。僕らはリストについて意見がまとまり、それを送り返して待機した。火の元となるものを取りに行ったリー以外、その場から誰も動かなかった、1時間も。
しばらくして、僕らが頼んだもの全部と、それに加えて自家製スニッカードードル入りの2ガロンの袋を持って犬が戻ってきた。ジョンが大泣きしていたのを見て、とても満足した。僕もそうだったことを除いて。
2019/01/01
皆元気だ。文字通り精神もね。僕らはこの長い年月の中で初めて新年を祝った。外の皆さんは、小さな民兵を骨抜きにするのには十分な量のお酒を僕らに快く提供してくれた。
今まで皆がこんなに良い雰囲気だったことは、僕がここに来てから、そしてトリスタンの言うことを信じるなら、それより前からも一度もない。僕らは新鮮な食べ物を食べ、新聞を読み、新しい服を着た。はは、全部の家に小さな携帯ヒーターさえも置かれた。1年前に夢にも思わなかった贅沢だ。もしかしたら脱出する方法を見つけて、元の世界に戻れるかもしれない、なんて話もしている。皆を興奮させすぎないようにしているけど、もう大分高まっている。
2019/01/06
結局、アレクシスの計画はそんなに狂ったものでもないと思い始めている。期待しないようにすることが精一杯だ。