SCP-3586-JP-1,-2
アイテム番号: SCP-3586-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-3586-JPは全てハンドルを取り外した状態でサイト-8123の標準収容ロッカーに収容されます。財団の認知しないSCP-3586-JP実体が一般に所有されている事が確認された場合にはSCP-3586-JPと同型の異常性を持たないシーリングスタンプを作成し、実体との交換を行ってください。
説明: SCP-3586-JPは真鍮製で直径3 cmの印章です。シーリングスタンプとして用いた際、SCP-3586-JPによって形成された封蝋は精神影響性を有します。財団はこれまでに3種のSCP-3586-JP(SCP-3586-JP-1, -2, -3に指定)を回収しています。これらは印章の形状ならびに発現させる精神異常性に差異を持ちます。SCP-3586-JPはいずれも"For the special invitation card"と刻字された水晶製のハンドル1が装着された状態で発見されていました。SCP-3586-JPの異常性は印章部分のみに発現しており、ハンドルの部分に異常性はない事が判明しています。
SCP-3586-JP-1は時計を模した印影を有する印章です。印影の刻まれていない裏側には小さく"Friendship"と刻字されています。SCP-3586-JP-1によって形成された封蝋を視認した人間は「SCP-3586-JP-1の使用者は自分に対して『親愛的』な感情を有しており、その感情を込めて印象を押した」といった認識を抱きます。この効果は被影響者が使用者が誰であるかを認識していない場合でも発現することが確認されています。
SCP-3586-JP-1による印影の長期間にわたる繰り返しの視認は使用者に対して強い親愛の情を持たせるという第二の効果を齎します。この効果は視認回数ならびに頻度の上昇によって強化され、返報性の原理によって起きると考えられる効果を上回るようになります。
SCP-3586-JP-1は神奈川県桜花中学校における複数の生徒らによる一名の生徒に対しての異常な振る舞いが報告された事から財団に認知されました。関係者へのインタビューを主とした調査によりSCP-3586-JP-1の存在が明らかとなり、現在の収容状況へと至っています。使用者であった██ ███氏(13)はSCP-3586-JP-1について「誕生日プレゼントとして雑貨屋で両親に購入してもらった」「そのような性質があるとは知らずに使った」と供述しています。関係者らは全て記憶処理を受け、異常性の影響を完全に脱した事が確認されたため解放されました。
██氏がSCP-3586-JPを入手した経路について調査を行った所、当オブジェクトはGOI-012"マーシャル・カーター&ダーク株式会社"の取り扱っていた商品「インビテーション・シーリングスタンプ(3点セット)」が一般社会に流出したものである事が判明しました。雑貨店店舗および店員らに要注意団体との強い関連性は見られず、流出経緯についての詳細な追跡は現在調査中です。また、この商品名からSCP-3586-JP-1と同種の異常存在が少なくとも2点一般社会に流出していると考えられたため、さらなる調査が行われました。その結果、桜花中学校近隣に位置する洋菓子専門店「Catnap」で同種とみられる異常存在が発見されました。
SCP-3586-JP-2は薔薇を模した印影を持つ印章です。印影の刻まれていない裏側には"Love"と刻字されています。SCP-3586-JP-2によって形成された封蝋はSCP-3586-JP-1と同様の効果を齎しますが、SCP-3586-JP-1と比較してその効果はより「愛情」と呼称される傾向を持ちます。2発見当初、SCP-3586-JP-2は洋菓子の装飾に用いるチョコレートの成形に使用されていました。SCP-3586-JP-2によって成型された製菓(商品名「愛」)は近隣において熱狂的な人気を博していました。この人気は局所的なものであったため財団の注意を引かなかったものと考えられています。
財団によるSCP-3586-JP-2と非異常性のシーリングスタンプとの交換は商品の明らかな人気低下をもたらしませんでした。この事から異常性の伝搬および精神影響の残留などの仮説が提唱されましたが、再現実験はいずれも成功していません。また、SCP-3586-JP-2の回収以降に市販されている製菓に異常性は認められませんでした。以下は洋菓子専門店「Catnap」店主██ █氏に対するインタビュー記録の書き起こしです。
音声記録3586-JP-2
対象: ██ █氏
インタビュアー: エージェント・角川
付記: このインタビューはSCP-3586-JP-2の回収から2カ月後の時期に行われました。また、インタビューは「Catnap」への月刊誌の取材に偽装して行われており、このためエージェント・角川は「記者さん」等と呼称されています。
«記録開始»
<重要性が低いため省略>
エージェント・角川: それで、半年前からの新メニューについても聞かせてください。登場からずっと大人気と聞いておりますが。
██ █氏: ああ! 「愛」ですね。あれはずっと人気です。特に最初の方は凄くてね、下手したら怪我人になるんじゃないかって要らない心配したくらい。
エージェント・角川: そんなにだったんですか。
██ █氏: ええ。流石に落ち着いてきたのでほっとしてますよ。人気なのは勿論うれしいんですけど、「愛」以外も自信作なので。
エージェント・角川: ……それはよかった。それにしても、すごい名前ですよね。
██ █氏: ですよね。でも満場一致だったんですよ。
エージェント・角川: 店員さんたちの間で?
██ █氏: ええ。試作品を焼き上げて、その場にいた全員が。これはもう「愛」以外の名前はないなって。
エージェント・角川: 凄まじいですね。
██ █氏: 今にして思えば奇妙な気もしますが、でも今になってもそれ以上の名前は思いつかないな。
エージェント・角川: 今日改めて名前をつけ直したとしてもやっぱり愛ですか?
██ █氏: ええ。むしろ前よりも確信を持ってそう言うかも。
エージェント・角川: どうして?
██ █氏: そりゃあ、最初は私達が言ってるだけでしたからね。でもお客さんがよく愛情を感じるって言ってくれるようになって。いい名前だと。
エージェント・角川: 愛情を感じる、ですか。
██ █氏: ええ。作った人にお礼を言いたい、愛情をこめて作ってくれたんだろうと実感できる、と。たくさんのお客さんが言ってくれましてね、あれは嬉しかった。
エージェント・角川: 奇妙には思いませんでしたか?
██ █氏: まあ、「愛」だけ凄く言われるなあとは思いましたが。でも、名前による第一印象って結構大きいでしょう。
エージェント・角川: それはそうでしょうね。そういう声を受け取ったり、大行列が出来た以外には特に何も?
██ █氏: 何……といいますと?
エージェント・角川: その、つかぬ事を聞くようですが。面倒な事は起きませんでしたか? 「愛」関連で。
██ █氏: うーん、特には。愛が伝わっても伝わらなくても、その後どうするかは私たちも知らないし、当人の自由だし……えっと、そういう話でもなく?
エージェント・角川: その。厄介なお客さんとか出たりはしませんでしたか? 何かを勘違いした感じの……。
██ █氏: ええっと、ああ、その、「愛」を真に受けちゃったストーカーとかって事ですか?
エージェント・角川: はい。
██ █氏: うーん、特には。みんないい歳してるんだから愛って言っても自分宛てでないのはわかるんじゃないですかね?
エージェント・角川: [沈黙]それは、そうですね。変な事聞いちゃいました。
██ █氏: 大体あれ、バイトが交代でポンポン押してるわけですし。そりゃ皆わかってますよ。
エージェント・角川: いいんですか取材中にそんな事言っちゃって。
██ █氏: そうでした。ここオフレコでお願いします。[笑う]
エージェント・角川: [笑う]了解です。最近はブームもだいぶ落ち着いたようですが、やはりまだ人気なようですね。
██ █氏: そうですね。縁起物としてね、家族とか恋人とかの記念日とかにもよく買っていただいてるみたいです。そういうのを見ていると、この名前でよかったなって。
エージェント・角川: なるほど。それは、前から今までずっと?
██ █氏: ずっと増えてる方向ですね。新商品から定番になってきたので。
エージェント・角川: それは良かった。ところで、こちらの商品の一番の特徴ですが、やっぱりチョコレートの薔薇飾りですよね。ハンコみたいに押してるんでしたっけ。
██ █氏: ええ。シーリングスタンプって言って、本当は封筒に封をするためのものらしいんですけど。実物、見てみますか?
エージェント・角川: いいんですか。ぜひ見たいです。
██ █氏: [席を立ち、財団によるSCP-3586-JP-2の模造品を取ってエージェント・角川に渡す]どうぞ。
エージェント・角川: ありがとうございます。こうして見ると案外小さくて普通ですね。[沈黙] "For the special invitation card"……特別な招待状のために、か。
██ █氏: そのフレーズに惹かれて買っちゃったんですがね。実際特別なんだと思います、いろんなお客さんがそう言ってくれて。でも、今にして思えば特別である必要はそんなになかったんじゃないかって気がしますね。
エージェント・角川: 必要がない、といいますと?
██ █氏: ええ。招待状がどれほど特別であっても、逆にそうじゃなくっても……結局、招待に応じるかどうか決めるのは普通の人じゃないかって。踏み出すかどうか決めるのはひとりひとりの人間なんですよ。
エージェント・角川: なるほど?
██ █氏: いや、恰好つけすぎましたかね。この文句に惹かれて「愛」なんて選んじゃった私が言えた筋でもないですが。
エージェント・角川: いえいえ……ん、選んだ、という事は他にもあったのですね?
██ █氏: そうです。"Love"、"Domination"……あと、"Friendship"か。その3つがセットになってましたね、私が見た時には。
エージェント・角川: ドミネーション。
██ █氏: 愛に友情と来て支配ですよ支配。どんな人が買うんでしょうね。
エージェント・角川: そ、そうですね。……そろそろ時間か。色々とお聞かせいただきありがとうございました。
██ █氏: いえいえ、こちらこそ。せっかくですから記者さんも何か見ていかれます?
エージェント・角川: そうですね、では、それ、二つ頂けますか。
«記録終了»
終了報告書: 調査により「Catnap」店員および顧客は完全にSCP-3586-JP-2の精神影響を脱している事が確認されました。SCP-3586-JP-2回収以降における当商品の広い流通は品質および流布された情報による非異常性の心理的影響によるものと結論付けられています。
SCP-3586-JP-3
上記インタビュー内で言及された"Domination"について調査を行った所、性風俗店「平成SM学園」における「支配と隷属の証」と呼称される物品の存在を示唆する偏執的な書き込みがインターネット上に複数なされているのが発見されました。この書き込みの内容からSCP-3586-JP-3の所在が明らかとなり、財団による収容がなされました。
SCP-3586-JP-3は展翅された蝶を模した印影を有する印章です。印影の刻まれていない裏側には小さく"Domination"と刻字され、その異常性はSCP-3586-JP-1,-2と同様の傾向を持ちます。
「平成SM学園」の営業内容および予測されるSCP-3586-JP-3の精神影響の内容から、当オブジェクトによる精神影響は秘匿される傾向を持ち、外部観測による全貌の把握は困難であると予測されました。このため、SCP-3586-JP-3の回収に先んじて「平成SM学園」への潜入および聞き取り調査が実施されました。以下は「平成SM学園」従業員██氏への調査記録の書き起こしです。
調査記録3586-JP-3
対象: ██氏(源氏名)
インタビュアー: エージェント・石崎
付記: この聞き取りは店内に新規顧客を装って入店したエージェント・石崎によって行われたものです。このため本記録内で██氏は「先生」、エージェント・石崎は「ド変態」「劣等生」「マゾ学生」等と呼称されています。
«記録開始»
[エージェント・石崎は案内された部屋で待機しており、██氏が入室する]
██氏: あなたが入学希望者?
エージェント・石崎: あ、はい。受付の方から██さんに案内してもらえと。よろしくお願いいたします。
██氏: 「よろしくお願いします、先生」。
エージェント・石崎: あ……ごめんなさい、先生。
██氏: わかればよろしい。見た所、こういう場所に来るのは初めて? どういう経緯でここに?
エージェント・石崎: はい先生、初めてです。その、支配と隷属の証というのがここにある、というような噂を聞いて。
██氏: ああ、あれ。最近はあれ目当ての客も多くて。見せるだけ見せてあげようか。ついておいで。
エージェント・石崎: [沈黙]
██氏: どうした?
エージェント・石崎: 普通に歩いて大丈夫ですか?
██氏: [沈黙]四つん這いで着いてきたいとか首輪が欲しいって言うんならそうしてもいいけど。自分で考えたら、劣等生。
エージェント・石崎: わかりました、先生。
[両名は廊下を立って歩く。店内の内装に特筆すべき点は見受けられない]
██氏: これが証ってやつ。綺麗なものだろう。
[██氏はガラスケース内に展示されたSCP-3586-JP-3を示す]
エージェント・石崎: そうですね、汚れも全然ないし。一体どうやって使うのですか?
██氏: どう、とは?
エージェント・石崎: 手紙の封蝋に使うものでしょう。ここに飾るようなものではないと思うのですが。
██氏: これで何をすると思う? 何をされたい、でもいい。答えてごらん、マゾ学生。
エージェント・石崎: [沈黙]
エージェント・石崎: 焼印?
██氏: そ、そう。思ったよりも見込みがあるようだね、ド変態。
エージェント・石崎: ありがとうございます、先生。
██氏: まあ、焼印は残念ながらすぐには無理だけど。そこまでの責任は取れないし。
エージェント・石崎: では、どのように?
██氏: 生徒に蝋を垂らす事があるからその時についでにハンコでも押そうって事になって。
エージェント・石崎: なるほど?
██氏: ただ、やってみると盛り上がりはしたんだけどどうにも不評で。隷属感はあるけれど、それが押しつけがましいって皆言うんだ。
エージェント・石崎: 隷属感があるけれど押しつけがましい?
██氏: そう。支配されたいのは確かだけれど自分の意志でやりたかったんだって。
エージェント・石崎: ああ。
██氏: それこそ判を押したみたいに感情を決められたい訳じゃないし、それが出来る訳でもない、って。だからこれは展示だけ。いい子にしてたら押してあげるかもね、とは言うけれど。支配するかどうか決めるのは私たちだし、それを受けるか決めるのは生徒たち。
エージェント・石崎: 面倒くさいマゾもいたものですね。難儀というか。
██氏: 難儀さで言えばあんたも大概でしょう、仕事でもなければこんな所には来ないんですよみたいな顔をして。
エージェント・石崎: [沈黙]何ですって?
██氏: バレてないとでも思った? 取り繕う方向性がね、おかしいんだよ。
エージェント・石崎: ……そうでしたか。
██氏: これでもごめんなさいって叫びながらずっと物欲しそうな顔してる客を何人も相手してるからね。
エージェント・石崎: 流石ですね。
██氏: まあ、そういう訳だ。どこから何をしに来たのかは知らないけれど、隷属の証だなんだと言われてはいるけど、別に怪しい事もやましい事もしていないよ。これでいい?
エージェント・石崎: ええ。今日のところは。
██氏: そう。それじゃあ、始めようか。たしか、体験入学1時間コースだったね。
エージェント・石崎: え、いや、仕事って貴方は知っていて。
██氏: ピン留めでもされたみたいに釘付けになっておいて? ……そうだね、一つ口実をあげようか。興が乗ったら私が何か大事な事を言うかもしれないって。
エージェント・石崎: [沈黙]
██氏:まあ、別に君はここで帰ってもいいし、そうでなくてもいい。招待状が特別でも普通のものでも、答えるかどうかを決めるのは受け取った人間だ。一歩踏み出すのはひとりひとりの生徒たちで、それを踏むのはいつも私たち。
エージェント・石崎: [沈黙]
██氏: 決まったみたいだね。
エージェント・石崎: よろしくお願いいたします、先生。
██氏: よろしい。平成SM学園へようこそ。それじゃあ、特別な授業を始めようか。
«記録終了»
終了報告書: 調査結果を踏まえ、性風俗店「平成SM学園」に展示されていたSCP-3586-JP-3は問題なく非異常性の印章と交換され、回収されました。「平成SM学園」従業員、顧客ならびにエージェント・石崎はSCP-3586-JP-3の精神影響を受けていない事が確認されています。これまでに観測された挙動はすべて非異常性の嗜好によるものと結論付けられています。









