SCP-3595-JP
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発見時のSCP-3595-JP。

アイテム番号: SCP-3595-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-3595-JPはサイト-81CHの標準人型オブジェクト収容チャンバーに収容されます。SCP-3595-JPは食事を必要としないため、給食の必要はありません。

SCP-3595-JPには、本人の希望及び担当者の承認の下、レベル0から2までのサイト内業務を割り当てる事が可能です。典型的にはサイト内の清掃及び事務作業が中心ですが、気象学的な異常オブジェクトの研究助手を務めた経験もあります。SCP-3595-JPは、これらの業務に対する報酬を嗜好品の購入のために使用することを許可されています。1

SCP-3595-JPとの相互作用を行う職員は、担当者から「円滑なコミュニケーションのためのレクチャー」を受講することを推奨されます。

説明: SCP-3595-JPは自身を「台風マン」と称する、頭部の無い人型実体です。本来頭部のある位置には、不明な原理により常に渦を巻く、異常に高密度なエアロゾルが発生しており、これが擬似的な"頭部"を形成しています。正面から見た場合、この擬似頭部は、衛星気象写真における台風の視覚的表現と非常に類似したものとして観察されます。脳、主要な感覚器官、発声器官等の欠如にもかかわらず、SCP-3595-JPは少なくとも完全な視聴覚と十分な知性、日本語および簡単な英語での会話能力を有します。

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サイト中庭の清掃に従事するSCP-3595-JP。自身の異常性を利用し、迅速に落ち葉を除去した。

SCP-3595-JPは自身の周囲のおよそ半径3 mの球状の範囲において、気流を発生させる異常性を有しています。観測下での最大瞬間風速は15 m/s程度ですが、持続することはできません。安定的に連続して発生可能な気流の最大風速は10 m/s程度です。SCP-3595-JPはこの異常性を使い、風船や紙片、羽毛などを空中の一箇所に留めるという遊びを好みます。

SCP-3595-JPは広範な自然科学分野に関する知識を比較的高水準で有し、特に気象学及びその周辺分野に習熟しています2。SCP-3595-JPの有する知識体系の調査は、日本国の教育課程 (あるいはそれに類似したカリキュラム) を少なくとも高等教育水準まで修了していることを示唆します。これらはSCP-3595-JPの起源についての重要な情報源と見做されており、調査が進められています。

SCP-3595-JPの起源は不明ですが、恐らくベースライン現実とは異なる現実に由来すると考えられています。SCP-3595-JPが自身の起源あるいは出自に関する話題においてのみ顕著な虚言癖を有しているため、起源に関する調査は困難です。SCP-3595-JPはこれまでに自らを「台風の国の大使」、「台風一家の次男坊」、「台風のImaginanimal3」などと称しましたが、いずれも後に虚偽であると自ら認めました。SCP-3595-JPが虚偽の内容を話す際には擬似頭部の渦巻きの回転速度が上昇するため、注意深く観察することで識別可能です4。SCP-3595-JPの起源に関する情報は、先述の教育水準に関するもののように、間接的な方法で収集する必要があります。

補遺: インシデント記録 - 2020/5/16

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使用された温度計。

2020/5/16に行われた身体検査の最中、担当研究員がSCP-3595-JPのエアロゾル塊に手を触れると冷たく感じることを発見しました。このことに興味を持った研究員は温度計を用意し、SCP-3595-JPの擬似頭部に近づけました。SCP-3595-JPはそれに気がつくと叫び声を上げ、エアロゾル塊を霧散させました5。3秒程をかけて擬似頭部が再形成された後、SCP-3595-JPは自身が先端恐怖症である旨を打ち明けました。

以下は本件に関するインタビュー記録です。

インタビュー記録


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インタビュー中のSCP-3595-JP。

日付: 2020/5/16

場所: サイト-81CH 収容棟

対象: SCP-3595-JP

インタビュアー: 横山弘研究員 (サイト-81CH 研究・開発部)

前記: インタビューはインシデントの直後に行われました。


[記録開始]

横山研究員: 先ほどはすみませんでした。配慮が至らず。

SCP-3595-JP: いえ、こちらこそ取り乱してしまってすみません。温度計もガラスのよくあるアレかと思ってたんですが、金属の尖ったやつはどうしてもダメでして……

横山研究員: 何かトラウマでも?

SCP-3595-JP: そうですね、昔の話です。当時、頭が竜巻になった女の子と付き合ってたんですが —

[SCP-3595-JPの擬似頭部の回転速度が徐々に上昇する]

横山研究員: ああ、もういいですよ。どうせ嘘でしょう。

SCP-3595-JP: あっ、そ、そうですよね。すぐバレちゃいますよね。 (笑い声) こんな突拍子もない話。

[横山研究員は何か発言しようとするが、躊躇う。彼はペン回しを始める]

横山研究員: (溜息) 出来れば、たまには正直に話していただきたいところなんですがね。

SCP-3595-JP: ああ、その。そうですね……

[SCP-3595-JPは擬似頭部を斜め下へ向ける6。エアロゾル塊が揺らぐのが観察される]

SCP-3595-JP: 言います、正直に。すみません。あの、まず、交際相手がいたのは本当です。

[横山研究員はメモ用紙に書き込む素振りをしつつ、SCP-3595-JPの擬似頭部を観察する。回転速度は平常時と変わらない]

横山研究員: 続けてください。

SCP-3595-JP: はい。その子は普通に頭はついてて、勝ち気で元気のいい子でした。まさに高気圧ガールって感じの、僕みたいな熱帯低気圧には相応しくない素敵な人でした。

横山研究員: その女性との間で何があったのですか?

SCP-3595-JP: あれは二人でデートしていた時のことで、僕たちはレストランに入ったんです7。僕は食事を取らないんですが、彼女は必要ですから。

横山研究員: それで?

SCP-3595-JP: 彼女は自分の食べていたハンバーグをフォークに刺して、僕の方に突き出してきました。「あーん」なんて言いながら。ええ、いつもお冷やだけを手元に置いている僕にも食事を楽しんで欲しかったんでしょう。間違いなく純粋に善意からです。でも……

横山研究員: でも?

[SCP-3595-JPは擬似頭部の中央の空洞を指差す]

SCP-3595-JP: ここはどう見たって目でしょう? 口じゃない!

横山研究員: ああ、「台風の目」と。

SCP-3595-JP: その通りです。

横山研究員: 目に、フォークごとハンバーグを。

SCP-3595-JP: はい。

横山研究員: それは……

[録音上の沈黙]

SCP-3595-JP: 驚いた僕は店を飛び出して、走って、後のことはよく覚えていません。気づいたら知らない街にいて、しばらくしたら財団の人に囲まれてました。

[SCP-3595-JPのエアロゾル塊から、水分が一部凝結して3滴ほどテーブルへ落ちる]

横山研究員: そう落ち込まないでください、台風マンさん。

SCP-3595-JP: いつも口をポカンと開けてる奴とでも思われてたんでしょうかね?

横山研究員: えっ、いや、それは……

SCP-3595-JP: いいんですどうせ、台風と人間は分かり合えない。すみませんね、湿っぽい話をしちゃって。

横山研究員: ええと…… ひとまずインタビューは終了します。

[記録終了]


後記: 思いがけない偶然でしたが、SCP-3595-JPの起源、そして知覚力に関する有力な情報を得たようです。インタビュー後、SCP-3595-JPにはカウンセラーを手配しました。

ペンだって先端恐怖症の者にとっては恐ろしい。SCP-3595-JPには、ペン回しは脅しのように見えていたかもしれない。「円滑なコミュニケーションのためのレクチャー」には、「鋭利なものを見せつけない」旨を追加しておいた。

まさかいないとは思うが、情報を引き出すためにこの知識を活用しようなんて考えを抱いている者がいれば、そのアイデアはすぐに捨てることだ。SCP-3595-JPは日本支部における統合プログラム導入の初期の事例となることを期待されているし、それ以前に倫理ガイドライン上の問題がある。(もちろん台風人間の出身地を知ることが世界終焉シナリオを防ぐようなことがあれば、天秤はそちらに傾くこともあるだろうが)

我々の仕事は、台風と人間が分かり合っている方が (少なくともそう思い、思わせている方が) 何かと円滑だ。彼が吹かせる強風の向けられる先が、警備員ではなく中庭の落ち葉という状況を維持すれば、収容のコストは随分安くなることを覚えておいて欲しい。

サイト-81CH 資産・人事部 部長 黒田 美奈

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