SCP-3600-JP
評価: +59+x
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5/3600-JP LEVEL 5/3600-JP

CLASSIFIED

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Item #: SCP-3600-JP

Object Class: Euclid


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復興祈願花火フェニックス


特別収容プロトコル: SCP-3600-JPの発生は常時監視されます。発生したSCP-3600-JPの観測データはエリア-81T1が集積します。

当該オブジェクトはアノマラスオブジェクトへの再分類が検討されています。

説明: SCP-3600-JPは日本国新潟県長岡市上空でカント計数機1が示すHm値2異常です。SCP-3600-JPの発生には太陽年に沿った法則性があり、5月上旬頃から観測され、8月上旬に消失します。SCP-3600-JPによるHm値低下量は発生時が最も矮小であり、消失までの間は時間経過と共に増加することが判明しています。Hm値が最も低下するタイミングにも法則性が発見されており、長岡市で開催される催事「長岡まつり大花火大会3」の際に最小Hm値が観測されます。

SCP-3600-JPによるHm値低下は0.0000002 Hmから0.0000006 Hm程度の極めて微弱なものであり、実際に現実改変現状を発生させている可能性は低いと推認されます。SCP-3600-JPは異常性規模が矮小であるため、分類をアノマラスオブジェクトに再分類することが検討されています。

SCP-3600-JPは2005年に初めて観測されました。以降毎年観測され続けましたが、2020年から観測実績が途絶えています。2020年/2021年はCOVID-19蔓延を理由に長岡まつり大花火大会が中止されており、前述の要素と併せて、SCP-3600-JPの発生には長岡まつり大花火大会が関連していると評価されています。

付録: SCP-3600-JP起源に関する調査を行った際に記録されたインタビュー記録です。何れも史料価値に乏しく、有力な情報とは評価されませんでした。

インタビュー記録 #3
2021/02/06

付記: インタビュー対象「田平 将(たひら まさる)」は全日本空輸株式会社所属の定期運送用操縦士であり、新潟空港-名古屋空港路線の有資格者である。長岡市上空を日常的に通過している人物であると評価されたため、インタビューが実行された。


≪再生開始≫

インタビュアー: 運航中に不思議なことが起きることはありますか? 

田平: そんなこと言われてもな。都市伝説番組で聞くような「UFOを見た~」とか「大戦中のB-29が飛んでいるのを見た~」ってのは無いよ。

インタビュアー: それほど派手な不思議でなくとも何か無いですかね。計器が妙な動きをするとか、乗客が奇行に走るとか。

[田平が小さく笑う]

田平: お兄さんそういう雑誌の人? 無い無い。無いよ、そういうの。

インタビュアー: 噂話みたいのでも良いので何かありませんかね。

田平: じゃあそうだな。お兄さん、これじゃあ帰れないだろうから、近い話をしてあげようかな。

インタビュアー: 近い話? どのような話でしょうか?

田平: コロナ禍の最初の方、去年の5月から8月ぐらいの話かな。あの時期って客がみんなキャンセルしてさ、いつもガラガラだった訳じゃん。

インタビュアー: 外出自粛で各交通機関は閑散としていましたね。

田平: そうそうそう。んでさ、スチュワーデス達が言うんだよ。客がいないはずなのに、なんか気配を感じるって。

インタビュアー: 気配? 人のですか?

田平: らしいぜ。大勢の人間が居るような気配がするんだとよ。そのうち「声が聞こえた~」だの言いだす奴まで出てきてさ。おいおいおい大丈夫か?って感じよ。

インタビュアー: 心霊現象みたいですね。

田平: それよ、心霊現象だ~って騒いでたよ。挙句、走り回る音も聞こえたとか、猫の鳴き声も聞こえたとか、いやいやいやなんでやねんって感じよ。客だったら猫はいないだろ。

インタビュアー: 興味深い話ですが、俄かには信じがたい話ですね。

田平: 悪いけどこういうレベルの話しか持ってないわ。悪いね。

≪再生終了≫


資料評価: 勘違いの域を出ない話であり、史料価値は認められない。


インタビュー記録 #7
2021/11/08

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松永 秀宣
(孜忽の会 会報より入手)

付記: インタビュー対象「広岡 玉太郎(ひろおか たまたろう)」は長岡市内に住む高齢男性であり、民間団体「孜忽の会(しこつのかい)」の構成員。孜忽の会は長岡市立西中学校の昭和22年度卒業生らによって構成されるグループで、同窓会の主催や地域奉仕活動を主たる活動内容とする非異常性団体である。

孜忽の会には、正常性維持機関「世界オカルト連合」の元職員である「マルク・カナレハス」、本名「松永 秀宣(まつなが ひでのぶ)」が在籍していることが判明したため、調査対象に決定された。現在、松永は脳梗塞の後遺症のため長期に渡り入院しており、コンタクトは困難だった。そのため、孜忽の会会員の中でも比較的健康で応対の明朗な広岡がインタビュー対象に選択された背景がある。また、松永は孜忽の会内で孤立しており、周辺人物への聞き取りによって松永に関する情報の入手には成功していない。


≪再生開始≫

インタビュアー: 孜忽の会は、長岡まつり大花火大会に協賛していますよね。事実で間違いないでしょうか?

広岡: 協賛と言ってもそれほど多く払っている訳ではありませんがね。まぁ、毎年やらせてもらっていますよ。

インタビュアー: 協賛はいつ頃から始めたのでしょうか?

広岡: はい。協賛を始めたのは1995年からになりますね。この年は我々が50歳になる年だったので、それを記念して少額ではありますが協賛しました。それ以降は毎年行っています。と言っても、本格的に協賛を始めたのはもう少し後のことですがね。

インタビュアー: もう少し後? と言いますと?

広岡: 2005年ですね。中越地震4の翌年です。あの地震は我々にとって、その、ショックな出来事でした。地元の町並みが破壊されてしまったのもそうですが、あの地震で我々の仲間から死者が出てしまいましてね。

インタビュアー: なるほど。仲間の死が切っ掛けとなりますと、何か震災に関連する花火プログラムがあったということですかね?

広岡: ええ、そうです。長岡花火財団5は悲しみに暮れる長岡を癒すために、フェニックスと呼ばれる花火を準備していました。その寄付に我々も一枚噛んだ訳です。

インタビュアー: フェニックスについてお聞きしても?

広岡: わかりました。正式名称を「復興祈願花火”フェニックス”」、発射台の数は全部で17門、幅は南北に2 km、国内最大の花火プログラムです。名前の通り、震災からの復興を祈って企画されたものであり、我々も亡き友へ捧げるつもりで協賛した次第です。

インタビュアー: なるほど、そしてそれ以降も協賛を続けていると。

広岡: ええ、そうです。私はフェニックスが好きでしてね。我々の仲間には、天上界の住民になってしまった者たちも少なくありません。あの花火ならそんな仲間たちにも届く、そう思うんですよ。

インタビュアー: 素敵な理由ですね。

広岡: 去年と今年はコロナ禍で残念ながら中止になってしまいました。来年こそは見れると良いんですがね。

≪再生終了≫


資料評価: 孜忽の会による異常な関与は確認できない。SCP-3600-JPが初めて観測された年と、復興祈願花火フェニックスが初めて打ち上げられた年が一致しているため関連が予想されるが、証拠に乏しく断言は出来ない。

このインタビューから2週間後、広岡が急性肺炎で急逝した。追加の情報入手を断念。



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生前の北村 四郎

動議: 2022年6月2日に、長岡市内で死亡済み民間人「北村 四郎(きたむら しろう)」が目撃されました。北村は1958年に発生した火災によって死亡しており、何らかの異常現象が作用した結果出現していると評価されます。

生前の北村は孜忽の会の会員であり、松永や広岡とは同級生に当たります。また、北村の妻「北村 みの(きたむら みの)」は、松永の妻として再婚しています。この再婚は、松永が孜忽の会内で孤立している理由であり、孜忽の会会員の多くは、松永が社会的な道徳観に反する行為をしたと評価しています。ただし、孜忽の会会員たちの松永への評価は事実無根な憶測を加味した評価であり、実態は不明です。

当該事案は、財団協力者により報告されました。孜忽の会に対する調査を実行していたエージェントと情報を共有しており、孜忽の会の構成員を死者含めて全て把握していました。

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北村 四郎 身辺調査抜粋

今回目撃された北村との関連性から、財団は松永及び孜忽の会に対する調査を再開しました。また、姫宮博士により、SCP-3600-JP異常性の再調査が動議されたため、SCP-3600-JPのアノマラスオブジェクト再定義は見送られました。

追記1: 松永及び孜忽の会に対して行われた調査

財団諜報部は一連の調査に於いて下記の要素を報告しています。

  • 北村の行方は明らかになっておらず、消滅した可能性が存在する。
  • 複数のエージェントで監視を継続しているが、松永に目立った動向は無い。世界オカルト連合加盟の正常性維持機関所属諜報員が周辺で確認されており、連行は困難。
  • 北村以外にも少なくとも5体の死者が出現していると思われる。これら死者に孜忽の会との関連性は無く、内1件は1866年に死亡した女性。
  • これまでにも死者が出現していたと可能性を示す複数の証言を入手した。また、死者の出現期間はSCP-3600-JPの発生期間と一致する。また、死者出現の痕跡は、2005年頃から確認できる。
  • 発生しているSCP-3600-JPによるHm値変動は例年通りであり、新たな異常は発生していない。
  • 未確認の情報だが、犬などの死亡した愛玩動物が出現したという証言の獲得に成功している。

報告を受けての研究チームの所感は以下の通りです。

  • 松永の関与実態は不明であり、継続した監視が必要である。
  • SCP-3600-JPは世界オカルト連合にも認知されている可能性がある。
  • 死者の出現は今回が初めてではなく、SCP-3600-JPの発生した2005年時点から発生していた可能性がある。

SCP-3600-JP発生中に死者が出現しているという報告を受け、財団は暫定的に出現した死者を霊素実体と仮定し、SCP-3600-JP-Aに指定する決議を行いましたが、姫宮博士により死者の出現は従来確認されてきた異常な霊現象とは異なる現象であることが主張されました。

SCP-3600-JP-A指定決議
2022/06/25

付記: エリア-81T1で行われた決議内容より抜粋。会議は感染症予防対策として完全リモートで行われた。


≪再生開始≫

姫宮: 出現した死者について、霊素実体としてSCP-3600-JP-Aとすることに反対したいです。件の死者たちは我々が接してきた異常実体とは毛色が異なります。

A: 毛色が異なる、と言うとどう異なるのでしょう?

姫宮: 諜報部の収集した情報を考察すると、あれは人間の幽霊である可能性があります。

[複数の研究員が首をかしげる]

A: 姫宮先生。言っている意味を理解しかねます。俗世間で言われる霊現象とは、人体に宿る21gの霊素と、死に際にアポトーシスで細胞から解き放たれるアントラニル酸が化合することで発生する科学的な現象のことです。人間の幽霊ってことは人間を起源とする霊素実体で間違いないと思います。

B: 今回みたいな死者は幽霊に見れるかもしれないが、それは死の間際に脳内シナプスを転写された霊素が幽霊のように振舞っているにすぎない。つまり特定の宗教観における霊魂のように振舞っているが、実際は霊でも何でもない、ただの現象だ。今回の件も霊素が原因の可能性が高いのでは?

姫宮: もちろん霊素については理解しています。私が主張したいのは、今回出現した霊、霊素現象では無く本物の幽霊、或いは全く新たな分類の異常現象なのではないか、ということです。

A: うーん。一応、根拠をお聞きしてもよろしいですかね。

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ダンカン・マクドゥーガル

姫宮: はい、まず1点目、死によって霊素の放出が発生しないはずの犬の霊の出現が示唆されている点です。ダンカン・マクドゥーガル6が20世紀初頭に行った実験7で、犬からは霊素が放出されない8ことが明らかになっています。この要素は当該事案が霊素現象では無いことを示していると考えます。

A: 反論します。犬から自然に霊素が放出されることは確かにありませんが、人間の霊素が作用して取り出される事案は今までも複数報告されており、十分発生しうる現象です。それにSCP-3600-JP異常性が犬の霊素を取り出すような要素をもっている可能性だってあります。その根拠は霊素現象を否定するに至らないと考えます。

C: そもそも、その犬の霊について諜報部は「未確認である」と報告していますよ。

姫宮: では、続いて2点目です。1866年に死亡している女性の霊が出現したという報告の存在です。霊素が150年以上滞留し続けるのは不自然です。霊素がそれほどに滞留するならば、今頃地上は霊素でできた異常実体で埋め尽くされてしまいます。

A: 何度も途中で割って入って申し訳ないですが、これも反論させていただきます。霊素単体での滞留期間はそれほど長くないとされていますが、金属などの触媒を介すことで霊素は半永久的に滞留することが明らかになっています。SCP-3600-JPが触媒になるものを励起させている可能性もあるため、SCP-3600-JPの全容が分からない以上否定できません。

B: そもそも、霊素が滞留したら地上が霊だらけになるっていう理屈が正しいとして、本物の霊だった場合はもっと大量の霊が地上を覆いつくすのではないかね?

姫宮: 本物の幽霊ならではの特性が存在する可能性を考慮する必要があります。

B: そうは言うがねぇ。うーむ。

姫宮: 本物の幽霊だと思う根拠はまだあります。今回、諜報班は死者の確保に成功していないだけではなく、発見も出来ていません。霊素実体の捜索にはハルトマン霊体撮影機9が用いられているにも関わずです。ハルトマン霊体撮影機は霊素の放つ青色の不可視光を検出する物、であるならば出現している死者たちはやはり霊素を起源としていないのではないでしょうか。

A: それは、まぁ、確かに。

C: と言っても、確認できた出現の痕跡はとりあえず5件。調査期間も短い。長期的な捜索で成果がでる可能性はあるかと。

[議論が停滞する]

B: 姫宮君。霊素実体を否定する根拠はある程度理解できた。最後に示した根拠は、僅かではあるが精査する価値を感じる。ところで、オントキネティック10による異常実体である可能性は考えないのかね? 

姫宮: 現実改変ですか?

B: そうだ。幽霊と言うのはあまりに概念的すぎる。そもそも死後の世界という考え方自体、抽象的思考の結果だろう。抽象的思考は我々ホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシス11、そしてホモ・ナレディ12といった人類種のみが持つ進化の産物だ。高度に発達した脳は空想で死を考察し、その結果導き出された答えが死後の世界、つまり死後の世界や幽霊という概念は人工物だということだ。

姫宮: つまり、そんな人工的なものなのだから、生きている人間が出現に関与しているだろうってことですね。そしてそれを最も直接的に行う方法が現実改変であると。

B: うむ。改めて聞くが、姫宮君は現実改変による異常実体である可能性についてどう思うんだね?

姫宮: ええ、観測されるヒューム値から、考えにくいと思っています。何より、現実改変だったとして生成される人物に一貫性が無く、特定個人が現実改変で死者に似た実体を作り出しているとは考えにくいです。

C: 私も現実改変の線は薄いと思っています。ヒューム値の低下は現実改変者が干渉した際のような大幅な下落ではなく、この数値での現実改変は困難だと断言できます。

姫宮: とはいえ、示されるヒューム値に異常があるのは事実です。これについても原因があるはずです。

A: [小笑] 何やら予想がついているような言い方ですね。

姫宮: ええ。ヒューム値とは、現実世界を構成する法則、即ち超弦理論になぞられる物理法則がどれくらい履行されているかを示す値です。示される数値が1、即ち百分率における100%ならば、完璧に物理法則が履行されている状態、つまりは現実であると言えるわけです。

A: ええ、そうですね。

姫宮: カント計数機は、履行されている法則を計算することでヒューム値を算出する物です。そして、今回の死者の出現が未知の異常法則によるものだとしたら、その分の法則が計算に組み込まれていないため示されるヒューム値に異常が生じるわけです。

≪再生終了≫

上記決議により、財団はSCP-3600-JP-Aの分類を一時的に見送り、更なる情報収集の継続を決定しました。

追記2: 北村の出現

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松永の入院していた市民医療センター

松永の病室に北村が出現するイベントが発生しました。室内の様子は財団エージェントにより監視されており、松永と北村の会話を記録しました。また、同じく室内を監視していた世界オカルト連合加盟正常性維持機関のエージェントが室内に突入し、北村の確保を試みました。結果として確保に成功せず、北村は再度消失しました。財団はこのイベントで複数の情報資料に獲得しています。

また、財団はこのイベントにて松永の確保に成功しています。松永は財団に対し協力的であり、財団による確保は松永の希望によるものです。

定点撮影記録 松永 秀宣#48
2022/07/13

付記: 設置された定点カメラによる撮影記録。カメラ保守と現地待機職員はエージェント・時任。北村の出現に際しては前触れと評価できる現象は発生せず、瞬時に出現した。


≪再生開始≫

[松永がベットに横になっている]

[北村が松永のベットの脇に出現]

松永: おお、これはなんだ。お迎えか、俺は当分死なないと思っていたんだが。

北村: 違ぇさ。ただお前に会いに来たんだよ。

松永: どういう [しばらく無言] ああ、だから連中が。

北村: 思ったより元気そうだな。ずっと入院してるって聞いたから死にかけてるのかと思ったよ。

[松永は北村の発言に返事をせず、天井を仰ぐ]

松永: お前の倅、智也のことだが──

北村: ああ、いいんだ。仕方がない事故だ。アイツは俺のマヌケな所を受け継いでしまったんだな。

[松永が上体を起こし、北村の顔を凝視する]

松永: 智也が死んだのを知っているのか。

北村: ああ。随分前のことだしな。

[松永が何かを考える仕草を見せる]

北村: そういや、みのが死んだな。

[松永が正面を向きなおす]

松永: 本当にすまない。

[北村が笑う]

北村: 何がだよ。83まで生きたら上等だろ。俺なんか、ほら、23だぞ。

松永: 俺がこのザマじゃなければもっと長生きできたんだ。それにそれだけじゃない。

北村: ん?

松永: みのが死んでるのを見つけたのは聡だったんだ。まだ7歳だった聡にはショックだっただろう。母親は離婚、ジジイは使い物にならねぇ。聡からしたらみのは唯一頼れる身内、想像するだけで心が痛む。俺が居てやれれば──

北村: そう思い詰めるな。それも仕方がないことだ。お前はよくやってくれてるよ。

[北村が窓辺に移動する]

北村: まぁ、智也とみののことはもう大丈夫だ。コッチでよろしくやってるよ。今まで長い間世話を掛けた。お前に頼んでよかったよ。本当にありがとう。

松永: まだ聡が居る。まだ終わってない。と言っても家政婦を付けてやるぐらいしか今はできないが。……ところで、"コッチ"ってなんだ?

[北村は窓の外を眺めている。北村に松永の質問に答える様子はない]

北村: 今年はあるのかな。

松永: 何がだ。

北村: 花火だよ。もう去年も一昨年もやってないだろ。皆楽しみにしてるんだぞ。

松永: ああ、それか。今年はやるぞ。もう協賛を済ませているしな。

[北村が松永のベットに近づく]

北村: 本当か?

松永: ああ、3年ぶりだ。関係者は張り切ってる。

北村: そうかそうか、皆楽しみにしているんだ。玉ちゃん13もコッチに来たし、みのもコッチに来てからは初めてだしな。

松永: なんだ、広岡の爺さん死んでたのか。知らなかった。

北村: お前が知らないのかよ。

松永: 俺はどっかの誰かを寝取ったって、会では鼻つまみ者なんだよ。……しかし、皆死んじまうな。俺を含めてあと何人だ。

[北村が松永の足元の方へ移動する。北村は松永への返答を考えているように見える]

松永: まぁ、花火がお前らに届いているなら、それは良かった。

北村: ああ、皆フェニックスが好きだ。……これからも末永くよろしくな。

松永 フェニックス名指しか。天地人14とか米百俵15はどうなんだ? なんやかんや俺たちはアッチにも少し金を出してるぞ。

北村: あー、いや、それがな。そっちはよく──16

[室内に世界オカルト連合加盟正常性維持機関の武装隊が4名突入する。この時点でGNDユニット17とメトカーフ非実体反射力場発生装置18が起動されていたことが後の調査で明らかになっている]

松永: 待て! お前ら、入ってくるな!

[武装隊員の1名がテーザー銃を発射、電極が北村に着弾する]

[着弾点から黒いタール状の液体が少量飛び散る。液体は飛散して落下する最中にも蒸発しているように見え、床に落ちてすぐに乾燥しているように見える]

[武装隊員の1人が北村に接近する。テーザー銃の電極は何故か北村に突き刺さっておらず、床にずり落ちているが、接近した1名は気付いていない]

北村: よせ。

[北村に接近した武装隊員が北村を制圧するために北村に掴みかかる]

[激しい閃光]

[スプリンクラーが作動]

[北村が消失している。接近した武装隊員は無事であり、消失した北村を探している]

[エージェント・時任が室内に突入]

≪再生終了≫

エージェント・時任により武装隊との調停、及び病院内への情報隠匿が行われました。結果として、松永本人の希望により松永は財団が確保し、武装隊は退却しました。

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提供されたグローブ

松永確保後の病室を調査したところ、北村から飛散した液体の落下地点が僅かに陥没していることが明らかになりました。陥没箇所の表面は溶解や熔融した痕跡が見つからず、消滅したと評価されています。また、映像記録では閃光により撮影されていませんでしたが、北村が武装隊が掴まれた際には同様の液体飛散があったと推測されており、最後に北村が存在した箇所には最も大きな陥没が存在します。

世界オカルト連合は情報資料として、武装隊が装備していたエクトプルーフ素材製19グローブを財団に提供しています。北村を掴んだ右グローブの内側はエクトプルーフ素材が消滅しており、閃光から目を守るために防御に使われた左グローブの手首部分にも同様の消滅が見られます。これは病室の床と同様のプロセスで消滅した推測されます。また、北村に掴みかかった隊員は閃光発生時に高温を感じたことを証言しており、スプリンクラーはこの高温を検知して作動したと思われます。

報告された映像記録や事後調査の結果を、研究チームは以下の通り考察しています。

  • 武装隊が用意した様々な対霊素実体用装備に効果が認められず、出現する死者は明確に霊素実体では無い。
  • 出現する死者は生前の知識を所持しており、自意識を有していると評価できる。
  • 北村は「死後の世界」の存在を示唆している。
  • 北村は長岡まつり大花火大会、中でも復興祈願花火フェニックスに強い関心を寄せている。SCP-3600-JPが初めて観測されたのが復興祈願花火の打ち上げが始まった2005年であることを加味すると、SCP-3600-JP発生には復興祈願花火フェニックスと死者の出現には関連性がある。
  • 飛散した液体は、反物質としての性質を保有していると推測される。反物質であると仮定した場合、即座に乾燥していたのは対消滅により熱エネルギーとして発散されたためと推認できる。北村自体が対消滅したかは定かではない。
  • 出現する死者は反物質としては通常安定しているが、強い衝撃を加えられると構成する物質を飛散させてしまうと思われる。強制的な収容には一定の危険を伴う。
  • 発生する対消滅は、反物質の総量と比較すると小規模である。

今回のインシデントで明らかになった死者の性質は、これまで確認されてきた異常実体とも異なるものであり、収容は困難です。また、SCP-3600-JPは長岡まつり大花火大会終了後の8月上旬に消失するため、出現する死者たちを収容できた場合でもSCP-3600-JP消失に併せて消滅することが予想されます。財団は出現する死者の収容を断念し、SCP-3600-JPの発生原因特定と、出現した死者の効率的な発見方法と終了方法の究明を方針として決定しました。

前述の通り、確保された松永は財団に対し協力的です。以下は松永に対するインタビュー記録です。

インタビュー記録 #133
2021/07/15

付記: 松永は財団及び、SCP-3600-JP異常性の究明に関して協力的である。世界オカルト連合の元職員である松永は異常に関する知識を持つ非異常性人物であり、北村や復興祈願花火フェニックスに関する有力な情報を期待できるためインタビューを実行した。


≪再生開始≫

インタビュアー: まず、何故古巣である世界オカルト連合ではなく財団による確保を望んだか、もう1度教えて頂けますか?

松永: はい。私の個人的な願いに即した理由です。理由は2つです。病室で発現した北村の異常性を見て、北村はとても厄介な異常実体であることが分かりました。あのような実体に対して連合がとる行為は破壊であることが予想できます。財団も同様の選択肢を取る可能性はあるものの、多少は希望が持てると判断しました。早い話、北村と私は友達だから、が1つ目の理由です。

インタビュアー: はい、ありがとうございます。2つ目もどうぞ。

松永: はい。北村がフェニックスに関して強い関心を持っているように感じました。連合の武装集団が病室に突入する間際、北村は他のプログラムでは無くてフェニックスに関心を寄せている理由を述べようとしていました。フェニックスが何らかの異常の引き金だった場合、連合は花火大会を運営不能に追い込むでしょう。こちらも財団が同様の選択肢を取る可能性はあるものの、やはり希望は持てると判断しました。私は長岡花火が好きですから、出来れば存続して欲しいと思っています。

インタビュアー: ありがとうございます。では、インタビューを継続します。異常の専門家としての松永さんにお伺いします。北村と接してどのような実体だと考えるか、その所感をお願いします。

松永: わかりました。私は北村の葬儀にも参加しており、骨壺に骨を収めた人間です。北村の死が間違いないことは私が保証します。ですので、私は北村を霊素実体だと思いました。ですが、結果的に言うとあれは霊素実体ではありません。

インタビュアー: そう思った理由をお聞かせください。

松永: うーん、そうですねぇ。正直な話、私は貴方方が部屋を監視していることに気付いていました。ですので、北村が現れた際、私は北村から多くの情報が引き出せる様に発言を誘導していたのですが、北村の話には生前の知識だけではなく、死後の世界に関する知識が会話に織り交ぜられていました。

インタビュー: 確かに、死後の世界に関する言及が気になりましたね。

松永: そうなんです。現れた北村は死後の世界が存在するような口ぶりでした。死後の世界なんて存在するはずがない。人間の考える死後の世界なんていうのは願望や空想、祈りや幻想と言っても差し支えない。死という未知の領域を制した気分になるための仮定なのです。ですが、北村の語る死後の世界は、我々人間が抽象的思考からはじき出すソレに近いと言えます。死後の世界を空想するのは生きている人間の特権のはず、なのに死者でありながら生者が考えたような死後の世界を語るのはどういうことなのか。

インタビュアー: 北村が実は生きていた、とかならまだ分かりますが、その線はありえませんよね。

松永: タイプグレー20ってことですか? ありえませんね。そして霊素実体でもありません。霊素実体に生前の記憶以外の記憶が宿っていることはまずなく、あそこまで豊かな感情表現をするのは考えにくいです。ならば、あれは霊、または魂とでも呼びましょうか。死後の世界が本当に存在し、そこから舞い降りた北村の魂だと、私はそう思います。あまり専門家の身分でこういうことを言うのは良くないですが、そうだとしか思えません。

インタビュアー: [数秒無言] 分かりました。では続いて、北村と復興祈願花火フェニックスの関連性はどう考えますか?  黒塗りばかりで読みづらいかもしれませんが、こちらは財団による調査記録です。

[インタビュアーが調査記録を松永に手渡す。この調査記録には多量の検閲が施されている]

松永: ……難しいですね。ここ2日間、私も色々考えました。順を追って私の考えをお伝えしたいのですがよろしいですか?

インタビュアー: もちろんです。

松永: まず、これからする話は全て死後の世界が存在する前提での話です。もし北村ら霊達が本当に魂と呼べるものだとしたら、仰々しいプロセス無しで簡単に出現している可能性が高いと思います。あれだけ前触れなく現れて、しかも霊の出現が複数件複数回に渡るのであればそう感じます。北村が私に会いたいと思ったから、私のそばに現れた。これぐらい単純な話なのかも。

インタビュアー: いや、それは流石に……。死後の世界ってことは別の世界ってことですよね。いくら魂でも世界を簡単に踏み越えるなんてできるのでしょうか?

松永: 死後の世界が別の世界というのは思い込みかもしれません。北村は死後の世界でも花火を見る様子でした。貴方の言うように世界を踏み越えるのは簡単なことじゃない。ならば、異なる世界の花火をみることなんてできるはずがない。つまり、我々の生きるこの世界と死後の世界は同じ世界であると考えることができるはずです。

インタビュアー: そういう物ですかね? ちょっと想像できないですね。

松永: そもそも魂自体、別に死んだだけで特別なことはしていません。死んだだけで世界を越えるならばエルマ外教21は葬儀屋を始めているでしょうね。

インタビュアー: なるほど。

松永: ただ、それだけだと地上は幽霊だらけになってしまう。死者の出現が長岡でだけ、しかも時期的なものが関係しているなら、やはり長岡花火、特にフェニックスが原因なのかもしれません。……これは、それこそ空想というか妄想の域かもしれませんが、魂が存在するならば、我々生きている人間にも当然魂があると言えます。

インタビュアー: まぁ、理屈的にはそう言えると思います。

松永: フェニックスを見る人々は、会場放送で復興への願いや死者への追悼といったフェニックスに込められた想いを知ります。ここまでは特に問題ありませんが、打ち上げが始まると、平原綾香の歌声22に載せて、光と爆音で表現される幻想的な光景を目の当たりにします。純粋で悪意の無い想いが視覚的に共有されることで、共同幻想のように広がるでしょう。

松永: そこに生者と死者の差はありません。生者は死者の冥福を祈り、死者は生者の再起を祈る。お互いの魂がお互いを想った時、魂が共鳴し、初めて死者は地上に姿を見せるのではないでしょうか。春先というのも、協賛金の募集がはじまる頃ですから、「もうそうな季節か」とフェニックスを意識する時期とも言えるかもしれないですね。その時点から共鳴は始まっているのかもしれません。

インタビュアー: うーん、ちょっと飛躍している気もします。出現時期が限定される理由の説明が付かないですが、霊の出現には複雑なプロセスが絡んでいて、簡単には出現できないと考えるのがやはり自然ではないですか? 松永さんの論は、なんというか、松永さんの願望が混ざっているように感じます。

松永: まぁ私の妄想です。深く考えないでください。いや、話はもっと単純かもしれませんよ。北村が出たあの液体とその作用、まるで反物質による対消滅でした。死者が反物質として出現するんだったら、私なら滅多に出てこないですよ。生きてる人たちが危ないじゃないですか。どんなことになるか分かったものじゃない。

インタビュアー: [小笑] なんか、それは分かる気がします。

松永: もしあの液体が、宇宙誕生の際に物質と対消滅して消えた反物質だとするならば興味深いですね。死によって空間を超越すると、魂は反物質界に辿りつくのでしょうか。宇宙規模の物質ですから、小さい辺境惑星で何人死のうと宇宙の均衡が乱れるようなことにはならないとは思いますが。

インタビュアー: [苦笑] ……話が逸れましたね。話を戻します。先程、松永さんは生者と死者がお互いを想うと死者が地上に現れると仰ったと思います。だとすると、北村は誰かを想い、誰かに想われていたということになります。その理屈を出してきたということは、そんな人物に何か心辺りがあるのではないですか? それこそ北村さん本人もありえるでしょうか?

松永: 私自身、その自覚があります。義理の息子は孫が生まれてすぐに死に、その嫁とは連絡が付きません。妻と孫が同居していましたが妻も死に、孫の聡が心配でなりませんでした。昔のツテでなんとか保護こそしていますが、自分はこの有様ですから、こんな時北村が居てくれたらと思っていたのは事実です。

インタビュアー: で、あれば松永さんに協力いただければ、北村は再び現れるかもしれませんね。飛躍した論ではありますが、松永さんの論を検証することができるはずです。

松永: さて、それはどうでしょうね。私の所に再び現れることはあるのでしょうか。少なくとも、次に現れる場所は私の傍ではないと思います

インタビュアー: なにか別の心当たりがあるのですか?

松永: ええ、先ほども述べた、孫の聡の元に現れると思います。聡は北村の実の孫にあたる子です。北村には聡の状況を伝えています。ならば、北村は聡の元に現れるはずです。

インタビュアー: なぜですか? 実の孫とはいえ、面識はもちろん無いはずですし、なんだか縁遠い存在に感じてしまうのですが。

松永: [大笑] 説明が難しいな。北村はそういうヤツだから、としか言えませんね。火事の現場から瀕死で運び出された北村は残された家族を案じ、私に家族のその後を託しました。北村と言うのはそういう男なんですよ。友人が現れても情報を引き出すことしか考えない私のような薄情者とは違うんです。ですから、北村は聡を励ますために再び現れるはずです。

インタビュアー: それは北村と友人としての勘って所ですか。

松永: 勘か、いや確信ですらあります。検証のいい機会です。私は北村との再会を願いますから、聡を監視されてみてはどうでしょうか? 私と北村との魂の共鳴をキャリアに、北村は聡の元に向かうはずです。それが確認出来れば、現象の究明に役立つはずです。

≪再生終了≫



姫宮博士所感


松永へのインタビューは有意義なものでした。

松永の指摘通り、死後の世界を想像することは生きている人間だけが行う行動のはずです。死後の世界とは生きている人間にとって都合の良い幻想にすぎません。そんな非現実的なもの、存在するはずがありません。ですが、生きている人間ではない死者自身が、死後の世界の存在を示唆するのだとしたら、死後の世界が本当に存在するのかもしれない、と考える他ないでしょう。

北村が本物の霊であることを研究員たちが認められない理由は、死後の世界というものがあまりに都合が良いからです。北村が示唆した死後の世界は、日本人の宗教観では想像しやすいものであり、特定の宗教観に寄り添った死後の世界が存在するという事実が違和感に感じてしまうのです。

しかし、果たしてこれは本当に違和感を感じるべき事象なのでしょうか。人類種は知能の進化によって抽象的思考を手に入れたと思われていますが、実際は少し違うのかもしれません。人類種は知能の進化によって元来持っていた抽象的思考にブレーキを掛けていると考えることもできます。

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宇宙項

かつてアルベルト・アインシュタインは、完成した一般相対性理論を宇宙に当てはめた場合、宇宙は重力の影響で徐々に縮小することに気付きました。アインシュタインは「神が宇宙を不完全に作るはずがない」という思考を持っていたため、一般相対性理論に宇宙項という根拠に乏しい数式を追加することで安定した宇宙像を作り出しました。後にエドウィン・ハッブルが宇宙の加速度膨張を主張し、一般相対性理論に誤りがあることを指摘すると、アインシュタインは宇宙項を「最大の過ち」として訂正していますが、結果的には宇宙項は間違いではあったとは言えません。現在、宇宙項は宇宙のダークエネルギーを説明できる数式としてΛ-CDMモデルに組み込まれており、宇宙の加速度膨張を説明するために必須のものとなっています。つまり、アインシュタインは抽象的思考で宇宙の未知に辿り着いていながら、知能でそれにフタをしてしまっていたのです。

死後の世界についても同様です。我々は死後の世界を抽象的思考で感じていながらも、知能が論理的で現実的な回答を求めてしまい、結果的に死後の世界を否定してしまうのです。抽象的思考が正しく、死後の世界が存在するならば、当然魂は実在するでしょう。

科学者失格だと言われるかもしれませんが、私は抽象的思考を信じます。ですから、松永が妄想だと謙遜した「死者出現の条件は魂が共鳴すること」「復興祈願花火フェニックスが魂を共鳴させている」という抽象的思考を根拠なしの妄言と切り捨てることはできません。私は検証の価値があると判断します。























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2022年8月3日20時16分 長岡市信濃川左岸



どうだ? 来てよかっただろ?

うん。



どうした、元気がないな。

そんなことない。



……おばあちゃんと見たかったか?

……うん。



そっか。

おばあちゃん好きだったんだな。

うん。



はは、きっとおばあちゃんも天国でこの花火を見てるよ。

そうかな。そうだったら嬉しいな。



でも、このままじゃダメなんだ。



ダメ? なにがだ。

おばあちゃんが死んじゃったのをいい加減に受け入れなきゃ。



おじいちゃんが心配しちゃうから、しっかりしなきゃいけないんだ。



……。

聡は強い子なんだな。

そんなことない。



……いいかい、聡。

おじいちゃんを元気づけるために頑張るのは良いことだ。

うん。



でもそれは聡が後ろを向いちゃ行けないってことじゃない。

どういうこと?



聡が前に進み続ける限り、なにか困難にぶち当たるかもしれない。

そんな時はおばあちゃんを思い出して元気を貰って良いんだよ。

……よくわからないよ。



聡がおばあちゃんを忘れない限り、想い続ける限り、

幻想の中でおばあちゃんはきっと聡の背中を押してくれる。

いつでも会うことができるんだ。

おばあちゃんだけじゃない。きっとお父さんだって、おじいちゃんだって、だから──

おじいちゃんはまだ生きてるよ。



ん? あ、ハハ、ハハハ。

アハハハハ、変なの。



ハハハ。変だな。

ハハハ……



……おばあちゃんのこと、忘れないでいいのかな。



ああ、もちろんだとも。忘れちゃいけない。

でも、1つだけ約束だ。

約束?



死んだ人を大切にするあまり、進むことを止めてはいけない。

死んだ人もそれは望んでいない。

前に進む中で、時々思い出してくれれば、それで良い。

……。



約束できそうか?

……うん。



やっぱり元気がないな?

うん!



ハハハ! やっぱり聡は強い子だ。

……。

おじいちゃんはこれで安心したよ。ありがとうな。

ん? おじいちゃんって──






……あれ?

























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