
SCP-3620-JPによる夢中広告投影プロセスの簡略化図(左)とその実例(右)
アイテム番号: SCP-3620-JP
収容クラス: Archon1
特別収容プロトコル: N/A
説明: SCP-3620-JPは人工的な元型2です。人類全体の夢界空間に作用していることから集合的無意識3内に存在していると推定されますが、その詳細な所在は現在まで判明していません。
SCP-3620-JPの作用は、概念的フラグ付け(手順3620-JPERROR 403 FORBIDDEN: あなたのクリアランスは閲覧基準を満たしていません。に指定)がされた全世界の広告の映像記憶を集積し、それらを睡眠下にある人間の夢界空間に投影するものです。人工的な元型であるためか夢界空間全体への作用はせず、その投影は広告の映像記憶を再生するウィンドウ型の夢界実体をシャドウ4前方に出現させるという形式で行われます。この作用は日常的に類似内容の広告を視聴している人間に対して選択的に行われます。明晰睡眠が可能でない人間にとって夢での経験は忘却されやすいものの、SCP-3620-JPは元型として世界人口約70%に継続的に作用しているため、各夢中広告は1回の投影で最低でも数百人に記憶されるものと推定されます。また、反復的に同内容の夢中広告を閲覧することにより、夢中広告を記憶する人数は増加していきます。
以下は、SCP-3620-JPによって投影されている夢中広告の一例です。
文書記録
分類番号: #13
言語:
- 英語
- スペイン語(機械翻訳と推測される)
- 日本語(機械翻訳と推測される)
- 中国語(機械翻訳と推測される)
- 韓国語(機械翻訳と推測される)
- タイ語(機械翻訳と推測される)
内容: 複数のキャラクターがカートゥーン調で描かれている。50という数字が上部に表示された勇者が、9999という数字が表示された魔王に戦闘を挑み、敗れる。勇者は魔王に崖の下へと突き落とされ、数字が1になる。勇者の前には、2や3、5といった数字が表示された魔物が9体、逆三角形の形で並んでいる。リアルなタッチで描かれた指が現れ、指が2と表示された魔物をタップすると、勇者が魔物に斬りかかり彼の数字が3になる。この段階で、アプリの名称が表示されて広告が終了する。

Ramuned Libertyのアイコン画像
補遺3620-JP-1: 経緯
SCP-3620-JPは、オネイロイ・ウェスト(OW)の夢界企業「Ramuned Liberty」によって開発されました。代表である夢界ソフトウェア開発者オン・クラウド・ケイナイン(PoI-3620-JP-1)は現実ではアメリカ・テネシー州の住民であったロン・デヴィッドソンですが、それ以外のメンバーの身元は現在まで不明です。
SCP-3620-JPの集合的無意識への投入と同時に、全人類のシャドウに対して夢中広告の投影が開始されました。ファウンデーション・コレクティブ(FC)の簡易調査の結果、夢中広告はその場の夢界実体によって投影されたものでないと断定されました。また、夢中広告の投影開始と同時期にRamuned Libertyによる新規広告サービスのβテストが実施されていることが判明し、中心人物であるPoI-3620-JP-1の捜索が開始されました。
翌日、テネシー州警察に虚偽の超常事象の通報が入りました。潜伏していた財団エージェント・ブラックが同僚の警察官と共に通報現場である民家に駆け付けたところ、通報された超常現象やその痕跡はなく、PoI-3620-JP-1が民家に居住しているのみでした。PoI-3620-JP-1がエージェントらに財団職員であるか尋ねたため、エージェント・ブラックはPoI-3620-JP-1が超常社会の人間であると判断し、同僚にクラスA記憶処理を行ったうえでPoI-3620-JP-1をサイト-691へと連行しました。
映像記録
序: サイト-691への移送中、PoI-3620-JP-1は自身がSCP-3620-JPの開発者の1人であると主張しました。移送が完了し、同サイトの尋問室でのインタビューが実施されました。
<記録開始>
エージェント・ブラック: — それで、あの元型を開発した目的は?
PoI-3620-JP-1: 広告目的ですよ、もちろん。ただ、依頼をされたわけじゃなく、むしろ依頼を受けて広告を流せるようにするためのといいますか。でも、あそこまで広範囲かつ長期間の投影になってしまうのは我々としても想定外でした。
エージェント・ブラック: 本来はもっと小規模になる予定だったと?
PoI-3620-JP-1: ええ。元々あれは自然消滅する予定だったんですよ。無期限広告なんて逆に扱いに困りますし。そもそも、オーバーディープ5に行ったドローン6なんて12太陽時間も経てば同一性と連続性が死ぬはずなんです。だから、本来は一定時間ごとにドローンを交換するつもりでした。でも、あれは自然消滅せず、全世界の人間に影響する立派な元型になってしまった。我々としても困ってしまいまして。
エージェント・ブラック: なるほど。それでわざわざこうして出頭をしたと。
PoI-3620-JP-1: そういうことです。我々としても事後処理を何とかしたいので、私に協力できることがあれば是非とも仰っていただきたく。
エージェント・ブラック: では、あなたがたの作ったドローンがああなった原因についても心当たりはないのですね?
PoI-3620-JP-1: 無い … わけでもありません。
エージェント・ブラック: というと?
PoI-3620-JP-1: その … ドローンの材料が問題だったのかもしれません。あなたは元型ゴミ箱仮説をご存じですか?
エージェント・ブラック: お答えできかねます。
PoI-3620-JP-1: なるほど。簡単に言えば「元型とは記憶のゴミ箱である」という説です。ほら、夢界空間は常に、無意識による記憶整理の影響を受けているでしょう? その時に不要な記憶が廃棄される先が、オーバーディープ — ひいてはその先にいる元型たちなのではないか、と言われているわけです。
エージェント・ブラック: ふむ。
PoI-3620-JP-1: そして、我々はそこから発展して「人間が最も多くの記憶を手放すタイミングがあるのでは」と考えました。死の間際、人間は走馬灯を見ますよね? あれは、人間が死という人生最大の危機に直面して、本能的に回避方法を探すべく全記憶を漁っているものと言われています。その真偽はともかくとして、我々はそこからアパリションを発見したのです。
エージェント・ブラック: アパリション … ああ、幽霊ですか。
PoI-3620-JP-1: ええ。すなわち、危機回避のためにストレージからメモリーまで持ってきた記憶を、結局人間は死ぬことで手放してしまうわけです。それこそがアパリション — 死せる人間1人分の人生そのものというわけです。我々があのドローンの材料にしたのは、そのアパリションでした。
エージェント・ブラック: … つまり、あなたがたは誰かの命を —
PoI-3620-JP-1: あー、誤解なさらないように。確かに、あなたの今の質問への回答は「はい」になるでしょうが、ニュアンスがだいぶ違います。我々は誰かを死なせたのではなく、オネイロイ化7したのです。
エージェント・ブラック: — 続けてください。
PoI-3620-JP-1: はい。シャドウがオネイロイになる際、当然ながら肉体はシャドウ — 前時代的な言い方で言うと魂を失うわけです。言ってしまえば脳死に近い。我々はそのタイミングでも走馬灯現象が起こるのではと考えました。そしてちょうど、我々の仲間の1人がオネイロイになりたがっていた。そこで、我々は仲間のオネイロイ化とそれに伴うアパリション抽出を実施したというわけです。
エージェント・ブラック: … なるほど。それが成功して、あなたがたはそのアパリションを元にあの元型を作ったと。
PoI-3620-JP-1: そういうことになります。普通のドローンは、個人の夢界であるとか集合意識の結果として生まれていくものでしょう?
エージェント・ブラック: 集合意識?
PoI-3620-JP-1: ああ、ほら。何十とか何百とかのシャドウだのオネイロイだのが集まって1つの欲求を共有すると、アイデアなりドローンなりが自然に生まれるあれですよ。とにかくそういったわけで「元型の材料で作ったドローンを使えば少しでもオーバーディープでの残留時間を増やせる」と思ったのですが、まさか残るどころか小さな元型になってしまうとは想定外でした。この話は社外秘といいますか、そちらからしても漏らすべきでない情報だと思いますので、どうか内密に。
エージェント・ブラック: もちろん。
PoI-3620-JP-1: どうも。あ、ただ、1つ謝らなければならないことが。
エージェント・ブラック: 何でしょう?
PoI-3620-JP-1: ドローンのβテスト参加者に、あのドローンに対応する概念フラグ付けの手法を開示していたんです。ドローンが消えずに残っていることはもう参加者たちにもばれていることでしょうから、きっとその手法がこれからどんどん外に漏れていくかと。
<記録終了>
結: OWに流出した手順3620-JPの提供元はRamuned Libertyでした。シャドウ検査の結果、出頭人物とオン・クラウド・ケイナインが同一人物であると断定されたため、PoI-3620-JP-1はサイト-691の独房に収容されました。
他のRamuned Libertyメンバーの夢界における所在は、PoI-3620-JP-1の証言などから全て判明しています。しかし、現実での身元や所在はいずれも判明しておらず、オネイロイでないメンバーの夢界での拘束は現実での判別困難な昏睡を招くことから断念されました。このため、オネイロイであるメンバーの夢界での拘束およびそうでないメンバーの夢界での監視のみが行われています。また、PoI-3620-JP-1の収容協力の申し出を受け入れるか否かに関しては保留されました。
補遺3620-JP-2: 収容と隠蔽
PoI-3620-JP-1の証言の検証が実施され、SCP-3620-JPが人工的な元型であることが判明しました。また、時間経過に伴い夢中広告の数とバリエーションが増加したことから、超常社会への手順3620-JPの流出も信頼性の高い証言であると断定されました。しかし、SCP-3620-JPは既にRamuned Libertyの投入地点付近には存在しておらず、現在は集合的無意識の内部を流動的に移動しているものと推測されます。
このため、SCP-3620-JPの発見は困難であると判断されました。また、SCP-3620-JPの作用に対する対抗元型の作成や、全人類の夢界空間への小型対抗ドローンの散布も提言されましたが、OWなどの超常夢界コミュニティに新規アイデアや技術をもたらすことへの懸念から却下されました。結果、機動部隊Ψ-885("この広告を非表示にしますか?")による捜索が開始されたものの、FCはSCP-3620-JPの迅速な収容は不可能であると結論づけました。
上記の理由から、Ψ-885によるSCP-3620-JPの収容までの間の隠蔽業務を行うべく、欺瞞部門職員によるSCP-3620-JP隠蔽チームが結成されました。世界規模の事案であるため、メンバーはクラスB以上の職員が選出されました。
映像記録
序: 隠蔽チームのメンバーが、財団の映像通話アプリケーションを用いて会議を行いました。
<記録開始>
ベイベル博士: — 集まりましたね。では、早速ですが本題から入りましょう、皆さん。夢の専門家集団たるかのFCが件の広告元型を発見するまでの「繋ぎ」を我々欺瞞部門がやる必要があるわけですが、さてどうしたものでしょうか?
シャーウッド博士: とりあえず、全てが終わってからの後始末に使えるカバーストーリーは「This Manの二番煎じ」でしょうかね。所詮は夢の話ですから、夢中広告の内容を覚えてる人数なんてたかが知れてるでしょうし。ただ、直近で何とかするとなると —
アーネスト博士: いや、たかが知れてるって言っても流石に規模が問題でしょ。全世界よ、全世界。それに、現状投影されてる広告の内容は明らかにOWの住民向けじゃないの。つまりこれから世界中の人間が、知らない超常社会の知らないアプリケーションの広告を毎晩毎晩少しずつ少しずつ鮮明に記憶していくということよ? 既に数日が経った今でさえ、何人がヴェールの内側を知ってしまったのかわからない。
シャーウッド博士: なら逆に、若干ですがチャンスかもしれませんよ。つまり、広告の内容は民間人には馴染みがないものなわけです。それこそまだ「変な夢見たなあ」で済む段階ってことでしょう。
アーネスト博士: それは … 確かにそうね。ちなみにパーカー、シミュレーションではヴェールが破られるまでに少なくとも何日がかかることになってるの?
パーカー博士: ヴェールが破られるまで、というのは曖昧すぎるな。とりあえず、広告の内容がSNSの中規模コミュニティで共有されだすのは最低でも約半年後になるとシミュレートされている。
シャーウッド博士: それなら思ったよりは切迫した状況ってわけでもないでしょう。ただ、単にカバーストーリーを流せば済むって問題でもないのも確かですが。
ベイベル博士: 要するに、この広告元型の隠蔽における要点は「内容が超常社会に触れる」「馴染みのない広告が繰り返し夢の中で再生される」という2点であるわけですね。ならば、例えばいっそ類似内容の広告を一般社会に流してしまえばいいのでは?
パーカー博士: つまり、「馴染みのない」広告をある程度毒抜きした上で「馴染みのある」広告として浸透させておく、というわけか。確かに、広告が投影されはじめてから大衆が夢中広告を記憶するのにはタイムラグがある。その間に、超常社会に関する言及を一般的な内容に置き換えた広告を、これでもかと現実で大衆に見せ続けると。
ベイベル博士: ええ、これでもかと。
アーネスト博士: なるほど、アリね。そもそも、元型は似たような知識集積を持つ人間にほど作用するものだから、あの元型もクソ広告に馴染みのない人間には大して作用しないんじゃないかってFCでは言われてるの。あの仮説が正しければ、日常的に広告に触れる人間に対する隠蔽業務で済みそうね。希望的観測だけれど。
パーカー博士: その通りだろうな、希望的観測な点を含め。何より問題なのは、既に広告へのフラグ付けの手法が外部に漏れてしまっていることだ。それも、超常社会の連中に。これから、ヴェールが捲られるリスクはみるみる上昇していくことだろう。
シャーウッド博士: そこなんですよね … マジで。それに関しては、ひとまずFCの皆さんがあれを早く見つけてくれることを祈るしかないか。
ベイベル博士: まあ、ひとまず対応策について一段落しそうなだけでも良しとしましょう。では、具体的な内容について —
<記録終了>
結: 会議後のFCによる調査で、SCP-3620-JPの作用対象となる人間の条件が広告を日常的に視聴していることであると断定されました。これに基づき、SCP-3620-JPの夢中広告に類似した内容の広告を制作し、各国のASP8をはじめとする広告仲介メディアによって現実の一般社会に放映する隠蔽プロトコルが開始されました。
類似広告による隠蔽プロトコルは、実施から1ヶ月間は問題なく機能していました。しかし、手順3620-JPの流出に伴う夢中広告の増加、およびそれに起因する世界規模での悪夢障害患者の増加やFCの通常業務の阻害という弊害が徐々に増大していきました。
映像記録
序: 隠蔽チームのメンバーが、財団の映像通話アプリケーションを用いて会議を行いました。
<記録開始>
ベイベル博士: — 集ま —
アーネスト博士: まだ見つからないの、あのクソ元型!? もう勘弁してほしいんだけど!
パーカー博士: 落ち着け、アーネスト。寝不足でイラつくのはわかるが、会議の時間だ。
アーネスト博士: ええ、ええ、寝不足ですとも! ただでさえ普段から昼に欺瞞部門・夜にFCって働き詰めなのに、その夜の業務の9割をスキップ不可のクソ広告に — やれマフィアがどうだの尻のでかい美女がどうだのサーカイトがどうだのに邪魔されるんですもの! 夫にも娘にも心配されるし、もういい加減ご勘弁願いたいわまったく!
シャーウッド博士が苦笑する。
シャーウッド博士: まあ、それも仕方ないでしょうね。この1ヶ月間の間に、夢中広告の数は500件を突破したそうじゃないですか。9割は流石に盛りすぎだとしても、それでもよくFCが破綻せず保ってるなあと思いますよ。
ベイベル博士: そうですね。ただ、いい加減我々も次の手を講じる必要が出てきたと言えるかもしれません。パーカー博士、例のシミュレーションによる期限はあれからどうなりましたか?
パーカー博士: 1ヶ月前の時点で半年後、つまり今から5ヶ月後が期限のはずだったが、あれから1.5ヶ月早まって3.5ヶ月後という結果に変わった。想定よりも夢中広告の増加スピードが凄まじいのが主な要因だ。
シャーウッド博士: ただ、それってあくまで「夢の内容がネットで共有されだす」期限でしたよね? なら、現行の隠蔽プロトコルでもうちょっと長く何とかなると思いますよ。だって、結局一般社会の人間からしてみれば夢中広告の内容は「変な夢」の域を出ませんし、そのディテールも大して記憶されないでしょうから。ディテールが共有されだしたら流石にまずい段階でしょうけどね。むしろ、喫緊に問題になるのはやっぱり —
アーネスト博士がため息をつく。
シャーウッド博士: — FCの業務とかの方なんじゃないでしょうか。
ベイベル博士: 確かにそうですね。悪夢障害の急増も、数ヶ月程度であれば「ストレス社会のせい」などでごまかせるとは思いますから、やはり一番心配なのはFCですね。ただ、こればかりは欺瞞部門だけでは何ともしがたいような …
パーカー博士: 私は門外漢ではあるが、とりあえずFCでだけでも広告ブロッカーのようなものを作っておいて損は無いと思う。件の元型にアクセスする手法が流出している以上、そういった秘匿技術が流出するリスクはゼロではないが、そろそろそうも言ってられない段階だろう。
アーネスト博士: … 実はこっそり作ったのよ、広告ブロッカー。はあ、仕方ないわね。明日からそれ使って快眠するわ。
<記録終了>
結: ジャクリーン・アーネスト博士(FCではタイ・ユア・グレート・マザー・ダウン)が開発した夢中広告ブロック用ドローンが、FC内部で共有されました。これにより、FCの通常業務の阻害問題は解決しました。悪夢障害患者の増加等に関しては保留されています。
補遺3620-JP-3: Archonクラスへの分類
SCP-3620-JPの作用開始から3ヶ月後、夢中広告の件数が3,000件を突破した段階で、OW内部において「広告ブロッカーのアイデア」と呼称されるアイデアが流通し始めました9。このアイデアの出自は不明ですが、OWの住民たちが夢中広告への不快感を強く共有した結果、集合意識的な作用によって自然発生したものと推測されています。当該アイデアは、実現のための一部技術がOW内で共有されていないことから流通時点では未実行でした。
これを受け、SCP-3620-JP隠蔽チームとΨ-885-Capの間で会議が行われました。またこの際、元型に関する情報提供者として拘束中のPoI-3620-JP-1が招集されました。
映像記録
序: アーネスト博士は、頭部に夢界映像電子化ヘッドセットを装着した状態で入眠しました。入眠中のアーネスト博士の夢界にΨ-885-Capが移動し、ヘッドセットに接続されたモニター・カメラ・マイクを介してΨ-885-Capおよびアーネスト博士と隠蔽チームの間で会議が行われました。また、PoI-3620-JP-1はシャドウの逃走の懸念から独房からの中継映像で会議に参加しました。
<記録開始>
Ψ-885-Cap: — あー、あー。繋がりましたかね?
ベイベル博士: ええ、聞こえていますよ。こちらの映像も届いていますか?
Ψ-885-Cap: はい、問題なく。
ベイベル博士: 良かった。では、早速始めましょうか。まず、OWの現状について伺わせてください。
Ψ-885-Capが、OW内に出現した「広告ブロッカーのアイデア」について報告する。
パーカー博士: ふむ。確認なのだが、それ自体は超常現象に分類されるようなことではないのだな?
PoI-3620-JP-1: はい。これはあくまで、世界規模での広告投影に対する心理的反応として正常な部類のものです。
パーカー博士: なるほど。
アーネスト博士: 私からも1つ良いかしら、Cap? このアイデアって、要するに例のクソ元型への対抗策となるもののことよね?
Ψ-885-Cap: まあ … そうとも言えます。正直、まだそこまで断言できるほど明確化したアイデアでもないので。OWでも「使えないアイデア」という判定を方々で受けているようです。
アーネスト博士: あら、そうなの?
シャーウッド博士: 部外者ながら思うんですが、これ上手く転用すれば「広告ブロッカーの元型」に昇華できるんじゃないですか?
沈黙。
PoI-3620-JP-1: なるほど?
アーネスト博士: あなた、本気で言ってる?
シャーウッド博士: マジですよ、大マジ。だって、結局のところ広告の根本にいるのは元型なわけじゃないですか? 収容に時間がかかってしまう現状を鑑みれば、こうやって新しい手段が現れてくれた以上そうすべきだと僕は思いますよ。
PoI-3620-JP-1: しかし、材料はどうするのですか? 我々の手法通りにアパリションを用いるのであれば、誰かを殺害するかオネイロイ化することが必須になるわけですが。
シャーウッド博士: そこはほら、D — 職員を「消費」したときにでもサッと。
PoI-3620-JP-1: オウ。
アーネスト博士: 倫理観が死んでるわね …
パーカー博士: 今更だろ。私は悪くない考えだと思う。結局、我々がこうしてへえこら広告を作ってメディアに流させる必要に駆られたのは、「超常コミュニティに新規アイデアをもたらす可能性」とやらがあったからだ。だが、それは既に集合意識によってもたらされてしまった。このままでは、先にOWの連中に人工元型を作られて、その技術があちらで確立されかねない。そうなったら、我々は今よりも遥かに忙しくなってしまうだろうな。それならいっそ、こちらの主導で元型を打ち上げてしまえばいい。さて、そちらはどう思う、Cap?
Ψ-885-Cap: … そうですね、正直アリだと思います。この3ヶ月、集合的無意識という広大な領域を捜索してきましたが、まだ例の元型の痕跡すら見つかっていない有りさまでして。何より、我々の隊員が何名も捜索中にあちら側に飲まれかけてしまい、死亡してこそいませんが精神治療の対象になってしまった。自分としても、これ以上危険で望み薄な捜索業務を続けたくはありません。
アーネスト博士: まあ、捜索業務の無意味さについてはFC職員としても欺瞞部門職員としても同意できるところね。私からも特に異議はないわ。
ベイベル博士: なるほど。あとは、技術的に実現可能かですが —
アーネスト博士: できるわよ。やってみせる。これ以上、寝てる間まで家族にバカみたいな広告を見せられてたまるもんですか。
PoI-3620-JP-1: 私としても同意見です。我々のことも、馬車馬のようにこき使っていただいて構いません。元はといえば我々の責ですから。
アーネスト博士: 本当にね!
ベイベル博士: — であるなら、私からも異論ありません。
シャーウッド博士: よし! じゃあCapとアーネスト博士、後で上層部に掛け合ってみてください。我々も、監督評議会に提言を投げてみましょう。
Ψ-885-Cap: 承知しました。
<記録終了>
結: 会議終了後、Ψ-885および隠蔽チームによって「広告ブロッカーのアイデア」を転用した対抗元型の制作が監督評議会へ提言されました。3日後、当該提言は承認され、Ψ-885によるSCP-3620-JPの捜索は中止されました。
無関係な実験に用いられたDクラスから離脱した記憶集積が回収され、それを元にPoI-3620-JP-1含む拘束中のRamuned LibertyメンバーとFCによって対抗元型SCP-3620-JP-CTRが制作されました。15回のシミュレーションや38回の性質試験が実施された後、SCP-3620-JPはアーネスト博士の夢界空間より集合的無意識へと投入されました。結果、SCP-3620-JPによる広告投影はSCP-3620-JP-CTRによって完全に阻害され、SCP-3620-JPは実質的な無力化状態となりました。また、OW政府の協力の下でOW住民に対しカバーストーリー「Ramuned Libertyの事後対応」が流布されました。PoI-3620-JP-1はクラスA記憶処理の、オネイロイであるメンバーらはクラスγ夢界記憶処理の後に解放されました。
SCP-3620-JPの収容がSCP-3620-JP-CTRの暴走を招く可能性から、SCP-3620-JPはArchonクラスへと再分類されました。また、隠蔽チームは解体され、隠蔽プロトコルも段階的な解除が決定されました。しかし、現実において財団とは無関係に模倣的内容の広告が増加しており、現実での類似広告の数はあまり減少しないものと予測されています。この事象はSCP-3620-JPの特異性に起因するものではなく、隠蔽プロトコルによる広告数の増加と広告内容の画一化に起因するものであるため、財団による対応は行われません。