アイテム番号: SCP-3649-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 新たに発見されたSCP-3649-JP感染者は近隣の財団関連医療施設へと収容し、化学的治療が行われます。関係者の排泄物は標準的な生物災害処理プロトコルに則り密閉下で焼却処分してください。SCP-3649-JPの駆虫が確認された対象に対しては短期間の排便習慣修正プログラムを施したのち、記憶処理を施し解放してください。
研究のために維持されるSCP-3649-JPはDクラス職員に感染させた状態で、バイオセーフティレベル2に準ずる設備の整備された収容室に収容されます。SCP-3649-JPの標本はサイト-8191の収容室で保存されています。虫卵及び汚染物を取り扱う場合は、常に標準的な病原体取扱いプロトコルに則ってください。
広域での深刻なSCP-3649-JP感染が判明した場合、財団フロントの人道団体を介した大規模な駆虫薬投与と諸症状に対する軽減治療の実施、飲用水への駆虫薬投入等に加え、簡易な排便習慣修正プログラムと記憶処理が実施されます。
説明: SCP-3649-JPはカイチュウ属(Ascaris)に類似した線形動物です。SCP-3649-JPはヒトカイチュウ(Ascaris lumbricoides)と同様に幼虫保有卵の経口感染によって体内に移行し、胃腸で幼虫が孵化します。SCP-3649-JPは成長に際して寄生環境により分化することが確認されており、SCP-3649-JP-AとSCP-3649-JP-Bに分類されています。

SCP-3649-JP-A
SCP-3649-JP-Aの成虫の体長は雄は140~220mm、雌は200~300mmであり、視細胞、感覚器等は存在せず虫体の両末端に口と肛門が存在しているのみで、生殖器が虫体の大部分を占めているカイチュウに類似した形態を有します。
SCP-3649-JP-Aの存在割合はSCP-3649-JPの約85%を占めます。胃腸での孵化後、SCP-3649-JP-Aは非異常のヒトカイチュウと同様に小腸壁から血管に侵入し肝臓、心臓を経由して肺胞へと達します。肺胞内のSCP-3649-JP-Aは気道を上昇した後、宿主によって嚥下されることで再び小腸へと移動し小腸で成熟します。成熟したSCP-3649-JP-Aの雌は小腸内で24時間あたりに20万個程度産卵します。大便と共に排泄された後、成長に適した条件下1で受精卵は成熟し数週間程度で感染力を獲得します。未受精卵の場合は成熟しないため、人間に経口摂取された場合でも感染力を持ちません。
感染から成熟に至るまでのプロセスに要する期間は約2ヶ月であり、1個体あたりの寿命は1~2年程度です。これらのSCP-3649-JP-Aの大部分の大まかな生活史は一般的なヒトカイチュウに準じています。
SCP-3649-JP-BはSCP-3649-JP-Aとは異なった成長を遂げたSCP-3649-JPであり、全体の約15%がSCP-3649-JP-Bへと分化します。
SCP-3649-JP-B
SCP-3649-JP-Bの成虫の体長は雄は320~380μm、雌は350~500μmと極めて小型であり、視細胞、感覚器等は存在せず虫体の両末端に口と肛門が存在しているのみで、その他の虫体の大部分を未発達の生殖器が占めており、構造は凡そカイチュウの幼虫に準じます。
SCP-3649-JP-Bは胃腸で孵化した後、小腸壁から血管に侵入し、肝臓、心臓、肺を経て最終的に脳に移行します。脳動脈に達したSCP-3649-JP-Bは血管内を移動し中脳の腹側被蓋野に集結します。SCP-3649-JP-Bは血管の内皮を穿孔し、弾性膜内に侵入して虫体を格納します。以降これらのSCP-3649-JP-Bは一切の成長を停止します。SCP-3649-JP-Bは侵入した弾性膜内のみで活動し、死滅するまで穿孔部に留まり続けます。これにより血管内が狭窄することで動脈硬化様の状態となり、宿主の脳梗塞リスクが非感染者よりも上昇することが確認されています。
SCP-3649-JP-Bは、複数の生物活性物質を分泌します。これらの生物活性物質の大部分は一般的なカイチュウと同様の性フェロモン等ですが、SCP-3649-JP-Bに特有のものとして複数の特異なホルモン分泌が確認されます。SCP-3649-JP-Bの分泌するホルモンはチロシン、オキシトシンです。SCP-3649-JP-Bの産生するこれらのホルモンは代謝能力等を鑑みても明らかに多量であり、未知のメカニズムによって産生されているものと推測されています。
成熟したSCP-3649-JP-Bを有する宿主が屋外に存在する場合、SCP-3649-JP-Bによるホルモン分泌がやや活発化します。前駆体であるチロシンが脳血管中に放出されることによりドーパミンが分泌され、宿主は多幸感の増大を経験します。この効果により、宿主は感染以前と比較して屋外での活動頻度が増大する傾向にあります。当初、SCP-3649-JP-Bは網膜への光刺激によって分泌されるセロトニンを感知することによって宿主の行動を知覚しているものと考えられていましたが、夜間であってもSCP-3649-JP-Bが正確に宿主が屋外に存在することを知覚可能であること、全盲の宿主にも同様の活動が見られることから否定されています。また、SCP-3649-JP-Bは宿主が排便に及んだ場合にもチロシンを分泌します。宿主が屋内で排泄に及んだ場合に分泌される量は僅かであり、宿主に見られる影響は若干の多幸感の増大に留まります。SCP-3649-JP-Bがどのような方法によって宿主の屋外への移動、排便等の行動を知覚しているのかについては判明していません。
多幸感の増大の経験により、初期の宿主は屋外での活動と排泄を無意識下で結びつけ屋外での排便に対する関心と欲求が増大します。当初の宿主は衛生的、社会的、人道的理由などにより理性的にこの欲求を制御していますが、時間経過2と共に欲求の高まりを経験し、大部分の宿主は感染から1年以内に衝動的な屋外での排便に及びます。宿主が屋外での排便を試みた際、SCP-3649-JP-Bによるホルモン分泌は最も活発化し多量のチロシン、オキシトシンを分泌します。血中に放出されたチロシンにより脳内におけるドーパミン分泌が一層活発化3し、宿主はドーパミン、オキシトシンにより極めて強力な多幸感と快感を覚えます。宿主に引き起こされる生理反応は性的オーガズムに類似しており、男性宿主の場合は射精を伴う例も確認されています。排便の完了と共にSCP-3649-JP-Bによる一連のホルモン分泌は終了し、宿主の中枢神経系の興奮も徐々に鎮静化します。それに伴い、宿主は中枢神経系刺激薬の離脱症状に類似した強い脱力感、疲労感、倦怠感を覚えます。
屋外での排便に伴う強い多幸感と快感は、宿主の報酬系回路4に影響を及ぼし、宿主に行動嗜癖様の依存を引き起こします。これにより宿主は快感を得ることを目的として積極的に屋外での排便を試みます。屋外での排便を複数回経験した宿主はSCP-3649-JP-Bによるホルモン分泌によって過剰に放出されたドーパミンの影響で、過覚醒状態を示すようになり幻覚や興奮、滅裂思考、異常行動などが観察されます。これらの精神症状により宿主は屋外での排便に対する抵抗感を喪失し、周囲に人間の存在する環境や一般的に屋外排泄に適さない場所、または排泄に相応しくないタイミングでの排便を実行します。SCP-3649-JP宿主は排便によるより強い快感を求めるため、屋内での排便を避けます。何らかの形で屋内での排便を強制し続けた場合、宿主はドーパミンの不足によるめまい、頭痛、吐き気、だるさ等の症状を示し5、場合によっては屋外での排便を求めて激しい興奮やパニックに陥ります。
住宅地路上での排泄に及ぶSCP-3649-JP宿主の一例
SCP-3649-JP宿主の大便には多量のSCP-3649-JP虫卵が含有されていることから屋外での排便によるヒト-ヒト感染のリスクが増大します。特に都市部等の人口密集地等の人通りの多い環境で宿主が排便に及んだ場合には靴などに付着した排泄物がSCP-3649-JPの成熟に適した環境へと運ばれることで広範囲へと拡散する可能性も高く、その場合は感染経路の追跡も困難となります。また精神症状に伴い入浴習慣の喪失等の衛生観念の低下、便失禁が観察されることも多く便による手指の汚染から感染機会が増加することも確認されています。これらの精神症状はクロルプロマジン等のドーパミン受容体を遮断する作用を持つ抗精神病薬の投与によって改善が見られるものの、根本的な治療にはSCP-3649-JPの駆虫が不可欠です。
SCP-3649-JPはアルベンダゾール等のベンゾイミダゾール系の広スペクトル駆虫薬により治療でき、SCP-3649-JP-Aについては通常の回虫症と同様に様に駆虫可能です。SCP-3649-JP-Bについても死滅させることが可能であるものの、脳血管内の穿孔部に死骸が残留することでプラークが形成される事があり、宿主の脳梗塞リスクは寄生中と同様に高いままです。また、駆虫が完了した場合であっても宿主の報酬系回路が排便の快感を学習している場合は宿主への屋外排便依存治療が必要とされます。適切な治療プログラムを施すことにより、駆虫が完了した宿主の排便習慣を一般的なものへと修正することは可能ですが、大便への依存の経験から薬物依存やギャンブル依存等に陥りやすい傾向にあることが判明しています。
SCP-3649-JPは2014年に日本国の北海道、関東地方、東北地方において回虫症診断例が爆発的に増加した事例に関する調査中に発見されました。当初、SCP-3649-JP-Bは宿主の脳に迷入したヒト回虫の幼虫であると推測されていましたが宿主の大部分に統合失調症様の精神症状と屋外排泄に対する異常な依存が観察されること、また血中の脳内麻薬様物質濃度が異常に高いことが発見されたことからSCP-3649-JP-Bがホルモン分泌により宿主の報酬系回路を支配し、屋外排便に対する依存を生じさせることが判明しました。これらのSCP-3649-JPに関連した一連の発見は公衆に発表される以前に財団の介入により押収され、改竄された内容のものに差し替えられました。また研究関係者に対しては標準的隠蔽プロトコルに則った記憶処理と虚偽情報の流布が行われました。
財団は実態把握を目的として、初期調査において、医療機関での診断結果から既にSCP-3649-JPの宿主であることが確定的であった対象の行動追跡調査を行いました。この調査により宿主の大便に対する依存の詳細と宿主に普遍的に見られる行動様式が判明することとなりました。以下は、2015年6月17日の調査で記録されたSCP-3649-JP宿主である██ ██氏の追跡調査時に撮影された映像の記録です。
[前半省略]
[対象は左右を頻繁に見回しながら路上を歩いている。]
対象: ふっ。うっ。うっ。
[対象は民家の駐車スペースの前で立ち止まり、あたりを見回す。]
[対象はベルトを外し、ズボンのジッパーを下げる。]
対象: んっ。ふぅ。ふっ。
[対象は手を止め、体を逸らすようにして隣家の窓を覗く。]
[対象はやや窓を凝視した後、再び体勢を戻してジッパーを下げる。]
対象: ふっ。ふっ。ふー。ふっ。
[対象は遠方からの車の通過音に反応するが、そのままズボンに手をかける。]
対象: あっ。ふー。ふー。
[ズボンをやや下げ、下着に手をかける。]
[140m先の十字路から自動車が右折し、対象の方へと車が向かう。]
対象: あっ。あっ。あっ。
[対象は急いでズボンを上げ、ベルトを手で押えている。]
[自動車が通過する。対象はそのままの姿勢で顔を下に向けている。]
[自動車が遠のく。]
[対象はややあって顔を上げ、周囲を見回しながら再びズボンを下ろす。]
対象: あっ。やば。やばい。
[対象が下着をずらし、臀部を露出させる。]
[対象が臀部を道路側に向けてしゃがみこむ。]
[対象はあたりを見回したあと、俯いて目を瞑る。]
対象: あっ。あっ。あっ。やば。
[対象が力む。]
対象: [荒い呼吸]
対象: あっ。あっ。あっ。
対象: やば。やばやばやばやば。来る来る。
[対象の肛門から大便の先端が露出する。]
対象: あー。あー。やば。やばい。
[対象の排便が進行する。]
対象: あー。あー。やばい。やばいやばい。あー。やばい。
[対象が力む。排便が進行する。]
対象: 出る出る出る。あっ。出る。
対象: あっ。あっ。あっ。
対象: やば。やばやばやばやば。来る来る。
[140m先の十字路で██中央郵便局のバイクが右折し、対象の方へと向かう。]
[対象の排便が進行する。]
対象: あー!やば。出る出る出る出る出る出る出る出る出る。
対象: 出る出る出る出る出る出る出る出る出る出る。行く!行く!
[バイクが通過する。運転手は一瞬対象の方を振り返ったものの、そのまま通過する。対象の排便が進行する。]
[バイクが遠のく。]
[対象の大便が千切れる。推定18cmの大便が地面に落下する。]
対象: あっ。あっ。あっ。あっ。あっ。
対象: [荒い呼吸]
[対象はその場に蹲ったまま小刻みに震える。]
[対象の肛門が収縮する。]
[対象の目は明らかに潤んでいる。]
対象: [荒い呼吸]
[対象は前のめりになり、地面に手をついて体を支える。]
対象: [荒い呼吸]
対象: あっ。あっ。来る。来る。
[対象は再び力む。]
対象: [対象のうめき声]
対象: あっ。
[放屁。]
[後半省略]
対象の排泄物は排便後に秘密裏に監視に従事していたエージェントによって回収されました。回収された排泄物を解析したところSCP-3649-JPの虫卵が多数発見され、この虫卵の分析とDクラス職員への寄生実験によりSCP-3649-JPの詳細な生活史が明らかとなりました。
SCP-3649-JPに関する研究が始動したことにより広域調査が開始され、2015年時点でSCP-3649-JPは24の都道府県に拡散していることが確認されました。感染者の総数は財団に確認されている対象だけで1,765人であり、これらの爆発的な感染は公衆への露見を防止する目的で医療機関内の情報操作と関係者への記憶処理と虚偽情報流布によって徹底的に隠蔽されました。2009年から2014年までの回虫症の発生は平均2.8人であったことを鑑みるとこれらの発生数は明らかに異常であり、僅か1年の間に爆発的に感染が拡散したものであると推測されています。また、宿主に見られる特異な屋外排便への依存により宿主の存在が確認されている都道府県では顕著に屋外での排便に関する事例が増加しており、当該都道府県において屋外排便を理由として軽犯罪法違反、器物損壊罪、公然わいせつ罪等で摘発された人物の15.51%がSCP-3649-JPに寄生されていたことが判明しています。
また日本国におけるSCP-3649-JPの発見以降、熱帯・亜熱帯地域を中心とした世界各地で感染が報告されており、先進諸国での複数の爆発的な感染例も報告されています。SCP-3649-JPの起源については判明しておらず、日本国外を由来とする可能性も指摘されています。SCP-3649-JPは宿主に屋外排泄を促すという特性上、公衆衛生上の観点から排泄設備が十分に整備されている先進諸国や都市部では比較的発見されやすいものの、発展途上国や農村部などの排泄設備が未整備の地域では屋外排泄は一般的な習慣であり、かつ発見の契機となり得る医療機関が不足していること、通常の回虫症が普遍的であるために宿主が異常性を自覚しにくいことなどの要因により発見が困難です。また排泄物を堆肥として利用する地域ではSCP-3649-JPの深刻な拡散が生じやすく、発見が困難である地域おいて水面下で既に感染が進行している可能性も考えられています。また、SCP-3649-JPの精神症状によって引き起こされる衛生観念の低下は発展途上国等では他の諸感染症リスクを高める要因にもなり得るため、財団はSCP-3649-JPを重大な公衆衛生上の脅威であると看做しています。しかしながら、発展途上国やそれに準ずる地域では政治経済的理由を含む様々な要因により公衆衛生の向上を図ることが困難な状態であり、現在の財団による対処行動はSCP-3649-JPの捜索と駆虫、屋外排便依存に対する排便習慣修正プログラムを実施するに留まっています。