クレジット
タイトル: SCP-3663-JP - "さ"は「山積」の"さ"
著者: Snowy-Yukinko
作成年: 2024
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アイテム番号: SCP-3663-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: ██山全体に、カバーストーリー「活火山」を適用し、SCP-3663-JPの周囲200mへの立ち入りを禁止するとともに、上空からのSCP-3663-JP-Aの異常性の露見を防いでください。SCP-3663-JP-A付近には、山小屋に扮したサイト-81██が存在し、SCP-3663-JPの異常およびSCP-3663-JP-Aからの落下物を監視しています。
説明: SCP-3663-JPは、██県に位置する、██山の山頂付近に存在する半径1kmほどのカルデラです。現在██山自体の火山活動はほぼ見られていないにも関わらず、SCP-3663-JP周辺は常時100℃付近の高温となっています1。
SCP-3663-JP-AはSCP-3663-JPの上空を覆う雲状の実体です。外見上は非異常の雲や噴煙と区別が付きません。SCP-3663-JP-Aからは数kg、稀に数tを超える出所不明の物体が後述のSCP-3663-JP-Bへと落下することがあります。
SCP-3663-JP-BはSCP-3663-JPの底に形成されているカルデラ湖です。SCP-3663-JPの前述した異常性により常に沸騰しており、内部には前述のSCP-3663-JP-Aより落下した物体が存在しています。SCP-3663-JPからの熱による対流のほか、時折SCP-3663-JP-B自体が自発的に渦を形成することによって、内容物は常にSCP-3663-JP-B内で移動しています。
SCP-3663-JP-Bへ人為的に投入した物体は、内部の水流に流され湖岸に漂着する形で5~10分の時間をかけて強制的に排除されます2。この特性のため、無人機等による長時間のSCP-3663-JP-B内部調査は困難です。
SCP-3663-JPの異常性は2012/09/03に、突発的なSCP-3663-JP-Aの発生およびそこからカルデラ湖への岩石の落下という形で発生しました。その後、「SCP-3663-JPの温度の急激な上昇と低下3」「SCP-3663-JP-Aからの岩石の落下停止」という変遷を経て、2013/03/12より現在の状態を維持しています。探査記録3663の実施中に新たな物体の落下が見られました。詳しくは当該記録を参照してください。
探査記録3663 - 日付2014/07/11
目的: SCP-3663-JP-Bの探索および内部の物品の回収。
備考: 無人探査機は耐熱性を持ち、内部にサンプル回収用のカプセルを装備している。
[00:00] 探査機がSCP-3663-JP-B内部に投げ込まれる。録音・録画の開始。
[00:14] 探査機が着水。水中探索を開始。SCP-3663-JP-B内の岩石が画面に映る。
[01:20] 岩石に接近。大きさはおよそ1mであり、独特の縞構造が見られる。サンプルとして回収。
[03:54] 付近の水面に突如大型の白色結晶が落下。着水時の推定重量は1.0~1.5kg程度であったが、水流によって回転しながら徐々に溶解し、回収は不可能であった。
[05:44] SCP-3663-JP-B内の岩石が水流に流され探査機に接近する。歪んだ球形で、大きさは半径10cmほど。サンプルとして回収。
[以下、同様にしておよそ2分間SCP-3663-JP-B内の岩石の回収を行う]
[08:07] 探査機横に渦が発生し、探査機が巻き込まれる。衝撃により映像が断絶する。
[08:43] 映像が復帰。探査機はSCP-3663-JP-B湖岸へ漂着している。スクリュー部分の損傷が激しく、これ以上の探査続行は不可能と判断され、引き揚げが行われた。
分析: 映像中の[03:54]時点で確認された白色結晶に関して、サイト-81██からの目視で同形状の結晶がSCP-3663-JP-Aから落下していることが確認できました。分析の結果、主成分はスクロースであることがわかっており、これ以降SCP-3663-JP-Aからは常時1~10kgほどのスクロース結晶が落下し続けています。
SCP-3663-JP-Aよりサンプルとして回収された岩石の組成は周囲の地質と一致せず、由来は依然として不明です。岩石の画像は以下のとおりです。
追記1: 2016/08/30、SCP-3663-JP-Aからのスクロース結晶の落下が停止し、塩分及び植物由来と思われるアミノ酸やタンパク質を含む褐色の液体の降水が観測されました。これらの成分は一般的な濃口醤油と類似したものです。
追記2: 2016/09/01、SCP-3663-JP-Aから25m四方ほどの面積の紙片がSCP-3663-JP-B湖岸付近へと落下し、落下物品が前述の液体から白色の結晶に変化しました。分析の結果、主成分は塩化ナトリウムであることがわかっています。
回収された紙片には、一文字3m四方ほどの大きさで文章が筆記されており、一部には横線が引かれていました。文章の内容は以下の通りです。
”さ”は「砂糖」の”さ”
”し”は「醤油」の”し”「塩」の”し”
[端には文章の一部と思しき部分があるが、乱雑に破れており判読不能]
また、SCP-3663-JPの異常発現以降、██山への入山者が増加傾向にあります。この現象とSCP-3663-JPとの関係性はわかっていませんが、複数の入山者およびサイト-81██の職員より、「██山頂上の方から美味しそうな匂いがする」等の証言を得ていることは特筆すべき事項です。現状一般人が立入規制を突破してSCP-3663-JPの周囲200m以内に侵入しようとする行為は確認されていませんが、カバーストーリーとしてサイト-81██では一般人に対しての食品の調理・販売が行われています。
追記3: 現在、複数の担当研究者がSCP-3663-JPの将来的な脅威度の増加を予想しています。以下はSCP-3663-JP研究チームによる対談記録です。
対談記録-3663
関係者:
- サイト-81██所属 財団職員
- 佐藤研究員 (SCP-3663-JP担当チーフ)
- 塩原研究員 (環境学専攻)
- ヴィネガー研究員 (微生物学専攻)
<記録開始>
佐藤研究員: SCP-3663-JP-Aから降下した巨大なメモは確認できただろうか。SCP-3663-JP-Aより落下したスクロース、褐色液体、塩化ナトリウムは、メモに筆記されていた調味料である砂糖、醤油、塩に相当すると見ていいだろう。”さ”は砂糖、”し”は— 醤油ではなく —塩、その次は”す”、つまり酢だ。時期は不明にせよ、SCP-3663-JP-Aからの降下物が塩化ナトリウムから酢酸になる時が来ると考えるべきだ。
佐藤研究員: 問題は、山の頂上に液体、それも酸性のものが降り注ぐ点だ。実際に、「醤油」が降ってきた際もSCP-3663-JP-B外に液体が流出した。「酢」もとい酢酸があれ以上の量で注がれたとき、SCP-3663-JPの外部まで流れる可能性がある。
塩原研究員: 薄められた家庭用の酢酸が降ると仮定しても、かなりの酸性度になりますね。長期間にわたって酢酸が降り続ければ、いずれは下の植生にも酸性雨の影響が出るでしょう。
塩原研究員: 影響を受けるのは植生だけではありません。おそらくSCP-3663-JP周りの土壌は酸で汚染され、周辺の川にも酢が混入するでしょう。今から品木ダム4を作り始めても間に合うかどうか…
佐藤研究員: いずれにせよ、今後の山場はSCP-3663-JP外への「酢」の流出をどう避けるかだろう。
ヴィネガー研究員: お言葉ですが、「酢」を乗り切ったら大丈夫、とも言えないのです。
ヴィネガー研究員: こちらの資料をご覧ください。SCP-3663-JP-Bから降下した液体に混入していた芽胞菌5のような実体です。もしSCP-3663-JPの外部に「醤油」が流出した際、付随してこれらの実体も流出するでしょう。
塩原研究員: しかし、芽胞菌のような耐熱性の菌は通常の加熱済み醤油にも存在しています。特段の性質を有するものでもない限り、菌については特段の措置はいらないのではないでしょうか。
ヴィネガー研究員: 重要なのはこの細菌のサイズです。画像の縮尺にご注目ください。
佐藤研究員: スケールバーが…1.0mmか。
ヴィネガー研究員: 芽胞菌のサイズは通常、長い方でも2-3µmです。どうやら落下したメモ中の文字同様、液体内部の細菌の大きさも拡大されているようです。タンパク質や核酸等の物質は通常と同じ大きさですが、細胞小器官に著しい肥大が見られています。ここまで大きいと、代謝のスピードは通常のものとは比べものにならないでしょう。
ヴィネガー研究員: 「醤油」が飛散したエリアにおけるミクロ生態系の調査はまだ行われていませんが、これらの細菌が周囲で少数でも活性化した場合、環境内の微生物を淘汰するかもしれませんし、何より彼ら自身が選択圧となったり、彼らの異常性が遺伝することにより危険な微生物が誕生する可能性があります。
ヴィネガー研究員: 仮にこの細菌だけを封じ込めても、次の「味噌」ではより多くの、多様な微生物が落下することが予想されます。 もっとも、微生物と称するには彼らは大きすぎるでしょうが もちろん、彼らの環境への脅威は未知数です。「酢」が終わった先でも、解決すべき問題が山ほどあるのです。
<記録終了>
これを受けて、SCP-3663-JP-Bからの落下物品の処分を加えた特別収容プロトコルの再編およびオブジェクトクラスの変更を含めた対策議論が進行中です。