SCP-3685-JP
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アイテム番号: №3685-JP
レベル3
収容クラス:
miasma
副次クラス:
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撹乱クラス:
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リスククラス:
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特別定義/Miasma: アイテムが周辺環境に及ぼす悪影響を考慮し、適切な方法が承認され次第解体が行われます。

特別収容プロトコル: SCP-3685-JPの標的とされる佐山 弓美氏は現在サイト-81ETの地下避難室内で保護されています。SCP-3685-JPの収容困難性からサイト-81ET職員による解呪・無力化作戦が進行中です。

説明: SCP-3685-JPはNx-74 (“神音町”).異常活動集中領域(Nexus)-74: 日本国兵庫県の神音町が指定されている、呪詛事象の多発領域。1に度々出現しているおおまかに軽トラックの容貌を成した呪詛実体.呪詛: 負の情動を儀式によって具象化・現実化する行為、あるいはそれによって引き起される現象の総称。呪詛事象は奇跡術や現実改変などと異なり、一般に適用できる法則や体系が判明していないため、個別の解呪的対応を必要とする。2です。SCP-3685-JPは敵対的であり、先述の佐山氏を標的としてNx-74内の不特定な路上に出現し、1度の出現において9~17kmの走行中に標的を発見できなかった場合は消失します。SCP-3685-JPの窓ガラスから確認可能な車内には運転席含めて無人の様に見えます。SCP-3685-JPは現段階で以下のような異常性を保持していると判明しています。

  • 標的を不明な原理で知覚した上で際限なく追跡を継続する。
  • 車体の大幅な変容・変形。.横幅、天井の高さ双方80cmの屋内区画へまで、壁面を一切破壊せずに侵入することが可能。3例えば、SCP-3685-JPは進行方向を踏切に遮断されても、大きく押しつぶされたように変形することで遮断機をくぐって線路内に侵入し、追跡を続けることが可能であった。
  • SCP-3685-JPの走行を意図的に阻害する為に設置された障害物の一時的な脆弱化、および脆性破壊や物理的な歪曲の誘発。
  • SCP-3685-JPの半径数m以内の、標的以外の人物の身体動作を制限する呪詛事象の発生。適切な解呪を行わない限りSCP-3685-JPが距離を取るまで周囲の人物の移動は困難となる。

発見経緯: SCP-3685-JPは2019年9月23日 21時19分にて、兵庫県神音町泉境地区の国道176号沿いの学習塾のガラス窓を空間的に上書きするような形で突如出現しました。SCP-3685-JPは出現時の衝撃で当該学習塾の玄関を大きく破砕させたのち、車道に面する方向へ移動して停められていた2台の乗用車およびガードレールを破壊、そのまま国道176号を経由して路地へと進行し、当時学習塾の会員であり、塾から徒歩で帰宅していた佐山 弓美氏(16)を追跡するような挙動を取りました。

国道176号沿いを走行していたサイト-81ET職員によって、財団の補足外にある未知の呪詛実体と断定して通報がなされたことにより、サイト-81ETの呪詛対抗エージェント数名と特事警察はその存在を捕捉しました。SCP-3685-JPは逃走する佐山氏を追跡する形で家宅まで移動しており、追って到着した特事警察にて最終的に確保されました。この際、当該学習塾の校責任者、佐山氏の母親、および3名の目撃者による通報が同時になされており、近隣道路は別々の通報を受けて駆けつけた兵庫県警などで非常に混乱していました。出動した特事警察が迅速に対処したために本インシデントでの死傷者はありませんでしたが、多くの目撃者にはのちに適切な箝口手段がなされました。

インタビュー記録 3685-JP


日付: 2019/09/25 13:20

インタビュー対象: 佐山 弓美
インタビュアー: 水樹 通 福祉衛生責任者


[記録開始]

水樹医師: まず初めに……佐山さんのご自宅ですが、生活にあたって特に支障がないところまでは修理されました。水道が通るまでにまだ3日ほどかかりますが、ひとまず元の生活には戻れるかなと思います。お母様の容態も、お父様も不安のない状態で、このあとすぐにでも面会できますよ。学習塾の生徒さんも、先生方も全員無事です。

佐山 弓美: ……ありがとうございます。ええ、ちょっとまだ現実感がないのですが、本当に感謝しています。[沈黙] はい。とりあえず、こういうこと言えないと人として良くないなと思いまして。面会の方も、この後すぐにでも会いたいです。

水樹医師: はい、お母様も安心しておりましたよ。

[重要度の低い部分を省略]

佐山 弓美: ええ、本題の方ですよね。

水樹医師: そうですね。アイスブレイクも済んだところで、まずは日付の方から確認していきましょうか。

佐山 弓美: はい。そちらで確認したとおりの時間帯と、場所で合っています。9月23日の、夜9時20分。はい、問題ありません。で、はいそうです、その通りです。

水樹医師: ありがとうございます。では、その時、あなたがどんなことをしていたのかから一つずつ教えてください。

佐山 弓美: ええと、家に帰っていた途中ですね。そのときは塾通いで帰りも遅かったので、塾から出てすぐは国道沿いの大通りですが、一本脇道に入ればもう住宅街が広がっていて電灯もまばらにしか付いていないような人通りの少ない道でした。夜9時半にもなるとけっこう夜も暗くて、不審者情報とかもたまに出るようなまあそういう地域で、でも今日は父がお酒飲んじゃったみたいで、車出せなくて、まあそこそこ距離あるけど一人で歩くしかないかーといった感じで。

水樹医師: なるほど、帰宅中。夜。その時、あれに遭遇したのですか。

佐山 弓美: はい、そのときに、後ろからなにか激しいブレーキの擦る音のような──F1の、車が強くドリフトして火花が散るような音が遠くから大きく聴こえてきていて、いろいろなことを考えていました。明らかにバイクじゃなくて車だから暴走族でもないし、そもそもこの近くにそんなに荒く運転できるような幅のある道路はないしで、

水樹医師: うん、そうですね。

佐山 弓美: まあ一旦は全然気にも留めなくて、どんどん狭い住宅街に入っていって歩くんですけども、まあだんだんその音はこちらに近づいてきていて。

佐山 弓美: さすがにおかしいなと思って、後ろを振り向いたら、目の前に、車のバンパーです! [沈黙] すみません。軽トラックが、奥から私をしっかりと眼前に捉えて、こっちに迫ってきていました。まずいと思って電柱沿いに避けようとしたら、そしたらあの車微妙に私の方に角度を変えて、はっきり私を狙ってきたんですよ。

水樹医師: [深く頷く] はい。怖かった、ですよね。自分のペースで大丈夫です。

佐山 弓美: ありがとうございます。……まあ、そのときは殆どパニックというか。もうめちゃくちゃ追いかけられてるから、走ろう。って思って。辺りも暗いし、周囲の様子もわからなくて、車のエンジン音以外なにも聴こえなくて。車がこっち来てるときの対応としてこれで良いわけないんですけど、もう真っすぐに、車に後ろから追いかけられながらも真っすぐに走って逃げて。そんなことしたら普通あっけなく轢かれると思うんですけどね、まあ……今になってはそう思います。

水樹医師: なるほど、移動がゆっくりというのはとても気になる点かもしれないです。

佐山 弓美: だからもう、とりあえず家の方角に向かって、とにかく知ってる道を知ってる道を通ろうと思って、道を曲がって、振り向いたらまだあの車のヘッドライトがそこ一帯を照らしながら追いかけてて、振り向いても振り向いてもトラックのバンパー、ってなったときに、あれ、変だなって思ったのが、先生.水樹医師に対する一時的な呼称。4のおっしゃった通りです、この車、遅かったのです。

水樹医師: はい。……というと。

佐山 弓美: あれは見た目もそうですし、いや、あれが車だってことに疑いは、別にないんですけど、曲がり角も器用に曲がってぬるりと追ってくるし、とにかく私が少し向きを変えたときに、ぬるりと曲がってきて、本当に……その、車じゃなくて、大人の男が走って追いかけてきてるような。そして、私からは正面しか見えなかったんです。その、下手したら車というよりは、まるで車のバンパーだけが宙に浮いているかのようでした。とにかくそれが、私とちょうど息切らして走るのと同じくらいのペースで、私を器用に追いかけてきました。

……すみません、一旦お水を貰ってもよいですか。

水樹医師: 全然、大丈夫ですよ。麦茶もありますよ。

佐山 弓美: ありがとうございます。ちょっとは落ち着けるかなと。……ああ、続けます、まだまだ追いかけられていて、途中の道にある公園の中とか、車が入れないような杭が立ってる狭い遊歩道とか入って逃げてみても、ダメでした。ぎちぎちの道幅をびっちりとバンパーで埋めつくしていて、わずかに細い街路樹が折れる音が聴こえるぐらいに。まるで当然かのように追いかけてきました。

しばらく逃げていて、途中転んでスマホ落としたりとかもしながら、なんだかんだ私はやっぱり慣れてる道だったので、あの車をけっこう撒いた状態で、まあ200メートルぐらいは離した状態で、家に着いたんです。でまあ、運よくちゃんと家の鍵持ってたので、開けて。途中ないないって焦りながらも、なんとか開けて。で、さすがにまだ怖いですから。あれは車かも……もしかしたら、車みたいな形をした、別の何かかもしれなかったので、まだどうにかして追ってくるかも、できるだけ息をひそめていようと思って、小走りで2階に上がろうとリビングを通ってたら、 ……で。そのときに、あれは。私の家に勢いよく、突っ込んできたみたいで!

水樹医師: ……そうですね。

佐山 弓美: 嫌な予感は、まさにその通りで、まず窓ガラスが割れる音が聴こえて、それから母の悲鳴がきました。昔ニュースで見たコンビニに車が突っ込む事故みたいに、まさにリビングに勢いよく乗り上げて、ガラス片があたりに散乱していました。

水樹医師: ……一旦。深呼吸して、ゆっくりと。

佐山 弓美: [息を吸い込む] ……大丈夫そうです、ありがとうございます。ちょっとまだ、どきどきはします。

あの時、あれはリビングを真っすぐ突っ切って、やっぱりこっちまで来ていました。ええ、そのときにソファで寝てた父が轢かれてなくて本当によかったと思います。ガラスの破片でひき裂かれたテレビには黒い線がいっぱい走って使い物にならなくなってたし、大破したエアコンからは汚い液が垂れていました。あまりにも、あまりにもな状態すぎて、ちょっと2秒ぐらい辺りを眺めてうろたえてたんですけど、そのときも、相変わらずどこから見ても正面の……車のバンパーしか見えませんでした。

水樹医師: はい、それから、二階の方に逃げたということでしたね。

佐山 弓美: そうです。それからは、もう前を向いて走って逃げるしかなくて、もう重いカバンとかそのへんに投げて、走って、2階に上がる急勾配の階段を、若干らせん状になってる階段を登って、どたどたと、そうして登ってる間に振り返ったら、道幅にぎちぎちに詰まった車のバンパーが、踊り場を明るく照らしていました。

水樹医師: ええ。あっ、階段の幅ってどのくらいでしたっけ。

佐山 弓美: あー、 [両手を広げる] これぐらいは無くって、 [肘を曲げて、目算80cmぐらいを示す] これぐらいです。

水樹医師: ……うわあ、なるほど。

佐山 弓美: そうですね。まだまだ階段を登っていって。で、やはり登って振り返って、後ろにはまだ車のバンパー。ぴったりずっと付いてきていました。登って、登り切って、でようやく二階の私の部屋です。

はい、そこからはおそらく把握してますよね。部屋の中で追い詰められて、でもそのときにはベランダの方から恰幅のいい大人のひとが複数名で駆けつけていて、大丈夫ですかと声かけてもらって、非常用の即席滑り台みたいなものを2階のベランダから降ろしてもらって……

はい、それで車で、護送してもらったみたいな。そういった経緯だったと思います。

水樹医師: ありがとうございます。……これは、お辛かったですよね。良くわかりました。長く話させてしまってごめんなさい。

佐山 弓美: 私も、共有できて少し楽になりました。ありがとうございます。

水樹医師: 最後に、もし何かあればでよいのですが。ちなみに、あの車だったり、とにかく今回の件になにかしら心当たりみたいなのはありましたか。

佐山 弓美: 心あたり……ですか。いや、さすがに何もないです。誰かに恨みを買うようなこともなかったですし。しなかったはずです。そう言われると不安になってくるので、わかんないですけど。いや、ああ、[咳き込む] まあ、なるほど、えー。

そうですね、あんまり思い出したくないんですけど、何かになるかなって思ってこれだけ伝えます。はい、小学生の、1年生のころです。私は、トラックに待ち伏せされていて、それから中から人が出てきて追いかけられて。たまたま近所の、窓から見てた人が駆けつけて、あの人をどかして、それから、警察呼んでくれて。[沈黙] ごめんなさい。これ以上は、私はちょっと、喋りたくなくて。その、気分的な問題で。全然調べていただく分には大丈夫だと思うし、なんならこのへんに長く住んでいる方なら皆知ってるかなとは思うんです。思うんですよ。

あれは……あの時の車と、瓜二つでした。

[記録終了]

佐山氏の証言を受けて、過去の神音町近傍での捜査記録と本件を照合したところ、2009年に発生した近畿圏連続児童誘拐殺人事件との関連が指摘されました。この事件の犯人である賀屋 秀重氏は軽トラックを用いて5名の児童を誘拐したのち殺害しており、その軽トラックの外観がSCP-3685-JPと酷似している事が裏取りされました。賀屋氏は神音町のいくつかの超常犯罪組織と関わりがあることが明らかにされており、また捜査の過程で氏の家宅から9点の呪物アノマリー.被害者児童の遺体を加工した呪物を含む。5が押収されています。当該の軽トラックには呪術的強化を施されていた痕跡があり、その点から見ても当該事件とSCP-3685-JPには強い関連性があると判断されました。

同時並行で、財団による佐山氏の保護後、サイト-81ET職員によってSCP-3685-JPの危険性及び有害性に関する評価が行われました。監視カメラによる走行中のSCP-3685-JPに対する映像解析と神音町各所に配置された近畿共同ネットワーク.近畿共同ネットワーク(KJN-KE): サイト-81ETとサイト-81KKの人員から構成される異常対応ネットワーク。6の人員による追跡調査によって、呪術学的なカオス-メカニズムに基づくSCP-3685-JP出現の予測・抑制不能性と、出現経緯からの児童・学生に対する強い負の情動が指摘されました。

これらの経緯やオブジェクトの異常性を踏まえて、SCP-3685-JPを収容し続けることは佐山氏を財団サイト内に拘留することに等しいという点、SCP-3685-JPが今後佐山氏以外の人物を標的にする可能性がないとは言い切れない点から、SCP-3685-JPの解体が水樹医師から提言されています。

補遺.1: 2019/09/26、サイト-81ET運営評議会・対策会議記録 3685-JP が実施されました。以下はその内容の転写です。

サイト-81ET運営評議会・対策会議記録 3685-JP


日付: 2019/09/26 21:45

利河 文: サイト-81ET管理官
伊方 玲香: サイト-81ET副監理官
津馬 京依: 研究・収容副管理官
日奉 百合: 倫理委員会支部長/情報管理室長
矢笠寺 幸一: 儀式調整委員長
上利内 慈陽: ネクサス連絡外交官
水樹 通: 福祉衛生責任者


[記録開始]

津馬博士: よろしくお願いいたします。管理官。

利河管理官: まず。夜分遅くに呼び出してすまない。今回の議題はSCP-3685-JPへの対策についてだ。そして、水樹医師。佐山さんへの聴取の方、ご苦労であった。

水樹医師: ありがとうございます。あの後、佐山さんは件の話以降寝つきが悪いとのことだったので、適切な処方のできる病院を紹介しました。

利河管理官: では本件、SCP-3685-JPについて、オブジェクトクラスを変更し、できる限り速やかに解体すべきとの提言がなされた……水樹医師からの提案だな。

水樹医師: はい。まず、収容作戦において民間人をヴェールの外に拘留すべきではありません……しかも、未成年の学生です。当然ながら佐山さんの生活にも交友にも支障が出るでしょうし、果たしてその選択は倫理的なのでしょうか。それに、現在のプランは佐山さんを誘導灯としてオブジェクトをおびき寄せているだけにすぎず、それは完全にSCP-3685-JPを制御できているとは言えないはずです。もしもSCP-3685-JPが標的を変えるようなことがあったら、どうするのでしょうか。以上の理由から、僕はSCP-3685-JPの解呪を提案します。

利河管理官: ありがとう。これについて、できる限りの賛否を聞いていきたい。まずは上利内くんの意見からだな。

上利内 慈陽: そうだな。SCP-3685-JPの解体作戦には、まあ、賛成だ。今は神音町議会との協議の上で、一時的に民間に不審車注意の情報を広めているのだが、それは見てのとおり完全な対策とはいえない。神音町の高い人口密度を考慮すると、この土地での大規模な収容活動は難しいと言わざるを得ないのが、妥当な事情だろうな。

利河管理官: うむ、他に意見がある者は。

矢笠寺委員長: この議決は財団の基本理念の放棄ではあるのだが……まあ、今回ばかりは妥当だろう。あまりにもコストが釣り合っていない。

日奉司書: はい、私も賛成します。

利河管理官: ……問題なさそうだ。よし、大方の意見が出揃ったところで、評決に移ろう。オブジェクトの解体検討に賛成の者は挙手を。

[総員が挙手]

利河管理官: ありがとう。これを以て採択としよう。では、ここからは具体的な解呪方法について検討していきたい所存だ。

津馬博士: 今回の呪詛実体について良い解呪方法を考案しました。この変質車の厄介な点はあらゆる手段で走行を続ける点です。裏を返せば走行中の車両を待ち伏せしてクレーン車などで掴み、地面から離せば無力化できると考えています。

矢笠寺委員長: 確かにその方法は合理的だが、単に呪詛実体を待ち伏せするのは不確定要素が多いと思える。もっと確実な待ち伏せ方法があるのではないかろうか。

津馬博士: まさか、佐山氏を囮としておびき寄せようとでも言うのですか。

矢笠寺委員長: 佐山さんをあの呪詛実体に贄として捧げようと言うつもりは毛頭ない。しかしあの事件の犯人は死亡後.前述の近畿圏連続児童誘拐殺人事件の犯人は、逮捕後に超常犯罪者として81KKのDクラス職員として雇用され、のち実験中に死亡した。7、呪詛実体に転じて佐山氏を追い回しているというのが、件の顛末だったはずだ。ここから考えられる以上、奴の行動を制御するには彼女を利用するしかないと思えるが。

津馬博士: だからと言って、そんな危険性を冒す必要はないのではないでしょうか。

日奉司書: あの。議論の最中申し訳ないですが、伊方副監理官が無言のままじっと凝視しているのが気になるのですが。

[日奉司書が伊方術師を見ると、他のメンバーも彼女に視線を寄せる。彼女は思い詰めた表情をしている。]

伊方術師: ……ごめん、ごめん!少し考えごとをしていたんだ。もし私があの時犯人を早く捕まえていれば、ヤツが死んだ後にすぐ呪詛実体を祓えていたら。そんな事ばかり考えてしまっていた。

利河管理官: 伊方術師。貴方が子供達に感情移入してしまう気持ちは十分に理解できる。しかし憎悪に囚われず、そして恐れずに悪意に立ち向かいなさい。心が揺らいだ時こそ、初心に帰るんだ。

伊方術師: ああ、すまない管理官。切り替えよう。そうだな。子供、共感、呪詛事象、過去。──もしかして。日奉クン、現在のSCP-3685-JPが、神音町のどのあたりを走行しているのか。監視カメラの情報から分からないか。

日奉司書: ああ、はい!分かりました。[情報共有用の電子端末を操作する]現在緒蔵地区の緒蔵小学校周辺を走行中のようです。

[8秒の沈黙]

日奉司書: えっ、もしかして現地に行くつもりですか?

伊方術師: ありがとう、管理官、日奉クン。冷静になれたお陰で面白い解呪方法を思いついたのさ。是非とも、是非とも向かわせていただきたい。

津馬博士: ええ、そんなことが!頼むから今回は巻き込まないでくださいよ。

伊方術師: いや、私なら確実にやってのけてみせるだろう。

水樹医師: 心配で仕方がありません。あれは確実に、あの誘拐犯の執念が宿った、厄介な呪詛実体と聞いています。佐山さん宅の玄関ですら破砕してみせました。失敗すれば、伊方副監理官の身が危ないです。

伊方術師: まあ、まとめるとその前提がおかしいんだ。過去にあの車は何度か出現し、標的の佐山さんや地元警察をはじめとする様々な人間と相対している。しかし、死傷者はゼロだ。特に佐山さんは自宅2階で追い詰められてから、インタビューの内容が正確であれば奴と10分間も相対したと考えられる。これは明らかに不自然だ。本件では経済的損失しか確認されておらず……私の推測が正しければ、あれに他者へ危害を加える能力はない。

水樹医師: でも、そうなるかどうかは不確定だと思います。

矢笠寺委員長: ……ああ、なるほどな。その憶測は経験と洞察による優れたものだ。正しいだろう。

水樹医師: いや、やはり心配です。僕も同行させていただきたいです。万が一の場合はすぐに伊方さんを救助できるよう、特事警察と協力して後方支援を行います。

伊方術師: 決まりだ。作戦の実行は明日の夜。この一回でこいつとは決着をつけよう。

[伊方術師が急いで会議室を退室する。]

[記録終了]


対策会議の中で挙がった複数のリスクを鑑みて、SCP-3685-JPのオブジェクトクラスはEuclidからMiasmaに再分類されました。SCP-3685-JPは今後、有効な解呪方法が考案され次第、無力化の対象となります。その一端として、翌日の夜間にSCP-3685-JPに対する解呪作戦が行われます。

- 水樹 通 福祉衛生責任者

補遺.2: 伊方術師、水樹医師の両名により、SCP-3685-JPに対する一度目の解呪作戦が9月27日の深夜に実行されました。以下はその作戦内容の記録です。

解呪作戦記録 3685-JP


日付: 2019/09/28 03:12

伊方 玲香: サイト-81ET副監理官
水樹 通: 福祉衛生責任者


[記録開始]

[神音町緒蔵地区緒蔵小学校付近を走行中のSCP-3685-JPを、伊方術師が搭乗している財団車両が追跡している。運転手は水樹医師である。近辺では小雨が降っている。]

水樹医師: あいにくの雨ですね。深夜ということもあり、どうしても視界が悪いです。

伊方術師: 仕方がないだろう。民間人に迷惑をかけないための最大限の配慮だ。後で適切な箝口処理を行うとはいえ、流石に白昼堂々と作戦をやってはあまりにも手間だ。申し訳ないが、運転にあたって水樹クンには少し我慢してほしい。

[20秒ほどの沈黙。その後、伊方術師は水樹医師に、SCP-3685-JPと出会い頭に遭遇するような運転ルートを指示する。]

水樹医師: しかし、本当に大丈夫なのでしょうか。

伊方術師: 大丈夫だよ。あれは結局のところ……

[水樹医師は指示通りにハンドルを操縦し、左折している。ウィンカーの音だけが録音されている。]

伊方術師: 突き動かされているんだ。あれは「なんで私たちだけが」という嫉妬と脅迫観念でしかない。

水樹医師: ……と、言うと。

伊方術師: 私の考えが正しければ、あのトラックは某事件の犯人なんかではないはずだ。そして、

水樹医師: はい。

伊方術師: きっと、報われたかっただけなんだ。

[伊方術師は前方に財団車両に向かって走行するSCP-3685-JPを確認すると、水樹医師にここで車両を停めるように指示する。]

伊方術師: 来たね。

[財団車両が路傍に停まる。伊方術師は勢いよく車両から脱出し、SCP-3685-JPを凝視する。このとき、小雨が降っているが、伊方術師は傘をさしていない。]

[伊方術師はSCP-3685-JPの前方に立ち、前を見上げて立ちふさがる体勢を取る。伊方術師は両手を広げて停止するように指示をする。]

水樹医師: ちょっと、危なっ……!

伊方術師: 停まりなさい。

[SCP-3685-JPがゆっくりと減速し、やがてブレーキランプを明滅させて停車する。それから、伊方術師はおもむろに車体の側面に回りこみ、扉に手をかけようとする。]

伊方術師: もう貴方達は降りていい。

[伊方術師が車体の扉に手をかけようとした瞬間、停車したSCP-3685-JPの扉がひとりでに開く。]

[車内には、両手両足を縛られた児童の見た目をした人型実体5名が、うつぶせになって倒れている。]

伊方術師: [咳き払い] 子どもは大人に守られて生きているべきなのに、今まで私達が守れなくて申し訳ございません、お悔やみ申し上げます。そして、もう佐山さんの事は諦めてください。

[人型実体は白い靄状に変容したのち、伊方術師を取り囲む。その靄が少しづつ晴れていく。同様にSCP-3685-JPの車体もゆっくりと霧散していく。]

伊方術師: どうか、安らかに眠れ。

[記録終了]


実はもう一つ、SCP-3685-JPの車内から運転手に当たる存在が確認できないという点がずっと引っ掛かっていた。これには思い当たる節があった。過去に起こった誘拐事件、被害者は子ども達……という状況が、私にとってあの出来事を連想させたんだ。

昔私がいた孤児院では、その孤児院を経営していた超常暴力団の仕業によって周りの子どもが不自然に消えていくことに呼応するように、零細規模の奇妙な現象が私の身の回りで起きていた。サイト-81ETに来た事でそれは呪詛事象であり、運よく選ばれなかった私の周りで、選ばれてしまった子の負の情動が具現化しているためなのだと分かったのだけど。

その経験がカギとなった。SCP-3685-JPは犯人の負の情動ではなく、運よく犯人に誘拐されなかった佐山さんに対する、報われなかった子ども達からの負の情動ではないかなと確信して。推測は当たっていたんだよ。

- 伊方 玲香 サイト-81ET副監理官

SCP-3685-JPの無力化は成功したと推測されます。今後3カ月間の経過観察中、神音町内部にSCP-3685-JPの出現が確認されなかった場合、オブジェクトクラスはDecommissionedに再分類される予定です。その際、佐山氏は記憶処理ののち解放されます。

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