収容クラス: Uya1
機密
回収されたポップコーン
特別収容プロトコル: 回収された情報に基づき、サイト-81YHにおいてSCP-3688-JPの開発が進行中です。全ての回収されたポップコーンは、現在サイト-81YHの冷凍保管庫に収容されています。
GoI-8101("日本生類創研")をはじめとする要注意団体がSCP-3688-JPないし類似の特異性を有するトウモロコシを開発した場合、その回収および他団体の有する情報の抹消が実施される予定です。
説明: 以下の情報は、回収された情報に基づく内容であることに留意してください。
SCP-3688-JPは異常なトウモロコシの爆裂種です。生育時のSCP-3688-JPに顕著な特異性は存在しません。
SCP-3688-JPの穎果をポップコーンとして調理した場合、その成果物に特異性が発現します。ヒト個体がその成果物を摂食した場合、摂食者を中心とする遡及改変事象が発生します。成果物を摂食する以前より摂食者がおかれていた状況が消失し、その状況に関する一連の流れが映画として上映されたという内容へ置換されます。このとき、摂食者は最寄りの映画館の座席に転移します。この状況の内容や期間がどのように選定されるかは不明です。映画の上映が終了した後、摂食者以外の客および映画館の関係者は映画の内容や上映の事実を記憶しているものの、指摘されるまでそれらに対する違和感や疑念を抱くことは原則ありません。
補遺3688-JP.1: 歴史
2025/07/06、神奈川県横浜市の映画館のシアター9にて、未登録の内容の映画("映画のお供はポップコーン")が上映されました。上映終了後、客として視聴していたエージェント・水尾が所持していたソトバ計数機2が反応し、エージェント・水尾は所属するサイト-81YHに連絡を入れました。以下は、回収されたフィルムに基づく上映された映画の内容です。
映像記録
<記録開始>
GoI-8101の施設と思しき屋内の様子が流れている。数名の白衣の人物が器具を用いた作業を行っている。
ナレーション: その挑戦は、1人の男によって始まった。
効果音とともに、映像に「映画のお供はポップコーン」というタイトルロゴが表示される。
ナレーション: その男の名は、田宮。日本生類創研の研究員だ。彼は、トウモロコシの品種改良に命をかけていた。
シーンが切り替わり、田宮とされる研究員が不明人物Aに語りかける場面に移る。
田宮研究員: この状況から逃げ出したい、という気持ちは誰にだってあります。そんなとき、このトウモロコシが役に立つはずなんです。
不明人物A: でもよ、なあ、それで採算がとれるのかって話だよ。
田宮研究員: とってご覧に入れましょう。
ナレーション: 田宮の熱意は本物だった。
シーンが切り替わり、屋内にて白衣を着た田宮研究員が作業をしている場面に移る。
ナレーション: 田宮は、トウモロコシの遺伝子を改良しつづけた。全ては、顧客に最高のポップコーンを届けるためだった。しかし、それでもなかなか成果は出なかった。
シーンが切り替わり、不明人物Aが田宮研究員に語りかける場面に移る。不明人物Aがデスクを手で叩く。
不明人物A: いいか? 俺たちは腐っても営利組織だ。開発には金がかかる。そして現状、お前の開発は成功してない。こっちはいつでも予算を打ち切っていいんだぞ? わかってんのか、お前? あ?
田宮研究員: 申し訳ございません。もう少し、もう少しで完成させてみせますので……
不明人物A: お前「もう少し」って言ってればいつまでも待ってもらえると思うなよ? 有能は「やります」じゃなくて「やりました」って言うんだよ。
不明人物Aが、丸めた資料で田宮の頭を何度か軽く叩く。
不明人物A: お前さ、もうこれで何回目の案だよ? 自分のやりたいやりたいばっか考えるんじゃなくてさ、他のチームの手伝いとかすればいいんじゃねえの? 無能にだってできることはあるんだからよ。
ナレーション: 開発は難航した。それでも、彼は諦めなかった。
シーンが切り替わり、田宮研究員が居酒屋らしき場所で複数の不明人物と飲食している場面に移る。
田宮研究員: クソ! あんのクソ上司め、俺の気持ちも知らずにパワハラしてきやがって……
不明人物B: まあまあ、田宮さん、落ち着いて
田宮研究員: これが落ち着いてられっかよ! クソが、絶対にトウモロコシを完成させてやる。「やりました」をそのツラに叩きつけてやるよ。
田宮研究員がビールジョッキをテーブルに叩きつける。
ナレーション: 田宮も、時にはこのように乱れることもあった。しかし、それでも彼の中の信念だけはぶれなかった。その理由を、彼はこのように語っている。
シーンが切り替わり、田宮研究員が椅子に座って何者かに話している場面に移る。対話の対象は画角のために確認できない。
田宮研究員: 自分も、100%の善意で動いてるわけでも、100%のエゴで動いてるわけでもありません。ただ、私にだって逃げ出したい状況というのはあります。そこでピン、と来たんです。嫌な状況を、ポップコーン1つでただの映画に フィクションにできてしまえばどれほど楽かと。そして、これは間違いなく金になります。だからこそ、私はこのトウモロコシを完成させたいんです。
シーンが切り替わり、田宮研究員が椅子に座って何者かに話している場面に移る。対話の対象は画角のために確認できない。
田宮研究員: そりゃあ、くじけたくなるときもあるさ。でも、だからこそ俺は諦めない。だって、あんなクソ上司からも逃げられるかもしれない代物を開発してるわけだからな。このトウモロコシが完成したら、真っ先に俺で実験するんだ。そして、クソ上司の呪縛から解き放たれた俺は、輝かしい研究成果を華々しく発表してやるんだ。
ナレーション: こんな田宮について、同僚たちもこう語っている。
シーンが切り替わり、GoI-8101の施設と思しき屋内にて不明人物BおよびCが会話している場面に移る。
不明人物B: まあでも、本当に田宮さんは頑張ってますよね。うちでも、あそこまで真剣な人は中々いませんよ。だいたい遊び半分っていうか。
不明人物C: な。あんな目に遭っても開発を続けてて、同じ研究者としてちょっと尊敬しちまうよ。こっちも頑張んないと、って気合が入るっていうか。
ナレーション: 田宮は本物の研究者だった。折れず、くじけず、諦めず、ただひたむきに何年も努力を重ねた。
ナレーション: そして、ようやく完成の日が近づいてきた。しかし、そこで田宮の行く手を阻む者が現れた。
シーンが切り替わり、不明人物Aが田宮研究員に語りかける場面に移る。
不明人物A: よお、無能くん。もう、こっちも我慢の限界なわけよ。明日までに成果あげてこねえと予算取り上げるからな。
田宮研究員: は? いや、そんな急に……
不明人物B: ちょ、ちょっと先輩、流石に言いすぎでは
不明人物A: いいんだよ、こんぐらい言わねえとわかんねえだからさ。つうわけで、明日まででよろしく。
ナレーション: 田宮は窮地に追いやられた。
田宮研究員が、トウモロコシの穎果を調理している。
田宮研究員: ちくしょう、明日までに完成させりゃいいんだろ……!?
ナレーション: それでも、なおも田宮はくじけなかった。
田宮研究員: どうする、まだ状況の選定条件がしぼりきれてないんだぞ……? でも、逆に言やあそれをしぼりきれば……
田宮研究員がポップコーンをビーカーに入れる。田宮研究員は資料を手に取り、頭を掻く。
田宮研究員: 遡及改変の選定範囲はやっぱ摂食者の思考に依存させたいが、今からそれを導入するにはどこをいじれば
資料を読んでいる田宮研究員が、ポップコーンを1つ口に放り込む。
田宮研究員: ……あっ。
ナレーション: 田宮の努力はこれからも続いていく。
効果音とともに、映像に「完」という筆書き文字が表示される。
<記録終了>
エージェント・水尾がシアター9から退出する客を監視していたところ、当該映画において田宮と呼称されていた人物が呆然とした状態でシアター9から退出しました。エージェント・水尾は当該人物を確保し、サイト-81YHにてインタビューを実施しました。田宮研究員の証言に基づき、彼の所属するGoI-8101施設の襲撃が実施されたものの、SCP-3688-JPに関する記録は一切回収されませんでした。このとき、当該施設において遡及改変事象の痕跡が確認されました。また、上記映画館において回収できる限り全てのポップコーンが回収されたものの、特異性試験はその結果の確認が困難であることから実施されませんでした。田宮研究員以外の関係者にはクラスA記憶処理が実施され、フィルムなどの関連情報は抹消・一部回収されました。
SCP-3688-JPが存在する場合、重大脅威に対する対抗手段として利用できる可能性があります。このため、サイト-81YHは田宮研究員をSCP-3688-JP研究担当職員として雇用し、SCP-3688-JPの開発を開始しました。本稿執筆時点まで、SCP-3688-JPないし類似の特異性を有するトウモロコシは開発されていません。









