SCP-3710-JP
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発見当時のSCP-3710-JP

アイテム番号: SCP-3710-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-3710-JPはサイト-8181の標準的な人型実体収容セルに収容されます。関連する職務に配属された職員は記憶補強剤を摂取し、認識への影響を無効化してください。

一般社会に流布されたSCP-3710-JPの認識については、カバーストーリーとして有用に作用することから放置されます。流布された認識を補完するように資料を作成し、事実として偽装してください。

現在、SCP-3710-JPに関連する仏壇や墓石などには観測機器が設置されています。関係者が宗教的な動作を実行する様子は監視され、SCP-3710-JPの活動への影響を記録します。年忌法要など施設を用いた供養はフロント企業での実施を誘導し、監視可能な状態を維持してください。

説明: SCP-3710-JPは「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という情報を発生させる32歳の日本人男性、後藤昭義です。

事実としてSCP-3710-JPには急性心筋梗塞で死亡した患者と同じ症状が見られ、細胞はすべて機能していません。肉体もその影響を受けており、死後5時間が経過した死体と同等の状態です。しかし、不明な機序によってSCP-3710-JPは自律した活動を可能としています。依然として腐敗の兆候は発見されていません。能力は男性の平均的な運動能力/思考能力からやや劣りますが、発話や意思疎通に大きな問題点は見られませんでした。

SCP-3710-JPが他者によって認識された場合、該当情報が文章のまま他者の無意識下に潜入します。これは直接的な認識に限らず、書面などSCP-3710-JPの存在を個人として認知させる場合を含み、また伝聞によっても拡散されます。

情報を受容した人物(以下、被影響者)は「2023/09/21の早朝、後藤昭義は急性心筋梗塞により死亡した」と認識します。被影響者は例外なく、死後の幸福を祈るといった旨の宗教的感覚が発生します。認識からの脱却は超常的手段を用いない限り不可能であり、該当情報そのものの除去は高度な外科的手段を必要とするため困難とされています。

SCP-3710-JPが正常な人間とほぼ同じ状態で活動している旨を被影響者に伝達した際、いかなる証拠が存在していても被影響者は必ず否定します。認識を論理的に説明できなくなったとき、被影響者は攻撃的になり、認識に対して不利な存在の排除を試みます。

なお、SCP-3710-JPの腹部には刃渡り20cmの刃物が突き刺さっています。刃物はSCP-3710-JPの肉体に深く食い込んでおり、肉体を損傷させずに刃物を除去することは困難です。刃物について、痛覚が機能していないと推測されるにもかかわらず、SCP-3710-JPは痛みを訴えています。現状、状態保存を理由に刃物の除去は保留されています。

補遺01.3710-JP: 特異性の発生と発見経緯

SCP-3710-JPに特異性が発生したのは2023/09/21と考えられています。SCP-3710-JPは2023/09/21の早朝に肉体の異変を確認しており、その変異が自身の意思によるものでないことを主張しました。

2023/10/27、SCP-3710-JPは財団によって確保されました。発見当時、SCP-3710-JPには暴行を受けた痕跡が残されており、細胞が機能していないため現在も治療は完了していません。

以下は収容直後に実施されたインタビューの記録です。

インタビューログ - 2023/10/29


付記: インタビューは埼玉県内にある初期収容センター、オブジェクト用面会室にて実施。対話部門所属の真北 向がインタビュアーを担当しました。氏は事前に記憶補強剤の投与を受けており、SCP-3710-JPから発せられる情報を無効化しています。

便宜上、SCP-3710-JPを本名で呼称しています。また、SCP-3710-JPにはインタビュアーを臨床心理士として紹介しているため、SCP-3710-JPはインタビュアーを「先生」と呼称することがあります。


インタビュアー: それではインタビューを開始します。後藤さん、ご自身の体験をもう一度話してもらえませんか?

SCP-3710-JP: はい、ええと。朝起きたら、自分が死体みたいな姿に変わっているのに気づいたんです。

インタビュアー: そうですね。もう少し噛み砕いてお願いします。

SCP-3710-JP: はい。すごく、いやな夢を見たんです。内容はよく覚えてないんですけど、とても不安になって。目が覚めてうとうとしている中で手を見たら、肌が灰色になっていました。やたらと乾いていて、血の気なんてどこにもなかった。ベッドから身体を起こすのも大変で、腰や脚を曲げるのにかなり時間がかかったかと。

ドアの向こうから、母が僕を呼んでいるのが聞こえました。いつも起きている時間からはかなり経っていて、さすがに変だと思って返事をしました。身体がおかしいんだ、と。ドアを開けて、母が部屋に入ってきました。

インタビュアー: お母さんはどんな反応を?

SCP-3710-JP: 母は、ひどく狼狽え始めました。目を見開いて、身体を震わせて。自分はよほどひどい症状が出ているんだなと、僕はまだ何も知らなかった。ゆっくり手を伸ばすと、母は血相を変えて逃げていきました。ドタドタ、廊下を走る音がして、そのあと喚くような声が。何かおかしいと僕もあとを追いました。

インタビュアー: 後藤さんはご実家住まいなんですよね。ご家族は?

SCP-3710-JP: 両親と、大学二年の妹が一人。賃貸マンションの一室が実家ですね。みんなで住んでいるので、朝はリビングに集合するんです。あの朝は壁に手をついて、何とかリビングまで歩いていきました。母が何かを話しているのがずっと聞こえていました。

インタビュアー: ありがとうございます。それで、顔を見せたんですか。

SCP-3710-JP: はい。僕が現れた瞬間、親父と妹も表情を変えました。母は僕を指さして叫んで。親父は母と妹を身体の後ろに隠して身構えました。不審者に対してするみたいに。

リビングに置かれた姿見が目に入りました。鏡に映った僕は、まるで死人みたいで。僕も驚いて、動けなくなりました。けど、僕自身は生きてるのと変わらない。少なくとも僕はそう認識しているんです。悪いことが起きていてはいるけど、僕は僕から変わってない。

わかってもらえると思って言ったんです。親と、妹だから。けど、けど。

インタビュアー: まったく聞き入れられなかった、と。

SCP-3710-JP: おかしいじゃないですか。身体は変だけど、僕はこうやって喋れてる。普通の人間と、何ら変わらないはずなんです。何度も何度も説明しました。でも、全然受け入れてくれないんです。言葉は通じてるのに、話がまったく噛み合わない。

「お前はここにいちゃダメだ」「早く眠りについて」って、親父と母が言った言葉を覚えています。何か、僕の見た目を理由に拒絶しているようには思えなかったんです。僕の見た目を容認した上で、見えないルールに従って僕を跳ね除けているような。この1ヶ月、そのことばかり考えていました。

どうすればいいか迷っていたところに、妹が前へ歩いてきたんです。僕の手を取って、強く握った。声はね、優しかったんですよ。

「忘れないから、安心して旅立って」って。もう、もうね、意味不明ですよ。何で、忘れないって言われなきゃならないんですか。旅立つってどこにですか。暗に家から出ていけって言ってるようなもんですよ。前に進まない言い争いをして、疲弊していたのもあったんです。もう少し、もう少し冷静だったら、あんなことはしなかった。

[しばらく沈黙。腹部に刺さった刃物の柄を擦り、俯きがちになる]

インタビュアー: 大丈夫ですか、後藤さん。続けられますか?

SCP-3710-JP: [頭を何度か振る] はい、はい、はい。大丈夫です。話せます。

僕は、妹を突き飛ばしていました。椅子を巻き込んで倒れて、大きな音が鳴りました。妹ははっきりと、僕を恐れるような目で見ている。違うよ、違うよって、すぐに駆け寄ろうとしたんです。

真横から、頭を殴られました。母でした。椅子を掴んで、僕に思い切り叩きつけたんです。僕は床に倒れて、そのまま何度か殴られ続けました。でもなんでか、叩かれるのはそこまで痛くなかったかも。

起き上がると、母は妹を抱き締めて部屋の隅へ行っていました。目の前には、盾になるように父が立っていて。パン切り包丁を僕に向けて、ぶつぶつ呟いていました。来るな、来るな、と。

昨日まで、僕もこの家の子どもだったんですよ? 起きていることが少しも理解できなかった。僕はただ、まだこの家にいてもいいって言ってほしかったんです。それが僕にとっての普通だったんだから。事態が収束するのを待ちました。僕は何もしなかったんですよ。

インタビュアー: では、あなたの腹部に刃物を刺したのは。

SCP-3710-JP: [頷く] 親父です。「お前は死んだんだから、生きてちゃいけない」って。そんな理屈、ありえますか。仮に僕が死んでいるとして、なぜか生きていることを喜ぶはずでしょ。なのに親父は向こうから突っ込んできて、僕に包丁を突き刺した。体重をかけるように包丁を突き刺して寄りかかってくる。腹の真ん中まで斜めに刺さって、すごく重たかった。

痛かった。痛かったし、茫然とした。僕は、ここにいられなくなったんだって。

親父を振り払って、逃げ出しました。ほとんど衝動的に。とにかくその場を逃げたかった。寝巻と裸足で外に飛び出したんです。このままじゃ僕は、なんていうか、全部を否定されると思って。

インタビュアー: それが2023/09/21の朝ですか。では、いままでは何を?

SCP-3710-JP: 別に。ただ、街を彷徨ってただけです。顔を見られただけで死んでる奴だと言われて、いちゃいけないんだと襲われました。けど幸い、飯も睡眠もいらなくなっていたので、拝借した服で顔を隠して歩き続けていればそれでよかった。

見ず知らずの他人でもね、僕の死を悼んでくれるんですよ。2023/09/21の早朝、僕は心筋梗塞で死んでいるそうです。そんなわけないじゃないですか。僕は生きてます。たしかに見た目は死体だし、体温はないし、目も濁ってる。でも、動いているじゃないですか。そう言うと「ありえない」と返されて、僕を追い払おうとする。

僕は、僕は生きたいんです。まだ死ぬわけにはいかないんですよ。

インタビュアー: なるほど。すみません、少し失礼な質問をします。そのような状態になっても、まだ生きていたいと思うんですか?

SCP-3710-JP: [沈黙] 当たり前じゃないですか。死にたくなった日はありますけど、こうなったからこそ生きたいんですよ。

インタビュアー: なぜです? いえ、否定したいわけではなくて。僕がここに派遣されたのはあなたの不安を取り除くためです。つまり客観視すれば、かなり絶望的な状況にあるわけで。その状況で生へのモチベーションを保てている理由が知りたいんです。

SCP-3710-JP: そんなの、僕のかわりがいないからに決まってるじゃないですか。

インタビュアー: かわりがいない?

SCP-3710-JP: うち、収入が少なくて。妹の学費とか、親の老後資金とかは僕が支えてるんです。僕、人とコミュニケーション取るの、苦手なんですよ。油断すると一方的に言っちゃうっていうか。けど、入りがいいから営業やってるんです。会社は給料いいけどブラック寄りで、この14年ずっと仕事でした。その仕事も楽しいわけでもないし。

それでも何で仕事してるかって言ったら、家族がいるからですよ。僕が死んだら余裕がなくなるし、そうしたら親にも無理をさせる。妹だって、いますぐ大学を辞めることがないとしても、好きな仕事には就けないかもしれない。僕がいないと生活が保てないんです。

インタビュアー: でも、あなたはご家族に否定されたじゃないですか。その家族がいる場所に戻りたいと思えるのはなぜです?

SCP-3710-JP: 先生、どれだけ幸せを祈られてもね、死体みたいな顔じゃ幸せになれないんですよ。だってみんな、僕を本当の意味で受け入れようとはしないんですから。そりゃそうですよ。死体は家に置けないから墓に埋めるんです。僕は生きないと。うちを支えるために生きないといけない。うちを支えさえすれば、居場所ができる。

インタビュアー: 後藤さん、それは [時計を確認し、少々沈黙] いえ、わかりました。今日はここまでにしましょう。他に何か、そちらから質問などはありますか?

SCP-3710-JP: そうですね、ええと。あの、先生。僕は元に戻れますよね? 普通の姿に戻って、家に帰れますよね?

インタビュアー: すみません、それは現段階ではなんとも。

SCP-3710-JP: はは、そうですよね。すみません、無茶を言って。でも、待ってます。僕は諦めてませんから。

2023/11/04、SCP-3710-JPの自宅をエージェントが調査しました。SCP-3710-JPの親族はSCP-3710-JPの供述した出来事を記憶していませんでした。しかし、室内の傷跡や新たな刃物の購入歴など出来事を裏付ける証拠が数件ほど発見されています。

SCP-3710-JPの親族、および近隣住民は「2023/09/21の早朝、後藤昭義は急性心筋梗塞により死亡した」という情報を認識しています。病院への遺体搬送、死亡診断書と死亡届の提出、葬儀の実行などは記録として残されており、前述の情報は周辺社会にも浸透しています。

SCP-3710-JPの死亡保険も適用されており、SCP-3710-JPの親族には予定額の資金が振り込まれるとされています。このため、SCP-3710-JPの親族は今後の生活を悲観視していません。SCP-3710-JPの喪失についてはそれほど悲嘆しておらず、SCP-3710-JPの死を積極的に受容しています。

補遺02.3710-JP: SCP-3710-JPの周辺状況について

2023/11/15、SCP-3710-JPの身辺調査が完了しました。

調査の結果、2014/02/07以前にSCP-3710-JPは存在しなかったと考えられます。出生届などは確認されているものの、写真などの私的な記録は一切確認できていません。就業していた企業においても、記録の一部が欠落しています。

同時に「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という情報の起源も発見されました。ネット掲示板を起源とし、その初出は2013/08/17です。この文章は唐突に書き込まれる一文として局所的な注目を集め、オカルトに関心を抱くユーザーの間で小規模に流行するようになりました。この流行は2014年の2月に最盛期を迎えています。IPアドレスを解析したところ、書き込みを行ったすべてのユーザーは超常存在と関連性を持たないことが実証されました。ユーザーの多くはネットロアのようなミームとして前述の情報を扱っていたと見られます。現在、これらの情報は財団により削除されました。

上記の調査結果、および2023/09/21以前に撮影された画像に現在の外見特徴が見られなかったことから、SCP-3710-JPは「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という情報由来の存在である、と分析を担当した形式部門は報告しています。

SCP-3710-JPは「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」というネットロア的な一文から発生した。要因は集団が特定存在を想起したことによる集団現実改変と見られるが、発生を引き起こした直接的な事象は追って調査が必要だと考えられる。

情報を再現した存在が形成される過程において、2023/09/21の早朝と情報に時刻が設定されていたため、死亡していない後藤昭義としてSCP-3710-JPは発生。他の情報を持たなかったため、SCP-3710-JPは普遍的な人間、後藤昭義として社会と融合した。以降、SCP-3710-JPは自身について後藤昭義という情報を発生させながら社会に潜伏。このとき特異性は反ミーム的な性質として作用し、自身が超常存在であることを当人の意思とは無関係に隠蔽していたと思われる。

しかし、2023/09/21の早朝を迎えたことでイベントが進行。後藤昭義には「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した」という情報が付与された。このような顛末を経て、SCP-3710-JPは現在の状態に至る。

SCP-3710-JPが不明な機序により活動している理由には、あとに続く「冥福を祈ります」が関連していると思われる。ホラーとして死者の安寧を祈る表現が使用される場合、そこには死者を宥めるというニュアンスが強く表れる。これは架空人物の死亡状態についてその死が理不尽だったと暗示し、生者に危害を加えるという示唆によって読者に恐怖を与えるためである。つまり後藤昭義は死というイベントを迎えたあと、そうした醜悪な存在へ変貌することが───起源となった文章の文脈では───望まれていた。結果として、歪曲した変異が生じたのではないか。

- 形式部門 分析に関する詳細報告

以下は身辺調査完了後、何度かの確認を経て実施されたインタビューの記録です。

インタビューログ - 2023/11/17


付記: インタビューはサイト-8181、オブジェクト用面会室にて実施。前回と同様、対話部門所属の真北 向がインタビュアーを担当しました。


インタビュアー: インタビューを開始します。後藤さん、まずは一つずつ確認していきましょうか。

SCP-3710-JP: はい。お願いします。

インタビュアー: 我々の調査班があなたの身辺調査をしたところ、2014/02/07以前の記録の一部が欠けていました。公的な記録は存在していますが、例えば写真や個人間のメールなど、あなた個人の存在を証明するものが一切ない。あなたは14年間会社に勤めていたと言いましたが、こちらも3年ほど業績記録がすっぽり抜けています。これについて、何か知っていることは?

SCP-3710-JP: ありません。だって、そんなはずないでしょ。僕には学生だったときの記憶もあるんです。高校の同窓とはたまに飲んでましたし。そっちの手違いじゃないんですか?

インタビュアー: あなたのいう高校時代のご友人はあなたを知っていましたし、死んだことを惜しんでもいました。ですが、どれだけ探してもあなたの写真は見つからなかった。そして記憶を辿るように言うと、あなたの高校時代についての思い出話は一つも出てきませんでした。

他の方も同様です。あなたの父親や母親、それから妹さんでさえ、あなたについて覚えていることはいずれも2014/02/07以降の出来事でした。家族写真にあなたが現れるようになったのは2014年から。疑うのであれば資料をお見せします。

SCP-3710-JP: いりません、そんなもの。

インタビュアー: わかりました。次の確認事項に移ります。「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という文章に聞き覚えは?

SCP-3710-JP: ないって、何度も言ってるじゃないですか。僕がここに来たときから僕とその文章の関係を探ってるみたいですけど、僕には何の覚えもありません。で、何かわかったと大真面目に伝えにきたと思ったら、なんですか、その。

インタビュアー: 10年ほど前の、オカルト掲示板で共有されていたネットミームです。

SCP-3710-JP: [息を吐くような笑い] 馬鹿なんじゃないですか。

インタビュアー: 僕もそう思いますよ。けど、そうした認識の共有によってオブジェクト──ヒトやモノが発生した事例は、過去にいくつか報告があるんですよね。ネットミームの流行というそれ単体では発生しにくい現象ですが、あなたがいた家の土地情報などを調べ直せば要因が……。

SCP-3710-JP: 僕はそんなことが聞きたいんじゃない。もう、はっきり言ってくださいよ。

インタビュアー: 何をですか?

SCP-3710-JP: 僕は、死ぬために生きてたんですか?

インタビュアー: 後藤さん、落ち着いてください。

SCP-3710-JP: だってそうじゃないですか。最初から決まってたんでしょ、2023/09/21の朝に僕が死ぬことは。なのに僕は何も知らずに、何の関係もない家族のために金を稼いで、馬鹿みたいに幸せを夢見てた。あんたらが持ってきた真実ってのはそういうことなんですよ。

インタビュアー: それはあなたの思い込みです。

SCP-3710-JP: 先生には理解できませんよ。先生、死んだことないじゃないですか。死んだのに生きてて、また生き返ることを望んで、やり直そうと考えて。でもね、全部無駄だったんですよ。僕は最初から死ぬことが決まってて、生きている状態に意味なんてなかったんです。

[瞼が痙攣する。涙腺は機能していないらしく、涙が流れる様子は見せない]

作り物だったんだ。僕も、家族も、友人も。お飾りで、大事でも何でもなかった。僕を生み出した誰かにとっては僕が惨たらしく死ぬのが大事で、僕の人生は大事じゃなかった。

インタビュアー: 違いますよ。あなたは一人の、独立した個人です。これまで生きてきた時間は大切にしてもいい。

SCP-3710-JP: 嘘つけよ。あんたもいっしょだ。無責任なんだ。「冥福を祈ります」って言葉の裏で、僕が見苦しくあることを願ってる。自分とは関係ないって本当はわかりきってる。だからそんなに余裕でいられるんだ、なぁ……。

[激しく身体を動かしたためか、SCP-3710-JPの腹部に刺さった刃物が微かに揺れる。SCP-3710-JPは顔をしかめ、唸り声を発する]

インタビュアー: 後藤さん、大丈夫ですか? 一度インタビューを中断して医療担当に。

SCP-3710-JP: もう、もういやだ。死んでるのか生きてるのかわからない身体なんて。

先生。いっそのこと、あなたたちで殺してくださいよ。結局、死人に幸せなんてないんだから。

補遺03.3710-JP: SCP-3710-JPの変異

2023/11/20以降、SCP-3710-JPは容態を変容させました。

SCP-3710-JPは睡眠を必要とせず、観察される範囲内ではそれに近しい挙動を見せませんでした。しかし、前回のインタビュー実施日である2023/11/17以降より、SCP-3710-JPは入眠の姿勢を取るようになりました。支給されたベッドにSCP-3710-JPは仰向けに倒れるようになり、数時間活動しなくなるといった行動を繰り返しています。うつ伏せに倒れようと試みる場合もありましたが、いずれの場合も途中でその動作を中断しています。これは腹部に刺さった刃物が阻害要因になっているものと推測されます。

2023/11/20以降、活動停止時間の増加が確認されています。2023/11/22、SCP-3710-JPの活動停止時間は10時間を記録し、以降も同程度の時間だけ活動を停止するようになりました。この状況は1週間ほど続き、2023/11/30には26時間の活動停止、2023/12/04には52時間の活動停止が観察されました。

2023/12/05に実施されたインタビューより、SCP-3710-JPから見受けられる希死念慮は薄れていると報告されました。同時に、自身が死者という認識を前提にした発言が数多く見られるようになりました。情報の事実確認を経て、SCP-3710-JPの自己認識は改められた可能性があります。

また活動停止中、SCP-3710-JPは「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という情報を発生させないことが判明しています。他者に潜在している情報からも特異性は消失し、宗教的感覚を発生させない普遍的な情報として潜在します。これは活動を停止したSCP-3710-JPが「冥福を祈ります」という情報の適用範囲から逸脱しており、それに伴って情報および宗教的感覚の発生が一時的に消失しているものと推測されます。

2023/12/07、SCP-3710-JPは活動を停止しました。数分程度の活動再開を除き、2023/12/28時点までSCP-3710-JPはほとんど活動していません。

容態変容を以って、SCP-3710-JPの特異性は消滅する可能性があります。

2024/01/04、SCP-3710-JPが活動を再開しました。活動再開直後のSCP-3710-JPは不可解な行動を取り、自身が活動を再開した要因が不明であることに不安を抱いていました。SCP-3710-JPは安定して活動しており、活動を停止する兆候を見せません。

2024/01/06、SCP-3710-JPが滞在していた後藤家をエージェントが調査したところ、活動再開に関連すると思わしき情報が発見されました。

2024/01/02、後藤家では設置した仏壇に向けてSCP-3710-JPの供養が行われていました。正月を迎えていたため特殊な物品を供物として仏壇に供えており、長い時間をかけて供養したと発言しています。また2024/01/02および2024/01/03には、SCP-3710-JPが学生時代の友人と語った人物らやSCP-3710-JPが勤めていた企業の関係者らが、SCP-3710-JPを供養する目的で後藤家を訪問していました。

2024/01/02および2024/01/03時点ではSCP-3710-JPは活動を停止していたため、該当情報は発生しておらず宗教的感覚も機能していませんでした。上記の人物らが取った一連の行動は、その人物らの意思より実行されたと思われます。これらの行動がSCP-3710-JPの活動再開に影響した要因として、形式部門は以下のように報告しています。

現在、SCP-3710-JPの自己認識は死者である。かつては生者として振る舞っていたが、情報共有によって死者として自身を捉え直し、最終的にはただの死体となった。以前SCP-3710-JPはインタビューで自身を殺害するよう言ったが、あれは自身を生きている者と認識していなければ出てこない発言だろう。長期活動停止前のインタビューではもはやそうした発言すら見られなかった。

かくしてSCP-3710-JPは肉体も精神も死体となった。「2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡した後藤昭義の冥福を祈ります」という悪意を含んだ一文は、死んでなお生きている皮肉な存在にしか機能しない。これにより情報と宗教的感覚は発生しなくなり、特異性は失われるものと思われた。

しかし、外部の人々によってSCP-3710-JPはその冥福を祈られた。今回こそ正しく冥福を祈られたのである。情報から発生したSCP-3710-JPに再び統一性のある情報が流入、生者の想像する幸せな状態になるようSCP-3710-JPを改変した。集団現実改変と類似する理論によって、SCP-3710-JPは活動を再開するに至ったのではないか。

より科学的な相関関係はさらなるデータが必要となる。だが現段階でも、これまでとは意味の異なる「冥福を祈る」という人々の思考がSCP-3710-JPに影響することは事実と断定してよい。既に実験により、無関係な人物がただ死を悼むだけでは影響が薄いと確認されている。人々が冥福を祈る限り、SCP-3710-JPの特異性は持続するものと思われる。

- 形式部門 SCP-3710-JP活動再開に伴う要因分析

以下は上記情報の確認を目的として実施されたインタビューの記録です。

インタビューログ - 2024/01/09


付記: インタビューはサイト-8181、オブジェクト用面会室にて実施。前回と同様、対話部門所属の真北 向がインタビュアーを担当しました。


インタビュアー: 後藤さん、今回もいくつか確認事項があります。その前に1つ。また随分と体調が優れないようですね。

SCP-3710-JP: [待機中からSCP-3710-JPは頭を抱え、俯いた姿勢を取っていた]

先生、もう寝させてくださいよ。僕はね、やっと眠れると思ってたんです。寝ている間、僕は何も考えなくて済んだ。いやな夢を見て不安になることもなかった。

インタビュアー: わかりました。わかりましたから、少しずつ話していきましょう。

SCP-3710-JP: わからないですよ、先生には。なんでまた起こされるんだよ、言われた通りにしてるだけなのに。「冥福を祈ります」「冥福を祈ります」って、世の中じゃ僕が消えたあとも言われ続けてるんでしょう? 最初からそれに従えばよかった。脳が腐ってるからこんな簡単なことにも気づけなかったんだ。

インタビュアー: あなたの肉体で腐敗は進行していません。

SCP-3710-JP: [舌打ち] その冷静さがずっと嫌いでしたよ。どうせ僕を起こしたのもあなたたちなんですよね?

インタビュアー: いいえ。我々は特に介入していません。

SCP-3710-JP: じゃあ誰なんですか。

インタビュアー: あなたの家族、友人、同僚です。

SCP-3710-JP: [沈黙] 何を言ってるんですか?

インタビュアー: 正月のことです。あなたがかつて滞在していた後藤家で、あなたは豪勢に悼まれた。訪問調査したエージェントによると、仏壇には日本酒と果物のセットが供えられていたそうです。かつてのご家族と、ご友人と仕事仲間が用意したものだそうで。

ご家族の話では、かなり長い時間、あなたについて話していたとか。通夜も四十九日も終わっているはずなのに、わざわざ仏壇の前で思い出話をしていたようです。このときあなたは活動を停止していて、情報を植え付けられたとしても供養しようとはしないはずなんです。

つまりは、あなたの死を本当に悼もうとする意識の流れが、またあなたを起こした。現状はそう考えられます。

SCP-3710-JP: そんなので死体が起き上がるわけないじゃないですか。

インタビュアー: そうですね。僕たちもこれを最終的な結論とするわけではありません。しかしね、あなたを情報としてしか知らない人間にあなたの死を悼むよう指示しても、現実改変に関係する数値の変動は小さかったんですよ。実験の結果、そういう数字が上がってきました。正月の出来事があなたの活動再開に直結しているのは間違いない。詳細な結果が出たら資料をお見せしても構いません。

SCP-3710-JP: 嘘ですよ。全部、嘘です。取ってつけて組み立てた話でしかない。だって、僕は嘘の存在なんですよ? 元々僕は存在しなくて、あなたがいう家族も友人も同僚も、全部が嘘の関係じゃないですか。そんな丁寧に悼まれるわけないですよ。

インタビュアー: 後藤さん、確かにあなたの出自は空虚そのものです。2023/09/21の早朝、急性心筋梗塞により死亡。意味のない日付と適当な死因で構成されていて、すべては「冥福を祈ります」を言うためだけの飾りでしかない。薄っぺらく消費されるためだけに生み出された人生です。事実、2014年より前は存在すらしていなかった。

SCP-3710-JP: ほらみろ。僕はただの死人だ。死ぬために生きてただけの存在だ。僕の人生に意味なんて。

インタビュアー: でも、8年は生きていた。

SCP-3710-JP: [沈黙] ……は?

インタビュアー: 死を迎えるまでの8年、あなたはたしかに生きていたでしょう? 飾りでしかないものに意味を付け足して、後藤昭義という名前を血の通った人間にした。その結果ですよ、死を悼まれているのは。あなたは紛れもなく生きていたんです。死んだあとも幸せでいてほしいと、願われるだけの存在ではあった。

思えば以前から、あなたにはその傾向がありました。以前「家族を支えるために生きなくては」と言いましたよね。あれは自分が経済面以外で頼られていると思ってなかったからです。けど、どうですか? あなたは自分が思っているより、きちんと生きれていたと思いますよ。

SCP-3710-JP: どうですかね、それ。 [深く息を吐く]

インタビュアー: 何か考えていることがあるなら話してもいいですよ。そのための臨床心理士です。

SCP-3710-JP: 僕、変なことすぐ言うじゃないですか。それでなんかよくない空気になることも何回もあって。だからずっと、厄介に思われてるんだと。みんな、死んでせいせいしたって思ってんじゃないかって。あのとき……最初に家にしがみつこうとしてたのは、怖かったんでしょうね。いらない存在になって追い出されるのが、本当に怖かった。

金と立場を求められてるんだと納得させて、そのうちに死んだ。そうしたら最初から死ぬはずだってわかって、本当に死体になりたくなったんです。もういいか、って。それが全部じゃないっていうなら、まぁそれは、いいことなんでしょうね。

インタビュアー: あなたが生き返ることはないでしょう。でも、死人にだって幸せはあるんです。生きている人が幸せを祈れば、死人は幸せだってことになる。一方的で、これもある意味では歪んでますけどね。

SCP-3710-JP: [俯く。深い呼吸を何度も繰り返す]

わかんないです、正直。僕が死人とほぼ変わらないのはずっと続くんですもんね。会いに行ったところで、親父も母さんも妹も僕を拒むんでしょうし。僕は死んだまま、何も変わらないんでしょう?

インタビュアー: おそらくは。けど、あなたを偲ぶ人がいるのは間違いありません。死んで皮肉を言われるだけじゃない。冥福を祈る思いは、できれば無下にしないであげてください。

SCP-3710-JP: 何なんですかね、僕。死んでるのか生きてるのかはっきりしないのに、死は押し付けられてる。こんなふうに生まれたのはまだ恨めしい。恨めしいのに、向けられた気持ち自体は本物って。なんかもう、阿呆らしくて馬鹿らしい。意味なんてないだろ、そこにいない人間のことを考えても。

少し、認めてもいいのかな。死んでる自分も、生きてた自分も。ちゃんと、冥福を祈られるような人間だったって……

[衝撃が発生し、SCP-3710-JPが椅子ごと後ろへ倒れる。目を見開き、歯を食いしばってうめく]

インタビュアー: 後藤さん? 大丈夫ですか? すみません、お願いします。

[インタビュアーの指示により、警備担当者がSCP-3710-JP側の面会室へ進入。室内にSCP-3710-JP以外の存在は確認できず。SCP-3710-JPは腹部を抑えていたが、その手を外す。腹部に突き刺さっていた刃物は消失している。少しして、部屋の隅から1本のパン切り包丁が発見される]

SCP-3710-JP: 抜けた。なんで。なんでだ。いてぇ、いてぇ。わかんねぇ。だけど、もう苦しくねぇや。

インタビューにおいて、インタビュアーの発言にオブジェクトへの過介入が指摘されました。インタビュアーは過失を認め、特異性研究における記録された言動の重要性を考慮した上で厳重注意処分が下されました。

2024/01/10、SCP-3710-JPは活動を停止しました。活動停止期間における特異性および活動再開の詳細要因を研究する目的で、各種の実験計画が進行中です。流布された情報を排除しオブジェクトの活動再開を阻害する試みは、オブジェクトの活動規模が狭小であるため保留されています。

SCP-3710-JPの腹部から刃物が抜けた要因は、SCP-3710-JPの精神状態の面から分析が進められています。

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