警告: この記事、並びにSCP-3722に関する全ての情報は、読者に忘却効果を及ぼす情報災害を含んでいます。この記事を読んでいる人物は、記載されている情報の大半を記憶し続けることができません。SCP-3722割当の全ての研究者は、当記事の読了後、適切な用量の記憶補強薬投与を受けなければいけません。
アイテム番号: SCP-3722
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3722を防止する手段はまだ発見されていません。SCP-3722の忘却効果のため、曝露後に記憶補強薬投与を受けた職員のみがSCP-3722や任意のSCP-3722事象に関する情報を思い出すことができます。この効果は現在までのところ、SCP-3722が一般社会に露見することを防いでいます。
SCP-3722の不安定な性質上、この忘却効果は将来的に失われる可能性があります。このような事案が発生した場合、SCP-3722が一般に知られるのを人為的に阻止するオペレーション・シーザーズスパイダーが実行されます。SCP-3722の更なる劣化を防ぐため、財団エージェントがイスファハーン市当局の企画部門に潜入しています。彼らはSCP-3722の更なる不安定化を招く恐れがある都市や景観への改変を防止します。
記憶補強薬の技術を保有していないORIAは、SCP-3722の発生に気付いていないと考えられています。ORIAによる記憶補強薬技術の獲得阻止は極めて重要な事項と見做されます。ORIAへのSCP-3722通知は、異常現象を収容し民間人の曝露を防ぐ際に支援を得るため、オペレーション・シーザーズスパイダーの一環として行われる予定です。
SCP-3722に入場する人間はSCP-3722-1個体に変化するため、SCP-3722の観測は遠隔操作ドローンを介して実施します。
説明: SCP-3722は、ヒジュラ暦で毎年の第一月ムハッラム13日、イランのイスファハーン市において発生する事象を指します。夜明けに開始し日没時に終了するこの事象において、都市の全体構造およびレイアウトは、その歴史の初期における状態のほぼ同一なコピーへと変容します。SCP-3722は常に1722/10/23(ヒジュラ歴1135年第一月ムハッラム13日)以前のある一時点における都市の状態を模倣します — 通常、これは1610年代と1670年代の間の何処かです。街の内部で起こる正確なシナリオは、現象発生時のイランで起きている出来事とテーマ的な関連性を有すると考えられています。
街の住民もまた、SCP-3722が模倣している期間や場所と一致するように衣服・外見・人格を突然変化させます。これらの人物たちを以下でSCP-3722-1とします。SCP-3722-1個体は模倣された年代における適切な形式で行動し、その当時の都市機能に必要とされる仕事や役割に従事します。SCP-3722発生中に街に入った人物もSCP-3722-1個体になります。人間以外の物体が街に入場した場合は事象発生後も影響を受けませんが、しばしば遭遇したSCP-3722-1個体を困惑させます。
日没時、街は唐突に崩れて瓦礫と化します。これに続いてSCP-3722は終結し、街は普段の非異常状態に戻ります。SCP-3722-1個体群は元々の個人に戻り、SCP-3722の回想記憶は残りません — 彼らの記憶は、問題の日に起こった別な出来事のシナリオによって埋め合わせられます。同じ現象が、外部観察者や間接的手段でSCP-3722のことを学んだ人物にも発生します。この記憶喪失に対抗できる唯一既知の手段は記憶補強薬剤の使用です。
SCP-3722がいつから発生しているのかは不明ですが、1722/10/23(ヒジュラ歴1135年第一月ムハッラム13日)の直後に始まったと推定されています。当該現象は、現代的な記憶補強薬の開発・実装から間もない1978/12/13(1399年第一月ムハッラム13日)に財団職員に発見されました。
以下は特に注目に値するSCP-3722事象のリストです。
事案発生日時 |
SCP-3722が模倣した年代 |
事象の注記 |
事案との関連性が疑われる当時の出来事 |
1979/11/20 (1401年第一月ムハッラム13日) |
西暦1503年 |
都市はシャー・イスマーイールによる占領直後のように見受けられる。一部のSCP-3722-1は有頂天になり、“迫り来る黙示録”と“救世主マフディーの再臨”を求める声を繰り返し上げていた。残りの個体たちは、新たに創造される社会での自らの役割を懸念している様子だった。 |
1979年イラン革命とそれによる政治不信 |
1982/10/30 (1403年第一月ムハッラム13日) |
西暦1550年頃 |
シャー・タフマースブの姿をしたSCP-3722-1個体が、恐らくはマムルーク統治県の公式訪問として、SCP-3722-1の群衆の前に姿を現した。注目すべき点として、SCP-2067がタフマースブの横に浮遊していた — 対象を毛嫌いしていた事実が歴史的に確証されているにも拘らず、タフマースブはその存在に満足しているように思われた。タフマースブ個体は頭部周辺に金色の光球を伴って出現し、そこから数本の光線が空に放射されていた。これは恐らく、タフマースブがアリーとの直接接点を持つ神聖な王を自任していたことの表現と思われる。 |
ORIAの中央政府に対する従属 |
1988/08/25 (1409年第一月ムハッラム13日) |
神話の一場面; サーサーン朝時代のイスファハーンに近いと思われる |
SCP-3722-1個体は、30代の男性および女性の2体しか存在しなかった。2個体は事象発生期間中、イスファハーンを彷徨い歩き、通りで会話したり踊ったりしながら過ごした。会話の内容を基に、この2個体は11世紀の叙事詩“ホスローとシーリーン”に描かれているサーサーン朝の君主ホスロー2世とその妃シーリーンを表したものだと考えられている。 |
不明; 恐らくイラン・イラク戦争の終結 |
1989/08/15 (1410年第一月ムハッラム13日) |
西暦1092年 |
SCP-3722-1個体群は、1092年にイスファハーンからバグダードへ向かう途上、暗殺教団ハッシャーシーンの構成員に暗殺されたセルジューク朝の大宰相、ニザーム・アル=ムルクの死を悼んでいるように思われた。 |
アーヤトッラー・ホメイニーの死 |
1995/06/11 (1416年第一月ムハッラム13日) |
神話の一場面 |
街全体が、上空に幾つかの巨大な雲がかかった温帯雨林に置換された。雲の上には多数の人間と動物が座っており、その全てが浴場を建設すべきかどうか議論し合っていた。この場面は、現代に先だってイスラーム以前のイラン史の一般的理解を伝えていたフェルドウスィーの神話的歴史叙事詩、“シャー・ナーメ”に見られる“カユーマルスの宮廷”神話を表現したものと考えられる。 |
当時物議を醸した、サファヴィー朝時代の浴場の爆破解体 |
2002/03/26 (1423年第一月ムハッラム13日) |
c. 西暦400年頃 |
事象発生中、古代イスファハーンに新しく作られた“ヤフディア”の名称で知られるユダヤ人居住区への大規模移民が観察された。サーサーン朝の君主ヤズデギルド1世のユダヤ人王妃、シュシャンドゥクトの姿をしたSCP-3722-1個体が存在し、新たな市街区に入るユダヤ人集団のSCP-3722-1個体群を歓迎しているように思われた。注目すべき点として、SCP-3722-1個体群の間で交わされていた会話は専ら歴史上の人物ではなく、“シャー・ナーメ”の英雄ロスタムが為した偉業に関連するものだったようである。 |
不明 |
2009/12/29 (1431年第一月ムハッラム13日) |
西暦1666年 |
SCP-3722-1個体群は、1666年から1667年にかけてイラクを襲った飢饉に対する全般的な不安感を再現しているように見受けられた。この飢饉に対する当時の中央政府の対応は遅いものだった。 |
2009年の大統領選挙の結果に対応してイラクに広がった全般的な不安感 |
2013/11/16 (1435年第一月ムハッラム13日) |
西暦1722年と思われる |
補遺2参照 |
ホターキー朝によるイスファハーン陥落300周年 |
補遺1、2011/10/01: 2011/09/08、財団の歴史家はオスマン帝国アーカイブにおいて、サファヴィー朝時代の手紙の破損した1ページを発見しました。筆者と受取人は不明ですが、手紙の日付は1590年にサファヴィー朝とオスマン帝国の間でコンスタンティノープル条約が締結された後です。手紙は始まりも終わりも文章の途中で途切れており、広範な水害を被っていました。原語のペルシャ語から翻訳したものが以下になります。
ば、君の第二のソロモンたるお方が保証してくれるとも。この平和が千年も続きますように! 同胞たるイスラム教徒同士の敵意は全く嘆かわしい話だ。ダール・アル=イスラムは結束を保たなければならない。
もっと魅力的な、そして恐るべき話題について教えよう。僕らのシャーのイスファハーン復興計画の話だ。彼は奇妙な手段を講じた — イスファハーンの旧市街を改築しないことを決定したんだ、家やモスクに変化はない。代わりに、僕らの栄誉ある君主は、旧市街を少し離れた場所に全く新しい都の創造を考慮している。彼が提示した案は形式も機能性もほぼ完璧だよ。彼は美しい家並みが、庭が、木々が並ぶ一本の長い大通りを作るつもりでいる。その道路は宮殿の開けた場所を通ることになる。宮殿の反対側に
<執筆後の水害によって、手紙はここから数行が判読不可能になっている>
意匠について様々な錬金術師や医師に相談していた。その完全性は単純な街としての必要条件を越えて、人間の心の、特定の錬金術的表現を真似るように設計されている。都はそれ自体が一つの生命を宿すだろう。都の、潜在意識への奇妙な呼び掛けは、その壁を目にする全ての者に、壮大な過去の記憶と盛大な魅力を帯びて届くだろう。隆盛と栄華はきっと何世紀にもわたっ
<執筆後の水害によって、手紙はここから数行が判読不可能になっている>
もし損なわれることがあればの話だ。シャーの計画を機能させるためには、意匠は無傷でなければならないと僕は気付いている。改変や破壊は意匠に修復不可能な欠陥を生じさせる。完全に不活性になるとは思わないが、代わりに
補遺2、2013/11/17: ホターキー朝によるイスファハーンの陥落300周年(ヒジュラ歴換算)を迎えた2013/11/16(1435年第一月ムハッラム13日)、SCP-3722は顕著に異なる形態を取りました。対象は1722年の陥落後のイスファハーンを模写しているように思われたものの、SCP-3722-1個体の完全な欠如など、幾つかの特筆すべき変化が認められました。この異常な展開の詳細を探るため、遠隔操作ドローンがイスファハーンへ送り込まれました。
時/分/秒: ドローンの位置と周辺領域の説明。
<記録開始>
00/00/00: ドローンが町の境界のすぐ外側で起動される。
00/01/03: ドローンは北門から町に入場。全ての建造物は手入れが行き届いた状態にある。ドローンはチャーバッグ通りを下って宮殿へ向かうように指示される。
00/19/38: ドローンは、17世紀初頭に建てられたと思われる典型的なサファヴィー朝の貴族の家を通り過ぎる。ホターキー朝に仕える兵士に似たSCP-3722-1個体が多数、唐突に出現する。個体群は家への略奪と放火を始める。この間、周辺の家屋に軽微な構造上の損傷が表出する様子が捉えられる。火が消えた後、SCP-3722-1個体は消失する。ドローンは探索続行を命じられる。
00/37/08: ドローンは17世紀のコーヒーハウスを通り過ぎる。20世紀半ば相当の服装をした2体のSCP-3722-1個体が唐突に出現する。片方のSCP-3722-1個体はコーヒーハウスの店主を、もう一方はコーヒーハウスをアパートに改装したい不動産業者の役を演じているように見受けられる。長い交渉の後、“業者”個体は硬貨の詰まった袋をポケットから取り出し、“店主”個体に渡す。この時点で両個体は消失し、コーヒーハウスは倒壊する。カメラの視界にある他の建造物にさらなる構造損傷が及び、うち数棟が倒壊する。ドローンは探索続行を命じられる。
01/05/45: この時点で、砂が横町からチャーバッグ通りに流れ込んでいる様子が注目される。調査により、砂は道路の表面にある様々なひび割れを通して地下から押し上げられていることが示された。ドローンは探索続行を命じられる。
01/17/18: ドローンは宮殿の入口に到着。入場すると、略奪者を模したと思われる多数のSCP-3722-1個体が、諸々の貴重品を持って宮殿内を走り回っているのが映る。ある1体のSCP-3722-1個体が、神罰の一形態として“偽スーフィーどもの財宝を取り上げる”ことを略奪者たちに促している。全てのSCP-3722-1個体は19世紀初頭に適切な服を着ている。この行動を3分間続けた後、SCP-3722-1個体群は消失 — 宮殿を構成する建物の幾つかが突然倒壊する。ドローンは宮殿を通ってアリ・クァプ・パビリオンに向かい、ナクシェ・ジャハーン広場へ入るように指示される。
01/27/03: ドローンはナクシェ・ジャハーン広場に入る。広場の中心に、非異常状態の街には存在しない1体の彫像がある。ドローンは彫像に近付くよう指示される。大量の砂が広場の地表や周辺建造物のひび割れから噴出しているように見える。広大な面積にも拘らず、砂は急速に広場を埋めていく。
01/30/14: 彫像は、勝ち誇った様子で空を見上げるシャー・アッバース1世を表していると思われる。台座にペルシャ語の二行連句が彫り込まれている — “蜘蛛が皇帝カエサルたちの宮廷の帷を織っている/梟がアフラースィヤーブの塔の物見を呼んでいる”。
01/30/49: 砂は体積を極めて急速に増大させている。街の鳥瞰図を得るため、ドローンは真上に飛行するよう指示される。
01/31/58: ドローンは高度1000mに上昇する。街路が体積を増し続ける砂によって完全に覆い尽くされているのが見える。
06/57/33: 日没が開始。街の建造物は全て完全に砂に呑まれている。砂の下での動きは、都市の崩壊が始まったことを示唆している。ドローンは基地に帰還するよう指示される。
<記録終了>
日没後、SCP-3722は終了し、イスファハーンの住民たちは通常通りに復元されました。
私には彼らに思い出してもらうことすらできないのです。忘れてしまうこともできないのです。