<記録開始>
[映像はローレンス博士のスーツカメラ視点から撮影されている。初めの数秒間、SCP-3737-1へ接近するマッコール博士、ロストヴァ博士とその背後にいるローレンス博士が映る。エージェント・クロフォード、バルデュー、アレクサンダー、ラミレスが彼らに帯同している。]
マッコール博士: 異常空間内へ進入します。
[チームは霧の壁を通過する。映像が乱れ、復旧まで約2.4秒が経過する。SCP-3737の船着場に到着した研究チームの映像が映る。]
ローレンス博士: 今見えているのは青空か?
マッコール博士: ありふれた光景が見られるとは思わなか…
アレクサンダー: 止まってください。海岸に何か見えます。
[数フィートのロープで船着場と繋がれた、イヌのSCP-3737-2の群れの映像へ切り替わる。SCP-3737-2はチームの存在に気が付いていない。]
ラミレス: いつでも撃てます。
アレクサンダー: 待て。交戦するな。
[マッコール博士は振り向き、エージェント・アレクサンダーと顔を合わせる。]
マッコール博士: 友好的かもしれない。
アレクサンダー: 我々が確認した方がよいでしょう。バルデュー、あちらへ向かい、実体のいずれかと接触を始めてくれ。
バルデュー: 了解。
[エージェント・バルデューはチームから離脱し、武器を構えた状態でSCP-3737-2実体へ接近する。実体の1匹、オスのエアデールテリアがエージェント・バルデューに気が付き、彼に顔を向ける。他の実体は依然気づく様子はない。]
アレクサンダー: 好ましくない行動を取るようならば、撃て。
バルデュー: 了解。
[実体はエージェント・バルデューの正面に近寄り、座る。エージェント・バルデューは実体へ武器を向ける。]
バルデュー: 指示を。
アレクサンダー: まだ撃つな。バルデュー、実体と身体的接触を図ってくれ。クロフォード、ラミレス、交戦の準備を。
[エージェント・バルデューは実体の前に手を伸ばす。実体はゆっくりと近づき、エージェント・バルデューの手の下に頭をつける。バルデューが実体の頭をなで始めると、実体はあえぐように呼吸をする。]
マッコール博士: 残忍な生き物のようには到底見えませんね。
ロストヴァ博士: よくよくご存じかと思いますが、どんな見た目のものでも能力が-
ローレンス博士: キャサリン、そいつは今言うべきことかい?
ロストヴァ博士: 何よ、バーノン?用心して何が悪いの?
ローレンス博士: 用心深いことと、極端な推測をすることはまったく別のことだよ。
ロストヴァ博士: 私は考えすぎなどではないわ。仕事に真剣に取り組んでいるだけ。
マッコール博士: お二人とも静かにしてもらってもいいかな。彼らが怖がってしまうよ。
[実体の何体かがチームから距離をとっている。]
ラミレス: 動物園か何かをまるごとここに持ってきちまったのかねぇ?
バルデュー: 聞いてくれ。この犬にはカラータグがついている。
[エージェント・バルデューはSCP-3737-2実体のカラータグを調べる。]
バルデュー: 彼の名前はフェリックスだ。
ロストヴァ博士: 名前があるの?
ローレンス博士: みなカラータグをつけているね。誰かに飼われているのか?
アレクサンダー: 今のところ重要な情報とは思えないですね。このまま先へ進むべきでしょう。
[数時間が経過する。チームはSCP-3737内の数エリアを探索する。島は森や草原などの多種多様な地形で構成されており、さらなるSCP-3737-2実体がいると判明した。]
クロフォード: 我々がここに到着してから太陽が動いていないことにはお気づきですか?
ローレンス博士: この島の異常性の一つかもしれません、なんとも言えませんが。
[SCP-3737-2実体の一体、メスのボクサー犬がそばの茂みの中から現れ、マッコール博士に接近する。]
ローレンス博士: 君のことを気に入っているみたいだね。
マッコール博士: そのようですね。
[マッコール博士は実体についた青いカラータグに気づく。彼は動きを止める。]
ロストヴァ博士: 大丈夫、ルドウィグ?
マッコール博士: あ、ああ、大丈夫だ。この実体が昔の友人のことを思い出させてくれてね。それだけさ。
バルデュー: ネームタグを確認しましょう。
マッコール博士: あの子だなんてまさかありえない。
バルデュー: せっかくの機会です、確認してみましょう、博士。実体に接触する許可をいただけますか?
アレクサンダー: 許可する。細心の注意を。
[エージェント・バルデューは実体の正面にしゃがみ、ネームタグを調べる。]
バルデュー: 彼女の名前はジプシーですね。
マッコール博士: あの子の名前だ。
ロストヴァ博士: それで?ジプシーという名の犬なんてごまんといると思うんだけど。この犬があなたの犬だって思ったのはなんで?
マッコール博士: ジプシーも青いカラータグをつけていた。
ローレンス博士: 君がジプシーについて話していたのを覚えているよ。彼女は亡くなったのでは?
マッコール博士: 彼女は死んだ。私が16歳の時に、安楽死させなければならなかったんだ。
ローレンス博士: ならば、彼女はここで何をしているのかな?
ロストヴァ博士: 私の考えを言わせてもらうと、最もありえるのは-
[別のSCP-3737-2実体が出現し、ロストヴァ博士は警戒をする。彼女は黒のカラータグをつけたオスのシャム猫と顔を合わせる。]
ロストヴァ博士: そ、そんな、ありえない。
ローレンス博士: どうしたんだい、キャサリン?
[ロストヴァ博士は実体に近づき、自身のスーツを脱ぐ。彼女は実体を捕まえ、胸で強く抱きしめる。実体はゴロゴロと音を出して鳴く。ロストヴァ博士は泣き始める。]
バルデュー: いったい何をやっているんですか?
アレクサンダー: わかりかねる。博士、どのようなおつもりで?
ロストヴァ博士: 昔飼っていたシャム猫ととても似ているの。カラータグも、なにもかもが一緒。ネームタグもそうなの。
ローレンス博士: キャサリン、もっと用心するべきですよ。SCP-3773とよく似た状況です。
ロストヴァ博士: そんなのと一緒にしないでよ、バーノン。パイクはとんでもなくおかしい人で、彼女の猫もそうだっただけよ。
[ロストヴァ博士は、到着前には映像に出現していなかった、紐付きの羽根を見つける。彼女はその竿を拾いあげ、SCP-3737-2実体と遊び始める。マッコール博士は、イヤホンからの声に反応し、SCP-3737-2実体との触れ合いを止める。]
マッコール博士: 妙ですね。
ローレンス博士: どうかしましたか、ルドウィグ?
マッコール博士: 橋にいるチームがこのポータルの安定性が失われていると報告しています。キャンプ地まで可能な限り早急に帰還するべきかと。
ラミレス: 船着場はここからそう遠くはありません。少なくとも1、2時間ほどでしょう。
マッコール博士: 崩壊まで2時間ほどは保つとのことです。
ロストヴァ博士: 良かったじゃない。私はジャスパーを、マッコール博士はジプシーを連れて行ける。
ローレンス博士: キャサリン。我々が次元存在にどれだけ厳格か知っているだろう。我々がこの子たちを連れていくことで何が起きるか、思い出させる必要もないことだと思っているのだが。
ロストヴァ博士: この子をここには置いていけないわ、バーノン。彼をひとりぼっちにさせたくはないの。
マッコール博士: 仲間と一緒にいて幸せそうな実体をたくさん見てきました。我々が戻るべきですよ、キャサリン。
ロストヴァ博士: 彼は子供のころの親友だったのよ。もう何年も会ってなかったの。なのに彼と別れろって言うの?そんな簡単に?
クロフォード: ロストヴァ博士、これ以上ここにいるのは危険かと。
ロストヴァ博士: 私の猫よ。連れていけるなら連れていくまで。すべての責任を負うわ。私には、自分の犬に会えて幸せな気持ちにならないあなたこそ理解できないわ。
マッコール博士: もちろん彼女に会えて幸せだよ、キャサリン。彼女だって僕の幼い時の親友だった。彼女と似たこの子が戻ってくることはうれしいことだけど、彼女はもう存在していないんだ。もし彼女を取り戻せたとしても、財団を関わらせたくはないんだ。良いことだとは思えない。
ロストヴァ博士: いいわ。連れて行きたくないんだったらそうすれば。私はジャスパーを連れていくだけ。
アレクサンダー: ローレンス博士のお言葉を聞くべきかと。そのような性質のものを連れて戻るなど許可できることではありません。
ロストヴァ博士: 規則なんて関係ないわ、アレクサンダー。この子は猫。あなたを殺すことはないわ。
アレクサンダー: 我々はあなたの考えが理解ができません、博士。置いていくべきです。
ロストヴァ博士: 彼は私と一緒に戻る。ただそれだけよ。さあ、船着場に戻りましょう。
アレクサンダー: ロストヴァ博士、実体を解放していただかないと、ここに置いていかなければならなくなります。
ロストヴァ博士: なら、そうすれば。ジャスパーは私と戻るの。
[研究チームが船着場に戻る途中、ロストヴァ博士はSCP-3737-2実体を抱えている。マッコール博士のSCP-3737-2実体が後ろからついてきている。]
クロフォード: 全員いるか?
ローレンス博士: そのようです。
アレクサンダー: 良し。速やかに脱出しましょう。
マッコール博士: 待ってくれ。
ローレンス博士: どうしましたか。
マッコール博士: 僕、えっと…私はジプシーにお別れの挨拶をする機会がなかったんだ。私の父が獣医にみせに行ったとき、私は行かなかったんだ。ここを出る前にさよならを言わせてほしいんだ。念のためにね。
アレクサンダー: 博士、我々には時間が-
マッコール博士: わかっているよ、アレクサンダー。ほんの少しで良いんだ。
アレクサンダー: 承知しました。ただ、早急にお願いします。
[マッコール博士は踵を返し、SCP-3737-2実体と顔を合わせる。彼は実体の頭をなで始める。]
マッコール博士: さよなら、僕の友達。いつも僕のそばにいてくれてありがとう。愛してるよ、とても。
[マッコール博士は実体を抱きしめる。その後、チームはSCP-3737-1を通り抜ける。対岸に到達した時に、ロストヴァ博士はSCP-3737-2実体が腕の中にいないことに気づく。彼女がSCP-3737-1の中へ戻ろうとしたため、エージェント・クロフォードとエージェント・バルデューが彼女を抑えつける。その後、SCP-3737-1は不安定な状態となり、閉鎖する。霧が消失する。]
ロストヴァ博士: [データ削除済]
<記録終了>