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SCP-3772-JPの視覚的ノードマップとサイト-8199のA棟の概略図。
特別収容プロトコル: SCP-3772-JPはサイト-8199-Aおよびその周辺に存在しています。サイト-8199敷地外のSCP-3772-JPの影響下にある領域は住民の退去が完了しています。SCP-3772-JPを移動させる方法が発見されるか、SCP-3772-JPが自然に消滅するまで、この状態を暫定的に収容状態と見做します。
サイト-8199-Aの使用は継続されることになっています。SCP-3772-JPが収容されている間、すべてのサイト職員はSCP-3772-JPに関係すると考えられる出来事を報告しなければなりません。

サイト-8199、1988年
サイト-8199は福岡県久留米市に位置する市街地臨時収容サイトです。周辺地域から回収された即時の隔離を必要としない低脅威度アノマリーの一時的な保管と移送を主機能とし、副次的に移送中継・人材派遣を担っています。都市部活動の拠点として大規模な人員を擁し、九州地方の地域統括サイトであるサイト-8190との緊密な連携によって様々な資材運用を可能とすることで、通常量のおよそ2倍に上る数のアノマリーの確保を達成しています。(中略)
安全面の考慮と敷地規模の制限により、地表上には職員の居住区画であるA棟と管制別館であるB棟のみが存在し、収容施設は地下に建造されています。
説明: SCP-3772-JPは1988/12/13にサイト-8199に漂着した大型の概念生命体の死骸です。主要な構成概念に「巨大」「遊泳」「捕食者」などを含み、観測者からはナガスクジラ属 (Balaenoptera) の特徴を有する存在として理解されます。SCP-3772-JPは副次的に「死」の概念を有しているものの、実際にはより巨大な概念生命体から分離された断片であると考えられており、調査が進行中です。SCP-3772-JPの体長は約350メートル、体高は約50メートルに及び、非実体である性質によってサイト-8199およびその周辺の建造物と空間的に重複しています。SCP-3772-JP自体は完全に不活性であるものの、占有空間内部に死後の概念漏出による影響が発生しています。正確な範囲は確定していませんが、少なくともサイト-8199のA棟の大部分がSCP-3772-JPの影響下に置かれています。
SCP-3772-JPの影響範囲内に進入した人物は、SCP-3772-JPが放出した多岐にわたる概念の影響により、以下に示す複数の異常現象の対象となります。
- 異常な夢見
- 多様な既視・既知感
- 非改変性の因果律異常
- レベルIV以上の確率異常
- 説明不可能な超感覚的知覚の経験
上記の異常性の影響により、サイト-8199に勤務している多くの職員が未発見だったアノマリーを超感覚的知覚によって発見する事例が相次いで発生しました (補遺1を参照)。このことでSCP-3772-JPの構成概念の大部分がアノマリーに関連している可能性が示唆されたものの、その理由や手段は未解明であり、調査が進行中です。
起源: SCP-3772-JPは当初、外宇宙支部によって検出された高速で飛来する高密度の概念複合体として発見されました。SCP-3772-JPはくじら座ο星.「ミラ」という固有名でも知られるミラ型変光星の代表例。方向から急速に地球に接近し、徐々に減速しつつサイト-8199が位置する福岡県久留米市へ落下しました。SCP-3772-JPおよびその由来となる概念生命体がいつどこでどのような活動を行い、どのような過程で死亡/分離したのかは不明確です。SCP-3772-JPが地球へ飛来した原因として考えられている説は以下の通りですが、その限りではありません。
- SCP-3772-JPの起源が地球にあり、概念的中心へと落下・沈降した
- SCP-3772-JPの生前の活動の焦点が地球であり、形而上学的結合によって地球に誘引された
補遺3772JP.1: 事例報告
以下は、SCP-3772-JPの影響によるものであると考えられている事例の目録から、最初期である1988年12月の事例を抜粋した一覧です。1990年1月以降の記録のリストは別紙資料事例3772JP目録を参照してください。
人物 | 日付 | 概要 |
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Agt. 敷浪 | 1988/12/14 | SCP-3772-JPの出現による周辺地域への影響の調査のための巡回中、マンホールの破損によって下水道に落下した。その際、下水道内に生息していた奇跡術的能力を有する異常生物群を発見した。当該アノマリー群は後日派遣された機動部隊によって確保された。 |
Agt. 竜田 | 1988/12/16 | 前晩の夢において、サイト近隣に実在する公園で何者かと会話したことが強く印象に残った。当日、周辺市街地の定期パトロールのため市内を巡回した際に実地訪問したところ、不自然に明滅する街灯の点滅パターンがモールス信号と一致することを発見した。のちに該当のオブジェクトは知性を有することが判明し、暫定Euclidオブジェクトとして収容された。 |
Res. 渡 | 1988/12/19 | SCP-3772-JP出現後、数日間にわたり、路地を歩行する不鮮明な視覚的情報の想起を何度か経験していた。当日、SCP-3772-JPの出現による周辺地域への影響調査のためサイト近隣の商店街に立ち入ったところ、想像の中で目撃した路地と同一の通路を発見した。路地内を調査したところ、反ミームアノマリーを携行して逃亡していた要注意人物が潜伏しており、確保部隊への通報ののち確保に至った。後の検査で、事前の複数回にわたる認知が不完全ながら対抗ミームとして機能していたことが判明した。 |
Dr. 松戸 | 1988/12/22 | 数日間にわたり連続して、以前勤務していたサイト-8193のSafeクラス収容棟で収容違反が発生する同一の夢を見ていた。そのことをサイト-8193勤務である元同僚の岩崎博士に相談したところ特徴の一致するアノマリーが実在することが判明した。当該アノマリーの収容房を調査したところ、未確認の異常性の兆候が発見され、後日収容プロトコルの改訂が実施された。 |
Agt. 立川 | 1988/12/24 | 周辺市街地の定期パトロールを終えての帰還中に、唐突かつ直感的な心変わりでサイト近隣の商店街に立ち寄ったところ、クリスマス特売に関する宣伝音声に含まれる異常ミームによって発生した騒動を発見した。確保部隊への通報ののち事態は成功裡に収束させられ、原因となった音響機器が回収された。 |
Res. 石亀 | 1988/12/25 | 数日間にわたって、サイト付近に実在する民家を訪問し屋内で無抵抗に殺害される夢を経験していた。当日、同僚であるエージェント・大田に個人的に相談し、現場を調査するように依頼した。現地を訪問したエージェント・大田は [編集済] 及びナイフ様のアノマリーを発見した。 |
Dir. 海邊 | 1988/12/29 | 収容責任者である海邊管理官が収容オブジェクトの配置調整のためにサイトの図面を見直していた際、収容棟の使用中と報告されていた収容室のうち地下5階の一室が図面上に存在しないことに気づき、起源不明の部屋が存在することが発覚した。フロア責任者の説明によると、問題の部屋には「高クリアランスレベルによってアクセスが制限されている」という誤解がスタッフ間で広まっており、存在が長らく無視されていた。内部の調査では [編集済] 。 |
Agt. 谷口 | 1988/12/30 | 周辺市街地の定期パトロール中に意図せず巡回ルートから外れた道路に進入した際、変身能力者が異常能力を行使する様子を目撃した。エージェント・立川および援護班が対象を拘束しサイトに連行する最中、別の変身能力者が異常能力を行使する様子を目撃し、これも拘束した。両者は超常犯罪組織の一員であり、共謀して空き巣や強盗を目的とした住居侵入を試みていたことが尋問によって明らかになった。 |
補遺3772JP.2: 研究に関する会議
音声映像転写ログ 8199/3772JP/01 |
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日時: 1989/01/03 参加者:
前文: この会議はSCP-3772-JPの影響に関する複数の報告を受けて当該オブジェクトについて検討するために召集されました。以下の転写は、海邊管理官がSCP-3772-JPの現在の収容状況を簡潔に説明し、複数の職員から影響事例に関する報告がなされたのちから始まります。 |
«転写開始» |
水野管理官: 報告では海邊管理官もオブジェクトの影響にさらされたとありますが、その後体調の変化などは? 海邊管理官: ええ、はい、特には。むしろ別件で頭のリフレッシュができたってものですよ。 水野管理官: それは結構。ええ — では次に、SCP-3772-JPの研究状況に関して — 雨貝管理官。 雨貝管理官: はい。我々はこの2週間にわたって、SCP-3772-JPを徹底的に調査しました — が、はっきり申し上げます、この期間ではお伝えできるような進捗は皆無に等しいです。言い訳をするわけではありませんが、これほどの巨大な実例は類を見ませんし、ただでさえ形而上生物、とりわけ概念から構成された概念生命体自体がいまだ不明な部分も多いものです。加えて、これまでの研究で概念生命体の死を観察できたことはなく、死が概念生命体にどのような変化をもたらすのかさえ、我々は確たる見解を有するに至っていなかったのです。とはいえ今回の研究でそれに直面したことで、SCP-3772-JPが我々に影響を及ぼす機序についてのおおよその見立てはできました。 水野管理官: それは? 雨貝管理官: ご存知の通り、SCP-3772-JPは無数の概念が複雑に交差・結合して形成された概念複合体です。この実体は死に際して、自身の構成要素を放出しており言わば「分解」の過程にあるようです。そしてこの放出された概念が人間の精神と相互作用することで情報の発想が引き起こされている、というのが現在の我々の見解です。 水野管理官: なるほど — では、将来的に完全に分解されて消滅することはあるのでしょうか? 雨貝管理官: それについては、はい、我々はそのように予想しています。この概念の拡散の様子は、我々が操作可能なほどに小型の概念生命体の核から切り離された構成要素の崩壊に似ています。これは我々がSCP-3772-JPを一個の生命体ではなくその断片であると考えている理由でもあります。サイズから推測すると短く見積もっても2年以上はかかるでしょうが、SCP-3772-JPはいずれ消滅すると考えられます。 水野管理官: ありがとうございます。もう一つ、これまでに報告された事例がいずれもアノマリーの発見につながっていることの説明をいただきたい。SCP-3772-JPの構成要素がアノマリーの情報概念で満ちているということでしょうか? 雨貝管理官: それに関しては未だ分かりません — すべての構成要素を包括的に調査しない限りは。尤も、現在の技術ではそのようなことは到底できません。今のところは、仰る通りSCP-3772-JPがアノマリーの情報の集合体であるかもしれないし、あるいはその他の多くの概念を単に我々が見逃しているに過ぎないのかもしれないとも言えます。アノマリーに関連しない内容で本来知り得ない情報が唐突に発想されることがあれば、後者の可能性が高まるでしょうけれど。 海邊管理官: SCP-3772-JP自体がアノマリーを発生させている可能性についてはどのようにお考えでしょう。SCP-3772-JPがこの地域に出現して、その周辺のアノマリーばかり偏って発見される理由として真っ先に考えたことなのですが。 雨貝管理官: そうですね、それについては我々も検討しましたが、むしろ、この地と強く関係する要素を多く持つ集合体だったからこそ、ここに引き寄せられたのではないかと考えています。現実への作用の件については — 竹沢さん、いいでしょうか。 竹沢博士: はい。雨貝管理官の仰る通り、SCP-3772-JPやそこから放出された概念が現実に影響をもたらしている可能性は、ほぼありえないと思われます。概念生命体は、生命体であると同時に概念であるからして、形而下に対するふるまいは通常の概念と基本的に同じ、すなわち、知性体による解釈を拠り所としています。もちろん、概念そのものが異常である場合は認識災害やミーム災害を引き起こしたり、改変事象を発生させたりする場合もありますが、今回の論点ではないでしょう。そのうえで、SCP-3772-JPは死んでいる — より厳密には「非生Not-Alive」とでも言いましょうか、何にせよ完全に非活動的であるわけですから — 失礼、やや話が逸れましたが、SCP-3772-JPが単体で直接的に現実に作用していることはほぼないでしょう。もちろん、万が一のために周辺の現実場変動などの調査も行いましたが、少なくとも今のところは特筆すべき点は見受けられませんでした。今後、調査の範囲を広げていく予定ですが、ある程度で打ち止めになるかと。 海邊管理官: <沈黙> なるほど。ありがとうございます。ひとつ考えていることがあるのですが、SCP-3772-JPをアノマリーの発見装置として利用できないかと思っています。水野管理官、雨貝管理官、いかがでしょうか。 水野管理官: 私からは — 特に意見はありません。アノマリー由来の情報を過信することはできませんし、公式に収容プロトコルに盛り込むのは気乗りしませんが、目録作成も兼ねて参考にする程度であれば、収容責任者のあなたにお任せしましょう。 雨貝管理官: 私からはぜひともお願いしたいところです。SCP-3772-JPそのものにせよ、SCP-3772-JPが持つ情報にせよ、少しでも多くのデータを得たいという意味では目的は違わないでしょう。ただし、もちろん理解されていることでしょうが、SCP-3772-JPが我々の望むものを与えてくれるとも限らないことには注意が必要です。我々は選ぶ立場にはないのですから。 |
«転写終了» |
後文: 以降の会議では、SCP-3772-JPが消滅する過程およびそれまでの研究の段取りについての議論がなされました。会議後、収容部門リエゾンには非公式的な指令としてSCP-3772-JPの影響を活用することの許可が伝えられました。 |
補遺3772JP.3: 超過勤務
1988.12
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
11 | 11 | 5 |
備考: N/A
1989.1
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
20 | 15 | 10 |
備考: N/A
1989.2
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
24 | 16 | 18 |
備考: 確保数の急増に対する移送数の不足により、収容中オブジェクトが増加傾向にあります。移送チームの人員不足解消のため、サイト-8190に対し職員動員の要請がなされました。要請は承認され、10人の移送補助職員が派遣されました。
1989.3
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
29 | 21 | 26 |
備考: 移送数の不足により、収容中オブジェクトが増加傾向にあります。移送チームの人員不足解消のため、サイト-8190に対し職員動員の要請がなされました。要請は承認され、20人の移送補助職員が派遣されました。
1989.4
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
28 | 23 | 31 |
備考: 移送数の不足により、収容中オブジェクトが増加傾向にあります。移送チームの人員不足解消のため、サイト-8190に対し職員動員の要請がなされました。要請は承認され、10人の移送補助職員が派遣されました。
1989.5
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
32 | 24 | 39 |
備考: 移送数の不足により、収容中オブジェクトが増加傾向にあります。移送チームの人員不足解消のため、サイト-8190に対し職員動員の要請がなされました。要請の可否は保留されています。
補遺3772JP.4: 人員に関する合同会議
音声映像転写ログ 8199/3772JP/02 |
---|
日時: 1989/05/15 参加者:
前文: この会議はサイト-8199の収容逼迫に関する人員計画を検討するために召集されました。 |
«転写開始» |
梅津博士: 申し訳ないですが、先月の議論でも説明しました通り、これ以上の継続的な人員の補填はできかねます。一時的な増員ということでこれまで人員の調整を行ってきましたが、今よりさらにこのサイトに人員を集中させれば他のサイトの業務が回らなくなることはご理解されているはずです。 鎌田管理官: ええ、重々承知しています。先月の時点で他地方からも人員の移動をしていただいて、無理を利かせてもらっていることも。そのうえで、せめて現在収容中のアノマリーの移送がある程度進むまではどうか — 梅津博士: その言葉は先月も聞きましたよ。こちらとしても心苦しいですが、今の人員で何とかしていただくほかないです。大型のアノマリーの対処に追われていることは理解していますが、これ以上はどうにも。 水野管理官: 何とかなりませんか。私からもこの通り、お願いします。今でさえ、多くの職員が休みを切り詰めて働いているんです。 梅津博士: <沈黙> すみません。そもそも — という言い方はしたくないですが、8199は九州地方でも最大級の人員が配置されていますし、ここ一帯のサイトではあなた方からの人材派遣を頼りにしていた部分も大いにあります。ここほどではありませんが我々も状況は変わりません。恩に報いたい気持ちは山々ですが、人材という形ではもうどうしようもないんですよ。海邊管理官、あなたもです。SCP-3772-JP、それがこの半年間で収容活動に大きく貢献しているのは十分理解しているつもりですが、収容活動の縮小では本当に駄目なんでしょうか? 海邊管理官: それは — やはり難しいです。今はチャンスなんです。普通なら到底知り得ないようなアノマリーの情報が今までにないペースで舞い込んで来て、しかも、専門家の見解では「まだピークに達していない」と。今でさえ、アノマリーの確保に駆り出されているエージェントたちの中には心当たりを押し殺して別のアノマリーの任務にあたっている者もいると聞き及んでいます。貴重な情報をこれ以上見逃すのはあまりにも惜しい。今の段階でつまづくわけにはいかないんです。施設のキャパシティと、暫定収容プロトコルが間に合う限り、少しでも多くのアノマリーを確保するべきだと私は考えています。 <録音上の沈黙。> 水野管理官: ならば — 折れなければならないのは私のほうだな。SCP-3772-JPの利用を公式に認め、未確証の事例報告を含めたデータベースの作成を提言しましょう。むしろ、決断が遅かったと言われてもおかしくないくらいでしょうね。 海邊管理官: それはつまり — 水野管理官: SCP-3772-JPの研究優先度を最高レベルに引き上げます。 |
«転写終了» |
後文: 会議は一時的な中断の後、複数の新たな参加者を交えてSCP-3772-JPの積極的利用の草案に関する件で再開されました。会議後に提出された提言は日本支部理事会によって可決されました (補遺5を参照)。 |
補遺3772JP.5: リゲイン・プロトコル
目的: SCP-3772-JPを利用して収容活動を効率化し、サイトの機能を回復する。
概要: SCP-3772-JPの影響によるアノマリーの確保数の増大が、サイトの収容能力の超過が見込まれる水準にまで達した。確保件数およびそれにかかる人員を維持しつつ保守および移送にかかる人員を補う必要がある。確保数の増大の主因はSCP-3772-JPから放出された情報概念によるアノマリーの発見であるため、これを効率的に利用することが収容活動の円滑化に直結すると結論付けられた。
方法: SCP-3772-JPが存在する間、サイト-8199は以下の方針で運営される。
- SCP-3772-JP事例専用のデータベースを設け、SCP-3772-JPの超感覚的知覚の影響を受けたと考える職員は項目を追加して可能な限り詳細な情報を記入する。
- 収容活動にはデータベース上の実例を捜索するための必要かつ最小の人員が割り当てられる。通常の収容活動は一時的に縮小され、サイト機能に十分な余裕がある場合に再開される。
- サイトの外部移送能力を増強するため、保守・移送セクションへの一時的な人員の再配置が行われた。
- SCP-3772-JPによる因果律的・確率的異常の最大化および既知感の発見のため、職員は任務・休暇を問わず積極的な外出が推奨される。
- 休暇中の職員は必要なだけの休養とともに、可能な限りデータベース上の項目の実例を捜索することを念頭に置いて行動する。
成果: リゲイン・プロトコルの発効後、サイト-8199が陥っていた収容に関する諸問題は明確に解決の兆候を示しました。以下はその影響が顕著に見られた期間の収容収支の目録です。
1990.03
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
52 | 55 | 32 |
1990.04
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
49 | 54 | 27 |
1990.05
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
55 | 55 | 27 |
1990.06
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
62 | 60 | 29 |
1990.07
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
61 | 56 | 34 |
1990.08
確保 | 移送済 | 収容中 |
---|---|---|
59 | 61 | 32 |
後記:
単一のサイトで一日当たりおよそ2件のアノマリーの確保が日常的なものになるという常軌を逸した収容活動の中で、それに匹敵する件数の移送も継続的に行うことができています。この1年ほどで移送に係る周辺サイトとの連携もより円滑になり、予想していた以上の成果であることは言うまでもないでしょう。理想的な活動であると評価しています。
—水野管理官, サイト-8199管理官, 運送責任者
SCP-3772-JPは我々の予想を裏切り、2年の経過にしてようやく分解の最盛期を迎えたと言えるでしょう。概念の放出とそれに伴う影響範囲の縮小は、今までで最も高い水準で進行しているようです。そのような状況下で依然として影響事例報告の件数にさしたる変化が見られないことも注目に値します。今後の変化に注視しつつ研究を続行する予定です。
—雨貝管理官, 形而上生物学部門
更新: 1991/03/01
1991年1月以降の、SCP-3772-JPの影響の急激な低減を受け、リゲイン・プロトコルの一部縮小が決定されました。以後の活動では、データベースの維持、追加および処理を継続しつつ、通常の収容活動の制限の解除、他サイトへの人員派遣の制限の緩和が段階的に実施されます。
更新: 1991/07/22
SCP-3772-JPの消滅予測時期に関して、形而上生物学部門は正式に1991年末から1992年上半期にかけての期間に当該オブジェクトが消滅する予測を発表しました。
更新: 1992/02/02
SCP-3772-JPの消失により、リゲイン・プロトコルは終了しました。データベースの残存項目が処理されたのち、完全な停止が宣言される予定です。
消失の直前にSCP-3772-JPが示した特異な活動については補遺6を参照してください。
補遺3772JP.6: 事案3772-JP
日時: 1992/02/01 05:12
概要: SCP-3772-JPが自発的な運動を開始し、サイト-8199からいずれかに飛び去りました。SCP-3772-JPはごく僅かな時間のうちに地球圏を脱したとみられており、位置および進路の特定・追跡の試みは失敗しました。
音声映像転写ログ 8199/3772JP/A |
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前文: イベントの開始時点でSCP-3772-JPはおよそ4~5メートル程度の大きさにまで縮小しており、サイト-8199-Aの居室のうち2部屋にまたがって位置していました。SCP-3772-JPの研究のため、この2部屋のうち一方は研究室として、もう一方は雨貝管理官の私室兼個人オフィスとして使用されていました。イベント後のインタビューにおいて雨貝管理官は、イベントの発生に先立つ特異な夢見を経験したことを報告しました。以下は雨貝管理官の脳の解析及び叡智的再構築によって生成された散文的描写です。イベント開始のおよそ10分前であり、夢の風景に特筆すべき変化が見られた05:01から開始します。 |
«転写開始» |
視界には一般的な家庭の和室の風景が映っている。視界の端の窓から日が差しており、部屋の中央には木製の机が置かれている。 視界が目紛るしく変化し始める。星と太陽、上り階段、海、本棚、トンネル、両手のひら、海、下り階段、雨天、海。息を吐き出して初めて、私は自分が水中を漂っていることに気が付いた。吐き出した気泡はどんどん水上へと昇っていく。それに対して、私はどんどん沈んでいくのを感じ取った。不思議なことに息苦しさは感じず、水の冷たさに言い知れぬ心地よささえ覚えていた。気泡は遠ざかっているはずであるにもかかわらず、私の目にはそれがまるで眼前にあり続けているように映っていた。 私の目は気泡にくぎ付けになっていた — 次第に気泡は形を変え、鯨の姿を見せていた。視界いっぱいに広がる海を埋めつくさんばかりの巨体をうねらせる様に、それが終ぞ直接目にする事はなかったSCP-3772-JPなのだと私は理解した。 私はその鯨に触れようともがき、そして再び息を吐きだそうとしたとき、しかし、私の身体からは何物も出ることはなかった。私は更にもがき、もがき、もがいた。私が私自身を操ろうとすると、そのたびに私の中は空虚で満たされていくようだった。鯨の姿は遠ざかり、闇に紛れていった。その闇は私自身から滲出していた。私が息を吐こうとすると代わりに空虚たる暗黒が立ち現れ、私を包んでいった。それは紛れもなく「死」だった。私はその瞬間、死の中にいた。死が私の身と心を蝕み、私の全てを飲み込んでいった。私の目には歯が、舌が、喉が、そして空虚が映っていた。 それは私の死であり、鯨の死であった。 刹那、激しい水の流れを感じるとともに視界が眩い光に満たされた。私はすぐさま、自身が肉体を持たないことに気が付いた。心だけの姿になって私は上昇していた。私の周りで渦巻いていた死が、鯨に取り付いていた死が、取り去られているのがわかった。私は鯨と一体になっていた。私たちは上昇していた。 私たちの目は揺らめく水面を、その向こうで輝く太陽を捉え、それに向かって無限の時間をかけて加速していった。永遠と一瞬を同時に飛び越え、非生と生の境界を飛び越えて私たちは — ![]() <SCP-3772-JPの異変によってサイト内警報が発令され、雨貝管理官が目を覚ます。> |
«転写終了» |
後文: SCP-3772-JPの行方は不明です。正式な評価ののち、SCP-3772-JPのオブジェクトクラスは然るべきものに再分類される予定です。 |
“ゑ”
WRITTEN BY iti119