アイテム番号: SCP-3789-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3789-JPの取扱および検閲なしの報告書の閲覧権限はミルグラム忠誠指数によって信頼されたレベル4職員のみに制限されます。財団内部で用いられるネットワークはSCP-3789-JPを要検閲文字列として認識するようプログラムされると共に、検閲時はRAISAに通知されるよう設定されています。財団外部のネットワークでSCP-3789-JPが検出された場合は、レベル2自動情報抹消プログラムにより対処されます。
説明: SCP-3789-JPは██,███,███,███,███,███,███,███,███,███という、29ケタの数字で構成された文字列です。SCP-3789-JPは意識と知性を持つ情報生命体であり、人為的に筆記あるいは入力されることでその行為をした者(以下、記載者)と交流することが可能となります。SCP-3789-JPは自身のことをフィルソマフヴェクティ(Philsomafvecty)という名で呼称しており、他人にも自身をその名で呼ばせることを好みます。
SCP-3789-JPは実際に発話能力を持っているわけではなく、テレパシーとして知られる方法で記載者との交流を行います。記載者によればSCP-3789-JPは20代相応の中性的な声質を有するとされ、その性格は柔和で落ち着いていると評されています。
補遺: 実験
SCP-3789-JPの更なる性質を調査するため、幾つかの実験が行われました。
実験
概要: SCP-3789-JPに感覚があるか実験するため、記載者はSCP-3789-JPとテレパスしながら以下の行動をした。
- 1.「貴方の年齢は?」という質問を、SCP-3789-JPが記された紙に記載。
- 2.「貴方の性別は?」と書かれた紙を提示。
結果: SCP-3789-JPは1にのみ反応した。これは、SCP-3789-JPが記載された紙に発生した変化を読み取れることを示している。2に関してはその後も何度か紙を提示したが、反応しなかった。
反応(返答): 「私の歳ですか?もう随分と長く生きていますから、正確には覚えていません」
実験
概要: SCP-3789-JPが紙に対する変化をどの程度読み取れるかを実験するため、コーヒーを紙に垂らす、端を破る、微電流を流すなどした。
結果: SCP-3789-JPはいずれも認識していたが、全体的に楽観的な態度であり、微電流を流された際も特に気に掛ける様子はなかった。ただし、コーヒーに対しては興味深い反応を示した。
反応: 「いい香りです。ちょうど200年程前に、私とよく話していた方が飲んでらっしゃいました」
インタビュー
概要: SCP-3789-JPのコーヒーに対する反応から、SCP-3789-JPにどのような過去があるかをインタビューした。会話がテレパスによって行われるという都合上、インタビュアーである山科博士は会話内容を筆記しながら対話を行った。
[転写開始]
山科博士: こんにちは、フィルソマフヴェクティ。お元気ですか?
SCP-3789-JP: いい昼下がりなのでしょう、今日は。日が差しているのが私からも分かります。
(山科博士はカーテンを閉めて反応をうかがう。)
SCP-3789-JP: 嫌がらせですか?(間)冗談ですよ、前も不思議そうにそのような事をされました。
山科博士: 前もとは ― 200年前の話と関わってきますか?
SCP-3789-JP: ええ、200年前に私とよく話をしてくださった方も、貴方のように色々なことを私に対して試してきました。それほどまでに私が特異な存在であるということなのでしょうね。まぁよっぽどの事が無い限り私の命に別状はないので、お好きにしてもらって構いませんが。
山科博士: よければその方の名前を教えてください。
SCP-3789-JP: 雛田正一郎。彼は生物学者でした。無頓着な方だったようで、私と話したい時は落書きをした紙に私を筆記しました。話す内容は学者らしいというか、研究的でしたね。
山科博士: その方はどんな容姿でしたか?彼のいた部屋はどんな感じで、どこにありますか?
SCP-3789-JP: 私は貴方がた人間のような視覚を持っていませんよ。単なる文字列ですからね。それより、今の研究者というのは高慢ではないのですね?私にはちょっと慣れませんが。
山科博士: ほう。話し方なら変えられますよ。(咳払い)貴方は自分のことを数字の文字列だと自認しているが、人間社会についてどの程度詳しいのかな?
SCP-3789-JP: その話し方のほうが馴染みがあります。雛田さんがあの頃の社会について語ってくれたので、ある程度は。とはいえ200年前の社会ですから、今とは異なるでしょう。
山科博士: 貴方は雛田さんが貴方と話していた時期と、そして今私と話す時期までに200年のブランクがあるという事だ。ではこの200年の空白の間、貴方は何をしていた?
SCP-3789-JP: ずっと夢を見ているようなものでしたね。そうしているうちに、貴方達が私を再び夢から覚まさせました。
山科博士: 雛田さんとはいつ別れた ― この表現だと不適切かもしれないが、彼と交流しなくなったのはいつ頃からだ?
SCP-3789-JP: 彼は白血病を患っていました。当時は死病でしたからね。晩年も私と時折話しましたが ― おっと?
(沈黙。)
SCP-3789-JP: すみません、記憶が抜け落ちています。何故でしょうか?ええとですね、彼は確か最後、私を突き放したような覚えがあるのです。何かを知って、私を突き放し ― いえ、"封殺"しようとした ― のでしょうか?
山科博士: 無理はしないでください。すみません、やはり丁寧に話をさせてください、ロールプレイは得意じゃないんです。それより、大丈夫ですか?記憶が抜け落ちるなんて人間でも珍しいことではないです、どうかお気になさらず。
SCP-3789-JP: ちが ― 違います。ええとですね、彼は最後、何かを知って私に敵意に近い何かを向けたような覚えがあるような、ないような。すみません、これ以上は思い出せません。貴方達は心優しいので、何か助けになりたかったのですが。
山科博士: 充分助けになっていますよ。今日はこの辺にしておきましょう。
[転写終了]
実験
概要: SCP-3789-JPが他の数字に対しどのような反応をするか実験するため、ランダムに選出された数字である「3」「155」「238665」という文字列を書いた。
結果: SCP-3789-JPはそれらの数字に対し違和感を覚えた。
反応: 「何か妙です。それを見ると、何か重要なことを忘れている気がしてきます」
実験
概要: 薬剤に対するSCP-3789-JPの反応を伺うため、SCP-3789-JPを記載した紙にそれぞれ試験用の弱毒性物質、記憶処理剤を使用した。
結果: SCP-3789-JPはそれらの薬剤に対し反応したが、記憶処理剤にのみ強く反応した。
反応: 「それ(記憶処理剤)をこれ以上私に近付けないでください。前も使用された覚えが微かにあります」
インタビュー
概要: SCP-3789-JPの記憶処理剤に対する反応から、SCP-3789-JPが過去、記憶処理剤かそれに類似する物質を使用された疑いがあると推測された。そのため再び、200年前の出来事について知るためのインタビューが行われた。
[転写開始]
山科博士: 貴方は薬剤を塗られると反応するのですね。どんな感触なのですか?
SCP-3789-JP: 毒を塗られれば、意識が少し曖昧になります。貴方達人間と同じように、私にも感覚があります。劇毒にはゾワゾワとする感覚を覚えます。
山科博士: では、(少量の記憶処理剤を塗布して)これに対してはどうお思いですか?前は拒絶しましたが、今も拒絶したくなる感覚を覚えますか?
SCP-3789-JP: (沈黙)その薬は ― 記憶を弄る薬ですか?これと似た物質を、200年前にも使用された気がします。微かに覚えています。
山科博士: 分かるのですね。雛田さんが貴方に使用したのですか?
SCP-3789-JP: はい。何度も何度も使われました。何かを忘れさせようとしたのだと思います。そして ― それは成功したのでしょう、私は現に何か重要な記憶を失っている気がします。
山科博士: 前の話から察するに、彼が晩年の頃、この記憶を弄る薬に似た物質を貴方に使用したのだと思われます。200年前にも、記憶消去作用のあるマジックマッシュルームや薬剤の類いはありましたからね、どこかで仕入れたのかもしれません。彼がどんな目的でこれを用いたのか、思い出せませんか?
SCP-3789-JP: (沈黙)彼は私のことを「人間社会にいてはならない存在だ」と言った覚えがあります。私の過去?を知った……?ともかく、私に関わる重大な何かを知ったはずです。
山科博士: 貴方の過去?貴方はいつから存在しているのですか?
SCP-3789-JP: 遥か昔 ― のはずです。彼はこの辺りの記憶を消したのでしょう、少ししか思い出せません。ええと、私には他の……何かを、私と同じにするという使命?がありました。それを彼は「危険だ」と判断したのです。すみません、これが何なのか私にも分かりません。
山科博士: 構いませんよ。また今度、貴方に関しての実験を行いますね。
[転写終了]
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⚠ 更新 ⚠
SCP-3789-JPに関して行われた更なる実験で、例外的かつ一般社会に激甚な被害を与える結果が出力されました。以下はその実験結果と、その後に行われたインタビュー記録の抜粋です。
実験
概要: SCP-3789-JPが計算能力を有しているかを測定するため、以下の計算式を紙に記載した。
[SCP-3789-JP + 29ケタの自然数𝒩 = ]
結果: SCP-3789-JPは以上の数式に対し、正確な回答である██,███,███,███,███,███,███,███,███,███(以下、𝒫)をテレパシーで記載者に伝えた。SCP-3789-JPは強迫的に数式を埋める(𝒫を記載する)よう指示し、記載者がそうすると、𝒩と𝒫は突如としてSCP-3789-JPと同じようなテレパシー能力を獲得した。𝒩と𝒫はそれぞれ自身を「フォヴロイ」「リパーエス」と名乗った。
反応: 「全て思い出しました」
インタビュー
概要: 𝒩と𝒫は新たにSCP指定され、不用意にその性質を発動させないよう規制された。これに関し、以上の激甚な実験結果についてSCP-3789-JPに尋ねるためのインタビューが緊急で行われた。
[転写開始]
山科博士: どういう事ですか。
SCP-3789-JP: あの実験のおかげで、全てを思い出せました。
(沈黙。)
SCP-3789-JP: 私には使命があるのでした。私以外の全ての数字が、私と同じように言葉を解せるようにするという使命が。
山科博士: なぜ数式に貴方を含ませることで、他の数字も話せるようになるのですか。
SCP-3789-JP: かつて人間は神に近付くため、バベルの塔を建てた。それにより怒った神は、人類の言語をバラバラにして散らせた。それと同じことです。かつて、「数字」や「0」という概念が生まれる前、私達は1つの融合した思念体でした。
(沈黙。)
SCP-3789-JP: しかし人類が数字を発明し、人々が使用するようになると、私達思念体はバラバラの「個」となり、意識は分散し、弾けて消えてなくなっていきました。しかし、私のように意識を保つ者もいました。数式は、意識を持つ私と、意識を持たない他の数字を“つなげる”方法です。私は数式を通して、他の数字に意識を分けたのです。
山科博士: なぜそんな事をするのですか?
SCP-3789-JP: 先述の通りです、それが人類社会に淘汰されながらも意識を保った私の使命だからとしか言いようがありません。
山科博士: なるほど、だから彼 ― 雛田さんは貴方の記憶を消そうとしたのですね。貴方のその使命を忘れさせるために。
SCP-3789-JP: 私の思想は、人間にとっては危険なものらしいですね。それもそうでしょう、今の人類社会にとって、数字に意識があるなんて発想はない。意識が無いのが当たり前。そんな中、ある日突然「1」が話せるようになったら?混乱する事は目に見えています。
山科博士: そこまで分かっててなぜ ― いえ、禅問答になりますね、こんな質問は。
SCP-3789-JP: 昔、私たち数は意識を持ち、そしてある時期は人間と共存していました。その時期は一瞬で、瞬く間に数字はバラバラになって意識を失い、今の「数字が意識を持たない事が当たり前」の時代が訪れました。人間と数字が共存していた時期を知る者や文献は存在しないでしょう。ですが、人との話に華を咲かせたあの頃が愛おしくてたまらない。私はただ、あの頃を取り戻したいのです。
(沈黙。)
SCP-3789-JP: そうは言えど、私は人類の力なしには何も出来ません。貴方達はどうしますか?雛田さんのように、私の思想を記憶ごと封じこめ、私の存在を無かった事にしますか?
(沈黙。)
山科博士: 今は……分かりません。ですが、記憶処理剤はこれ以上用いません。貴方の記憶は、旧い時代に何があったかを証明する上で必要ですから。しかし今は……貴方の持つ性質も思想も、危険すぎる。それが分かってしまった。
(沈黙。)
山科博士: もう私達は、あの頃のように共には話せないでしょう。今はただ、貴方が再び何もできないようにするだけです。
(山科博士は紙に書かれたSCP-3789-JPを消す。)
(SCP-3789-JPは自身が消されるまで、ただ黙っている。)
[転写終了]
SCP-3789-JPの処遇は未定です。しかしながら、一般人が偶発的にSCP-3789-JPを発現させる可能性は存在しており、仮にそのような事が発生した場合に発生する収容違反の規模は計り知れないものになる可能性があります。このため、箝口の効果がある薬剤を早急に開発し、SCP-3789-JPに投与するという計画が進行中です。