ビデオの書き起こし
<ログ開始>
エージェント・クラント: よし、お前たち、レコーダーをオンにしてくれ。記録のために、名前と番号を。
D-8990: マーティー・███████、D-8990。
D-2344: フレデリック・████、D-2344。
D-0110: クライド・█████、D-0110。
D-5671: マイケル・████、D-5671。
エージェント・クラント: 俺はDクラス管理部門のエージェント・ジェームズ・クラントKrunt。これからSCP-3833-2との遭遇を期待してこいつらを山の頂上に送る。きちんと順守してもらうよう、これからスナイパーライフルを常に向けるぞ。送り出す前に何か言うことはあるか?
D-2344: もう既にこれが大っ嫌いだ。
エージェント・クラント: 素晴らしい。さて、任務は分かっているな。山を登り始めてくれ。
グループがナンガ・パルバットを登り始める。さほど交流が無いまま15分43秒経過する。
D-8990: 今ならエージェント・カントCuntやその子分どもの耳に届かないよな。
D-0110: そう呼ぶんじゃねえ! 忘れたわけじゃ —
D-8990: そうだな、何をしてくるんだろうな? くだらないシャレを言ったから撃ち落とすってか? ありえねえだろ。
D-2344: 黙っとけ、マーティー。
D-8990: てめえが黙ってろ、フレッド。
グループが山を登り続け、非常に高い断崖に到達する。
D-0110: ああもう、こんなんどうやって登れってんだ?
(無線を通して) カルヴィン研究員: バックパックにウインチがあるだろう。
D-5671: ちょっ、まだ聞いてたのか?
カルヴィン研究員: そうだが。
沈黙。
D-8990: じゃあエージェント・カントもそこに?
さほど交流が無いまま33分46秒経過する。風が激しさを増し始める。
D-0110: 風がめちゃくちゃ強くなってきた。
カルヴィン研究員: 空も曇っているのか?
D-2344: ああ、基本曇りだ。
雲に覆われているため、衛星望遠鏡によるグループの直接観測ができない。
カルヴィン研究員: 待ち望んだ異常な嵐かもしれない。壁に寄りつつ足元に気を付けて、[編集済] に向かうよう忘れないでくれ。
D-0110: 了解。
さほど交流が無いまま2分12秒経過する。グループが山の比較的平坦な場所に到達する。
D-2344: 押すんじゃねえ、マーティ―。
D-8990: 俺じゃない。
風がD-2344を地面に押し付け、近くの断崖に滑らせる。D-2344は辛うじてアイスピックを用いるが、ピックの先端が折れ、D-2344が谷間に落下する。落下は致命傷と見られる。
D-8990: なんてこった。
D-0110: あんな裂け目2秒前には絶対になかった。
環境についての愚痴を除いてさほど交流が無いまま18分23秒経過する。
D-5671: やべえ、分単位でどんどん寒くなってる。もうコートが役に立ちゃしない。
D-0110: 雪が弾丸の雨のようだ。
カルヴィン研究員: [編集済] に行くのを忘れるなよ。
D-8990: てめ —
視聴覚機器への干渉により、この段階で通信が不可能となる。信号が15分間受信されず、予備の機器が遠隔で起動される。
D-8990: もう耐えられねえ。激しすぎる。
D-0110: いや待て、何か聞こえた気が?
この時の音声を分析した結果、嵐の中から男性の声が聞こえることが判明している。
D-8990: あそこからだ!
グループが角を曲がると、SCP-3833-2の説明と一致する木製の山小屋を発見する。SCP-3833-3と思われる男性がドアの前に立って大声を上げている。
SCP-3833-3: おーい! こっちだ!
グループがSCP-3833-2に入る。SCP-3833-3がSCP-3833-2の扉を閉める。
SCP-3833-3: ようこそ山頂へ。何か飲むかい?
D-5671: ああ。喉が渇いて死にそうだ。
SCP-3833-3がグループを使い古しの赤いカウチ1組と石造りの暖炉のもとに案内する。その後、SCP-3833-3が飲み物を作ろうとキッチンに立ち入る。
グループがコートを脱ぐ。
D-0110: うぉっ、このカウチ快適だな。
D-8990: そりゃあのクソ寒い中からようやく抜け出せたからだろ。
D-5671: ばあちゃんの古い山小屋をちょっぴり思い出すな。あのヘラジカの絵と全く同じもんが絶対あったぜ。
SCP-3833-3がホットチョコレート4杯を載せたトレイを持って部屋に入る。SCP-3833-3がD-0110の腕と胸にできた数々の擦り傷に衝撃を受ける。SCP-3833-3がカウチの間にあるテーブルにトレイを置き、グループが飲み始める。
SCP-3833-3が片方のカウチの下から金属製の箱を取り出し、箱からラベルのない小さな液体ビンを取り出す。
D-0110: 何だそれ?
SCP-3833-3: 傷に効く薬だ。
SCP-3833-3が液体を手に塗り、その手でD-0110の腕と、おそらくはD-0110の胸にある確認できない擦り傷に液体を塗る。SCP-3833-3が箱のガーゼをD-0110の腕に巻く。
SCP-3833-3: すぐに治るわけじゃないが、それで痛みは引くはずだ。包帯もきちんと巻いたままにするように。
D-0110: ありがとな。感謝するよ。
グループが飲み物を飲み干すまで3分間沈黙したまま座っている。基地司令部の職員がSCP-3833-3に質問するようグループに強要する。
D-8990: ところで、あんたの名前は?
SCP-3833-3: ラッセルと呼んでくれ。
D-8990: 分かった、ラッセル、ここは何だ?
SCP-3833-3: 少し前に建てた小屋だよ。ただそれだけさ。
D-8990: そうか。なんでここはあんなに嵐が激しいんだ?
SCP-3833-3: 登れば登るほど寒くなるんだ。勘違いじゃなければ、どの山もそうだけど。
沈黙。
SCP-3833-3: 飲み物は美味かったか?
D-5671: 最高だったぞ。甘くてふわふわした味だった
SCP-3833-3: ああ、もうかなり遅い時間になってきたな。
時間は午後9:03頃であった。
SCP-3833-3: 今日はあんなことがあったから疲れてるだろう。よかったら休んでいかないか?
D-0110: 休んでいくかって? マジでまともなベッドを頼むぞ。
SCP-3833-3が立ち上がる。
SCP-3833-3: こっちだ。
SCP-3833-3がリビングの隣の廊下を通ってグループを寝室に連れていく。寝室には二段ベッドが2台あり、青い星型のマークが散らばった赤い掛け布団が敷かれている。壁と天井は青を基調とし、白い螺旋状の模様が表面を覆っている。壁の窓からはSCP-3833-1が確認できる。空いた壁にはこざっぱりした化粧台が押し当てられており、その上にはベージュ色のランプと青いアナログ時計が置かれている。
グループが二段ベッドに入って眠る。視聴覚機器は夜間の6時間は停止するよう設定されている。
翌日もSCP-3833-1は発生したままである。サイト-3833の職員がSCP-3833-1の存在を確認する。SCP-3833-1が9時間継続していることになるが、これは今までの中で最長である。
しばらくするとグループが寝室を離れ、リビングで窓の外を見つめているSCP-3833-3を発見する。
SCP-3833-3: 普段はここまで嵐が長引かないんだがな。外に出られるとは思えないから、まだ泊まらないといけないようだぞ。
D-0110: 最悪だ。
SCP-3833-3: おっと、悪いことばかりじゃないさ。マフィンを作ってるんだが、いるかい?
グループが朝食を食べ終えると、SCP-3833-3の提案でチェッカーやチェスなどのボードゲームで遊び始める。遊戯中はさほど交流が無い。
D-8990: なあ、ここってケーブルある?
SCP-3833-3: 残念ながら無い。心細いが、誰もここまでケーブルを引けないだろうからな。
D-8990: スーパーボウルを見逃したかな。
D-5671: うっわ、そうじゃん!
D-0110: どのチームが対戦してんだっけ?
さほど交流が無いまま89分45秒経過する。
D-0110: これで…… チェックメイト。
D-5671: 畜生。
D-5671がキッチンで作業しているSCP-3833-3のもとに歩く。
D-5671: ラッセル、他にゲームは無いか? マジな話、次のチェスでもクライドに負けたら、あの嵐に窓から身を投げ出しそうだ。
SCP-3833-3: そうだな、他にあるのは……
グループがダンジョンズ&ドラゴンズをセットする。一行が164分33秒間続けて遊ぶ。
D-5671: 剣を抜いてエルフと戦う。
SCP-3833-3: 分かった、それじゃあダイスロール。
グループが20面ダイスを振る。
D-0110: クソッ!
D-8990: また20かよ? なあクライド、お前マジでどういうのだっけ?
D-0110: ジャクソン・エバーグリーン、レベル2のレンジャー、ネヴァーウィンターの戦士、もうじきエルフ殺しになる。
SCP-3833-3: よし、まずは君からだ、クライド。
D-0110: クロスボウで眉間を狙う。
D-0110がダイスを振る。
SCP-3833-3: 外れた。今度はエルフのターン。エルドリッチ・ブラストを唱えクロゴンに —
D-8990: マジかよ、またソーサラーか?
SCP-3833-3: 次はマイケルのターンだ。
D-5671: 歩み寄ってクソ野郎の首を突き刺す。
D-0110: おま、首を? コイツから情報を得るって話だったろ!
SCP-3833-3: お前はこの山のように残酷な奴だな、マイケル!
沈黙。
SCP-3833-3: まあとにかく、ダメージロールだ。
グループがダンジョンズ&ドラゴンズをしばらく遊び続け、その後遊ぶのを止めて身の上話を語り合う。
D-5671: ……んで、何か恐ろしいのに襲われる前にその階段をとっとと抜け出したのさ。そしてここに送られてこの山を登らされたってわけ。俺の話はこれで終わりな。
D-0110: よし、ラッセル、そっちの番みたいだぞ。
SCP-3833-3: ああ、みんな面白い話をたくさん持ってるんだな、俺のはつまらないやつだから申し訳ない。俺は半世紀前にカリーニングラードで生まれた。比較的静かな子供時代を過ごして、料理法を学ぼうとサンクト・ペテルブルグに移ったんだ。人生の大半をシェフとして過ごして、それからここに来た。
D-8990: <無線を通してカルヴィン研究員から強要される。> そもそもなんでここに来たんだ?
D-0110: 俺はむしろ、この嵐やら何やらの中でどうやってここまで来たのかが気になるね。
SCP-3833-3が沈黙する。
SCP-3833-3: 全ての始まりは、親友が山のこの辺りで死んだ時だ。俺はひどく打ちのめされて、もう二度と誰もここで死なせないと葬式で誓った。誓いは強く、俺の意思もそれより強かったから、ここまで来た哀れな愚か者を匿うために貧相な小屋を建てた。
SCP-3833-3が泣き始める。
D-8990: どうした、ラッセル?
SCP-3833-3: 嵐じゃない、山なんだよ。山が嫌ってる。ランドールを呑み込んだときもアイツを嫌ってた。山を登ろうとする矮小な人間を嫌ってる。お前たちを嫌ってる。そして特に、俺を嫌ってる。
沈黙。SCP-3833-1は依然として続いており、この時点で25時間の継続が記録される。
SCP-3833-3: 大丈夫だ。もうだいぶ遅くなってきたな。そろそろ寝ないと。
グループがベッドに向かう。視聴覚機器が充電の保持のために停止するが、朝になってもグループは機器を再起動しない。遠隔起動が必要となる。SCP-3833-1が止む。機器は依然として寝室にある。以下の音声は機器を通して聞き取れたものである。
SCP-3833-3: おや、ずいぶんと早起きなんだな。
D-5671:決心したからな。俺たちはここに残る。
SCP-3833-3: なんだって?
D-0110: ああ、アンタの言う通り、この山はクソだ。けどここに独りでいる必要はねえ。
D-5671: できる限り手助けする。約束するよ。
沈黙。
SCP-3833-3: 止める理由も思いつかんな。ここにいるとちょっと心細くなるし、自分の思考を話し相手にするのも疲れたんだ。
機器が会話を記録しなくなり、72時間後に電源が切れる。
<ログ終了>