SCP-3844-JP
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ドロミーティ山地。

アイテム番号: SCP-3844-JP

オブジェクトクラス: Pending

特別収容プロトコル: 適切な施設が再建中である間、SCP-3844-JPは現在の居住地に収容されます。民間人がSCP-3844-JPと接触するのを防止するため、カバーストーリー"山岳警備隊"のもとで100m×100mの周縁部が財団職員によって定期的に巡回されます。

説明: SCP-3844-JPはイタリア、ドロミーティ山地の洞穴に棲息する、爬虫類に近似した巨大な生物です。

観測上、SCP-3844-JPは未知の原理により本来予想されるレベルの生命維持に必要な食事・排泄・運動を行うことなく活動を続けており、洞穴の外に出ることはありません。体長は73m以上ということが判明していますが、SCP-3844-JPの表皮が電波・放射線等を吸収、無効化する性質を持つために洞窟の外部からその正確な全容を測定することは困難です。

SCP-3844-JPが棲息する山の近傍に位置する麓町は17世紀ごろに一度壊滅しており、当時の複数の記録ではその原因を"黒き竜"の災禍によるものだとしています。SCP-3844-JPの存在が明らかになるまでの間、この記載・描写は自然災害への科学的無理解が生んだ伝説として扱われており、噴火もしくは大規模な竜巻を真の原因とするものだと考えられてきました。

補遺I: 以下は、SCP-3844-JPの生態を研究する目的で行われた実験記録の抜粋です。

実験担当: グレイ博士

実験要旨: 訓練を受けたDクラス職員5名からなる調査隊を洞穴内に派遣し、SCP-3844-JPの詳しい生態を確認する。

結果: 足を踏み入れた直後に内部から発生した轟音により調査隊は吹き飛ばされ、衝撃により全員が死亡した。この轟音はSCP-3844-JPが発した咆哮であると考えられる。同時に仮設研究拠点がその余波で破壊され、機材の破損及び職員複数名の負傷が確認された。

メモ: 洞窟内への進入はSCP-3844-JPの敵対的な反応を誘発する恐れがある。

実験担当: グレイ博士

実験要旨: 財団製グレードII耐衝撃スーツを着用し、訓練を受けたDクラス職員3名からなる調査隊を洞穴内に派遣し、SCP-3844-JPの詳しい生態を確認する。

結果: 内部からの咆哮により調査隊が吹き飛ばされ、衝撃により1名が死亡。前回と異なり、強化改築された研究拠点に目立った破損は確認されなかった。

メモ: 十分に装備を整えた上であれば、SCP-3844-JPの敵対的反応に対抗することが可能となる。

実験担当: グレイ博士

実験要旨: 財団製グレードIII耐衝撃スーツを着用し、訓練を受けたDクラス職員5名からなる調査隊を洞穴内に派遣し、SCP-3844-JPの詳しい生態を確認する。

結果: 事前の指示を無視したDクラス1名が、入口で洞穴内部へと大声で呼びかけを行った。直後応答するように生じた内部からの咆哮により調査隊が吹き飛ばされ、衝撃により全員が死亡。この際の咆哮は前回の実験より大きく高音のものだった。

メモ: SCP-3844-JPの反応に敵対的意図はなく、人間の行動に対する何らかの応答である可能性が浮上した。補遺IIを参照。


補遺II: 直前の実験で録音されたSCP-3844-JPの咆哮を解析した結果、それが引き伸ばされたラテン語の"何だ?"という発音に類似することが判明しました。この結果からSCP-3844-JPとの言語によるコミュニケーションの可能性が指摘され、インタビュー実験が行われました。以下はその書き起こしです。

インタビュー記録3844-JP

Record 20██/██/██


回答者: SCP-3844-JP

質問者: D-93627

序: D-93627は中世ラテン語の会話を習得していた経歴から選抜された。D-93627は事前に拡声機能が追加された財団製グレードV耐衝撃・防音スーツを着用するとともに、衝撃に備えて命綱により体を固定している。


[記録開始]

インタビュアー: ええと、どなたかいらっしゃいましたら返事をお願いします。

SCP-3844-JP: 我が住処にようこそ、人間よ!


[衝撃でインタビュアーの身体が浮く]


インタビュアー: すみません、もう少し声を落としていただけるとありがたいのですが。

SCP-3844-JP: おお、それは悪い。なにせ人間と出会うのは久しくてな。少々興奮している。

インタビュアー: [通信機で指示を受け小声で] 了解。[洞穴に向き直って] では、あなたが以前に人間と出会ったのはどれほど前のことですか?

SCP-3844-JP: 我がこの洞穴に入る前だ。日月の出入りを数えてはいないが、その装いを見るに人間の暮らしが大きく変わるほどの時が経ったのだろう。その昔には、ちょうどこの近くに人間が多く暮らす住処があってな。そこに我の方から出向いたのだ。

インタビュアー: その住処とは、この山の麓にある町のことですか?

SCP-3844-JP: 恐らくそうだろう。驚きだ、よく残っていたものだな。

インタビュアー: 先ほどあなたは「出向いた」と言いましたが、それは何故ですか?

SCP-3844-JP: うむ。我は長きにわたって天上を翔け世界を見下ろしてきた。地平の果てまでも広がる空、様々に色づいた美しい起伏を描く大地。天地のあわいより生れ落ちてからというもの、それだけが我の見るものだった。

だがしばらく前、変わった獣の群れが急に増え始めた。燃える炎を恐れず、石や金属で作った爪牙で他の獣を狩る獣だ。やがてそいつらは木を伐り、煙を上げ、山を穿ち、増えに増えて住処を広げていった。そいつらの名前は、人間というらしかった。

インタビュアー: それであなたは、自然を汚すそのような人間の所業に怒りあの集落を滅ぼしたと?

SCP-3844-JP: いいや、違う。何のために我がそんなことをせねばならんのだ?

インタビュアー: では餌を求めて?もしくは、自分の住処が脅かされると思ったから?

SCP-3844-JP: いいや、いいや!その程度で我は死なんよ。我はただ、友達が欲しかったのだ。

インタビュアー: 友達?

SCP-3844-JP: ああ。我は強い。煮える溶岩も空を裂く雷も、我が鱗を貫くこと能わぬ。息吹を一つ吐けばその烈風はいかなる堅牢な岩山にも渓谷を造り、翼を二つ振るえば全ての鳥を抜き去り星にも手が届く。足を三つ踏み鳴らせば大地は轟き、怯え逃げ出さない獣は居なかった。

だから、それらの光景を並び立って見られるものは誰も居ない。誰も居なかったのだ。誰もが我より脆すぎた。

獣が母親の胎から生まれるように、我にも同胞と呼べる存在がどこかにいるのではないかと夢想したこともあった。だが世界中を飛び回っても、我と同種の存在を見つけることはできなかった。人間、君たちが生まれるまでは!

あれほど小さな身で山を切り崩し、森を裸にして川の流れを変えていく。そのような者どもは、これまで我の他に居なかった!歓喜したとも、ついに我と対等となりうる種族がこの天地に誕生したのだと!

インタビュアー: ……だから町に降りた?

SCP-3844-JP: そうだ。遠巻きに観察しつつ、手始めに我は"ゲンゴ"という人間の用いる鳴き声の呼びかけ方を学んだ、楽しくおしゃべりをするためにな。次に覚えたのは礼儀作法、これは無礼な挨拶をしないように。そして最後に笑顔の作り方を身に着けた。こちらに敵意が無いことを示して、君たちを怖がらせないように。

習得には長い時が必要だったが、それまでの孤独に比べれば苦ではなかった。そうして我は、ついに人間の住処へ降り立ったのだ!我は呼びかけた、「初めまして人間たち!どうか我と友達になってほしい!」とな。

インタビュアー: そしてどうなったんです?

SCP-3844-JP: 全てが吹き飛んだ。

インタビュアー: ああ……。

SCP-3844-JP: あれは失敗だった。そこでようやく、人間はどうも、我が期待していたほどには強靭な生き物ではなかったらしいと我は悟った。あるいは時を経ればもっと強くなるかもしれなかったが、今はまだ互いに肩を並べるには力が足りないと。

だから、これ以上人間をうっかり傷つけることが無いよう人里から離れた山奥に洞穴を掘って籠ることとした。こうして君たちがここに至るまでの間、そうして過ごしてきたのだ。

インタビュアー: え、自分で閉じこもった?魔法使いに封印されたとかそういうわけでは無く?

SCP-3844-JP: うむ、今からでも出ようと思えば君たちの前に出でて姿を現すことができる。

インタビュアー: いや、それはやめてほしい   [通信機で指示を受け小声で] はぁ。ホントにそれ言ってる博士?やめといた方が良くねえですか?

SCP-3844-JP: なにごとだ?

インタビュアー: ええと、私の仲間が、あなたのことをもっとよく知りたいと言っています。だから、その洞穴から出てきて私たちの実験施設に来てほしいと。

SCP-3844-JP: [短い沈黙] それは、招待と受け取って良いのか?

インタビュアー: そういうことみたいですね。

SCP-3844-JP: お、おおおお [以下、咆哮]


[衝撃でインタビュアーの身体が浮く]


インタビュアー: ちょ、ちょっと。

SCP-3844-JP: ついに、ついにか!ついに人間は、我を同席に迎える用意ができたのだな!思えばあの失敗の日より、ついぞこうして長く言葉を交わせることは無かった!よくぞ我が吐息に耐える鱗を造った!これでようやく羽ばたきで人間の住処を吹き飛ばすことは無い、ようやくこの爪で引き裂かずとも握手ができる!


[洞穴の内部から三本の長大な突起が現れ、入口の縁に食い込む]


インタビュアー: [息をのむ]

SCP-3844-JP: その申し出受けよう!人間よ、嬉しい限りだ!


[洞穴の奥から徐々に2つの灯りのようなものが浮かび上がってくる。やがてそれが炎のように揺らめきながら発光する両目と、その真横まで吊り上がった巨大な口が特徴的な顔であることがわかる]


インタビュアー: [絶叫]

SCP-3844-JP: さあ今こそ、友達になろう!人間!


[轟音と悲鳴、映像記録の破損]


[記録終了]



以上の映像記録は、壊滅したSCP-3844-JP暫定研究拠点の残骸から発見されました。SCP-3844-JPに対しこの実験での出来事について質問を行ったところ「すまなかった」「まだ時が足りなかった」との証言が得られています。研究主任であったグレイ博士の殉職を受けて後任に抜擢されたジェルミ博士は、以下の提言を行いました。

SCP-3844-JPについて、これ以上の干渉は不必要に高いリスクを生むだけであると進言します。財団が保有する現状の収容技術でできることは、せいぜいがあれの罪悪感を煽り、傷ついたままにしておくことだけです。少なくとも、不幸な村との最初の接触から我々がSCP-3844-JPに関わるまで、あのドラゴンは数百年の間一人も殺してきませんでした。

どうか、あれを放っておいてください。あれは我々よりずっと上手く自分の収容を行っています。

この提言は、調査・研究の進展に伴いSCP-3844-JPのオブジェクトクラスが正式に決定されるまでの間保留中です。

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