特別収容プロトコル: 神の契約によって生じた縛りのため、SCP-3853-JPの能力は実効的に使用不可になっています。しかしながら万が一SCP-3853-JPが契約を反故にして能力を使用して収容下から脱出しようとした場合に備え、周囲への損害およびSCP-3853-JP自身への神罰を阻止するため、チェンバー内を6つの情動安定柱で囲い、常に能力を抑制しています。
説明: SCP-3853-JPは"ヴィルクレウス"を称する人型の存在です。SCP-3853-JPは信仰からエネルギーを抽出するという性質を有する"ピスティファージ実体"に似た性質を有しており、要約するならば、人間が行うある特定の行動のプロセスの中からエネルギーを抽出し、自身の肉体に貯蓄する事が可能です。
それに加え、SCP-3853-JPはクラスⅨ感情改変能力を有しています。少なくとも半径250mに及ぶ能力の作用範囲を有するほか、範囲内の人間に特定の行動を強制させる、また能力を作用しつつ特定の人間にのみ別の行動を強制させるなどといった高度な操作を可能としており、改変能力について熟知している様子が確認されます。
SCP-3853-JPは東京ビッグサイトで実施された同人誌即売会である"コミックマーケット(以下コミケ)"にて、後に「賭博事変」と呼称される事件を起こしました。
補遺1 - 賭博事変 最初期状況報告
初期調査報告
場所: 東京ビッグサイト東ホール
状態: 進行中
時刻: 12月30日 13:00 AM(現地時間) ~ 現在
攪乱クラス: 中位(KENEQ)
概要: 突然に、コミケの参加者が15秒間静止する様子が確認された。その後、コミケの関係者、特にサークル内の販売者と購入者の間で異常な購買が行われるようになる。
販売者と購入者の間では一見して通常の販売プロセスが成立しているように見えるが、そのプロセスの間に賭博が挟まるようになっている。販売者と購入者は購入前にチンチロやコイントスなどの賭博を行い、その勝敗に基づいて商品の値段を取り決めて取引を行っている。彼らは正気を失っており、特に賭博中は周囲の状況に対し無反応になる。
初期調査のために生体発躍エネルギー(生命から放出される超常的なエネルギー)の推移を検査したところ、各所で賭博中の人間の肉体からエネルギーが放出され、一点へと集束・吸収されている事が確認された。集束点にはアジア系男性がおり、意図的にこの現象を発生させていると考えられる。
財団は該当の男性をSCP-3853-JPに指定した。迅速な対応が推奨される。
補遺2 - 委員会会議
メンバー:
- 対応連絡部 オーリア・ルビア
- Agt.御沓 怜也(みくつ れいや)
- Agt.耶芽 友美(やが ともみ)
- Agt.日凪 メイ(ひなぎ めい)
[記録開始]
オーリア: もう既に報告があった通りですが、今コミケに参戦してるオタクたちは揃いも揃って正気を半分失って、ギャンブルで商品の値段を決めています。大体は良心的な値段設定をしていますが、一部では600円の商品を10000円で販売するよう賭博で取り決めており、単純に会計的にクソッタレな混乱が起きています。この現象が収束したとしても、財団が後で会計的な整合性を取るために何千人もの財布を弄りまわさなければなりません。クソです。クソ、クソ、クソ、本当に何でこの手の事案は全部トンチキなんでしょうか?
Agt.耶芽: 落ち着いた?まぁ、後処理の事を考えるとそうなるのも無理はないわ。でも今は進行中、そもそもこれを止められなければ後処理どころじゃない。ええと、確かギャンブルしてる人達からエネルギーが出てるんだっけ?
オーリア: はい、ギャンブルしてる人達の肉体から生体発躍エネルギーというものが放出されています ― とはいえ、微量ではあります。人体に影響があるほど多く放出されてはいません。が、放出されたエネルギーはある男性の肉体に集束し、吸収されているようです。
Agt.御沓: ギャンブラーが2人だけなら良かったんだが。会場にいる半数以上となると…集まるエネルギー量は計り知れない。で、その男…3853-JPか。ソイツの肉体にエネルギーが吸収されてるってことは、ソイツはエネルギーを何らかの形で肉体に貯蔵できる特殊な存在だという事だ。
Agt.耶芽: このインシデントも、明らかにその男が明確な意図をもってやってるわね。で、何者なの?集めたエネルギーを悪い事に使おうとしてる小悪党か何か?
オーリア: 神です。
Agt.耶芽: は?
要注意存在抜粋
分類: 神格(半神?)
年齢: 推定2000歳以上
神名: 鳴珂弦御尊神命(なるかつるみたけかみのみこと)
概要: ほとんどの歴史的資料に存在していない、不明な点の多い神格。不自然に情報が少ない事から、別の神格から何らかの理由で歴史的資料から存在を"抹消"された可能性が高い。現在は下界(一般に、人間の生活する世界)で暮らしているが、これが存在の抹消と関係しているかは不明。
Agt.耶芽: ちょっと!私達が相手にするのって変な問題起こしたオタクとかじゃないの?神様を相手にするなんて荷が重すぎない?
Agt.日凪: そもそも、なんでその男性が鳴珂…まぁ、特定の神だと分かったんです?
オーリア: 彼のネトゲとかSNSのアカウント名が一貫して「ナルカツル=サン」で、時たまTwitterの「#いいねの数だけアカウント名の由来を語る」ハッシュタグを使って「ナルカツルっていうのは鳴珂弦って書くんだけど、昔に名前を歴史から抹消された神なんだよね!小説の設定じゃないよ(笑)ちなみに本名だからな!我神ぞ!(*´ω`*)カミガハヤラセルヨ [原文ママ]」って言ってたので。
Agt.御沓: すげぇ俗だしキショすぎる。でもその情報だけで決めつけるのはどうなんだ?
オーリア: そもそも、誰にも知られてない神についての知識を有してる時点で只者じゃないです。本物じゃなくても要注意人物として扱うには充分です。
Agt.御沓: なるほど。で、少なくともその神はコミケにいる全員にギャンブルさせてる ― つまり改変者って事になる。これほど強力な改変者になると、規定に基づいて即時抹殺が許可されるんじゃないのか?
オーリア: それがですね、感情改変者は現実改変者と違って厄介なんですよ。感情改変者は人間の脳に直接能力を作用させるので、作用中に殺害すると反動で脳や精神に損傷が及ぶ可能性があります。後は、殺した後に能力が独り歩きしてギャンブル狂から戻らなくなる可能性もあります。一番厄介な可能性は、「自身に危害が加えられたらすぐに自殺する」のような事前規定性の改変をしている場合です。よほど高度な改変者じゃないとこれは出来ないんですが。
Agt.耶芽: 何はともあれ抹殺のリスクが高いという事ね。最悪の場合を想定するなら、「コミケの参加者全員が人質に取られている」といったところかしら?ちょっとヤバすぎない?
オーリア: 感情改変能力者への対処法は2つです。1つは、改変を止められる情動安定器で本人を囲むこと。これは無理です。情動安定器はデカくて、無理にでも本人を囲おうとしたら建物や一般人に被害が及ぶ。とはいえ小型情動安定器ごときではあれほど強力な改変者を止められない。もう1つは…
Agt.耶芽: もう1つは?
オーリア: …話し合って本人の意思で穏便に能力をオフにさせる事です。
Agt.耶芽: クソすぎる。まさか私達にそれをやってもらおうって言うんじゃないでしょうね。
(沈黙。)
Agt.御沓: 考えうる限り最悪の展開だ。
オーリア: 方法は皆さんに一任します。とはいえ"話し合い"の方法が1つじゃない事…あなた方も分かるでしょう。
(オーリアは銃を手渡す。)
Agt.耶芽: なるほどね。ちょっとは面白いじゃない。
オーリア: 八咫式天理讖殺銃、"神殺しのリボルバー"です。弾丸には専用の祈念弾を。"使い方"は分かりますよね?
Agt.御沓: そんな洋画みたいな話し方しなくても分かるよ。
オーリア: みんな小型情動安定器の装備と安定剤の飲用を忘れずに、いざという時は超常兵器で後方支援をします。準備ができたらすぐ行きましょう。これで話は終わりです、御沓さん、録画カメラをオフに。
Agt.日凪: …あの、1つご提案が ―
(カメラがオフにされる。)
[記録終了]
補遺3 - ノーミクス・コンプレクス
会場内で能力の発動とエネルギーの吸収に集中しているSCP-3853-JPに能力の停止を促すため、エージェントらは入念な準備のもと、会場内でSCP-3853-JPに接触しました。
作戦記録 第Ⅰ / Ⅱ 部
メンバー:
- Agt.御沓 怜也
- Agt.耶芽 友美
- Agt.日凪 メイ
[抜粋開始]
(エージェントらは会場に進入する。各所でギャンブルに勤しむ一般人の間を抜け、1つのブース前に着く。本来であれば別のサークルが使用しているはずのブースからは商品が撤去されており、SCP-3853-JPのみが座っている。)
Agt.耶芽: こんにちは。
SCP-3853-JP: こんにちは。察するに、お互い自己紹介は要らないようだ。
(Agt.耶芽がリボルバーを構え、SCP-3853-JPのコメカミに当てる。)
Agt.耶芽: ええ、そして言葉も不要という事よ。その能力を止めるのにどの程度時間が必要かしら?
SCP-3853-JP: 君達はどうやら、僕がこの事件の首謀者であるという事を分かっているらしい。だがすぐに撃たなかったという事は、恐らく君達は僕をまだ殺せる状況にないのだろう。もし殺せるなら、遠くから狙撃すれば済む話だからね。
(沈黙。)
SCP-3853-JP: そして"脅迫"とは切り札だ。普通、話し合いで解決しなかった時に暴力で脅して事を有利に進めようとする。だが君達は順序が逆だ。思うに ― 僕に脅迫する事に対して然したる意味はないと、初めから分かっていたのだろう?そしてそれが意味するところは…君達の真の目的である"交渉"を前に、脅迫を以て僕の性格や行動の瑕疵を読み取り、今後の展開を優位に進めようとしている、当たってるかな?
Agt.御沓: (後方に下がり小声で、Agt.日凪に)全部見透かされてる。これに勝つの無理すぎるだろ。ネットでイタかったヤツと同一人物とは思えん。
Agt.日凪: (小声で)現実世界にもこんなゲームに出てきそうなインテリ悪役みたいな人いるんですね。これと交渉するのは厳しそうですが。
Agt.耶芽: …そこまで見透かされてちゃ世話ないわね。ええ、その通り。私に貴方は撃てないし、交渉が真の目的っていうのも大正解。でも、貴方が本当に誰なのかという点についてはまだ推論の段階よ。貴方の正体は鳴珂弦御尊神命、で合ってる?
SCP-3853-JP: おっと。その名は少し前に棄てたんだ。今はヴィルクレウスと名乗っている。
Agt.日凪: ヴィルクレウス…?それは…何か過去の神名との因縁を断ち切るという意味で?
SCP-3853-JP: いや、最近「原神」ってゲームで魔神フォカロルスってキャラクター出てきただろう。あれ見た時本当に惹かれてな、僕も外来語の神名に変えたってワケだ。
Agt.御沓: 思ってた百億倍俗っぽかった。
SCP-3853-JP: そもそも鳴珂弦の名は罪により穢れたものだ。僕がこれ以上長く使うメリットがない。
Agt.日凪: ふむ。貴方の過去について少々お聞きしたいところですが。なぜ下界にいるのかも気になります。
SCP-3853-JP: 僕は元々、神界に住む神だ。だが、"神罪"と呼ばれる重い罪を犯してしまってね、まぁどんな罪かというのは気にしなくていい話なのだが、とにかく下界に流刑となったという事だ。それ以来、これまで肉体に貯蓄していた神性は剥奪され、ここで人間と共に暮らしている。
Agt.耶芽: そのままネッ友と楽しく暮らしていればよかったでしょうに、なぜ今更もっと罪が重くなるような事を?このような事件、神界側としても望ましく無いでしょう。
SCP-3853-JP: なに、叛逆したくなっただけさ。僕が元々持つ感情改変能を使えば1人でも充分戦争を起こせる。…納得できないか?人と神は考え方が違う、結婚式に呼ばれなかっただけで史上最悪の戦争を引き起こした神だっているぞ。僕たちに劇的な動機など要らないのさ。まぁ…そうだね、本題に入ろう。そもそもの話、神格と人間を分けるものが何か分かるか?
(沈黙。)
SCP-3853-JP: "神性"だよ。どんな存在であれ、ある一定以上の神性さえあれば、神界を目視し、そこへと到達する事ができる。だが今の僕は神性を剥奪されている。
Agt.耶芽: だからコミケの参加者からエネルギーを徴収して神界に到達できるまで神性を回復させよう、と?信仰不足の神が信仰を集めるのと大して変わりはないわね。
SCP-3853-JP: あれは低級神だ、僕と一緒にするなよ。そもそも神には3つの種類がある。1つは最上位神格、信仰も何もなくとも絶対的な力を扱える神。2つは低級神格、人間からの信仰や供物・儀礼から存在する力を得る神。そして僕はそのどちらにも属さない、稀少な神格だ。
Agt.耶芽: もったいぶらずに。
SCP-3853-JP: 僕は、人も神も妖怪も問わず、全ての生物に関係するある特定の"行動"や"感情"、"概念"を司る事で力をそこから得られる。例えば水の神は、水に対する人々の畏怖や文化への発展・感謝から力を得られる。音楽の神は、人々の行うコンサートや鼻歌から力を得る。
Agt.日凪: 然るに貴方は ― "賭博の神"、という事なのでしょうね。
SCP-3853-JP: その通り。僕は、賭博を司る神だ。言うまでもなく、人々の行う賭博という行為から神性を賄うエネルギーを得る事ができる。
Agt.御沓: 賭博の神って、こう…だいぶ変な気がするんだが。司るにしろ、なんで水とか音楽とかじゃなくてマイナーな賭博なんだ?
SCP-3853-JP: 君ねぇ。まずそもそも、賭博の起源は僕たち神にある。元々は神々の間で合意に至り難い問題に直面した時、運という要素に全てを委ねるという意図のもと行われたのが始まりだ。賭博は由緒正しく歴史ある儀式なんだぞ。賭博罪という忌々しいクソッタレが成立するまでは良かったんだがな。
Agt.日凪: 賭博から力を得られるなら、競馬や宝くじがありますよね?あれからエネルギーを得られれば、別に今回のような事件を起こす必要は無かったのでは?
SCP-3853-JP: 賭博だろうが音楽だろうが、そこからエネルギーを得るには条件がある。それが、そもそも「その行為を行う人達がそれを賭博や音楽であると認識しているか」だ。宝くじなんてのは賭博とは異なる認識だ。ゆえにそこからエネルギーを得るのは期待できない。
まぁ、競馬や競輪が賭博行為だという認識はあるだろう。最近はウマ娘が流行って人口も増えたしな。だが前提を忘れてないか?僕は下界へと流刑にされる時、これまで貯めてきた神性を全部奪われている。高々数十年の競馬で回復する訳もないだろう。
Agt.日凪: 今回みんなに賭博させたとしてもそこまで回復しなさそうですが?
SCP-3853-JP: 後からポンポンネチネチと付け足したくは無いんだがな。エネルギーを得るという行為には、人が食事からエネルギーを得るプロセスと同じくらい複雑な条件とプロセスがある。行為の"純度"、行為の"親近性"、"情動"、"賭博のイメージへの近しさ"、"エネルギーの収集と距離・純度の相関"などなど。それらの条件と、僕の条件。それらが丁度よくマッチしたからこそ、今こうやっている。それぞれの条件がどうこうだのという話はもう面倒だから省くぞ。話の長い人間は君らも嫌いだろ。
Agt.耶芽: 確かにそこは同感。で、なんで事件をコミケ会場で起こしたの?地方のショッピングモールでよそよそやってればよかったじゃない。
SCP-3853-JP: ん?趣味だ。
Agt.耶芽: 趣味ねぇ…
SCP-3853-JP: …半分冗談だよ。ちゃんと理由がある。まず僕の能力の範囲には制限があるし、その範囲内で閉鎖的に大量の人がいる場所を選ばなければならなかった。そしてコミケは2人での相互的な取引の場があちこちで発生する。それが都合がよかった。取引というプロセスの間に賭博という要素を挿入するのは感情改変の性質としてもやりやすい。極端に言うなら、運転中の人に突然賭博をさせるよりも、例外も起こりにくいし人の脳への負担も少ない。
Agt.御沓: なるほど、合理的だ。だが…言うまでもない事だが、俺達はそれを止めにきた。何も神性を貯めて神に叛逆なんてせずとも、今まで通り原神やVALORANTでもしながら人間と暮らしていけばいいじゃないか。
SCP-3853-JP: FPSやってるのも知ってるんだな。だが能力を止めたとて、君達はその後僕をどこかに幽閉するか殺害するだろう。君らの属する組織がメンインブラックか何かだろうなというのは当然分かるし、僕ほど強力な存在を野放しにしておくわけがない事も言うまでもない。
Agt.御沓: 確かに幽閉はする。が、それは外の世界と二度と交流できないという事じゃない。能力さえ封じれば人間と同じだ。なら、ネトゲしたりとかは充分できる。俺も原神やってるしナヴィア完凸してる。VALORANTはアセンダントだ。もし俺達に従ってくれるなら一緒にやれるぞ。
Agt.日凪: ちょっと、専門用語使わないでください。いちいち脚注入れなきゃならないんですよ。
Agt.御沓: 脚注を入れるほど重要な情報じゃないだろ。
SCP-3853-JP: 非常に魅力的な提案だが、僕の心を動かせるほどじゃあないな。ふむ…恐らく君達は僕に対し何か心を動かせるほどの提案を出せるほどの情報を持ち合わせていない。だが、君達は僕に能力を止めてもらう必要があって、それが達成されるまで立ち退くつもりもない。絵に描いたような膠着だな。
(沈黙。)
SCP-3853-JP: そこで、だ。僕から提案しようじゃないか ― 古来、神々が行っていた儀式を以て、この膠着を解決するというのはどうかね?
Agt.耶芽: まさか…
SCP-3853-JP: その通り、ギャンブルだ。
作戦記録 第Ⅰ / Ⅱ部
SCP-3853-JP: 賭博を司る者として、僕は幾つか面白いギャンブルの道具を持っているんだ。どうかな、ここでこれ以上禅問答をしても話は進まないと思うが。
Agt.御沓: 賭博の神と賭博するなんて無理だろ、胡散臭い。
SCP-3853-JP: 神としての誇りは失っていない、僕は実に公正かつ正当なギャンブルを皆に提供できる。それに賭博の神として、賭けて負けた時は代償を払う。これは約束をいつでも反故にできる人間と違い、神性を保つための縛りだ。まぁ、僕が負けるなどあり得ないのだが。
Agt.日凪: …話を聞きましょう。貴方はどんなギャンブルをするつもりですか?
SCP-3853-JP: (カバンから箱を取り出し) これを使おう。大丈夫、「ルールがピンと来ねぇだろ!」とはならない、本当に簡単なギャンブルを提案する。この箱には目盛りのついたバーが3つあるね?このギャンブルは、「相手より先に3つ目のバーを正しい目盛りに動かす」ゲームだ。その名も、"ノーミクス・コンプレクス"。
1つ目のバーは初期位置Aと1~5までの目盛り、2つ目はAと1~10までの目盛り、3つ目はAと1~20までの目盛りがある。このギャンブルでは、対戦者とは無関係の第三者が3つのバーを初期位置Aからどこかに動かす。動かして止めた位置が「正しい目盛り」になり、そして第三者が目盛りをAに戻したら準備完了だ。
そして対戦開始だ。先手から順に、1つ目のバーを好きな位置に動かす。そこだ正しい目盛りであれば横のランプが緑に光り、間違っていれば赤に光る。間違えたなら、後手の番だ。ただし ― 正しければ、今度は2つ目のバーを動かせる。
Agt.日凪: 正しい目盛りを当て続ける限り自分の番、つまり…最短1ターンで終わる、という事ですか。
SCP-3853-JP: その通り。だが安心してくれ、その可能性はまずないと言っていい。3回連続で当てられる確率は${1 \over 5} × {1 \over 10} × {1 \over 20}$、つまり${1 \over 1000}$だ。無理に決まってる。だから初めに言っておこう、これは長期戦になる。
だが勘違いしないでくれたまえ、勝利条件はどうあれ「3つ目のバー」を相手より先に正しい目盛りに動かすこと。ああ、禁止事項は暴力と第三者の買収だ。
追記しておこう。なぜ賭博が神の行為なのかと言うなら、「運」や「確率」というものは、神でさえ制御できない領域だからだ。説明は以上、何か質問は?
Agt.御沓: まぁ特には…
Agt.日凪: いえ、1つ。このゲーム ― "イカサマ"はアリですか?
SCP-3853-JP: …君は切れる人間のようだ。その通り、このゲームはバレない限りイカサマをアリとする。
Agt.耶芽: それはつまり…自分がイカサマをすると公言しているようなものじゃ?
SCP-3853-JP: バレないようにするという所にこのゲームの奥深さがある。あからさまなイカサマはできないし、バレないレベルのイカサマをどうやって思考するかという部分も大事になる。
Agt.日凪: 皆さん…恐らくこれは罠です。恐らくこの人は、イカサマという選択肢を用意する事で私達が正しくプレイできなくなるようにしている。無駄に思考させるのが彼の目的です。既に読み合いは始まっている。彼は…強敵です。伊達に賭博の神を名乗ってはいないようですよ。
SCP-3853-JP: 安心したまえ、これは長期戦だ。さて、このゲームの深みを理解してくれたところで、賭けるものと、誰がプレイヤーになるかを決めようじゃないか。
Agt.御沓: 順当に行くなら、俺達が勝ったら「能力の穏便な停止と収容の承諾」をしてもらう。代わりに向こうが勝ったら俺達は「この場での能力の使用を看過する」という事になるか?
SCP-3853-JP: それだと君達は僕が会場から出て能力の使用をやめた瞬間に射殺する、なんてことになるだろう。「僕に二度と干渉しない」レベルの確約が必要だね。言っておくがこれは神の契約だ、一度破れば神罰が下る事は想像に足るだろう。
(沈黙。)
Agt.日凪: 財団賭博部門を呼びますか?
Agt.御沓: 財団賭博部門!?
SCP-3853-JP: 財団賭博部門?
Agt.日凪: 賭博部門はその名の通り、賭博でしか解決できない物事が起きた時にのみ出動するエキスパートの集団です。極秘の存在で、ギャンブルに精通した特殊なエージェントのみが在籍できる部門ですよ。彼らなら、あるいは。
Agt.御沓: そんなトンチキ部門が存在するとはな。
SCP-3853-JP: 面白いじゃないか。だがそうするなら、もっと賭けを"重く"してもらわないとな?例えば…僕が神との戦争を始めた時、君達にも協力してもらうとかね?
Agt.日凪: …いえ、やはり ― こういうのはどうでしょう?賭博部門というエキスパートを呼ばない代わりに、素人の私がプレイヤーになります。その代わりこれ以上賭けを重くせず、また先手を譲ってほしいのです。
SCP-3853-JP: …このゲーム、決して先手有利とは限らないが、それでもいいのか?
Agt.日凪: ええ。先手を取る事で活路が見出せる事もあります。
Agt.耶芽: ちょっと、大丈夫なの。
Agt.日凪: 大丈夫です、ギャンブル漫画なら読みつくしてます。カイジもジャンケットバンクも噓喰いも凍牌も。
Agt.御沓: 尚更不安なんだが。
SCP-3853-JP: ほう、ギャンブル漫画を読んでる人間との賭博か。僕はいいよ、そういう人間は好きだ。うん、やはり先手を譲ってやってもいい、君がどんな立ち回りをするのか気になる。
Agt.日凪: 交渉成立ですね、では始めましょう。
SCP-3853-JP: じゃあ一時的に隣のサークルの主を能力から解放して、ソイツに第三者の役をやらせよう。僕が細工しないか心配なら、どうせ君達は改変能を止められる手段があるだろうし、それで場を確実にするといい。ルール説明は僕がしよう。
(割愛。該当の一般人は説明により問題なく第三者役を引き受け、プレイヤーの見えないところで箱をセットし、テーブルに乗せる。)
(SCP-3853-JPはカバンから酒とジャーキーを取り出し、テーブルに乗せて食べ始める。)
SCP-3853-JP: 気にするな。これは純米大吟醸の日本酒と干肉 ― 昔、神に対する供物として最も気に入っていた組み合わせを再現したものだ。大きな仕事が終わった後に愉しむ上で実に素晴らしくてね、今回は前祝だ。君もどうだい?
Agt.日凪: 遠慮しておきます。
SCP-3853-JP: それじゃあ"ノーミクス・コンプレクス"ゲームを始めよう。君からどうぞ。
(Agt.日凪は箱を手に取る。)
(しばらくの沈黙。)
SCP-3853-JP: どうした?早くバーを動かすといい。
(沈黙。)
Agt.日凪: 貴方はミスを犯しました。
(Agt.日凪はバーを動かす。)
SCP-3853-JP: 何?
(Agt.日凪は1つ目のバーを"4"に動かして止める。緑色のランプがつく。)
SCP-3853-JP: 1つ目が1発で当たる確率は高い。ハッタリをかけて動揺を誘おうとしているな?
Agt.日凪: いいえ、貴方の負けは決まりました。その目で刮目するといいでしょう ― さぁ。
(Agt.日凪は2つ目のバーを"2"に動かして止める。緑色のランプがつく。)
(SCP-3853-JPに焦りの表情が見える。)
(Agt.日凪は不敵に笑い、3つ目のバーを"17"に動かす。緑色のランプがつく。)
Agt.日凪: 貴方の負けです。
SCP-3853-JP: な ― な ― 何!?1ターンキルだと!?${1 \over 1000}$だぞ、お前…何を…!
Agt.日凪: …最初に違和感を覚えたのは、貴方がルールを説明している時でした。このゲームでは3つのバーを正しい目盛りに動かすゲームですが、勝利条件は「3つ目のバーを正しい目盛りに動かす」こと。これでは1つ目、2つ目が用意されている理由が分からない。
ですが、貴方は「長期戦」という言葉を2度も使った、それも私が「1ターンキルできる」という主旨のことを発言した直後に。
貴方…「これが1ターンで終わるゲームだ」という可能性を私達から除外させようとしていましたね?
Agt.御沓: おい、どういう事だ?全くついていけない。
Agt.日凪: 彼はあえてこのゲームを「長期戦」と言い、あえて1ターンで終わる確率を${1 \over 1000}$と提示する事で、「このゲームが1ターンで終わる事はない」とミスリードさせようとしていた。そしてそれが意味するところは ― 「彼はイカサマを使って1ターンでゲームを終わらせるつもりだった」という事です。
Agt.耶芽: さっき、イカサマは余計な選択肢を与えるための罠だって ―
Agt.日凪: 私達がその考えにまで辿り着き「イカサマはない」と思わせる、そこまでが罠だったんです。彼は本当に最初からイカサマを使うつもりでした。それがどんなイカサマなのかは分からないですし、興味もないですが。
SCP-3853-JP: 僕が犯したミスっていうのは何なんだ?
Agt.日凪: 貴方がゲームを1ターンで終わらせると分かった時点で、先手を取らせる訳にはいきませんでした。だから私は、先手を取るための罠を貴方に仕掛けてみたんです、「こいつになら先手を取らせてもいい、どうせ1ターンで勝つことなどできない」と思わせるための。
SCP-3853-JP: まさか、財団賭博部門というのは…
Agt.日凪: その通りです、財団賭博部門なんて存在しません。嘘です。私はあえて賭博のエキスパートを登場させる事で、貴方の反応を伺いました。貴方は案の定、興味を示した挙句、「呼んだら賭けを重くする」と縛りをかけようとしてきた。なぜなら賭博のエキスパートを呼ばれるのが貴方にとって不都合だったからです。
賭博のエキスパートなら、1ターンキルの発想が思い浮かぶ可能性がある、そして貴方はその可能性を嫌った。そこで私はまた罠を仕掛けました ― それが「ギャンブル漫画」の発言です。
Agt.耶芽: 財団賭博部門なんてトンチキが存在してなくてよかったけど、あの言葉も?
Agt.日凪: ギャンブル漫画を読んでいる人間など、貴方にとってカモの対象でしかない。だって「実際のギャンブル」と「物語のギャンブル」は全く違うから。物語のギャンブルは盛り上がりや物語性のために長いターン数や時間をかけて進んでいきますからね。物語のギャンブルに慣れた人間はなおさら1ターンキルという現実的な可能性を思い浮かべないだろう、そう貴方は油断した。だから貴方は…私に先手を譲るというミスを犯した。
SCP-3853-JP: はっ、お互い1ターンキルを狙っていたって訳か。だがそれを狙っていたという事は…君達にもその算段があった、つまりイカサマをしてたって事だろう。認めるよ、僕は君達のイカサマを見抜けなかった。どんなイカサマを仕掛けたのか教えてくれないか?
(Agt.日凪はテーブルの下から両手サイズの黒い機械を取り出す。)
Agt.日凪: これをテーブルの下に装着して作動させていました。これは…シュディーヤ=イヴィリス式玄妙非蓋然現象反転改変機。分かり易く言うなら、「確率を操作する機械」です。
SCP-3853-JP: 確率を操作する機械…?
Agt.日凪: 運や奇蹟を操作する機械の1つで、「本来であれば蓋然性の低い、つまり起こりにくい現象を起こり易くする」フィールドを生成するものです。この機械を使い、${1 \over 1000}$を半強制的に起こさせるよう仕向けました。ええ、暴力的だと罵ってもらって結構ですよ、こんなのイカサマとは呼べませんからね。
SCP-3853-JP: 何だそれ…クソ、そんな都合のいい機械があるかよ、そしてなんでそんな機械を都合よく持っている?
Agt.日凪: 貴方が賭博に関係する神だと推測した時から、ギャンブル勝負になる可能性を考えていました。だからオーリア…仲間には賭博に役立つ道具を幾つか持ってきてもらうよう頼んでいたのですよ。おかげで私の荷物だけ山登り用のリュックです。
SCP-3853-JP: なんでそんなものを…納得できない。
Agt.日凪: 貴方は「運」や「確率」を神の領域を越えた先にある概念だと仰いましたね。ですが貴方は「人が神を越えていない」と錯覚しています。
SCP-3853-JP: …何だと?
Agt.日凪: 人はあらゆる叡智の集合の果て、運や確率を制御できる術を身に着けたのです。最近はLK-クラス"運命の破綻"シナリオという重大な確率破綻現象も起きた事ですし、尚のこと確率制御技術が進みました。
SCP-3853-JP: それでも確率操作なんてものは、インチキだろう…!
Agt.日凪: スクラントン現実錨。
SCP-3853-JP: 何?
Agt.日凪: シャンク=アナスタサコス恒常時間溝、八咫式天理讖殺銃、シャオ式情動安定器、ウィルソン因果歪曲検出機、パラドックス脱出エンジン、テスラ・アンボロー、玄妙消散機、メトカーフ非実体反射力場発生器、ハルトマン霊体撮影機、ヴィゼル深遠物質濾過漏斗、形而上-物語的突破機構。これらは能わずを能おうと、律せないものを律しようとした我らの知識の結晶です。
我々はSCP財団、過去も未来も因果も、虚無も霊体も物語も支配する組織です。我々は神をも収容し、神をも制御します。そんな組織がどうして、確率の1つも操作できないとお思いでしょうか?
(沈黙。SCP-3853-JPは指を鳴らし、コミケの参加者全員を無反応にさせる。)
SCP-3853-JP: 僕の負けだ。見誤ったよ。賭けの取り決めに従い、僕は能力の使用を封じ、大人しく君らに収容される。だが…面倒だろう、僕の能力を使って後処理をやりやすくしてやる。これは賭けの代償としてではなく、自主的なものだ。僕を心から屈服させた者に敬意を称するべきだからね。
Agt.日凪: …ありがとうございます、ですがお構いなく。能力を止めてください、そうしたら他の人が貴方を移送します。後処理は私達がしますから。
SCP-3853-JP: そうか。
(待機していた部隊員に連絡し、SCP-3853-JPを連行してもらう。)
Agt.日凪: ヴィルクレウスさん。1ターンで終わりこそしましたが、そこに至るまでの過程も含め、貴方は間違いなく強敵でしたよ。またやりましょう、今度は名誉を賭けて。
(SCP-3853-JPはカバンから"混沌遊戯"と表面に書かれた円柱状のボックスを渡し、笑みを浮かべてその場を去る。)
Agt.日凪: …これは別のギャンブルゲーム用の…つまり「いいよ」って事でしょうか。事前にやって感覚を掴んでおけと?
Agt.御沓: 何はともあれ解決して良かったな。さて、俺達は帰ろう。これから忙しくなるし、そのゲームをする暇なんて無いだろうが。
[抜粋終了]
賭博事変の終結後、大規模超常イベントの処理規定に基づき、クラスCエアロゾル記憶処理剤の散布と金銭の矛盾の通常化、偽記憶の埋め込みなどによる処理が秘密裏に行われました。
本件は解決したと見なされました。
Agt.日凪: …それで、なぜ私は呼び出しを喰らってるのでしょう?
辻夜管理官: 大した用件じゃないですよ、メイ。にしても本当にギャンブルで解決するとは思いませんでした。
Agt.日凪: 事前予測と、司令部が有能だったおかげです。これがもし賭博を許可しないタイプの司令部だったなら、どれほど事態がこじれたか想像もつきません。
辻夜管理官: ええ。ですが財団の機械を列挙したのは少しセキュリティ違反ですよ。
Agt.日凪: ああ、あれですか。あれは…ハッタリのためですよ。
辻夜管理官: ハッタリ?確率を操作していたのでは?
Agt.日凪: それは事実です。が…それだけで勝った、という訳でもありません。
辻夜管理官: まさか、別のイカサマをしていた?
Agt.日凪: どうでしょう。手数は多いほどいいですからね。ただ…
(Agt.日凪は胸ポケットから100円玉を取り出す。)
Agt.日凪: 表、裏、裏、裏、表、裏、表、表、裏、表 ―
(Agt.日凪はコインを投げ、宣言した通りの順番に手のひらに乗せる。)
Agt.日凪: ― 側面。
(投げたコインが指の間に収まる。)
Agt.日凪: 賭博とは、ある程度"技術"でどうにか出来るものです。そしてその技術を活かすためには、綿密な準備と嘘が必要です。ギャンブルにおいて大事なのは「できる」ことより、「できると思わせる」ことですから。
それに、ハッタリをかけたのは、納得させるという意味合いも含まれていました。考えてもみてください、説明や準備でギャンブルの機運が高まったのに、いざ始まれば1ターンキル、しかもイカサマも「確率操作」という圧倒的暴力。こんなの、誰が納得できると言うんですか?少なくとも私が彼の立場なら納得できないし、後でこの作戦記録の転写を読んだ人達も拍子抜けするでしょう。
(沈黙。)
Agt.日凪: 納得させなければ、彼は何かと理由をつけて約束を反故にしようとした可能性もありますし、解決したとしても相手が不満足のまま終わります。不満足は将来起こり得る課題のつぼみです。彼のように強大な能力者を相手にするなら、後腐れや不満なくコトが終結するのが最善ですからね。
世界が漫画のような物語なら、至極納得のいく展開、論理、合理を経て幕を閉じれる。でもこの世界は物語じゃない。だから1ターンキルや確率操作という、どうしようもなく現実的で暴力的な要素で展開が形作られる。それに誰しも納得がいかないからこそ、私はその要素を補強するために言葉を使い、説得させるための物語、"ナラティブ"を作ります。
辻夜管理官: なるほど。…まぁ、貴方がイカサマをしていようが過ぎた事です、結果的に成功したのならば、何も問う気はありませんし、手数を隠して頂いても構いません。作戦中、できれば彼がやろうとしたイカサマを聞いてほしかったのですがね。
(沈黙。)
辻夜管理官: ところで。財団賭博部門というのも本当にハッタリだったのですか?
Agt.日凪: はい。あれは彼の心を探るための真っ赤な嘘です。
辻夜管理官: 本当に?
Agt.日凪: …そんなに言うってことは…まさか。
(沈黙。)
辻夜管理官: …その通り。財団賭博部門は…実在します。
(沈黙。)
Agt.日凪: 本当なんですか?そんな ― そんな馬鹿な。
辻夜管理官: 貴方がでまかせで言ったように、賭博部門は「賭博でしか解決できない」物事を解決する時に動く、ギャンブルのエキスパートの集まりです。人数もやってる事も極秘で、一部の人間しかその存在を知りません。信じられないでしょうが…
Agt.日凪: 賭博でしか解決できない物事なんて、そんな事態が起こり得るものなんですか。
辻夜管理官: 今回がまさにそうだったでしょう。とはいえ今、日本の賭博部門の人はみんなラスベガスで悪魔とギャンブルする仕事をしてるので、いずれにせよ今回は出勤できなかったのですが。
Agt.日凪: 私は何か…情報漏洩の罪に問われますかね?
辻夜管理官: 大丈夫でしょう、心配する必要はありません。
(沈黙。)
辻夜管理官: …賭博部門に入る気はありませんか?貴方の今回のギャンブルは、賭博部門の人から見ても一目置かれるものです。斡旋できますよ。極秘かつ稀少なエージェントとして、給与や待遇も恐らく今より良くなるでしょう。いかがですか?
(沈黙。)
Agt.日凪: …いえ、思うに私は…ここで仲間と楽しく仕事したりアニメを見る方が性に合ってますよ。どうしようもない馬鹿な同僚たちと過ごす方が楽しいです。なのでありがたい申し出ですが、丁重にお断りさせていただきます。
辻夜管理官: (微笑んで) それもいい決断です。では最後に。財団や一般社会を左右する大きなインシデントに適切に対処した職員に対する報恩の制度というものがあります。先日の一件により、貴方はこの報恩制度を受ける権利を得ました。財団資産が許す限り自由な報酬を指定できますよ。過去にこの制度を利用した人達は恋人とのヨーロッパ旅行を指定したり、1年間の特別待遇を指定したりしていました。どうでしょう、何を指定されますか?
(Agt.日凪は微笑む。)
Agt.日凪: …純米大吟醸の日本酒と、"干し肉"を沢山。それを仲間達と嗜みながら、ヴィルクレウスさんから頂いたゲームで名誉を賭けたギャンブルをする権利を。
(辻夜管理官は背もたれに寄りかかる。)
辻夜管理官: ええ、受理しましょう。