アイテム番号: SCP-3860-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3860-JPと同様の事象がないか、アルフレッド・レミー博士の生活域周辺を中心に全世界的な調査が進められています。
説明: SCP-3860-JPは財団職員アルフレッド・レミー博士の付近に発生した、穴状の時空間異常です。SCP-3860-JPの形状は直径およそ1m程の円形であり、厚さは一切無かったと報告されています。SCP-3860-JPの発生理由は不明ですが、レミー博士の供述から、「過去に自らの過失によって妻子を失い、そのことを強く後悔している」という心的要因が影響しているという推察が立てられています。
SCP-3860-JPは何らかの時空力場の乱れによって、過去の時空間に接続されていました。レミー博士の供述内容をもとに調査した結果、接続先の景色はレミー博士の旧宅周辺のものと特徴が合致しました。特筆すべきことに、接続先には過去のレミー博士の姿が確認されています。レミー博士は過去にエディンバラ近郊にて、家族と旅行していたことがあり、SCP-3860-JPはその時期の出来事に起因して発生したと考えられています。
SCP-3860-JPは不可視の壁のようなもので覆われており、物体の双方向移動は不可能でした。しかし、不明な原理により音声は壁を透過していたと報告されています。これによりレミー博士は過去の自分への一方的なコンタクトが可能でした。実際にレミー博士はSCP-3860-JPを通して、過去の自分に向けてメッセージを発信し、それによって過去改変を実行しました。この時「現在のレミー博士」の記憶は過去改変の影響を受けず、「未来の自分と会話したことがある」という記憶が新たに発生しました。そのためレミー博士は過去改変前の記憶と過去改変後の記憶の二つを並立して保持しています。SCP-3860-JPと同様の事例がないか、レミー博士の活動域周辺を中心に重点的な調査が行われましたが、現在のところ同様の事例は確認できていません。
SCP-3860-JPは、当事者であるレミー博士自身によってその詳細が報告されました。なお、レミー博士はSCP-3860-JP発生後長年に渡って報告を怠っていたという趣旨の告白をしており、職務規定違反として簡易的な調査が開始されました。
以下はレミー博士に対する聴取ログです。
対象: アルフレッド・レミー博士
インタビュアー: エージェント・アリス
<録音開始>
エージェント・アリス: 初めまして、レミー博士。調子はどうですか?
レミー博士: [エージェント・アリスを数秒見つめる]エージェント・アリス: 博士?
レミー博士: ……すみません、問題ありません。 私の娘に雰囲気が似ていて、つい。
エージェント・アリス: いえお気になさらず。早速ですが本題に入りましょう。まず初めに、貴方のもとに発生したSCP-3860-JPの内容についてお話ください。
レミー博士: あれは確か、私がまだ30代の頃です。私は学生時代から付き合っていた同僚の女性と結婚し、娘と息子が生まれたばかりでした。財団でも次々に仕事が成功して、思い返すとあの時が幸せの絶頂でした。ただ余りにも忙しかったので、仕事がある程度落ち着いた私は休暇を申請して、家族とエディンバラへドライブしに行ったんです。それで……その帰りに悲惨な事故を起こしました。やはり疲れていたのでしょう、普段はしない不注意が原因でセンターラインを超えてしまい、大型のトラックにぶつかって。気づいたときには病室にいました。すぐに同僚や看護師たちが駆けつけてきましたが、いつまで待っても妻や子どもたちが来ることはありませんでした。レミー博士: ……単純な比喩ですが、毎日が悪夢そのものだったと記憶しています。寝ても覚めても全ての感覚が事故の瞬間を再現してくるんです。急ブレーキ、フラッシュ、悲鳴……。1年、2年と経つごとに幻覚は治まっていきましたが、決して消えることはありませんでした。
エージェント・アリス: そしてSCP-3860-JPが発生した。
レミー博士: ええ。事故から5年が経った日のことでした。公園のベンチでカップコーヒーを飲んでいたとき、突如目の前にSCP-3860-JPが発生しました。空間の穴の向こうにはあの日の私────つまり、エディンバラに旅行に出発する前の私がいて、思わず「行ったら死ぬぞ!」と叫びました。すぐに空間は消え、鈍い頭痛がした後、私は記憶が変わっていることに気づきました。
レミー博士: ふと顔をあげると、成長したわが娘と、反抗期真っ盛りの目をした息子が立っていました。遠くからは、私を呼ぶ妻の声がしました。私は自らが神に愛されてると思い、涙を流して奇跡に感謝しました。
[レミー博士が顔を覆う。]レミー博士: 愚かにも、あの時の私はこのあとに起こることを何一つ予期していませんでした。
エージェント・アリス: 財団にこのことを隠したのはなぜでしょうか?通常、このような場合職務への責任感があって然るべきであると上層部は考えています。
レミー博士: 無いわけではありませんが、何よりも家族を取り戻せた喜びが大きかったです。同時に、このことが明らかになったら家族が収容対象になるのではないかという恐れが湧いてしまって。
エージェント・アリス: ではなぜ今になって本当のことを?
レミー博士: それは……あなたにも分かるでしょう?過去改変の後のことを。神は世界の形を、冥府とは比にならないほどの地獄に変えてしまった。私は自分のエゴのために、家族に恐ろしい運命を背負わせてしまった。そして私も重い十字架を背負った。ずっと耐えてきましたが、もう限界でした。
エージェント・アリス: ……質問は以上となります。処分に関しては追って通知いたします。ご協力ありがとうございました。
レミー博士: あの、最後に一ついいですか。
エージェント・アリス: 何でしょう?
レミー博士: いえ、大したことじゃないんです。ただ、本当に娘にそっくりだと思って。……失礼ですが、お幾つでしょうか。
[エージェント・アリスが少しの間考え込む。]
エージェント・アリス: ええと……確か158歳になります。
<録音終了>



