
D-8001が探索任務を行っている最中のSCP-3898-JP-A。
アイテム番号: SCP-3898-JP
オブジェクトクラス: Ticonderoga1
特別収容プロトコル: SCP-3898-JPの発生条件を満たすSCP-3898-JP-Aは全国に多数存在すると予測されていますが、一般に露見する確率は非常に低いため特段の収容活動は行われません。
説明: SCP-3898-JPは後述の条件を満たしたシャープペンシル(以下、SCP-3898-JP-A)の中に発生する異常空間です。異常空間にはシャープペンシルの所有者のみが進入可能です。
SCP-3898-JP内に進入するためには上部のノックカバー、付属の消しゴムを外し、SCP-3898-JP-A内部2に入り込む必要があります。なお、SCP-3898-JPは対象者の体を縮小するといった異常性は有しておらず、SCP-3898-JP内に進入するには別途異常技術が必要となります。SCP-3898-JP-A内部の空間を進むと扉が存在します。所有者はほとんどの場合、警戒心や恐怖を感じることなく扉を開きます。この扉より向こうがSCP-3898-JPと指定されます。また、外部から覗き込むことによる視認や小型カメラによる撮影などではSCP-3898-JPは確認できません。
SCP-3898-JP内部は非ユークリッド的空間で構成されており、30m2前後の部屋3が存在します。内部の詳細はSCP-3898-JP-Aによって異なりますが、多くの場合標準的な家具が備え付けられており、テレビ、漫画本、ゲーム機といった娯楽用品が多く存在します。食料も存在し、問題なく摂食可能です。SCP-3898-JP内部には人型実体(以下、SCP-3898-JP-1)が存在します。SCP-3898-JP-1の姿はSCP-3898-JP-Aによって異なりますが、所有者と同性であり、10歳前後の姿をしているという共通点があります。SCP-3898-JP-1は所有者に対し労いの言葉をかける、前述の娯楽用品を勧めるといった行動を取ります。
SCP-3898-JP-Aとなる条件は以下の通りです。
- 所有者が長期間4使っているシャープペンシルである。
- SCP-3898-JP-Aを使用し、受験勉強や資格試験などを行った経験がある。
現時点で発覚している条件は以上の2点のみであり、全国に多数のSCP-3898-JPが存在することが予想されます。
発見経緯: 2024年9月24日、サイト-81██がカオス・インサージェンシーの襲撃を受けました。細崎研究員が身を隠すため自身にSCP-████-JPを使用し、体を縮小させた際偶発的にSCP-3898-JPを発見しました。SCP-3898-JPを発見した功績を鑑み、細崎研究員への処分は厳重注意に留まりました。
インタビュアー: 金子博士
対象: 細崎研究員
<記録開始>
金子博士: では、インタビューを開始します。どうですか、体調の方は?
細崎研究員: はい。縮んだり伸びたりしたのでここ3日間くらいはずっとくらくらしてましたけど、もう大丈夫です。
金子博士: それは良かった。ではインシデント当日のことを教えてください。CIから身を隠すため、SCP-████-JPを使用したとのことですが。
細崎研究員: はい。ご迷惑おかけしました。あの時は……本当に恐怖心でいっぱいで、死にたくなくて。丁度その日SCP-████-JPの実験を行う予定だったので、デスクの上に置いてあったんです。咄嗟に自分に使いました。
金子博士: なるほど。記録映像によると、かなり身体が縮んでいますね。8mmくらいでしょうか。
細崎研究員: そうですね。こんなに縮むと思わなくて余計パニックになりました。縮み切る前に咄嗟にデスクの上によじ登ったんですけど、そこからどうしようと思って。それで、消しゴムのキャップを開けっ放しにしてたシャープペンに目が行きました。今よく考えたらもっと隠れるべき場所はあったんですけど、どうしてもあそこが安心する場所に見えたんです。
金子博士: SCP-3898-JP内に進入してからのことを教えてください。
細崎研究員: あの中は立っては歩けなかったので、四つん這いになって進みました。しばらく進むと、ドアがあったんです。明らかに異常なんですけど、迷わず開けました。中は……大体普通のリビングくらいの広さはあったと思います。ソファーとかテレビとかもありました。
金子博士: そして、人型実体に出会ったと。
細崎研究員: はい。小学生くらいの女の子に見えました。私の顔を見て、物凄くびっくりしてる様子で。私は、貴方は誰なのって聞きました。そうしたら、私はずっとここに居たよって。貴方が大学に受かるために勉強してた時、ずっと見守ってたよって言われました。
金子博士: 大学?大学受験とは、10年近く前の話ではないのですか。
細崎研究員: そうですね。そう考えたら、安物なのに長いこと使ってますね。うーん、シャープペンをあの頃1番使ってたからその話をしてたんですかね。就職してからも財団に入ってからも、パソコンがメインでしたから。なんで今その話とは思いましたけど、良い成績を取って奨学金を貰うために必死で勉強しましたから、素直に嬉しかったです。まさかこんな身近に、見守ってくれた人がいたなんて思いませんでしたね。
<記録終了>
探査記録3898-JP: 2024/10/08
D-8001、D-6992の自宅から私物のシャープペンシルを回収し、SCP-3898-JPの対象となる条件を充分に満たすことを確認したため探査任務を行いました。
<記録開始>
[SCP-████-JPを使用し、D-8001の体を0.8cmまで縮小させる]
D-8001: うわ、マジで縮んだ。凄いですね。
金子博士: そこは本筋ではありませんから、冷静でいてくださいね。通信機の声は聞こえますか?
D-8001: ちょっとノイズが多いけど、まあ大丈夫そうですね。じゃあ、中に入ります。
[D-8001がSCP-3898-JP-A内に進入。1分程度省略]
D-8001: あ、本当に扉があります。開けたらいいんですね?
金子博士: お願いします。
[扉を開く音]
D-8001: おお。綺麗な部屋だ。ん?あれは……
[人の足音と思われる音声]
SCP-3898-JP-1: ██くん5!本当に██くんだ!
D-8001: うわっ。
金子博士: どうしました?
D-8001: 子どもがいる……なんか俺に飛びついて来ました。
SCP-3898-JP-1: 会えて嬉しいよ!ほら、見て!
金子博士: D-8001、何が見えるのですか?
D-8001: 手書きの……横断幕みたいな。████大学6合格おめでとうって、書いてあります。
D-8001: ……これ、君が書いたのか。
SCP-3898-JP-1: うん、字は結構得意なんだよ。██くんは受験勉強をとっても頑張ってたから、ずっとお祝いパーティーをしてあげたくて。君のお父さんとかお母さんだって、きっとすごく喜んでたでしょ?
D-8001: [沈黙している]
SCP-3898-JP-1: あ、あれ。何か嫌な気持ちにさせちゃった……?ごめんね。そんなつもりはなかったんだ。ねえ、何する?もしかしたら、ほんのちょっとの確率でも君に会えるかなあと思って色々準備してたんだよ。ゲーム機とか漫画とか、あとお菓子も!受験終わったらいっぱい遊ぶってノートに書いてたよね?
D-8001: なあ。もし██大学7に受かってたら、俺の親はもっと喜んでくれたかな。
SCP-3898-JP-1: えっ?えっと、僕はあれだけ頑張った君がいちばん偉いって思ってるよ。
D-8001: そんなこと聞いてねえよ!質問に答えろよ!
金子博士: D-8001、冷静になってください。SCP-3898-JP-1に危害を加えないでくださいね。
[15秒程度の沈黙。D-8001が座り込んだと思われる音]
D-8001: はあ。ごめん。お前に当たっても仕方ないよな。もう終わったことなのにな。
SCP-3898-JP-1: ねえ、なにか飲む?コーラとカルピスあるよ。
D-8001: ……優しいなお前。酒は無いのか?
SCP-3898-JP-1: お、お酒?そうか、██君もう大人だもんね。ごめん、無いや。
D-8001: いやいや、悪い悪い。無いならないでいいよ。コーラくれるか?
[会話はなく、足音やカップに液体を注ぐ音声のみが録音されている。3分程度省略]
D-8001: はは、美味いな。そういえばここに来て味気ないもんしか食ってないし、コーラもめちゃくちゃ美味く感じる。ここもいい部屋だし、外になんか出ないでここで暮らしたいくらいだな。
SCP-3898-JP-1: ええと、ここトイレないんだよね。
D-8001: マジか。そりゃあ無理だな。
[笑い声]
<記録終了>
探査記録3898-JP-2: 2024/10/11
<記録開始>
金子博士: ではD-6992、中へ進入してください。
D-6992: はいよ。にしてもこんな古いシャーペンよく残ってたな。
[扉に到達するまで省略]
金子博士: 何が見えますか?
D-6992: え、なんか聞いてた話と違うぞ。えーと、俺は今廊下に立ってる。左右に畳の部屋が何個かあるな。人型実体ってやつも見えないけど。
金子博士: そのまま進んでください。
D-6992: おう。うーん、なんか見覚えがあるんだよなあこの場所。あっ、いた。
金子博士: SCP-3898-JP-1ですか?
D-6992: 多分な。部屋の中に正座してて……目の前にでかい写真があって……あ、ああ。
金子博士: D-6992、どうしました?
D-6992: お、思い出した。昔、昔俺はここに居たんだ。ああ、ずっと思い出さないようにしてたのに。
SCP-3898-JP-1: ███君8、やっと会えたね。ここはどう?気に入った?
D-6992: な、なんなんだお前。何のつもりなんだ。
SCP-3898-JP-1: ███君、ここが自分の理想の居場所だって昔日記に書いてたよね?文章しか分からなかったからうまく再現出来てるか不安だったけど頑張ったよ!ほら、僕の服も結構よく出来てると思わな
[衝撃音。人が倒れ込んだ音と思われる]
SCP-3898-JP-1: わっ。どうしたの。……僕何か間違えちゃった?日記に書いてたよね、いつまでもここにいたいですって。
D-6992: ふざけやがって。ふざけてんだろ、なあ?あんなもん、大人の機嫌とるために書いたに決まってんだろ!こんな所のせいで俺は人生めちゃくちゃになったんだ。俺は普通に、普通に学校に行って、普通の人生を送れたはずなんだ。あんな家に生まれなければ、あんな。舐めやがって。舐めやがって。
[人を殴打していると思われる音]
金子博士: D-6992、やめなさい。落ち着いてください。SCP-3898-JP-1から離れてください。
SCP-3898-JP-1: ごめん、ごめんね。
<記録終了>
20分後、D-6992はSCP-3898-JPから退出しました。D-6992は幼少期を██████9で過ごしており、そこでの戒律や日記を記していたためSCP-3898-JP-1は██████が理想の場所であると誤認していたことが予想されます。