アイテム番号: SCP-3912-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3912-JPはその異常性のため事後処理に焦点が当てられています。財団製Webクローラーによりインターネット上に存在するSCP-3912-JPに関する情報は捜索され、発見次第削除されるとともに投稿主には記憶処理が施されます。SCP-3912-JPにより消失した被害者の近親者及び友人関係にあたる人物にはカバーストーリー「失踪事件」を適用します。回収したSCP-3912-JP-1はサイト-81██の低脅威度物品収容ロッカーに保管します。
説明: SCP-3912-JPは福岡県において条件を満たした人物の内の1人(以下、対象)に向けて低確率で放送されるクイズ番組です。対象は条件に合致する人物の中から無作為に選択されていると推測されています。SCP-3912-JPは『ミラクルクイズショウ』と題されており、司会と解答席に立つ4体の解答者と推測されている人型実体で構成されています。しかし、解答者型の実体は如何なる動作も示しません。以下はSCP-3912-JPが発生する条件です。
- 深夜帯1にテレビが起動されている。
- 部屋は密室であり、室内に対象以外の人物が存在しない。
上記の条件を逸脱すると、SCP-3912-JPは終了し画面にはカラーバーが数秒間表示されます。その後、本来放送されている番組へと遷移します。
SCP-3912-JPは双方向番組であり、リモコンの操作によって出題された問題に回答することが可能です。対象は問題に回答したいという微弱な欲求を抱きます。
出題される問題数は全部で10問あり、1問につき10秒間の猶予が設けられています。問題の形式は4択問題で統一されています。内容は不定期に大きく変更されますが、福岡県の行事や特産品等に関する問題は必ず1問出題されています。
対象が1問でも誤答した場合、出題の終了後に司会が知識を研鑽して出直してくるように勧告してSCP-3912-JPは突如終了し、テレビの電源が切断されます。対象はその場で昏倒し、覚醒時にはSCP-3912-JPに関連する記憶を喪失しています。対象には知的好奇心の向上が確認されています。
対象が全問正解した場合、その場から解答を行った人物が消失します。消失した人物の行方を追跡する試みは失敗しています。現時点で財団が確認しているSCP-3912-JPによる消失事案は6件であり、いずれも同一の内容が記載された非異常のメモ用紙(以下、SCP-3912-JP-1)が消失地点に置かれています。SCP-3912-JP-1の内容は以下の通りです。
全問正解おめでとうございます!
[対象の氏名]様の積み重ねてきた知識量に、我々一同大変感服いたしました。
今後ともミラクルクイズショウをよろしくお願いします。
補遺: 2025/06/14に過去の消失事案から推定された全問正解時のSCP-3912-JPの正確な異常性の検証、及び消失後の行方を観測するための実験が実施されました。福岡市に存在するサイト-81██の一室が実験のため1ヶ月貸し切られ、SCP-3912-JPが発生したのは開始から14日目のことでした。以下はその映像記録です。
映像記録: SCP-3912-JP 2025/06/14
被験者: D-4631
付記: D-4631には小型カメラと無線機、GPSを所持させ、橘研究員の指示のもと解答を行う。
<記録開始>
司会: さぁ始まりました。「ミラクルクイズショウ」です。司会の田邊と申します。この番組もローカル番組としてやってきて今回で第64回目となりますが、果たして全問正解者は現れるのか。今回も新進気鋭の作家さんが10問作ってくださったので早速やっていきましょう!
[拍手の音]
司会: 問題は簡単な4択形式となっています。視聴者の貴方もどうぞお手元のリモコンから解答ください。それでは第1問こちらです!
問題: 次のうち、元素半導体として誤っているものはどれでしょう?
1: ナトリウム
2: ゲルマニウム
3: セレン
4: ケイ素[橘研究員が1番を解答するように指示し、D-4631は解答を行う]
[正解の音]
司会: 幸先の良いスタートを切りました! このまま正解していくのでしょうか。続いて第2問です!
[以降9問目まで類似の問題が続くため省略。D-4631は全て正答している]
[拍手の音]
司会: 今回の視聴者様は素晴らしい! このまま駆け抜けていくのか、次が最後の問題です。
問題: 次のうち、福岡県北九州市小倉北区にて毎年8月に行われている祭りとして正しいのはどれでしょう?
1: 筥崎宮夏越まつり
2: 小倉祇園太鼓
3: 風鈴まつり
4: わっしょい百万夏まつり橘研究員: これは(間)4番です。
[D-4631が指示通り解答を行う]
[沈黙]
[正解の音]
司会: お見事! 素晴らしい快挙です! 久しぶりに全問正解者が現れました!
D-4631: よし、やったぞ。
司会: 美しい知識の輝きを見届けさせていただきましたが、問題に解答する速度も天晴れでした! どうぞ盛大な拍手をお送りください!
エンディングと思われる曲が流れ、大きな拍手の音が鳴る。カメラは引いて会場全体を映しているが、観客は存在しない。
司会: いやぁ、改めて本当に素晴らしい結果でした。やはり知識は人間の持つ宝ですね。11回越しの全問正解者ですから感動も一入です。なんたって、我々は知識人が大好きなんですから!
スタッフロールが流れる。特筆すべきこととして、問題作成の欄に消失した人物の1人である小山内智子2氏の名前が記載されている。
D-4631: うおっ!
テレビ画面が発光し、映像の視認が不可能になる。
司会 それではまた次回! 新たなミラクルクイズショウをお楽しみに!
数秒間で発光は止み、再び映像が確認可能になるが、SCP-3912-JPは終了している。D-4631は消失していない。
D-4631: [短い沈黙]なんだったんだ?
<記録終了>
終了報告書: 実験終了後、別室で指示を行っていた橘研究員が消失していることが判明し、室内にはSCP-3912-JP-1が出現していました。同室にいた職員は「気づいたら居なくなっていた」と述べており、SCP-3912-JPは何らかの手段を以ってD-4631ではなく橘研究員が解答を行なっていたと判断したと推定されています。当実験の結果を受け、SCP-3912-JP報告書は改訂されました。
実験後に観測されたSCP-3912-JPで出題される問題が変化していることが発覚しました。以下は問題の一例です。
SCP-3912-JPは自身の情報を隠蔽しているため、ヴェール崩壊のリスクは低いと考えられています。現在、事態を収拾するための方法が模索されています。
追記(2025/06/22): サイト-81██に橘研究員が出現しました。橘研究員は一部記憶が混濁していましたが、意思疎通は問題なく行えたためインタビューが実施されました。以下はその記録です。
インタビュー記録: SCP-3912-JP 2025/06/22
対象: 橘研究員
インタビュアー: ██博士
<記録開始>
██博士: それではインタビューを開始します。まず橘研究員、貴方の身に起こったことを説明して頂けますか?
橘研究員: はい。……あの実験の最中、私は気づくと白い部屋にいました。部屋は殺風景で、私は椅子に拘束されていました。
██博士: その部屋には、貴方以外に人が居なかったのですか?
橘研究員: 私の他に消失者はいませんでした。ただ(間)SCP-3912-JPに映っていた司会が正面に立っていました。彼はヘルメット型の装置を手に持っており、私に被せてきたんです。
██博士: ふむ。その装置について詳しく説明できますか?
橘研究員: はい。彼は装置について丁寧に説明してくれました。その説明が真実だとするのであれば、装置は着用者が強く記憶している知識を学習し問題を作成する代物だそうです。それが最も正確な知識だからと……
██博士: なるほど。貴方の担当するアノマリーを題材とした問題が出題されたのはそのためでしょうか。
橘研究員: そんな問題が出たんですか。(間)まぁ、多分そういうことなんでしょうね。私がこの場に帰って来れたのも、きっとそれが原因なのでしょう。
██博士: それは、一体どういうことでしょうか?
橘研究員: 私はあの番組に不適切だったんです。(間)装置を被されてから暫く経って、1週間ほどでしょうか。またあの司会がやってきました。初対面時の笑顔とは真逆に、眉間に皺を寄せていましたね。どうしたのかと私が問うより先に、彼は口を開きました。
██博士: 何と?
橘研究員: 「こんなものはクイズにならないよ」と。ため息を吐かれながら装置を外され、そこからの記憶はありません。気づいたらここに帰ってきていました。
██博士: ……なるほど。他の消失者の行方を追う手掛かりにはならなそうですね。しかし、クイズにならないとはどういうことでしょうか。
橘研究員: あぁ、それなら簡単です。[微かに笑う]アノマリーの問題なんて、クイズになるわけないでしょう。我々にとっては初歩的な知識でも、大衆が知れる知識ではないんですから。
<記録終了>
終了報告書: 当インタビュー後に橘研究員は身体検査を実施されましたが、健康状態に問題はなく異常な点は確認されませんでした。橘研究員は現在もサイト-81██で雇用されています。