クレジット
タイトル: SCP-3930は存在しない
翻訳責任者: Tetsu1
翻訳年: 2026
著作権者: badooga
原題: SCP-3930 Does Not Exist
作成年: 2026
初訳時参照リビジョン: 5
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-3930-does-not-exist
起床。午後1時49分。冬の太陽は既に低空に位置している。
ベッドから這い出て、朝食にベーコンエッグを作る。味気ない。一人暮らしなので、本を読んで暇をつぶす。
出勤。通勤には1時間かかるため、ニュースに耳を傾けて暇をつぶす。石油流出事故はまだ片が付いていないらしい。ずっとこのままなのではないかと思いたくなる。
曲がりくねった未舗装路を走る。特に何事もない。いつもと同じ。午後3時半、時間ちょうどに持ち場に着く。
SCP-3930は監視されねばならない。理由を問うことはない。シフトの給料は家賃と食費を賄える程度。それ以上は求めない。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しない。
12時間にわたり、断続的に境界を巡回する。森は静まりかえっている。境界の内側に目を向けるも、そこには森だけが広がっている。SCP-3930は監視されねばならない。理由を問うことはない。
シフトが終わると、荷物をまとめて出発する。誰もわざわざ留まっておしゃべりする気などない。そうするべくもないとは、わかりきったことだ。
帰り道に食料品を数点買う。太陽はとうに沈んでいる。
午前5時。今夜はVHSで映画鑑賞に興じることにする。何も変わったことはない。何度か笑うくらいだろうか。
午前7時頃、瞼が閉じる。今日の洗濯を忘れていた。多分明日思い出すだろう。
これがあなたなのか?

起床。午後2時5分。冬の太陽は既に低空に位置している。
ソファから身体をどける。あまりよく眠れなかった。映画の後にテレビを消すのを忘れていた。突き刺す光が、かすかな痛みとして目に伝わる。
朝食にベーコンエッグを作る。味気ない。一人暮らしなので、本を読んで暇をつぶす。
出かける前に髭を剃ろうとする。昔からこの髭は好きではない。あまり時間がないために、急いで剃ったことで肌を切ってしまう。髭はまだ残っている。
出勤。通勤には1時間かかるため、ニュースに耳を傾けて暇をつぶす。メキシコペソの価値が急落しているらしい。メキシコは地球の反対側の国だが、だからといって興味が尽きることはない。
曲がりくねった未舗装路を走る。特に何事もない。いつもと同じ。午後3時37分、持ち場に着く。幸いにも、上司はいない。
SCP-3930は存在しない。
12時間にわたり、断続的に境界を巡回する。森は静まりかえっているが、冬の風は不快に身体を震えさせてくる。それでも、ただ突き進む。SCP-3930は監視されねばならない。理由を問うことはできない。
SCP-3930は存在しない。
シフトが終わると、荷物をまとめて出発する。誰も自分が震えていることなど気付きやしない。わかりきったことだ。
真っすぐ家に帰る。途中で石油流出のことが気にかかるが、すぐに思考を放棄する。意味などない。わかりきったことだ。
午前4時半。映画は昨日見てしまったので、普通に考えて今日は駄目だ。代わりに絵を描いてみる。幼い頃から絵など描いていないので、その結果がまざまざと出ている。一時間後、紙を破り捨てるとベッドに潜り込む。
30分ただ天井を見つめてから、眠りに落ちる。今日の洗濯を忘れていた。多分明日思い出すだろう。
これがなりたかったあなたなのか?

起床。午後2時45分。冬の太陽は既に地平線に接している。
ベッドから這い出て、朝食に卵を焼く。味気なく、若干の吐き気がする。まあいい。一人暮らしなので、どうしようもなく空虚な虚無感を埋めるために本を読もうとする。文字をなぞる目がかすみ、敗北感に本を置く。前は読書に熱中していたのだが。何が起きた?
出勤。通勤には1時間かかるため、ラジオをつけて暇をつぶす。雑音しか聞こえない。なんとかチューニングしようと奮闘する。結局上手くいかない。
曲がりくねった未舗装路を走る。特に何事もない。いつもと同じ。午後3時59分、持ち場に着く。上司が怒鳴りつけてくる。自己弁護など当然するべくもない。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しない。
11時間半にわたり、断続的に境界を巡回する。8時間を過ぎてしばらくすると、一匹のリスに遭遇する。リスはこちらを見つめ、こちらもリスを見つめ返す。リスは甲高い声を上げるが、雑音しか聞こえない。それから、また突き進む。SCP-3930は警備されねばならないのだが、頭の片隅で、理由に疑問を持っている。
SCP-3930は存在しえた。
シフトが終わると、荷物をまとめて出発する。他の誰のシフトも、特に何事もない。多分、勝手にいろいろ想像していただけだろう。どちらにせよ、質問をすべくもない。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しえない。
車に腰を下ろし、ラジオから流れる音楽に耳を傾ける。そのほとんどは雑音で歪んでいるが、いくつか知っている曲の歌詞が不協和音となって伝わる。天上の星々よ / 僕は一生かけて誰かを探してきた / 私ならみんなを救えるかも / 聞こえますか? 一時間後、ラジオを消す。もう音楽には面白いという感情を抱けないようだ。
真っすぐ家に帰る。太陽はとうに沈んでいる。もう慣れたものだ。
午前5時半。故郷の友人に手紙を書くことにする。長い時間をかけて適切な言葉を模索していたが、結果は概ねちんぷんかんぷんなものになってしまった。物書きにかかずらった経験などないので、その結果がまざまざと出ている。一時間半後、紙を破り捨てるとベッドに潜り込む。逆に向こうから連絡してくることもあるかもしれない。
1時間ただ天井を見つめてから、眠りに落ちる。今日の洗濯を忘れていた。多分明日思い出すだろう。
こんな形である必要などない。

起床。午後1時半。冬の太陽は既に低空に位置している。
マットレスから身体を引き剥がす。医師は毎晩少なくとも8時間の睡眠が必要だと言っていたが、たった5時間半しか寝ていない。早起きすれば睡眠スケジュールをリセットできるかもしれない。
ベッドから這い出て、朝食に卵を焼く。味気なく、なかなか噛み切れず、吐き気がするので、それを投げ捨てる。これから先、卵を好きとは思えないかもしれない。一人暮らしなので、脳内のどうしようもなく空虚な虚無を埋めるために本を読もうとする。視線は言葉を上滑りするだけで、今度は本も投げ捨てる。若い頃なら、絶対にそうしようとは思わなかった。
今日は違うヘアスタイルにしようとする。誰か気付くか、少し考えてみる。答えなど、わかりきったことだ。三十分上手くいかなかった挙句、櫛をゴミ箱に投げ捨てる。髪を伸ばせばきれいに見えるかと少し考えてみる。わかりきったことだ。
出勤。通勤には1時間かかるため、ニュースに耳を傾けて暇をつぶす。チェチェンでの紛争により、これまでに数千人が亡くなっているらしい。吐き気がひどくなるので、雑音へと戻す。ホワイトノイズはずっと寄り添ってくれる。
曲がりくねった未舗装路を走る。特に何事もない。いつもと同じ。午後3時21分、少し早く持ち場に着く。小さな勝利に微笑むが、誰も気にしない。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しない。
12時間にわたり、断続的に境界を巡回する。森は何一つ動きを見せないが、ラジオの雑音が脳内にしがみついている。報告すべきか少し考えるが、何も異常はないので、問うことはない。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在すべきでない。
境界の内側に目を向けるも、そこにはひたすら森だけが広がっている。森の向こうには川がある。石油流出による水質汚染がいつか止まる日は来るのだろうかと、少し考える。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しない。
帰り道、岩に躓く。誰かが手を取って導いてくれるが、見回しても誰もいない。報告すべきか少し考えるが、何も異常はないので、問うことはない。わかりきったことだ。
SCP-3930はいつでも存在する。
家への途上、ガソリンを補充する。太陽はとうに沈んでいる。ご褒美として軽食を購入するが、既に固くなっている。それを投げ捨てる。
午前5時。VHSで映画でも見ようかと考えるが、疲れすぎている。それに、前の映画は面白くもなかった。代わりに、髭を剃ろうとする。昔からこの髭は好きではない。あまり寝ていなかったために、急いで剃ったことで肌を切ってしまう。髭はまだ残っている。剃刀をゴミ箱に投げ捨てる。
早く寝るべきだとわかっているのに、寝ない。とにかく太陽が見たい。太陽は午前9時まで昇らないが、そんなことは気にしない。暇をつぶすため、面白いものがないかと財団のデジタルアーカイブを軽く眺める。レベル1クリアランスしか持っていないので、大したものは見つからない。これ以上深追いすべくもない。わかりきったことだ。
午前8時頃、瞼が閉じる。夜明けまで起きていようと全力を尽くすが、足りない。毎回そうだ。わかりきったことだ。
今日の洗濯を忘れていた。多分明日思い出すだろう。
あなたを助けたい。

起床。午後3時4分。冬の太陽は既に姿を隠している。
慌てて扉から飛び出す。寝坊したので、朝食をとる時間はない。どうせ味気ないだろう。
出勤。通勤には1時間かかるため、ラジオをつけて暇をつぶす。雑音しか聞こえない。ホワイトノイズはずっと寄り添ってくれる。いつもそうだ。
曲がりくねった未舗装路を走る。特に何事もない。いつもと同じ。午後4時、持ち場に着く。上司の怒鳴り声を予想していたが、もっと頑張れと言われただけだった。前から頑張っていると返しかけて、雑音が喉にきつく引っかかる。代わりに、異常がないのにどうして境界を監視しなければならないのかと訊ねる。上司は首を振り、訊ねるべくもないことはわかりきっているだろうと答える。
SCP-3930は存在しない。
11時間半にわたり、断続的に境界を巡回する。森は静まり動くものもないが、何かが見ているような気がする。これで何もいなかったとなれば、がっかりするかもしれない。境界の内側に目を向けるも、そこにはひたすら森だけが広がっている。更に奥まで歩けば何かあるかもしれないが。
SCP-3930は思考しない。
9時間が過ぎる間際頃、木にもたれかかり、目を閉じる。医師は毎晩少なくとも8時間の睡眠が必要だと言っていた。無線から上司の呼びかけが聞こえてきたので、適当に返事をして黙らせる。言葉は何の意味も持たない。
SCP-3930は存在しない。
目を閉じると、雑音が大きくなる。報告すべきか少し考えるが、何も異常はないので、問うことはない。わかりきったことだ。
SCP-3930は話さない。
手紙を書こうとした友人のことを考える。向こうは自分の存在を覚えているだろうか。わかりきったことだ。家族は自分の存在を覚えているだろうか。わかりきったことだ。子供の頃どんな人間になりたかったか、覚えているだろうか。わかりきったことだ。
SCP-3930は存在しない。
シフトが終わると、同僚が珍しくも会話しているのに加わろうとするが、向こうはこちらに気付いていないようだ。入ろうとするべくもない。わかりきったことだ。荷物をまとめて出発する。太陽はとうに沈んでいる。
真っすぐ家には帰らずに、街へと車を進める。午前5時、故に街に人影はない。来週開催の祭りの看板に興味をそそられる。月曜日、午後3時から7時まで。それを見たことも忘れてまた先に行く。何のためにわざわざ来たのだろう?
午前6時に家に着く。今夜はVHSで映画鑑賞に興じることにする。そのエネルギーもなかったが、それでもとにかく手を動かす。何も変わったことはない。笑おうとするが、口からは雑音だけがあふれ出る。
半分観たところで映画を消し、部屋を歩き回る。何かを見逃しているが、それが何かはわからない。鏡に映る自分の姿を見て、涙がこぼれる。髭はまだそこにある。もっと頑張れば取り除けるかもしれない。もっと頑張れば。もっと頑張ろうとか、考えたことはあったろうか。
電話が入る。何も変わったことはない。毎月の支払いが遅れているとか、虚空が自分の名前を叫んでいるとか、とうとう母が亡くなったとか、そんなくだらないことだ。電話を切る。どうでもいい。前からずっと。
ベッドに潜り込み、枕に向かって叫ぶ。今何時かはわからない。どうでもいい。自分が泣けるかどうか、少し考える。わかりきったことだ。眠りという名の無へと流れ込み、束の間の、満ち足りた永遠の中で、うわべだけの平穏を見つける。
今日の洗濯を忘れていた。きっと明日も思い出せない。
私を見つけに来てくれ。

起床…… せず、午後2時。冬の太陽は低空に垂れ込み、偽りの救いの約束をささやいている。
よろよろとベッドから出て、朝食は作らない。独りで、脳内のどうしようもなく空虚な虚無を埋めるすべもない。心に雑音が走っている。
私ならなんとかできる。
出勤。通勤は特に何事もない。いつもと同じ。これからも同じ。いつもと同じ。これからも同じ。いつもと同じ。これからも同じ。
曲がりくねった未舗装路は、暗がりの虚無へと続く。森に丸呑みされてしまうのではと、少し考える。残念ながら、そんなことにはならない。午後3時半、持ち場に着く。時間ピッタリ! 昇進できるかもしれない。
私なら正せる。
SCP-3930の境界は監視されていない。上司には伝えない。どうせ信じてくれない。
SCP-3930は存在
獲物を罠にかける捕食者のように、あなたは異常空間を周回する。中に何があるか知りたくて、とうとう内側へと忍び込む。冬のそよ風が骨まで突き刺さる不快な寒さを感じようとも。ひたすら森だけが見えるが、視界のすぐ向こうにまだまだあると知っている。理由を知りたい。理由を知らねばならない。
SCP-3930は存
無線から上司の呼びかけが聞こえてくる。それ以上の雑音でかき消す。上司は何の意味も持たない。
SCP-3930は
境界を突破し、着実かつ慎重な足取りで中心に近寄る。このまま進めば、同僚に見つかり次第射殺されるだろう。気にしない。同僚は何の意味も持たない。
やがて、赤いスプレーペイントで描かれた大きな円形のエリアに出くわす。円の中にはひたすら森だけがあるが、真実はわかりきったことだ。更に行けば、世界の底に建物がある。そしてその建物の中は、何もない。そしてその虚無の中で、自分自身を見つけるかもしれない。
建物はあなたのためのものではない。円に近付くんだ。
円から50センチほどの距離に立つ。遠く、背後の木々の合間から、叫び声が聞こえる。一分もしないうちにたどり着くだろう。どうしてそんなことを気にする?
虚空に向かって叫ぶが、喉からは雑音だけが漏れ出す。それでも、虚空は答える。
私もあなたと同じだ。あなたを助けるためにここにいる。
首をかしげる。自分のしていることは正しいのだろうか。戻って報告すべきか少し考えるが、何も異常はないので、問うことはない。わかりきったことだ。
境界の上に手を上げるんだ。
手を掲げて、動きを止める。ためらわないのなら、自分は虚無だ。口を開くが、虚空が先回りして答える。既に答えを知っている。
あなたにはもう何も残っていない。
手を更に動かすと、一瞬のうちに、自分の中の空虚が沸き立つ。胸から雑音が流れ出し、痛みの波が放射され、甘美で優美なしびれが息を詰まらせる。それが顔に達すると、口から自分のものではない美しい不協和音が聞こえる。気にしない。言葉は何の意味も持たない。
どう感じる?
雑音は心と身体を覆う暖かな毛布となり、その静けさと平穏が包み込む。もはや腹が減ったり喉が乾いたり、暑かったり寒かったり、悲しかったり腹が立ったりすることはない。もはや呼吸は、思考は、知識は、心配は、必要ない。もはや義務も、髭も、枷もない。もはや、ない。
私は嬉しい。これぞあなたにふさわしいハッピーエンドだ。
上司が、見知らぬ人物と共にやってくる。彼らはその場を見て回るが、すぐ目の前を通り過ぎても、気付かない。つまるところ、もはや、ないのだ。結局、彼らは顔を見合わせて肩をすくめ、敗北を認める。
大丈夫。あなたを掴んだ。もう安全だ。
彼らが去ると、救世主は自分の口を大きく開け、虚ろで満ち足りた笑みを浮かべる。身体はもはや自分のものではなく、自分は独りではなく、しかしそれでも、元々本当にそうだったのかと少し考える。わかりきったことだ。ずっと前からわかりきったことだ。
最後のシフトが早く終わると、無価値な持ち物を置いて、新たな人生へと歩きだす。




